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足繁く通う演奏会の感想等でクラシック音楽を追求/面白すぎる台湾/イタリアやドイツの旅日記/「ドイツ留学相談室」併設

アンドラーシュ・シフ ピアノリサイタル

2014年03月19日 | pocknのコンサート感想録2014
3月19日(水)アンドラーシュ・シフ(Pf)
東京オペラシティコンサートホール タケミツメモリアル

【曲目】
1. メンデルスゾーン/厳格な変奏曲ニ短調 Op.54
2.シューマン/ピアノ・ソナタ第1番嬰ヘ短調 Op.11
3.メンデルスゾーン/幻想曲 Op.28
4. シューマン/交響的練習曲 op.13 (1852年改訂版)

【アンコール】
1.メンデルスゾーン/無言歌集~甘い思い出
2. メンデルスゾーン/無言歌集~紡ぎ歌
3. シューマン/アラベスク
4.シューマン/幻想曲~第3楽章
5.バッハ/パルティータ第4番~サラバンド

3年ぶりに聴くシフのリサイタル。前回紀尾井ホールで聴いたバッハの平均律は神様の存在を感じるような奇跡とも言える演奏だったが、シューマンとメンデルスゾーンのどちらかと言えば「硬派」のプログラムで、シフはまたもや神様を連れてきてしまった。

シフの弾くピアノを聴いていると、多声部の弾き分けが見事だとか、自然でデリケートな表情が心に沁みるとか、命あるものが戯れているような躍動や悦びに溢れているとか、いろいろな言葉が浮かんで来たが、聴き進んで行くうちに、こんな言葉はなんだかどうでもよくなってしまった。それはシフのピアノ演奏が、どんな言葉を使っても言い表せない、とてつもなく大きなものに司られているのを感じずにはいられなくなったから。

シフの演奏からは「ここはこんな風に滑らかに」とか「ここで情感を高めて」とかいった演奏家として当然持っているべき作意、一つ一つのフレーズをどう演奏して、全体をどんな風に構築して行くかといった意思をはるかに超えたところで音楽が奏でられているように感じてしまうのだ。それは自然、いや宇宙の摂理そのものが音楽として鳴り響いているような感覚。

前回のバッハは音楽自体が高い普遍性を持つので、こうした感覚とつながりやすいが、特にシューマンのような個人的なメッセージを親密に伝えてくるような音楽でもシフの手にかかると限りなく普遍的なものになり、聴き手に深遠な世界を感じさせる。シューマンの音楽に潜む一種病んだ空気もシフの手にかかると限りなく浄化され、天からの啓示のように神聖で、しかしそれは決して近寄り難いものではなく、一人一人を慈しむように親密に語りかけてくる。シフの演奏ほど清らかで、慈しみに溢れ、命の鼓動が謳歌し、そこに宇宙的な果てしなく大きな世界の存在を感じさせるものが他にあるだろうか。

演奏が進めば進むほど、そんな感覚で満たされ、リサイタルの1つの大きなステージを形成することになった「アンコールアワー」でそれは頂点に達した。アンコールでシューマンの「幻想曲」を聴けたのは驚きだったが、さすがにこれで終わりと思ったところで更にもう1曲弾いてくれたバッハを聴いて、このリサイタルはこう終わることになっていたんだな、と悟った。聴衆が長い沈黙を静かに見守るなか、シフは鍵盤からそっと手を離すと、熱くて割れんばかりの拍手とスタンディングオベーションとなった。僕も席から立ち上がり、心の底から感激と感謝の拍手を送った。

アンドラーシュ・シフのバッハⅡ 20011.2.13 紀尾井ホール

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