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足繁く通う演奏会の感想等でクラシック音楽を追求/面白すぎる台湾/イタリアやドイツの旅日記/「ドイツ留学相談室」併設

上原彩子 ピアノリサイタル

2021年03月17日 |  pocknのコンサート感想録2021
3月13日(土)上原彩子(Pf)

秋川キララホール

【曲目】
1.ショパン/24の前奏曲 Op.28
♪ ♪ ♪
2.ショパン/前奏曲嬰ハ短調 Op.45
3.ラフマニノフ/前奏曲第1番嬰ハ短調 Op.23-1
4.ラフマニノフ/前奏曲第6番変ホ長調 Op.23-6
5.ラフマニノフ/ショパンの主題による変奏曲ハ短調Op.22
【アンコール】
1.ショパン/夜想曲第8番 変ニ長調 Op.27-2
2.ラフマニノフ/前奏曲嬰ハ短調 作品3-2「鐘」
3.ショパン/子犬のワルツ変ニ長調Op.64-1

去年の3月、コロナ騒ぎでコンサートが全て中止になってしまう前に最後に聴けたのが、東京オペラシティで行われた上原彩子のリサイタルだった。本当に感銘深いリサイタルで、そのときに予告された今年の1月のオペラシティでのリサイタルも必ず行くつもりでいたが、シリーズで聴いていたクァルテット・エクセルシオによるベートーヴェンの弦楽四重奏曲全曲演奏会と重なってしまった。上原さんのリサイタルは他の日に望みをかけ、エクセルシオを優先した。そして見つけたのがこのリサイタル。秋川なんてハイキングで行くような遠いところだが、オペラシティと同じプログラムなんてこれを逃せばもうないと思い、夫婦で出かけた。

秋川キララホールは、聴衆が少ないせいか寂しい雰囲気はあったが、小さなホールに広いステージを持ち、壁には石材が使われた響きの良いホール。ヴァイオレット系の落ち着いた色合いのドレスで登場した上原のショパンが始まった。上原がピアノから醸し出すプレリュードたちを聴いていると、美しい自然のなかに身をおいて、静かに視線を動かしながら色々な風景にスポットを当てていくよう。山々、雲、木々、花、水、草原、谷・・・それぞれが研ぎ澄まされた、純度の高い結晶のような美しさを放っている。そしてそれらがひとつの大きな世界を作り、調和しているのを感じた。

上原は全曲の中間の第12番の後にインターバルを置いて、新鮮な空気をまたたっぷり吸って後半を再開した。そのなかで特異な光を放っていたのが第20番と24番。20番の最後のフレーズでは亡霊が現れるような異様な空気を漂わせ、24番は全曲の「締め」というより、新たな挑戦の始まりといった並々ならぬ決意で突き進んだ。しかしそれは最後の3つの打撃で全てが打ち砕かれる。まるで地獄へ突き落とされるような打撃に、それまで見てきた風景の一つ一つが、一層リアルに甦ってきた。前奏曲集の完成された世界を見た思いだった。

プログラム後半のメインはラフマニノフ。ショパンの作品も入れた3曲のプレリュードと大作のバリエーションを、2楽章構成の大きな作品と捉えたようなアプローチ。ラフマニノフに対しても、上原はロマンチックな感情を前面に出さず、音楽の構造を緻密に浮き上がらせ、そこに上原ならではの極上の職人技で艶と輝きを与える。至って冷静だが、そこからえもいわれぬファンタジーが香り立つ。そしてここぞという場面では楽々と強靭な音を響かせる。タッチが音の芯を的確に捉えているからこそのパワーと云える。

前半で演奏した楽曲(第20番)をテーマとしたバリエーションを取り上げたことでリサイタル全体が一本の線で繋がった。そして、前奏曲集第19番の最後の和音が、20番のアウフタクトのように聴こえたのには意味があったのだとこのとき気づいた。

アンコールもショパンとラフマニノフで統一。ノクターンの透明でこの上なくデリケートな演奏、「鐘」では強靭な響きとダイナミズムを聴かせたが、それもアンコールピースとしてではなく、リサイタルプログラムのひとつという意識が感じられた。そして最後の子犬のワルツが、リサイタル全体のエピローグとしての自然な挨拶に聴こえた。上原の音楽に対する、そして自分に与えられた仕事に対する真摯さ、誠実さ、情熱も感じた。はるばる秋川まで出かけて良かった。帰り道、古い酒蔵(中村酒造)を見つけてお酒を仕入れたのも収穫だった。

上原彩子 ピアノリサイタル 2020.3.25 東京オペラシティコンサートホール
「偉大な芸術家の思い出に」(Pf:上原彩子) 2018.11.7 北とぴあ さくらホール
上原彩子 プレリュードを弾く 2016.6.3 東京オペラシティコンサートホール

コロナ禍で演奏会の中止が続く欧米、やっている日本
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