pocknのコンサート感想録アーカイブス ~ブログ開設以前の心に残った公演~ 1987年 3月23日(月) クラウディオ・アッバード指揮ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団 サントリーホール 1. ベートーヴェン/交響曲第6番ヘ長調「田 園」Op.68 ㊝ ♡ 2.ベートーヴェン/交響曲第4番変ロ長調 Op.60 ☆ 3.ベートーヴェン/序曲「レオノーレ」第3番 Op.72b ☆ 6か月ぶりのアッバードとの再会、そして、実に10年ぶりのウィーン・フィルとの再会!「田園」の出だしのなんと柔らかく優しく、自然な表情!ウィーン・フィルでしか出すことはできまい。音が発生し、持続し、消えるまでの香りの高さ、柔らかく豊かな表情、デリケートで美しい音!もうしびれてしまう。弦の織りなすビロードのような肌触り、そこに溶ける柔らかく香り高い表情で歌う木管の調べ… 第1、第2楽章では、すっかりこのウィーン・フィルの調べに酔った。第3楽章からは、そこにアッバードの個性、存在が強く加わった。3楽章から4楽章への移行の見事さ!不安な翳りから、にわかに嵐となるその強烈なクレッシェンド、爆発的な迫力、きりっとした厳しさ、慌てふためく人々の情景のリアルさ… 第4楽章は極度な緊張が持続する。 そして、そこからフィナーレへ移るときの溢れるような情感。緊張が和らぎ、広々と広がって行く音楽、実に素晴らしい。フィナーレは生き生きとした喜びに溢れ、上気し、興奮し、まさにアッバードのエネルギーが感じられる素晴らしい演奏。ウィーン・フィルは「黄金のアンサンブル」と呼びたくなるような輝きと気品に満ちている。第4楽章はずーっと胸が高鳴る一方だ。極上の「田園」だった。 4番もウィーン・フィルのすばらしいアンサンブルとアッバードのエネルギーを満喫した。きりりと引き締まったなかにも、喜びが躍動し、エネルギーが迸る第1楽章、表情豊かに織り成した第2楽章、ソロ楽器や弦のユニゾンが実に伸び伸びといい歌を歌っていた。しなやかで伸びがあり、聞かせてくれた第3楽章。すばらしいスピード感、重くならずぐいぐいと引っ張り、胸を高鳴らせたフィナーレ! 「レオノーレ」もどこをとっても生気に溢れ、絶妙な表情を持ち、輝かしいアンサンブルが花開いた。 素晴らしいコンサートだった。ウィーン・フィルのあの香り高い柔らかな音、なんとも自然でなんとも音楽的な表情、広がりのある豊かでつややかなアンサンブル、誰にもまねのできないウィーン・フィルの「音」を聞いたとき、こんなすばらしいオーケストラを年に何度も聴ける人達って、なんてうらやましいんだろと思ってしまう。 かたやアッバードは、このオーケストラのそうしたすばらしい特長を使いこなしつつ「アッバードだな!」と思わせる上に書いたような個性を発揮する。アッバードのベートーヴェンは、古典美というような整った均整を備えている。世界一の演奏を柔らかく豊かに響くサントリーホールで聴けたことも幸せだった。 |

サントリーホールが、待望の、東京で初のクラシック専用ホールとしてオープンしたのが1986年10月。そのオープニングシリーズは半年後も続いていて、アバドがウィーン・フィルとベートーヴェンのシンフォニーを全曲演奏した。アバドがウィーン国立歌劇場の音楽監督に就任したのが1986年、ウィーン・フィルとベートーヴェンの交響曲全集を録音したのは80年代半ばなので、とてもタイムリーで重要なコンサートに居合わせることができたわけだ。
20代に書いた感想を読み返すだけでなく、手書きのものを打ち直してブログで公開するのはちょっと恥ずかしいが、この演奏会でどんな印象を持ったかは、これを読み返すまであまりはっきりとは覚えていなかった。けれど、特に「田園」でのべた褒めぶりを読んで、相当な感動を味わったことを思い出してきた。アバドをウィーン・フィルで聴いたのはこの演奏会一度きり。貴重な体験ができたと今さらながらに感じている。
(2014.1.31)
アバドが逝ってしまった・・・