7月12日(金)新国立劇場 平成25年度地域招聘公演(びわ湖ホール)
新国立劇場 中劇場
【演目】
クルト・ワイル/「三文オペラ」(ベルトルト・ブレヒトの戯曲による)
【配役】
メッキー・メッサー:迎 肇聡/ピーチャム:松森 治/ピーチャム夫人:田中 千佳子/ポリー:栗原未和/ブラウン:竹内直紀/ルーシー:本田華奈子/ジェニー:中嶋康子/スミス:西田昭広/大道歌手:砂場拓也/フィルチ:古屋彰久/泥棒:青柳貴夫(ウォールター)、島影聖人(イーデ)、二塚直紀(ロバート)、林 隆史(マシアス)、山本康寛(ジェイコブ)/娼婦:岩川亮子(ドリー)、小林あすき(ベティー)、林 育子(年寄りの娼婦)、松下美奈子(フィクセン)、森 季子(モリー)
【演出】栗山昌良
【衣裳】緒方規矩子【振付】小井戸秀宅【照明】原中治美【装置】増田寿子
【演奏】
園田隆一郎 指揮 /Pf:寺嶋陸也/ザ・カレッジ・オペラハウス管弦楽団
ブレヒトの「三文オペラ」、タイトルはよく耳にするが、お恥ずかしながら今まで読んだことも聴いたこともない。「オペラ」と言っても、普通のオペラ作品とは異なる「音楽劇」で、キャストは歌うことと演じることの両方をほぼ同等に求められることから、どちらにも長けているキャストを揃える必要と、通常以上稽古に時間を要するためだろうか、有名ではあるが、この作品が上演されることは非常に稀だと思う。そんな作品を、びわ湖ホールが演出の老大家、栗山昌良を擁して制作した評判の公演を、新国立劇場の招聘シリーズで観た。
あらすじを読む程度の予備知識で観た公演だったが、場末の雰囲気漂う舞台で繰り広げられる音楽劇は、想像していた通り、人間の欲や、羨望や、卑しさ、或いは寂しさや人恋しさなど、誰もが持つような感情が、歌とバンドと芝居であぶり出され、心に迫ってきた。想像とは随分違ったのが、作品の中の芝居のウェイトの大きさ。モーツァルトのジングシュピールと比べられる程度のセリフの量を予想していたが、実際はセリフが多いどころではなく、本格的な芝居の世界。ミュージカル以上に演劇色が強く、歌が本業のオペラ歌手にとってはかなり重たい仕事に違いない。
そんな大仕事をびわ湖ホールの歌手陣は見事にこなし、立派な公演に仕上げた。 大道歌手役、砂場拓也の哀愁漂う歌で始まり、多くの人物が登場するが、歌手としてはどれも優劣つけがたいほどの粒揃い。そして芝居の方も、登場人物のキャラクターまでよく捉えた好演・熱演が繰り広げられた。こんな中でとりわけ印象に残ったのが、ビーチャム役の松森治。危ない仕事を取り仕切る悪賢い貫禄と人間臭さが、歌からも演技からもムンムンと伝わってきた。
この松森さんの個性や存在感の強さで逆に気づかされたのは、他の歌手もみんな素晴らしいのだが、「この役をこの人で聴けて(見れて)良かった!」と言える強い個性や印象を放つことの難しさ。「三文オペラ」のようなタイプの作品は、スタンダードなオペラに増して、役者の個性がモノを言う余地が大きい気がする。
立派な劇場で、集まってくる客も「ブレヒトの戯曲を鑑賞しに来た」というような学のありそうな方々が多かったが、扱う題材が下世話で下品な台詞もポンポン飛び交うこの作品は、本当は下町の芝居小屋とか、酒場のステージでやるのが似合いそう。そんな場所なら客層も違って、下品な台詞にストレートに反応し、大きな笑いがわき起こって役者も更に興に乗ってくるのでは、と思った。歌手達は歌も演技も上手くて、下品なセリフも精一杯頑張っていたが、やっぱりお行儀が良すぎる。歌はもう少し下手くそでも、松森さん級の個性や人間味を出すキャストがもう1~2人はほしい。
とは言え、こんなに高いレベルの公演を観れて不満を述べるのは欲張りというもの。終盤で、メッキー・メッサーの処刑が迫ってくるあたりからは音楽が主役になり、迎 肇聡の迫真の歌唱で緊迫感がどんどん高まり、最後に訪れるビックリのハッピーエンドで一気に開放されるくだりまで、ずっとステージに没入した。お芝居主流の作品でも、やはり音楽の力は大きい。バンド程度の編成だったが、ザ・カレッジ・オペラハウス管弦楽団と、リズム系を先導した寺嶋陸也のピアノの功績も大きい。幕切れで「びわ湖ホール」のPRを歌詞に盛り込だのは憎い演出。「お堅い」聴衆も、ステージでの手拍子に加わり、楽しいエンディングとなった。んー、でももっと大勢が手拍子すればもっと盛り上がるのにな… 歌が終わる直後のタイミングでいつもいち早く拍手を入れる客席左後方の輩のパフォーマンスは迷惑だったが。
「演出の老大家」と書いた栗山氏の演出がどうだったか、詳細は「三文オペラ」に詳しい方のレポートに譲りたいが、奇抜なことは全くやらないオーソドックスなやり方で、作品本来の味を出していたと思う。幕切れで、それまでの舞台とは異質な、青いTシャツ姿の合唱団員が大勢登場したのは意外だったが、あれはもしかしてびわ湖ホールのシンボルカラーだったのだろうか。それならば納得。
新国立劇場 中劇場
【演目】
クルト・ワイル/「三文オペラ」(ベルトルト・ブレヒトの戯曲による)
【配役】
メッキー・メッサー:迎 肇聡/ピーチャム:松森 治/ピーチャム夫人:田中 千佳子/ポリー:栗原未和/ブラウン:竹内直紀/ルーシー:本田華奈子/ジェニー:中嶋康子/スミス:西田昭広/大道歌手:砂場拓也/フィルチ:古屋彰久/泥棒:青柳貴夫(ウォールター)、島影聖人(イーデ)、二塚直紀(ロバート)、林 隆史(マシアス)、山本康寛(ジェイコブ)/娼婦:岩川亮子(ドリー)、小林あすき(ベティー)、林 育子(年寄りの娼婦)、松下美奈子(フィクセン)、森 季子(モリー)
【演出】栗山昌良
【衣裳】緒方規矩子【振付】小井戸秀宅【照明】原中治美【装置】増田寿子
【演奏】
園田隆一郎 指揮 /Pf:寺嶋陸也/ザ・カレッジ・オペラハウス管弦楽団
ブレヒトの「三文オペラ」、タイトルはよく耳にするが、お恥ずかしながら今まで読んだことも聴いたこともない。「オペラ」と言っても、普通のオペラ作品とは異なる「音楽劇」で、キャストは歌うことと演じることの両方をほぼ同等に求められることから、どちらにも長けているキャストを揃える必要と、通常以上稽古に時間を要するためだろうか、有名ではあるが、この作品が上演されることは非常に稀だと思う。そんな作品を、びわ湖ホールが演出の老大家、栗山昌良を擁して制作した評判の公演を、新国立劇場の招聘シリーズで観た。
あらすじを読む程度の予備知識で観た公演だったが、場末の雰囲気漂う舞台で繰り広げられる音楽劇は、想像していた通り、人間の欲や、羨望や、卑しさ、或いは寂しさや人恋しさなど、誰もが持つような感情が、歌とバンドと芝居であぶり出され、心に迫ってきた。想像とは随分違ったのが、作品の中の芝居のウェイトの大きさ。モーツァルトのジングシュピールと比べられる程度のセリフの量を予想していたが、実際はセリフが多いどころではなく、本格的な芝居の世界。ミュージカル以上に演劇色が強く、歌が本業のオペラ歌手にとってはかなり重たい仕事に違いない。
そんな大仕事をびわ湖ホールの歌手陣は見事にこなし、立派な公演に仕上げた。 大道歌手役、砂場拓也の哀愁漂う歌で始まり、多くの人物が登場するが、歌手としてはどれも優劣つけがたいほどの粒揃い。そして芝居の方も、登場人物のキャラクターまでよく捉えた好演・熱演が繰り広げられた。こんな中でとりわけ印象に残ったのが、ビーチャム役の松森治。危ない仕事を取り仕切る悪賢い貫禄と人間臭さが、歌からも演技からもムンムンと伝わってきた。
この松森さんの個性や存在感の強さで逆に気づかされたのは、他の歌手もみんな素晴らしいのだが、「この役をこの人で聴けて(見れて)良かった!」と言える強い個性や印象を放つことの難しさ。「三文オペラ」のようなタイプの作品は、スタンダードなオペラに増して、役者の個性がモノを言う余地が大きい気がする。
立派な劇場で、集まってくる客も「ブレヒトの戯曲を鑑賞しに来た」というような学のありそうな方々が多かったが、扱う題材が下世話で下品な台詞もポンポン飛び交うこの作品は、本当は下町の芝居小屋とか、酒場のステージでやるのが似合いそう。そんな場所なら客層も違って、下品な台詞にストレートに反応し、大きな笑いがわき起こって役者も更に興に乗ってくるのでは、と思った。歌手達は歌も演技も上手くて、下品なセリフも精一杯頑張っていたが、やっぱりお行儀が良すぎる。歌はもう少し下手くそでも、松森さん級の個性や人間味を出すキャストがもう1~2人はほしい。
とは言え、こんなに高いレベルの公演を観れて不満を述べるのは欲張りというもの。終盤で、メッキー・メッサーの処刑が迫ってくるあたりからは音楽が主役になり、迎 肇聡の迫真の歌唱で緊迫感がどんどん高まり、最後に訪れるビックリのハッピーエンドで一気に開放されるくだりまで、ずっとステージに没入した。お芝居主流の作品でも、やはり音楽の力は大きい。バンド程度の編成だったが、ザ・カレッジ・オペラハウス管弦楽団と、リズム系を先導した寺嶋陸也のピアノの功績も大きい。幕切れで「びわ湖ホール」のPRを歌詞に盛り込だのは憎い演出。「お堅い」聴衆も、ステージでの手拍子に加わり、楽しいエンディングとなった。んー、でももっと大勢が手拍子すればもっと盛り上がるのにな… 歌が終わる直後のタイミングでいつもいち早く拍手を入れる客席左後方の輩のパフォーマンスは迷惑だったが。
「演出の老大家」と書いた栗山氏の演出がどうだったか、詳細は「三文オペラ」に詳しい方のレポートに譲りたいが、奇抜なことは全くやらないオーソドックスなやり方で、作品本来の味を出していたと思う。幕切れで、それまでの舞台とは異質な、青いTシャツ姿の合唱団員が大勢登場したのは意外だったが、あれはもしかしてびわ湖ホールのシンボルカラーだったのだろうか。それならば納得。