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東京カルテット at 王子ホール

2011年02月18日 | pocknのコンサート感想録2011
2月18日(金)東京クァルテット
~東京クヮルテットの室内楽Vol.5~
王子ホール
【曲目】
1.ハイドン/弦楽四重奏曲第82番 ヘ長調Op.77-2, Hob.Ⅲ-82
2.ベートーヴェン/弦楽四重奏曲第13番 変ロ長調op.130「大フーガ付」
【アンコール】
シューベルト/弦楽四重奏曲断章


1年前に聴いた演奏会で鮮烈な印象を植え付けた東京カルテットだが、今夜の演奏会ではその印象をまた更新する底力を見せつけた。1曲目のハイドンからその一撃の兆しは表れていた。4人の真剣勝負の気合いは相変わらず十分で、音が塊として飛込んできた。

でも本当にすごかったのはベートーヴェン。4人が心を一つに合わせて美しいハーモニーを奏でる、などという次元を遥かに超越したところで、4人のプレイヤーはまさしく一丸となって、聴衆に挑みかかってきた。4人は同じ方向を向きながら、それぞれが自分の言葉で音楽を語り、その言葉同士が交感し合いながら白熱してくる。

メンバーがこの演奏会のために綿密に準備をしたであろうことは疑いないが、この本番で生まれる演奏は、打ち合わせ通りに決められた形を再現するのでは決してなく、そうした綿密な準備、そして何よりもカルテットとしての長い歩みに支えられた信頼関係をバックグラウンドに、この演奏会一回限りの、一期一会のスリリングなシーンを実現する。これが、このカルテットの演奏を何度でも聴きに来たくなる原動力を与えるのだろう。

第1楽章、骨太で力みなぎる高いテンションで、この長大な音楽の全体像を明確に打ち出す。第2楽章はごく短い楽章だが、4人はこれをしっかりと「語り」、更に真髄へと向かって行く。第3楽章、4人はますます真理へと近付く。その姿は原石が磨き上げられて行く工程に立ち会っているようだ。

そんな真剣勝負から生まれる演奏からは、「アンコールピース」とも言われる第4楽章からも、和やかな語らいではなく、もっと究極的な輝きが発っせられる。そのスピリットは、穏やかな第5楽章でもいささかも後退することはない。ひとつひとつのフレーズが心を捉え、深遠な世界へと導いてゆく。そんな演奏に心酔している身にとって、この緩徐楽章はあまりに短い。この曲こそ、マーラーのアダージョ楽章のように延々と続いて欲しい。

そして最終楽章の「大フーガ」で完全に打ちのめされた。気合いを最高潮に高めた冒頭の強音のトゥッティのあとに訪れる静寂は、静かに精神統一を図っているよう。そんな静寂から、ファーストヴァイオリンのマーティン・ビーヴァーが、意を決して大フーガに挑みかかると、3人が次々と続いて行く様子は、4人のクライマーが、天空まで続く大岩壁にザイルで体を繋ぎ合わせてアタックするような真剣勝負の気合いと力強さがみなぎっていた。

4人のうち一人でも気を許せば、全員が岩壁の途中から転落してしまうような緊迫感がどこまでも続いたあとに、やっと一息つける小さなテラスに辿り着き、しばしそこに咲く可憐な高山植物に安らいだあと、最後の難所の岩壁に再び力強く挑む。ぐんぐん高度を稼ぎ、曲が長調に転ずると、展望が一気に開け、登頂成功!その達成感と充実感、眼下に広がる大展望。山好きの例えになってしまったが、本当にそんな手に汗握る緊迫感と感動を伝えてくれる演奏だった。そんな高みに到達した東京クヮルテットは、今の世界のカルテット界の中でもその頂点を極めていることを確信した。

アンコールの前にセカンド・ヴァイオリン池田さんが挨拶で「この曲を聴いて驚いた方もいらっしゃると思いますが、私たちにとっても未だに現代音楽です。」と話した。現代音楽と取り組むような気概が、こうした演奏を生んだのだと思うと、この次がどんな演奏になるのか、聴かずにはいられなくなる。

これだけの大仕事のあと、アンコールでも決して手を抜くことはない。シューベルトの「歌」を大切にしながらも、ライブの醍醐味を伝える東京カルテットだった。

東京クヮルテット創立40周年記念コンサート 2010.2.19 王子ホール

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