6月18日(水)スロヴェニア マリボール国立歌劇場公演
オーチャードホール
【演目】
ビゼー/「カルメン」全4幕
【配役】
カルメン:ヴェッセリーナ・カサロヴァ/ドン・ホセ:エフゲニー・アキモフ/ミカエラ:アンドレヤ・ザコンシェク・クルト/エスカミーリョ:ジャク・グレッグ・ベロボ/フラスキータ:ヴァレンティナ・チュデン/メルセデス:アマンダ・ストヨヴィッチ/ダンカイロ:ヤキ・ユルゲッツ/レメンダード:ドゥシャン・トポロヴィッツ/スニガ:ヴァレンティン・ピヴォヴァロフ/モラーレス:セバスティヤン・チェロフィガ
【演出・装置・照明】フィリップ・アルロー
【演奏】
ロリス・ヴォルトリーニ指揮 マリボール国立歌劇場管弦楽団/合唱団/バレエ団/久喜児童合唱団/東京こどもオペラ合唱組
マリボール国立歌劇場と聞いても正直ピンとこないが、メゾの大物カサロヴァがカルメンを歌うと聞けば、あのカサロヴァを、コンサートじゃなくてオペラのステージで、しかもカルメンで聴ける(観れる)となれば一気に興味が湧く。その上、チケット代は新国立劇場の公演並みとなれば、これは観に行かなきゃ!という気になる。ところが3階バルコニーの、ステージを近くに見下ろすせり出しのいい席に開演間際に着いた時も周囲は空席だらけ。1階はある程度埋まっているが、2、3階は空席がとても多い。えー?カサロヴァのカルメンなのにどうして?
けれどステージに登場したカサロヴァのカルメンは存在感といいボリュームといい、やっぱり圧倒的だった。奔放さでは以前に聴いたバルツァに譲るとしても、濃厚で情熱がムンムンと漂う独特の歌唱は魅力たっぷり。カサロヴァの歌は表現の幅がとても深く、声の表情も変幻自在。男達の心を次々と落として行く「魔性」も申し分ない。
マリボール歌劇場は、タイトルロール以外にも大変優れたキャストを揃え、オペラハウスとしての存在感も示した。主役と並んで重要なドン・ホセを歌ったアキモフがまた素晴らしかった。力強く張りのある輝かしい声で、カサロヴァに引けを取らない存在感を誇示し、恋に翻弄され、狂気へ向かう強烈な個性で聴き手の心を鷲掴みにした。ミカエラ役のクルトは、健気さやかわいらしさよりも偽りのない心をまっすぐに伝えた。クセのない大きな表現には品もあり声も美しく、最後まで気丈な女を印象づけた。エスカミーリョ役のベロボは引き締まった美声で紳士的な歌を聴かせた。
その他で印象に残ったのは、隊長スニガを太い声で存在感たっぷりに歌ったピヴォヴァロフ、それと妖艶な魅力をふりまいたジプシーの女メルセデスを歌ったストヨヴィッチ。つまりは、キャストのレベルもインパクトも総じて高い。それに合唱も人数は小規模だったが、とりわけ女声陣がパワフルで、女工たちやジプシーたちを個性豊かに歌って演じた。
さて、歌手陣ではこれほどハイレベルどころが揃った公演だったが、オペラ全体の印象としてはもう一つ弱かった。そのひとつの原因はオーケストラにある。オケのレベル自体は決して低くはないし、細やかな表情を豊かに聴かせるところも多々あったのだが、「カルメン」ならではの血が騒ぐ奔放な勢いや衝動的な表現力に欠けていた。
それと、このオペラは見どころも聴きどころも満載の作品だが、それだけではなく、1つの作品としてギュッと凝縮され、全体で訴えてくる力を持っていると思うのだが、それがあまり感じられず、それぞれのシーンが孤立してしまっている印象を受けた。ここら辺は、全体を強力に統率すべき指揮者の力量も関係してくるのかも知れない。
また、場面によって背景が抽象的だったりリアルになったり、バレエが入るのはいいがオペラの流れが途切れてしまったりと、舞台としての統一感に乏しかった。木箱を巧みに配置して3次元の立体感や奥行きを表現したり、群衆の配置や照明も変化があって、舞台装置がシンプルな割にはインパクトはあったが… (最後の場面でカルメンがホセに渡した剣でカルメン自身が刺されるというのは、カード占いを成就させるための演出??よくわからん)
もう一つ気になったのは聴衆の反応。アリアの後の拍手もすぐ止んでしまうし、拍手に熱が感じられない。「ブラボー」もまばら。終演後のカーテンコールは1度だけで早々と拍手は引いてしまった。拍手だけ聞いているとどこかの地方の公民館の公演みたい。聴衆が公演を盛り立てて行く、という図式もなかった。カサロヴァのカルメンにはあまり注目が集まらなかったのだろうか。そう言われると、野放図なところがほしいお色気たっぷりのカサロヴァにとって、カルメンは必ずしも適役ではないのかも。
オーチャードホール
【演目】
ビゼー/「カルメン」全4幕
【配役】
カルメン:ヴェッセリーナ・カサロヴァ/ドン・ホセ:エフゲニー・アキモフ/ミカエラ:アンドレヤ・ザコンシェク・クルト/エスカミーリョ:ジャク・グレッグ・ベロボ/フラスキータ:ヴァレンティナ・チュデン/メルセデス:アマンダ・ストヨヴィッチ/ダンカイロ:ヤキ・ユルゲッツ/レメンダード:ドゥシャン・トポロヴィッツ/スニガ:ヴァレンティン・ピヴォヴァロフ/モラーレス:セバスティヤン・チェロフィガ
【演出・装置・照明】フィリップ・アルロー
【演奏】
ロリス・ヴォルトリーニ指揮 マリボール国立歌劇場管弦楽団/合唱団/バレエ団/久喜児童合唱団/東京こどもオペラ合唱組
マリボール国立歌劇場と聞いても正直ピンとこないが、メゾの大物カサロヴァがカルメンを歌うと聞けば、あのカサロヴァを、コンサートじゃなくてオペラのステージで、しかもカルメンで聴ける(観れる)となれば一気に興味が湧く。その上、チケット代は新国立劇場の公演並みとなれば、これは観に行かなきゃ!という気になる。ところが3階バルコニーの、ステージを近くに見下ろすせり出しのいい席に開演間際に着いた時も周囲は空席だらけ。1階はある程度埋まっているが、2、3階は空席がとても多い。えー?カサロヴァのカルメンなのにどうして?
けれどステージに登場したカサロヴァのカルメンは存在感といいボリュームといい、やっぱり圧倒的だった。奔放さでは以前に聴いたバルツァに譲るとしても、濃厚で情熱がムンムンと漂う独特の歌唱は魅力たっぷり。カサロヴァの歌は表現の幅がとても深く、声の表情も変幻自在。男達の心を次々と落として行く「魔性」も申し分ない。
マリボール歌劇場は、タイトルロール以外にも大変優れたキャストを揃え、オペラハウスとしての存在感も示した。主役と並んで重要なドン・ホセを歌ったアキモフがまた素晴らしかった。力強く張りのある輝かしい声で、カサロヴァに引けを取らない存在感を誇示し、恋に翻弄され、狂気へ向かう強烈な個性で聴き手の心を鷲掴みにした。ミカエラ役のクルトは、健気さやかわいらしさよりも偽りのない心をまっすぐに伝えた。クセのない大きな表現には品もあり声も美しく、最後まで気丈な女を印象づけた。エスカミーリョ役のベロボは引き締まった美声で紳士的な歌を聴かせた。
その他で印象に残ったのは、隊長スニガを太い声で存在感たっぷりに歌ったピヴォヴァロフ、それと妖艶な魅力をふりまいたジプシーの女メルセデスを歌ったストヨヴィッチ。つまりは、キャストのレベルもインパクトも総じて高い。それに合唱も人数は小規模だったが、とりわけ女声陣がパワフルで、女工たちやジプシーたちを個性豊かに歌って演じた。
さて、歌手陣ではこれほどハイレベルどころが揃った公演だったが、オペラ全体の印象としてはもう一つ弱かった。そのひとつの原因はオーケストラにある。オケのレベル自体は決して低くはないし、細やかな表情を豊かに聴かせるところも多々あったのだが、「カルメン」ならではの血が騒ぐ奔放な勢いや衝動的な表現力に欠けていた。
それと、このオペラは見どころも聴きどころも満載の作品だが、それだけではなく、1つの作品としてギュッと凝縮され、全体で訴えてくる力を持っていると思うのだが、それがあまり感じられず、それぞれのシーンが孤立してしまっている印象を受けた。ここら辺は、全体を強力に統率すべき指揮者の力量も関係してくるのかも知れない。
また、場面によって背景が抽象的だったりリアルになったり、バレエが入るのはいいがオペラの流れが途切れてしまったりと、舞台としての統一感に乏しかった。木箱を巧みに配置して3次元の立体感や奥行きを表現したり、群衆の配置や照明も変化があって、舞台装置がシンプルな割にはインパクトはあったが… (最後の場面でカルメンがホセに渡した剣でカルメン自身が刺されるというのは、カード占いを成就させるための演出??よくわからん)
もう一つ気になったのは聴衆の反応。アリアの後の拍手もすぐ止んでしまうし、拍手に熱が感じられない。「ブラボー」もまばら。終演後のカーテンコールは1度だけで早々と拍手は引いてしまった。拍手だけ聞いているとどこかの地方の公民館の公演みたい。聴衆が公演を盛り立てて行く、という図式もなかった。カサロヴァのカルメンにはあまり注目が集まらなかったのだろうか。そう言われると、野放図なところがほしいお色気たっぷりのカサロヴァにとって、カルメンは必ずしも適役ではないのかも。