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上村文乃 チェロ・リサイタル

2025年01月30日 | pocknのコンサート感想録2025
1月25日(土)上村文乃 チェロ・リサイタル
~A of Cello vol.1~
王子ホール


【曲目】
1.コダーイ/無伴奏チェロ・ソナタ ロ短調 Op.8
2.細川俊夫/無伴奏チェロのための『黒田節』(2024)
3.バッハ/無伴奏チェロ組曲第1番ト長調 BWV1007
♪ ♪ ♪
4.ライヒ/チェロ・カウンターポイント (チェロ独奏&テープ版)
5.ラフマニノフ/チェロ・ソナタ ト短調 Op.19
(アンコール)
♪ バッハ/シューマン編/無伴奏チェロ組曲第1番 ピアノ伴奏付き~ ジーグ
Pf:松本和将(5,e)


チェリストの上村文乃さんが自ら立ち上げたリサイタルシリーズのタイトル”A of Cello”は、人が最初に発する「ア」という音に込もった様々な感情を、自分の声としてチェロで伝えたいという思いで付けられたという。プログラミングはもちろん、パンフレットの挨拶文や曲目解説も自ら手掛けたシリーズの幕開けは、ラフマニノフ以外全て無伴奏で、時代もスタイルも大きく異なる曲が並び、上村さんの思いが詰まった熱くて濃いリサイタルとなった。

ねぶたを思わせる大胆な錦絵が描かれた衣装を纏って登場した上村さんの最初の演奏はコダーイの無伴奏。コダーイの魂が乗り移ったような気迫みなぎる入魂の演奏。一音一音に全神経と情熱が注がれ、音を積み上げ、揺るぎない全体像を築き上げていった。幅広い音域を縦横無尽に行き交い、熱く歌う音楽を、上村さんは緊張感を途切らせることなく弾き進んで行く。この緊張感や集中力、熱量は、ゆっくりした第2楽章でも変わることなく、更に深い処へと凝縮して、第3楽章では益々パッションを迸らせて極限状態まで上り詰めていく姿が、コスチュームのねぶたの荒々しくも華やかな姿と重なって圧巻のエンディング。リサイタルシリーズの冒頭をものの見事に飾るコダーイだった。

続く細川俊夫の作品も、民族的な情念が赤裸々に表現されるというところでコダーイとの共通点を感じたが、次のバッハの無伴奏では一転して作品との距離を取り、落ち着いた柔らかな演奏を聴かせた。それは、天上に佇むバッハの作品への敬意を表すように格調高く、幸福感に溢れ、生き生きとしていた。

休憩の後、上村さんは真紅の鮮やかなドレスで登場。ライヒの「チェロ・カウンターポイント」は、予め録音された7つのチェロパートとの共演。淡々としたなかに言葉の抑揚のようなメッセージ性が感じられた。この作品は8人のチェリストが生で合奏する八重奏版もあるそうだ。録音との共演だと、聴き手はライブで演奏する一人に意識が集中しがちになるし、音も生演奏がメインで聴こえてくる。プレイヤー全員が生で存在をアピールした方が、ミニマルミュージックの醍醐味がより感じられるとも思った。

最後は松本さんのピアノと共にラフマニノフのソナタ。ここで上村さんは作品との距離をまたグッと縮め、熱くて濃厚なチェロを聴かせた。コダーイのような切羽詰まったリアリティーとは異なる、人肌の温もりが感じられる優しい「声」。その声には包容力があり、演奏が進むに連れてパワーがみなぎり、頼もしさを増し、松本さんの熱のこもったピアノと共に熱くダイナミックなバトルを繰り広げた。

上村さんのチェロはいつ聴いても大器を思わせる風格があるが、一夜のリサイタルで、曲目によって思いっきりアプローチを変えてプログラムをこなす上村さんに益々大器を感じた。アンコールは即興演奏のように始まり、いつのまにか松本さんのピアノを伴ったバッハになって躍動感あるご機嫌なデュオ。無伴奏のときとはまた違ったバッハ。2年前、東博で聴いたモダンとピリオドの2つの楽器でのバッハの無伴奏を思い出した。同じ曲でも状況に応じて表現を変えて最高のパフォーマンスを聴かせるところもすごい。このシリーズでは、ピリオド楽器を用いたリサイタルも行いたいということで、今後のシリーズが益々楽しみだ。

東博でバッハ vol.63 上村文乃 (Vc) 2023.4.4 ~東京国立博物館内~
上村文乃 チェロ・リサイタル~2022.3.5 音楽堂anoano(大塚)~
上村文乃 チェロ・リサイタル~2021.9.14 ハクジュホール~
トリオTripartie(Vn:米元響子/Vc:上村文乃/Pf:菊池洋子)~2021.4.30 浦安音楽ホール~
Vn:小川響子/Vc:上村文乃/Pf:秋元孝介 ~2017.1.29 尾上邸音楽室~
B→C 上村文乃 チェロリサイタル ~2015.12.15 東京オペラシティリサイタルホール~

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