2月20日(日)東京藝術大学 バッハカンタータクラブ
藝大新奏楽堂
【曲目】
1.バッハ/カンタータ第4番「キリストは死の縄目に伏し」BWV 4
S:中江早希(第3曲)、伊藤菜穂子(第7曲)/A:村松稔之/T:金沢青児/B:中川郁太郎
2.コレルリ/合奏協奏曲Op.6 第8番「クリスマス・コンチェルト」
Vn:高岸卓人、柏木かさね
3.バッハ/カンタータ第20番「おお永遠、雷の言葉よ」BWV20
A:村松稔之/T:圓谷俊貴(第2曲)、金沢青児(第3、10曲)/B:菅谷公博
【アンコール】
バッハ/クリスマス・オラトリオ第2部~第21曲「いと高きところ、神に栄光」
【演奏】
井口 達 指揮 東京藝術大学バッハカンタータクラブ
司書のスクーリングとカンタータクラブの定期演奏会が重なったことを知ったときはショックだったが、時間がズレていたため、今年もバッハカンタータクラブの定期演奏会を夫婦で聴くことができた。
カンタータクラブのバッハは、いつでも全身全霊にバッハの慈愛が染み渡ってくる演奏を届けてくれ、幸せな気分で満たしてくれるのだが、今夜は幸福感という点ではいつもほどの満足度を得られなかった。そのわけは、曲目によるところが大きいのだと思う。いつもは、最初は苦悩に打ちひしがれていても、やがて神の慈愛を感じ、最後には神の栄光のなかで喜びに満たされ、或いは救済されるというパターンの曲や、トランペットやティンパニが華やかに音楽を彩る祝祭的な気分の曲が入るのだが、今回は2曲ともテーマがシビアで重たい。
第4番は名カンタータであり、最初の合唱での終盤から最後の「ハレルヤ」のくだり、活き活きとした充実した演奏にぐっと引きつけられ、第3節での滑らかで陰影に富んだヴァイオリン合奏と金沢さんのテノールの朗唱とのデュオが心の琴線に触れてきたが、コラールカンタータというのは、どこか枠をはめらて、自由さが乏しいと感じてしまうのは、個人的な好みの問題なのだろう。
第20番は規模としては大きいが、最後まで明確な救いが見い出せないのが辛い。最後のコラール、「喜びの天幕へと受け入れてください」と歌うあたり、いつもは溢れる慈愛で歌いかけてくるカンタータクラブの合唱から伝わる「気」が弱いように感じたのは、このコラールが「喜び」を伝える曲ではないからなのかも知れない。そんな中で、光を与えてくれたのは菅谷さんのバス。”Gott ist gerecht..”「神は正義なり」と歌う第5曲のアリアは、自信と確信に満ち朗々として素晴らしく、第8曲の”Wach auf…”「目覚めよ」も、暗闇を貫く光のような鮮やかさや力強さに溢れていた。
ただ、このカンタータの演奏全体から徹底した「厳しさ」が伝わってきたかとなると、「難しい曲なんだろうな…」という感想になってしまう。解説にあった、冒頭合唱の終盤で突如、緊迫感がもたらされる“Mein ganz erschrocken(es) Herz erbebet“の表現も、もっと突き詰められていいように思ったし、アルトのレチタティーヴォで、入りのタイミングがフェイント気味になってしまう場面などから、演奏者の迷いがあるのでは、などと思うのは深読みし過ぎだろうか。
「喜び」、「慈愛」、「救い」などの表現では無条件に共感して、唯一無二のものとして、ただただ身を委ねられるカンタータクラブの演奏だが、陰の部分、負の表現の難しさは、また別の課題なのかも知れない。カンタータクラブであれば、そうした表現もきっと今後更に突き詰めてくれるに違いないとも思った(偉そうなコメントで済みません)。
中間に置かれたコレルリのクリスマス・コンチェルトでは、高岸さんと、柏木さんの、明るい音色と、柔らかく安定したヴァイオリンのフィーチャーで、幸福感に満ちた演奏を堪能したが、アンコールで「クリスマスオラトリオ」が演奏されたのは、この曲との絡みがあったのだろうか。
辛いカンタータから解放され、イエスの降誕を高らかに歓呼する合唱では、カンタータクラブ本来の持ち味が出て、心から共感できた。できれば最後のコラールまで続けて欲しかった!季節外れでも全く構わないので、カンタータクラブの演奏で「クリスマスオラトリオ」を全曲(せめて1~3部でも)聴きたい。
東京芸術大学バッハカンタータクラブ定期演奏会2010
藝大新奏楽堂
【曲目】
1.バッハ/カンタータ第4番「キリストは死の縄目に伏し」BWV 4
S:中江早希(第3曲)、伊藤菜穂子(第7曲)/A:村松稔之/T:金沢青児/B:中川郁太郎
2.コレルリ/合奏協奏曲Op.6 第8番「クリスマス・コンチェルト」
Vn:高岸卓人、柏木かさね
3.バッハ/カンタータ第20番「おお永遠、雷の言葉よ」BWV20
A:村松稔之/T:圓谷俊貴(第2曲)、金沢青児(第3、10曲)/B:菅谷公博
【アンコール】
バッハ/クリスマス・オラトリオ第2部~第21曲「いと高きところ、神に栄光」
【演奏】
井口 達 指揮 東京藝術大学バッハカンタータクラブ
司書のスクーリングとカンタータクラブの定期演奏会が重なったことを知ったときはショックだったが、時間がズレていたため、今年もバッハカンタータクラブの定期演奏会を夫婦で聴くことができた。
カンタータクラブのバッハは、いつでも全身全霊にバッハの慈愛が染み渡ってくる演奏を届けてくれ、幸せな気分で満たしてくれるのだが、今夜は幸福感という点ではいつもほどの満足度を得られなかった。そのわけは、曲目によるところが大きいのだと思う。いつもは、最初は苦悩に打ちひしがれていても、やがて神の慈愛を感じ、最後には神の栄光のなかで喜びに満たされ、或いは救済されるというパターンの曲や、トランペットやティンパニが華やかに音楽を彩る祝祭的な気分の曲が入るのだが、今回は2曲ともテーマがシビアで重たい。
第4番は名カンタータであり、最初の合唱での終盤から最後の「ハレルヤ」のくだり、活き活きとした充実した演奏にぐっと引きつけられ、第3節での滑らかで陰影に富んだヴァイオリン合奏と金沢さんのテノールの朗唱とのデュオが心の琴線に触れてきたが、コラールカンタータというのは、どこか枠をはめらて、自由さが乏しいと感じてしまうのは、個人的な好みの問題なのだろう。
第20番は規模としては大きいが、最後まで明確な救いが見い出せないのが辛い。最後のコラール、「喜びの天幕へと受け入れてください」と歌うあたり、いつもは溢れる慈愛で歌いかけてくるカンタータクラブの合唱から伝わる「気」が弱いように感じたのは、このコラールが「喜び」を伝える曲ではないからなのかも知れない。そんな中で、光を与えてくれたのは菅谷さんのバス。”Gott ist gerecht..”「神は正義なり」と歌う第5曲のアリアは、自信と確信に満ち朗々として素晴らしく、第8曲の”Wach auf…”「目覚めよ」も、暗闇を貫く光のような鮮やかさや力強さに溢れていた。
ただ、このカンタータの演奏全体から徹底した「厳しさ」が伝わってきたかとなると、「難しい曲なんだろうな…」という感想になってしまう。解説にあった、冒頭合唱の終盤で突如、緊迫感がもたらされる“Mein ganz erschrocken(es) Herz erbebet“の表現も、もっと突き詰められていいように思ったし、アルトのレチタティーヴォで、入りのタイミングがフェイント気味になってしまう場面などから、演奏者の迷いがあるのでは、などと思うのは深読みし過ぎだろうか。
「喜び」、「慈愛」、「救い」などの表現では無条件に共感して、唯一無二のものとして、ただただ身を委ねられるカンタータクラブの演奏だが、陰の部分、負の表現の難しさは、また別の課題なのかも知れない。カンタータクラブであれば、そうした表現もきっと今後更に突き詰めてくれるに違いないとも思った(偉そうなコメントで済みません)。
中間に置かれたコレルリのクリスマス・コンチェルトでは、高岸さんと、柏木さんの、明るい音色と、柔らかく安定したヴァイオリンのフィーチャーで、幸福感に満ちた演奏を堪能したが、アンコールで「クリスマスオラトリオ」が演奏されたのは、この曲との絡みがあったのだろうか。
辛いカンタータから解放され、イエスの降誕を高らかに歓呼する合唱では、カンタータクラブ本来の持ち味が出て、心から共感できた。できれば最後のコラールまで続けて欲しかった!季節外れでも全く構わないので、カンタータクラブの演奏で「クリスマスオラトリオ」を全曲(せめて1~3部でも)聴きたい。
東京芸術大学バッハカンタータクラブ定期演奏会2010