2月17日(木)ジョナサン・ノット指揮 NHK交響楽団
《2011年2月Bプロ》 サントリーホール
【曲目】
1. ペルト/ベンジャミン・ブリテンへの追悼歌
2. ドルマン/フローズン・イン・タイム(2007 日本初演)
【アンコール】
グルービンガー/プラネット・レリメント
Perc:マルティン・グルービンガー
3.ショスタコーヴィチ/交響曲第15番イ長調Op.141
現代もので定評のあるジョナサン・ノットによる20~21世紀の作品を揃えたプログラムはなかなか楽しめた。ペルトの「ブリテンへの追悼歌」は、透明な響きに適度な熱っぽさを伴い進行し、その熱が徐々に徐々にに高まっていった。ペルトがこの作品に恐らく込めたであろう盛り上がりのコンセプトをノット/N響は見事に体現し、終盤は心が締めつけられる痛みが伝わってきた。
続くドルマンのコンチェルトは、これを委嘱したというパーカッショニスト グルービンガーの独壇場といったところ。スリリングで鮮やか、名人芸的なマレット&スティックさばきを見て聴いて、そのリズムに身を任せるのは無条件に楽しい。オーケストラの乗りもなかなかのもので、思いっきりハジけていながら雑にならないところがさすがN響。
さらにすごかったのが、アンコールでやった自作曲。スティックを宙で回転させたり、わざわざ体の後ろから反対側へ手を伸ばして曲芸まがいの名人芸を披露。目にも留まらぬ超高速のスティックさばきによるパフォーマンスには聴いていて完全にヒートアップ。スポーティーな出で立ちに明るく親しみ易い表情で、爽やかに演じきるグルービンガーは、クラシック以外でも活躍しているそうだが、今度はジャズのセッションでの長いソロを聴きたい。
後半はまたしてもショスタコーヴィチ。Bプロには本当に良くショスタコが登場する。自ら進んで聴かない曲を聴かされるのは定期会員の定めだが、今夜の15番は曲も好みだったし演奏も素晴らしく、嬉しい収穫。ショスタコにありがちな深刻なテーマを背負うことなく、引用を散りばめ、ウィットに富んだ音楽の作りがいい。
明快かつ充実した響きが聴こえる第1楽章はまさしく、ショスタコのそんなウィットに富んだセンスが光っていた。ノットのフィーチャーも功を奏してか、N響の冴えたサウンドで、鮮やかな描線がくっきりと現れ、スリリングな緊張感も伝わってきた。がらりと雰囲気を変える第2楽章はこの曲の中でも一番深く訴えてきた。金管の柔らかく深みのあるサウンドが素敵で、木越さんの熱く切々と訴えてくるチェロのソロがまた心を捉える。トロンボーン・ソロの滑らかで甘い調べも、マロさんの歌心をくすぐるヴァイオリンの妙技も、この楽章の格調を高めるのに貢献。ショスタコの最晩年の美しいシーンを見た。
間奏曲風の第3楽章はあっけない感じ。もう少し何か薬味の利いた音楽にしてくれれば、とも思ったが、第4楽章ではまた気持ちがぐっと音楽に引き寄せられた。冒頭で繰り返されるワーグナーの音形の存在感!ワーグナーなんてしょっちゅう聴くわけでは全然ないが、たった3種類の和音の和声進行を聴いただけで、あの暗くて深刻で妖しい楽劇の世界が瞬時にステージを支配するのはすごい!それを受けて奏でられるヴァイオリンの柔らかな歌も素敵だ。ファゴットの良い音が聴こえてきたと思ったら、岡崎さんがいるではないか!もっと早くから岡崎さんだと認識してファゴットを聴いていればよかった。先週の松崎さんに続き、往年の名手がこうしてN響の定期のステージに戻ってくるのは嬉しい。次は横川さんかな。
話をショスタコに戻そう。曲の最後、エンディングのシーンがまたよかった。弦の弱音のハーモニーを背景に、パーカッションが刻むリズムが明晰に浮かび上がり、弱音でありながら覚醒した、透徹とした世界を描いていた。リアリズムの極地とでも言いたい、ショスタコーヴィッチが最後に到達した高みを見た思いがした。
この曲は、演奏で焦点がボヤけてしまうとワケのわからないまま終わってしまいそうな曲だが、ノット/N響は音楽を透視するかのような澄んだタッチで、音楽の奥に潜むエキスを味わわせてくれた。名演だった。
《2011年2月Bプロ》 サントリーホール
【曲目】
1. ペルト/ベンジャミン・ブリテンへの追悼歌
2. ドルマン/フローズン・イン・タイム(2007 日本初演)
【アンコール】
グルービンガー/プラネット・レリメント
Perc:マルティン・グルービンガー
3.ショスタコーヴィチ/交響曲第15番イ長調Op.141
現代もので定評のあるジョナサン・ノットによる20~21世紀の作品を揃えたプログラムはなかなか楽しめた。ペルトの「ブリテンへの追悼歌」は、透明な響きに適度な熱っぽさを伴い進行し、その熱が徐々に徐々にに高まっていった。ペルトがこの作品に恐らく込めたであろう盛り上がりのコンセプトをノット/N響は見事に体現し、終盤は心が締めつけられる痛みが伝わってきた。
続くドルマンのコンチェルトは、これを委嘱したというパーカッショニスト グルービンガーの独壇場といったところ。スリリングで鮮やか、名人芸的なマレット&スティックさばきを見て聴いて、そのリズムに身を任せるのは無条件に楽しい。オーケストラの乗りもなかなかのもので、思いっきりハジけていながら雑にならないところがさすがN響。
さらにすごかったのが、アンコールでやった自作曲。スティックを宙で回転させたり、わざわざ体の後ろから反対側へ手を伸ばして曲芸まがいの名人芸を披露。目にも留まらぬ超高速のスティックさばきによるパフォーマンスには聴いていて完全にヒートアップ。スポーティーな出で立ちに明るく親しみ易い表情で、爽やかに演じきるグルービンガーは、クラシック以外でも活躍しているそうだが、今度はジャズのセッションでの長いソロを聴きたい。
後半はまたしてもショスタコーヴィチ。Bプロには本当に良くショスタコが登場する。自ら進んで聴かない曲を聴かされるのは定期会員の定めだが、今夜の15番は曲も好みだったし演奏も素晴らしく、嬉しい収穫。ショスタコにありがちな深刻なテーマを背負うことなく、引用を散りばめ、ウィットに富んだ音楽の作りがいい。
明快かつ充実した響きが聴こえる第1楽章はまさしく、ショスタコのそんなウィットに富んだセンスが光っていた。ノットのフィーチャーも功を奏してか、N響の冴えたサウンドで、鮮やかな描線がくっきりと現れ、スリリングな緊張感も伝わってきた。がらりと雰囲気を変える第2楽章はこの曲の中でも一番深く訴えてきた。金管の柔らかく深みのあるサウンドが素敵で、木越さんの熱く切々と訴えてくるチェロのソロがまた心を捉える。トロンボーン・ソロの滑らかで甘い調べも、マロさんの歌心をくすぐるヴァイオリンの妙技も、この楽章の格調を高めるのに貢献。ショスタコの最晩年の美しいシーンを見た。
間奏曲風の第3楽章はあっけない感じ。もう少し何か薬味の利いた音楽にしてくれれば、とも思ったが、第4楽章ではまた気持ちがぐっと音楽に引き寄せられた。冒頭で繰り返されるワーグナーの音形の存在感!ワーグナーなんてしょっちゅう聴くわけでは全然ないが、たった3種類の和音の和声進行を聴いただけで、あの暗くて深刻で妖しい楽劇の世界が瞬時にステージを支配するのはすごい!それを受けて奏でられるヴァイオリンの柔らかな歌も素敵だ。ファゴットの良い音が聴こえてきたと思ったら、岡崎さんがいるではないか!もっと早くから岡崎さんだと認識してファゴットを聴いていればよかった。先週の松崎さんに続き、往年の名手がこうしてN響の定期のステージに戻ってくるのは嬉しい。次は横川さんかな。
話をショスタコに戻そう。曲の最後、エンディングのシーンがまたよかった。弦の弱音のハーモニーを背景に、パーカッションが刻むリズムが明晰に浮かび上がり、弱音でありながら覚醒した、透徹とした世界を描いていた。リアリズムの極地とでも言いたい、ショスタコーヴィッチが最後に到達した高みを見た思いがした。
この曲は、演奏で焦点がボヤけてしまうとワケのわからないまま終わってしまいそうな曲だが、ノット/N響は音楽を透視するかのような澄んだタッチで、音楽の奥に潜むエキスを味わわせてくれた。名演だった。