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僕はアーノルド、宇宙とつながった男(吉成文乃 & 岩下真麻 デュオリサイタル)

2021年03月18日 |  pocknのコンサート感想録2021
3月15日(月)僕はアーノルド、宇宙とつながった男
トーキョーコンサーツ・ラボ


【曲目】
♪ シェーンベルク/森の夜
♪ シェーンベルク/興奮 Op. 3-2
♪ シェーンベルク/この冬の日々に
♪ シェーンベルク/渚にて
♪ シェーンベルク/3つのピアノ小品 Op.11-1
♪ シェーンベルク/月に憑かれたピエロ Op.21~月に酔い
♪ バッハ/マタイ受難曲BWV244~憐れみたまえ
♪ バッハ/平均律クラヴィーア曲集第1巻BWV 868~第23曲
♪ シェーンベルク/キャバレーソング~満ち足りた恋人
♪ シェーンベルク/森の日射し Op.2-4
♪ シェーンベルク/グレの歌~山鳩の歌

【演奏】
MS:吉成文乃/Pf:岩下真麻


いつも人を惹きつけるテーマを掲げ、企画、構成、映像、音響、演出、そして演奏と、全てを手がけて演奏会を作り上げるメゾソプラノの吉成文乃さんが、久しぶりにライブ公演を行った。今夜のテーマは吉成さんが学生時代から研究テーマとしても取り組んでいるシェーンベルク。題して「僕はアーノルド、宇宙とつながった男」。現代音楽の創始者とも云える作曲家の人生における出会いや事件と、それが作曲に与えた影響を、多彩な手法で描き出すシアターピースのようなステージを堪能した。

後期ロマン派スタイルで書かれた歌曲「森の夜」に始まり、人生のターニングポイントを経るたびに作風を大きく変え、調性感が希薄になり、無調を経て12音技法に至る過程を、象徴的な言葉、画像、動画を挟みながら辿って行くことで、聴衆はシェーンベルクの体験を感覚的に追体験し、そこから生まれた音楽に鮮やかなインパクトを受ける。特に画家のカンディンスキーとの芸術を通した交友や、妻マティルデと、シェーンベルクとも深い交友関係にあった画家のゲルストルとの不倫、そして悲劇的な結末がもたらした影響についての描写が、音楽とリンクしてリアルに迫って来た。シェーンベルクの楽曲の間に入れられたバッハの音楽が、シェーンベルクの運命や思いをより象徴的に伝えていた。

スライドで投影された説明やドイツ語で朗読された言葉が、投影中に読み切れなかったり、理解しきれなかったりすることがあったが、詳しくわかりやすい解説をしながら音楽を読み解くというより、聴衆の感覚に訴えることに主眼を置いた演出だった。

吉成さんの歌唱は言葉を深く見つめて的確な表現を与え、瑞々しい声で届けられた。なかでも無調に入ってからの楽曲では、より水を得て生き生きとした表情が冴えていた。またキャバレーソングでは、おどけた表情に色香も添えられ、語りかけの妙を楽しんだ。ピアノの岩下真麻さんは、磨かれた音で端正に音を紡いで行くなかに、ほのかな詩情や透徹とした厳しさも聴かせ、温かくかつ冷静に歌に寄り添い、また時にリードした。ソロで聴かせてくれた2作品からも、音楽に対する誠実でかつ深い読みが感じられた。

そんな2人による集大成は、最後に演奏された「山鳩の歌」。愛するトーヴェを喪った王が、気も狂わんばかりに悲嘆に暮れる緊迫した様子が熱く胸に迫り、会場の気温が上がるような気がするほどだった。

吉成文乃(MS)/正住真智子(Pf):シューベルト「冬の旅」 2019.5.26 内田邸音楽室
東京藝術大学大学院音楽科学位審査会公開演奏会より 2019.1.15 藝大奏楽堂
Gebet ~祈り~(4人の歌手による祈りの歌) 2018.2.3 横浜海岸教会
世紀末ウィーンの光と陰~金成佳枝&吉成文乃 デュオ・リサイタル~ 2017.10.9 やなか音楽ホール

コロナ禍で演奏会の中止が続く欧米、やっている日本
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