6月12日(火)新国立劇場オペラ公演
新国立劇場
【演目】
R.シュトラウス/「ばらの騎士」
【配役】
元帥夫人:カミッラ・ニールント、オックス男爵:ペーター・ローゼ、オクタヴィアン:エレナ・ツィトコーワ、ファーニナル:ゲオルグ・ティッヒ、ゾフィー:オフェリア・サラ、マリアンネ:田中三佐代、ヴァルツァッキ:高橋淳、アンニーナ:背戸裕子、警部:妻屋秀和、元帥夫人の執事:秋谷直之、ファーニナル家の執事:経種廉彦、公証人:晴雅彦、料理屋の主人:加茂下稔、テノール歌手:水口聡、帽子屋:木下周子、動物商:青地英幸、レオポルド:三戸大久
【演出】
ジョナサン・ミラー
【美術/衣装】
イザベラ・バイウォーター
【演奏】
ペーター・シュナイダー指揮 東京フィルハーモニー交響楽団/新国立劇場合唱団
前から楽しみにしていた新国の「ばらの騎士」、チューリヒ歌劇場やドレスデンのゼンパーオーパーも「ばらの騎士」を持っての来日にとても魅かれたのだが、お金も限りがあるし、シュナイダー/新国に大きな期待を抱いて出かけた。
オペラは年5~6本観る程度、「ばらの騎士」に至ってはもう10年以上前にウィーンで観たきり(シュタインの指揮の公演は今でも思い出すだけでとろけるような名演だったが…)という程度の僕にとっては、今夜の新国の公演は大いに満足できる内容だった。
20世紀初頭を想定したという舞台はとても落ち着いた、本当にウィーンのお屋敷らしいもので、そこで繰り広げられる人間模様に落ち着いて集中することができた。2幕のファーニナルの屋敷では天井の傾斜を強調した奥行き感のある部屋を実現していてお見事。
このオペラは歌手が粒ぞろいであること、オーケストラが雄弁であることがとても求められると思うが、そのどちらもが高い水準を示していた。我がままを言えば、主役級の歌手のうち一人ぐらい日本人に歌ってもらいたかったが、メインの役を歌った招聘歌手達は、声、表現力、演技力どれをとっても素晴らしかった。
中でも一人をあげるならオクタヴィアンを歌ったメゾのツィトコーワ。凛々しさ、若々しさ、多感で繊細な感情表現、「男らしい」正義感や逞しさ等々を清澄で芯の通った声と表現力で見事に役をこなしていた。2幕の決闘の場面など、本当に迫真の歌と演技に体が固まった。
ニールントの元帥夫人ももちろん素晴らしい。気高さと細やかさを持ち、高貴という言葉がお似合いの声と歌唱に魅了され、また最後に部屋を去るときのオクタヴィアンに振り返るしぐさ(3階なので表情までは見えないが…)が、この役に求められているものを出し切っていた。
存在感という意味ではやはりオックス役のローゼ。滑稽さをもっと押し出すこともできるかも知れないこの役をシリアスに悪役として演じきったため「本当にイヤなやつ!」とついつい感情移入してしまった。太い声と幅広い表現力で圧倒的。
ゾフィーを歌ったサラ、純粋で健気で、しかし女としてのプライドもきちんと持ち合わせている役にこれもぴったり。細くよく通る美声と控えめなお色気がたまらない。ファーニナル役のティッヒは実に味のある歌と演技で魅了した。場数を重ね深めていった職人技!
という具合に粒ぞろいの歌手陣。その他にはとても安定した存在感と頼り甲斐を感じた警部の妻屋秀和はオックスを歌わせてもいいのでは、と思うほどの歌いっぷり。また、一幕でテノール歌手を歌った水口聡には歌の後拍手を送りたくなった。
この公演をここまでの水準に導いたのは指揮者のシュナイダーの力も大きい。日本のオケがやるとどうしても「野暮ったく」なってしまいそうな歌を実に情感たっぷりのスマートさで歌い上げた。その息の長さ、ゆらし、豊潤で柔らかなハーモニーなど、シュトラウスのオケの魅力をたっぷりと味わわせてくれた。
そんなシュナイダーの指揮を読み取り、見事な音で表現した東フィルは大変立派。とても目立つホルンやオーボエのソロも合格!3幕のクライマックスへのしなやかで雄弁な盛り上がりでは、聴いていて劇の主人公になってしまったかのように気分を高揚させてくれた。ヨーロッパの地方のオペラハウスではここまで巧いオケは聴けない… とここまで褒めておいて注文をつけるのもなんだが、薫り立つような色香とか、とろけるような語り口とかがあるとまた1ランク上の気分に導いてくれるのだがそれは贅沢な望みかも知れない。
このように総力を結集した見事な公演は大変満足度が高い。ただ、やっぱり上に書いたようなオケへの欲張りな注文が満たされ、歌手は粒ぞろいで良かったのだが、飛びぬけた逸材的な歌手の存在があれば更に感動や印象は強くなる、という気はする。でも4時間を優に越える公演の長さを全く感じない「ばらの騎士」だった。
新国立劇場
【演目】
R.シュトラウス/「ばらの騎士」
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【配役】
元帥夫人:カミッラ・ニールント、オックス男爵:ペーター・ローゼ、オクタヴィアン:エレナ・ツィトコーワ、ファーニナル:ゲオルグ・ティッヒ、ゾフィー:オフェリア・サラ、マリアンネ:田中三佐代、ヴァルツァッキ:高橋淳、アンニーナ:背戸裕子、警部:妻屋秀和、元帥夫人の執事:秋谷直之、ファーニナル家の執事:経種廉彦、公証人:晴雅彦、料理屋の主人:加茂下稔、テノール歌手:水口聡、帽子屋:木下周子、動物商:青地英幸、レオポルド:三戸大久
【演出】
ジョナサン・ミラー
【美術/衣装】
イザベラ・バイウォーター
【演奏】
ペーター・シュナイダー指揮 東京フィルハーモニー交響楽団/新国立劇場合唱団
前から楽しみにしていた新国の「ばらの騎士」、チューリヒ歌劇場やドレスデンのゼンパーオーパーも「ばらの騎士」を持っての来日にとても魅かれたのだが、お金も限りがあるし、シュナイダー/新国に大きな期待を抱いて出かけた。
オペラは年5~6本観る程度、「ばらの騎士」に至ってはもう10年以上前にウィーンで観たきり(シュタインの指揮の公演は今でも思い出すだけでとろけるような名演だったが…)という程度の僕にとっては、今夜の新国の公演は大いに満足できる内容だった。
20世紀初頭を想定したという舞台はとても落ち着いた、本当にウィーンのお屋敷らしいもので、そこで繰り広げられる人間模様に落ち着いて集中することができた。2幕のファーニナルの屋敷では天井の傾斜を強調した奥行き感のある部屋を実現していてお見事。
このオペラは歌手が粒ぞろいであること、オーケストラが雄弁であることがとても求められると思うが、そのどちらもが高い水準を示していた。我がままを言えば、主役級の歌手のうち一人ぐらい日本人に歌ってもらいたかったが、メインの役を歌った招聘歌手達は、声、表現力、演技力どれをとっても素晴らしかった。
中でも一人をあげるならオクタヴィアンを歌ったメゾのツィトコーワ。凛々しさ、若々しさ、多感で繊細な感情表現、「男らしい」正義感や逞しさ等々を清澄で芯の通った声と表現力で見事に役をこなしていた。2幕の決闘の場面など、本当に迫真の歌と演技に体が固まった。
ニールントの元帥夫人ももちろん素晴らしい。気高さと細やかさを持ち、高貴という言葉がお似合いの声と歌唱に魅了され、また最後に部屋を去るときのオクタヴィアンに振り返るしぐさ(3階なので表情までは見えないが…)が、この役に求められているものを出し切っていた。
存在感という意味ではやはりオックス役のローゼ。滑稽さをもっと押し出すこともできるかも知れないこの役をシリアスに悪役として演じきったため「本当にイヤなやつ!」とついつい感情移入してしまった。太い声と幅広い表現力で圧倒的。
ゾフィーを歌ったサラ、純粋で健気で、しかし女としてのプライドもきちんと持ち合わせている役にこれもぴったり。細くよく通る美声と控えめなお色気がたまらない。ファーニナル役のティッヒは実に味のある歌と演技で魅了した。場数を重ね深めていった職人技!
という具合に粒ぞろいの歌手陣。その他にはとても安定した存在感と頼り甲斐を感じた警部の妻屋秀和はオックスを歌わせてもいいのでは、と思うほどの歌いっぷり。また、一幕でテノール歌手を歌った水口聡には歌の後拍手を送りたくなった。
この公演をここまでの水準に導いたのは指揮者のシュナイダーの力も大きい。日本のオケがやるとどうしても「野暮ったく」なってしまいそうな歌を実に情感たっぷりのスマートさで歌い上げた。その息の長さ、ゆらし、豊潤で柔らかなハーモニーなど、シュトラウスのオケの魅力をたっぷりと味わわせてくれた。
そんなシュナイダーの指揮を読み取り、見事な音で表現した東フィルは大変立派。とても目立つホルンやオーボエのソロも合格!3幕のクライマックスへのしなやかで雄弁な盛り上がりでは、聴いていて劇の主人公になってしまったかのように気分を高揚させてくれた。ヨーロッパの地方のオペラハウスではここまで巧いオケは聴けない… とここまで褒めておいて注文をつけるのもなんだが、薫り立つような色香とか、とろけるような語り口とかがあるとまた1ランク上の気分に導いてくれるのだがそれは贅沢な望みかも知れない。
このように総力を結集した見事な公演は大変満足度が高い。ただ、やっぱり上に書いたようなオケへの欲張りな注文が満たされ、歌手は粒ぞろいで良かったのだが、飛びぬけた逸材的な歌手の存在があれば更に感動や印象は強くなる、という気はする。でも4時間を優に越える公演の長さを全く感じない「ばらの騎士」だった。