12月15日(水)川口成彦(フォルテピアノ)
~紀尾井 明日への扉 第27回~
紀尾井ホール
【曲目】
♪ N. ブルクミュラー/狂詩曲ロ短調 op.13
♪ ショパン/夜想曲第19番ホ短調 op.72-1
♪ ショパン/夜想曲第20番嬰ハ短調「レント・コン・グラン・エスプレッシォーネ」(遺作)
♪ ショパン/ピアノ・ソナタ第1番ハ短調 op.4♪ ♪ ♪ ♪ シューベルト/ハンガリーのメロディ ロ短調 D817
♪ シューベルト/4つの即興曲 op.142, D935
【アンコール】
♪ ラッハナー?/6つの小品~第6曲
昨年、長くて辛いコンサートロス状態を破った最初の演奏会で出会った川口成彦は、その後も僕にとって注目度の高いアーティストとして何度も演奏会に出かけ、その度にデリケートな音色や端正なアプローチに感銘を受けてきたが、今夜の極限にまで繊細な演奏は、それまでの印象を更に上書きすることとなった。
これは使用された楽器にも大きな要因があるだろう。楽器は1820年オーストリア製のグレーバー。ベートーヴェンの晩年からショパンが第1ソナタを書いた頃の楽器とのこと。プレイエルやエラールなどよりも更に繊細で、これを「ピアノ」と呼んでいいかと思うほど。
川口の演奏は、この繊細極まりない楽器を完全に手中に収め、楽器の持ち味を極限まで再現した。触れるか触れないかという撫でるようなタッチで生み出されるデリケートな超微弱音。繊細な美しい音を、水にキラキラと反射する光に例えることがあるが、川口のタッチから醸し出される音像は、そんな反射した光が更に周囲の木々の葉っぱに投影され、優しく揺れているような世界。そこに吹く風は葉を揺らすこともない微風だが、仄かな香りが立ち上り、時おり聴こえる高音の煌めきは光の粒子が漂っているよう。
モダンピアノはもちろん素晴らしい楽器だが、それとは根本的に異なる楽器を想定して作曲したであろう作品を、同じ楽器で体験できる意義は大きい。「貴婦人の乗馬」などでお馴染みのヨハン・ブルグミュラーの弟で、やはり優れた作曲家だったノルベルト・ブルグミュラーのスケルツォは、決然とした部分とロマンチックな部分の交替する非凡さが窺える曲。とりわけロマンチックな部分での川口の羽毛を思わせるデリケートな表現がファンタジーを喚起した。
ショパンでも川口の演奏はデリケートを極めた。ノクターンでは高音を「聴いて聴いて!」とことさら強調することなく、情に走らず、終始美しい佇まいを保つ。第1ソナタはショパンが学生時代に書いた習作的な作品。川口はこの作品の魅力を語ったうえで「初演を聴く気持ちで聴いてください」と云って弾き始めた。曲目解説にあったようにバッハやシューベルトの要素も感じられたが、後のショパンを思わせる多彩でロマンチックな要素も多い。川口はソナタ全体を通して端正にカッチリとまとめたが、そうしたショパン的な心情の吐露などを、ルバートなどで揺らしてエモーショナルに表現しても面白いかも知れない。
そしてシューベルトは、楽器の特性が最大限に引き出された稀有の名演となった。心の奥に潜む愛やメランコリーを静かに優しく解きほぐして語らせるようなアプローチ。ペダル(ストップ)による音色の変化を効果的に用いたハープのつまびきのような繊細な音は、華やかさやきらびやかさとは違った心の煌めきを伝える。
4つの即興曲は「1つの大きなソナタのような存在」と川口がプログラムノートに記していたが、まさに悠久の時間が流れる大きな存在として迫ってきた。それはまるで神聖な儀式のようで、聴衆は息を潜めてその儀式に臨む。最後のコーダでは、それまで聴いたことがなかったほどの強靭なタッチで決然とした激しい音を聴かせた。シューベルトの短い人生の重みを締めくくったよう。32歳にして巨匠の域にまで達したような演奏に、満席の会場は大きな拍手で包まれた。
このリサイタル、紀尾井友の会会員は100円で聴けるという事実上の招待コンサートでとてもありがたいが、友の会は来年3月で終了してしまうとのこと。残念だ。
フォルテピアノ・カレイドスコープ Ⅳ(チェンバーミュージック・ガーデン2021)2021.6.25 ブルーローズ
東京・春・音楽祭2021 川口成彦 協奏曲の夕べ 2021.4.12 東京文化会館小ホール
ベートーヴェン、交響曲前夜。(フォルテピアノ:川口成彦) 2020.11.14 北とぴあ つつじホール
超久々コンサート(江口 玲&川口成彦 ピアノリサイタル) 2020.6.19 紀尾井ホール
その感染対策、本気??(マスク、肘握手、ブラボー…)
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昨年、長くて辛いコンサートロス状態を破った最初の演奏会で出会った川口成彦は、その後も僕にとって注目度の高いアーティストとして何度も演奏会に出かけ、その度にデリケートな音色や端正なアプローチに感銘を受けてきたが、今夜の極限にまで繊細な演奏は、それまでの印象を更に上書きすることとなった。
これは使用された楽器にも大きな要因があるだろう。楽器は1820年オーストリア製のグレーバー。ベートーヴェンの晩年からショパンが第1ソナタを書いた頃の楽器とのこと。プレイエルやエラールなどよりも更に繊細で、これを「ピアノ」と呼んでいいかと思うほど。
川口の演奏は、この繊細極まりない楽器を完全に手中に収め、楽器の持ち味を極限まで再現した。触れるか触れないかという撫でるようなタッチで生み出されるデリケートな超微弱音。繊細な美しい音を、水にキラキラと反射する光に例えることがあるが、川口のタッチから醸し出される音像は、そんな反射した光が更に周囲の木々の葉っぱに投影され、優しく揺れているような世界。そこに吹く風は葉を揺らすこともない微風だが、仄かな香りが立ち上り、時おり聴こえる高音の煌めきは光の粒子が漂っているよう。
モダンピアノはもちろん素晴らしい楽器だが、それとは根本的に異なる楽器を想定して作曲したであろう作品を、同じ楽器で体験できる意義は大きい。「貴婦人の乗馬」などでお馴染みのヨハン・ブルグミュラーの弟で、やはり優れた作曲家だったノルベルト・ブルグミュラーのスケルツォは、決然とした部分とロマンチックな部分の交替する非凡さが窺える曲。とりわけロマンチックな部分での川口の羽毛を思わせるデリケートな表現がファンタジーを喚起した。
ショパンでも川口の演奏はデリケートを極めた。ノクターンでは高音を「聴いて聴いて!」とことさら強調することなく、情に走らず、終始美しい佇まいを保つ。第1ソナタはショパンが学生時代に書いた習作的な作品。川口はこの作品の魅力を語ったうえで「初演を聴く気持ちで聴いてください」と云って弾き始めた。曲目解説にあったようにバッハやシューベルトの要素も感じられたが、後のショパンを思わせる多彩でロマンチックな要素も多い。川口はソナタ全体を通して端正にカッチリとまとめたが、そうしたショパン的な心情の吐露などを、ルバートなどで揺らしてエモーショナルに表現しても面白いかも知れない。
そしてシューベルトは、楽器の特性が最大限に引き出された稀有の名演となった。心の奥に潜む愛やメランコリーを静かに優しく解きほぐして語らせるようなアプローチ。ペダル(ストップ)による音色の変化を効果的に用いたハープのつまびきのような繊細な音は、華やかさやきらびやかさとは違った心の煌めきを伝える。
4つの即興曲は「1つの大きなソナタのような存在」と川口がプログラムノートに記していたが、まさに悠久の時間が流れる大きな存在として迫ってきた。それはまるで神聖な儀式のようで、聴衆は息を潜めてその儀式に臨む。最後のコーダでは、それまで聴いたことがなかったほどの強靭なタッチで決然とした激しい音を聴かせた。シューベルトの短い人生の重みを締めくくったよう。32歳にして巨匠の域にまで達したような演奏に、満席の会場は大きな拍手で包まれた。
このリサイタル、紀尾井友の会会員は100円で聴けるという事実上の招待コンサートでとてもありがたいが、友の会は来年3月で終了してしまうとのこと。残念だ。
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ベートーヴェン、交響曲前夜。(フォルテピアノ:川口成彦) 2020.11.14 北とぴあ つつじホール
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