9月25日(木)ルナノバ第6回公演
川口リリア音楽ホール
【演目】
ロッシーニ/歌劇「チェネレントラ」
【配役】
チェネレントラ:小泉詠子/ドン・ラミーロ:布施雅也/ダンディーニ:大井哲也/マニーフィコ:岡元敦司/クロリンダ:柏原奈穂/ティスベ:星野恵里/アリドーロ:米谷穀彦
【指揮】辻博之 【ピアノ】服部容子 【合唱】コロ・ルナ
【演出】今井伸昭
笑いと涙、愛と妬み、情熱と企み、スリルと癒し・・・ 童話「シンデレラ」をベースに、ロッシーニのありとあらゆる魅力が盛り込まれたオペラ「チェネレントラ」だが、この魅力を観客に十分に伝えるためには、多くのソリスト達の高度な歌の力、演技力、何よりもオーケストラ(今夜の公演はピアノ版)も含めたアンサンブルとしての結束力が決め手となる。期待して出かけた公演ではあったが、これほどまでにこのオペラの成功の鍵を握る全ての要素が力をフルに発揮した素晴らしい公演になるとまでは思っていなかった。
まず特筆したいのがアンサンブル。沢山の登場人物が一斉に、或いはグループ毎に繰り広げるテンポの速いアンサンブルを次々と決める様子は、単に「よく揃っている」という次元を遥かに超越している。登場人物達がお互いに見えないゴムひもみたいな伸縮自在の糸で結ばれていて、誰かが紐を引っ張ると、それが全員に電光石火で伝わり、柔軟で鮮やかなコミュニケーションを作り出す。更に、身振り手振りの「動き」のアンサンブルが歌にピッタリと重なってリアリティを伝え、観客は物語のシーンにハマって行く。
序曲で指揮者がピアニスト一人を相手に颯爽と指揮を始めたときは、指揮者はいなくてもいいじゃないかとも思ったが、このいくつものアクロバティックなアンサンブルを目の当たりにすれば、ここで指揮の辻さんがいかにアンサンブルをピタリと合わせ、更に「魂」を吹き込むのに重要な役割を担っているかがわかる。それにしてもこれほど盛りだくさんのアンサンブルをよくもここまでこなしたものだ。クラシックの歌手達がやっているということを忘れ、すっかりお芝居の世界に没入し、ハラハラドキドキして、笑って涙した。
ここまでのレベルのアンサンブルを実現するには、それに参加する歌い手全てに、例外なく高度な歌の技術とアンサンブル能力が求められる。その意味に於いて今夜の歌手達は文句なしの強者揃い。更にそれぞれに与えられた高難易度のアリアでも舌を巻く巧さで魅力的な歌を聴かせてくれた。
ドン・ラミーノを歌った布施さんは好青年ぶりを振りまくだけでなく、力強く美しいハイCでストレートな情熱を体感させ、アリドーロ役の米谷さんは太い声と堂々とした貫禄で賢者ぶりを発揮、王子に扮したタンディーニ役の大井さんは、男っ気溢れる朗々としたバリトンで意地悪姉妹の心を見事に掴んだ。その姉妹を歌った柏原さんと星野さんのお色気と当意即妙のやり取りは会場に魅力と笑いを振り撒いた。
幕切れのクロリンダのアリアの名唱も忘れがたい。普段はカットされることが多いというこのアリア、確かにクロリンダがこんな魅力的な歌を最後の方で歌うと、それまでの憎らしさが遠のいてしまいそうになるが、最後にアンジェリーナの優しさ、寛容さを受け入れる器量があることを示す付箋になる、という意味では、大切なアリアなんだな、と納得できた。
マニーフィコを歌い演じた岡元さんの歌の表現の幅広さ、多彩さと演技の巧さは、キャラクターを濃厚に反映して常に観客の心を惹き付け、なくてはならない大きな存在感を印象付けた。
そしてタイトルロールの小泉さん!素晴らしい歌手陣のなかで一際輝いていた。その歌はキリッとした気高さが光り、繊細かつ幅広い表現力が豊かな陰影を作り出して、アンジェリーナの熱い心の内面を浮かび上がらせる。「ロッシーニコロラトゥーラ」を完璧にコントロールするだけでなく、そこから芳香を漂わせる余裕!フィナーレの「悲しみと涙のうちに生まれ」では、そんな小泉さんの魅力・持ち味が怒涛のように押し寄せて来て、ただただ打ちのめされた。まさにプリマの存在感!
「音楽ホール」という制約のあるステージだが、オルガン席のバルコニーや客席フロアまで有効に使い、装飾が施された衝立で素早い場面転換を行いつつその場に相応しい舞台を作ってリアリティを実現し、巧みな照明で登場人物の心理を描き出して行った演出効果も抜群。小刻みな動きから大きな振り付けまで、登場人物に課せられた動きは、どれもがお客を物語の世界へと誘ってくれた。ユーモアある気の利いた日本語字幕も一役買っていた。
この演出には、ピアニストの譜めくりの目にも留まらぬ早業も含まれるのだろうか。ピアノの服部さんは、雄弁でスリリングなオーケストラパートと、本来のピアノパートであるレチタティーヴォ・セッコでの伴奏を見事に弾き分け、ピットで指揮者の辻さんの求めにたった一人で応えた功績も大きい。
まさしく全員が一丸となって築き上げた充実し過ぎの名公演!前回「チェネレントラ」を観たベルリン・ドイツオペラでの感動を更に上回る素晴らしい公演だった。
川口リリア音楽ホール
【演目】
ロッシーニ/歌劇「チェネレントラ」
【配役】
チェネレントラ:小泉詠子/ドン・ラミーロ:布施雅也/ダンディーニ:大井哲也/マニーフィコ:岡元敦司/クロリンダ:柏原奈穂/ティスベ:星野恵里/アリドーロ:米谷穀彦
【指揮】辻博之 【ピアノ】服部容子 【合唱】コロ・ルナ
【演出】今井伸昭
笑いと涙、愛と妬み、情熱と企み、スリルと癒し・・・ 童話「シンデレラ」をベースに、ロッシーニのありとあらゆる魅力が盛り込まれたオペラ「チェネレントラ」だが、この魅力を観客に十分に伝えるためには、多くのソリスト達の高度な歌の力、演技力、何よりもオーケストラ(今夜の公演はピアノ版)も含めたアンサンブルとしての結束力が決め手となる。期待して出かけた公演ではあったが、これほどまでにこのオペラの成功の鍵を握る全ての要素が力をフルに発揮した素晴らしい公演になるとまでは思っていなかった。
まず特筆したいのがアンサンブル。沢山の登場人物が一斉に、或いはグループ毎に繰り広げるテンポの速いアンサンブルを次々と決める様子は、単に「よく揃っている」という次元を遥かに超越している。登場人物達がお互いに見えないゴムひもみたいな伸縮自在の糸で結ばれていて、誰かが紐を引っ張ると、それが全員に電光石火で伝わり、柔軟で鮮やかなコミュニケーションを作り出す。更に、身振り手振りの「動き」のアンサンブルが歌にピッタリと重なってリアリティを伝え、観客は物語のシーンにハマって行く。
序曲で指揮者がピアニスト一人を相手に颯爽と指揮を始めたときは、指揮者はいなくてもいいじゃないかとも思ったが、このいくつものアクロバティックなアンサンブルを目の当たりにすれば、ここで指揮の辻さんがいかにアンサンブルをピタリと合わせ、更に「魂」を吹き込むのに重要な役割を担っているかがわかる。それにしてもこれほど盛りだくさんのアンサンブルをよくもここまでこなしたものだ。クラシックの歌手達がやっているということを忘れ、すっかりお芝居の世界に没入し、ハラハラドキドキして、笑って涙した。
ここまでのレベルのアンサンブルを実現するには、それに参加する歌い手全てに、例外なく高度な歌の技術とアンサンブル能力が求められる。その意味に於いて今夜の歌手達は文句なしの強者揃い。更にそれぞれに与えられた高難易度のアリアでも舌を巻く巧さで魅力的な歌を聴かせてくれた。
ドン・ラミーノを歌った布施さんは好青年ぶりを振りまくだけでなく、力強く美しいハイCでストレートな情熱を体感させ、アリドーロ役の米谷さんは太い声と堂々とした貫禄で賢者ぶりを発揮、王子に扮したタンディーニ役の大井さんは、男っ気溢れる朗々としたバリトンで意地悪姉妹の心を見事に掴んだ。その姉妹を歌った柏原さんと星野さんのお色気と当意即妙のやり取りは会場に魅力と笑いを振り撒いた。
幕切れのクロリンダのアリアの名唱も忘れがたい。普段はカットされることが多いというこのアリア、確かにクロリンダがこんな魅力的な歌を最後の方で歌うと、それまでの憎らしさが遠のいてしまいそうになるが、最後にアンジェリーナの優しさ、寛容さを受け入れる器量があることを示す付箋になる、という意味では、大切なアリアなんだな、と納得できた。
マニーフィコを歌い演じた岡元さんの歌の表現の幅広さ、多彩さと演技の巧さは、キャラクターを濃厚に反映して常に観客の心を惹き付け、なくてはならない大きな存在感を印象付けた。
そしてタイトルロールの小泉さん!素晴らしい歌手陣のなかで一際輝いていた。その歌はキリッとした気高さが光り、繊細かつ幅広い表現力が豊かな陰影を作り出して、アンジェリーナの熱い心の内面を浮かび上がらせる。「ロッシーニコロラトゥーラ」を完璧にコントロールするだけでなく、そこから芳香を漂わせる余裕!フィナーレの「悲しみと涙のうちに生まれ」では、そんな小泉さんの魅力・持ち味が怒涛のように押し寄せて来て、ただただ打ちのめされた。まさにプリマの存在感!
「音楽ホール」という制約のあるステージだが、オルガン席のバルコニーや客席フロアまで有効に使い、装飾が施された衝立で素早い場面転換を行いつつその場に相応しい舞台を作ってリアリティを実現し、巧みな照明で登場人物の心理を描き出して行った演出効果も抜群。小刻みな動きから大きな振り付けまで、登場人物に課せられた動きは、どれもがお客を物語の世界へと誘ってくれた。ユーモアある気の利いた日本語字幕も一役買っていた。
この演出には、ピアニストの譜めくりの目にも留まらぬ早業も含まれるのだろうか。ピアノの服部さんは、雄弁でスリリングなオーケストラパートと、本来のピアノパートであるレチタティーヴォ・セッコでの伴奏を見事に弾き分け、ピットで指揮者の辻さんの求めにたった一人で応えた功績も大きい。
まさしく全員が一丸となって築き上げた充実し過ぎの名公演!前回「チェネレントラ」を観たベルリン・ドイツオペラでの感動を更に上回る素晴らしい公演だった。