6月15日(金)ヘンシェル・クァルテット ベートーヴェン・サイクル Ⅳ
~サントリーホール チェンバーミュージック・ガーデン~
サントリーホール(小)ブルーローズ
【曲目】
1.ベートーヴェン/弦楽四重奏曲 第6番 変ロ長調 Op.18-6

2. /弦楽四重奏曲 第10番 変ホ長調 Op.74「ハープ」

3. /弦楽四重奏曲 第15番 イ短調 Op.132
サントリーの小ホールは、大きさも響きも室内楽には理想的なスペースだが、フロアがフラットなので少し後ろの席だとステージを見るのが辛い。けれど今夜は一番前なので視界も最高。今夜聴くヘンシェルカルテットは名前を聞くのも初めてだが、サントリーホールの企画だし、ベートーヴェンの弦楽四重奏曲全曲演奏という一大プロジェクトを任されたカルテットなら期待大。実際、このカルテットは20年以上も世界で活躍していることを知った。
5000円という良心的な料金も魅力だが、これは当たりだった。とりわけ前期と中期の作品を並べた前半の演奏が素晴らしかった。4人のメンバーは迷うことなく確信に満ち、一点に集中して果敢に挑みかかり、見事なアンサンブルを築き上げた。並々ならぬテンションの高さに圧倒されつつ、どんどん演奏に引き込まれて行った。なかでも圧巻だったのが、「ハープ」の第1楽章。展開部で聴かせた焦臭ささえ漂ってくるような火のついた熱気には呼吸も止められる気分。最初にやった作品18の6のカルテットの第1楽章の挑みかかる集中力も、同じ意味で素晴らしかった。
果敢でありテンションが高い一方で、ヘンシェルカルテットの演奏は、ただ歯を食いしばってがむしゃらに進むだけではなく、心行くまで旋律を歌わせ、プレイヤー同士が目と目を合わせながら音楽で会話をしつつ躍動するところもいい。やはり「ハープ」の第1楽章のいわゆるハープ(ピッチカート)のやりとりが、何とも軽妙でワクワクした。第2楽章では倍音が鳴っているのが聴こえるほど美しいハーモニーを聴かせていたし、終楽章の終盤の変奏での充実した濃い表現力も忘れがたい。
ヘンシェルカルテットはアンサンブルとしての素晴らしさだけでなく、各人が魅力的なソリストでもある。なかでも耳を引いたのはセカンドヴァイオリンのダニエル・ベル。歌に詩情が凝縮され、さりげなく存在感をアピールしていた。
前半の演奏が素晴らしく休憩時間にCDを2枚も買ってしまい、後半の作品132への期待は大きかったが、こちらは前半のような勢いには欠けていた。もっとも、このベートーヴェン最晩年のカルテットを、前半と同じような乗りで演奏してもいい演奏になるとは限らず、ヘンシェルカルテットもその辺りをわきまえてアプローチを変えたのだろう。前半と比べるとデリケートな部分がより前面に出て、内面的なものを出そうとしているように見えた。
この曲は名曲ではあるが、一筋縄では行かないんだな、ということを再認識した。全てにおいてバランスの取り方が難しそう。空中分解ギリギリのところで奇跡のような均衡が取れたときだけ名演が生まれるように思う。ヘンシェルカルテットも師事したというラサールカルテットで、もう30年も前に聴いた名演を超える演奏にこの先出会えるだろうか。
それでも、神への感謝が歌われた第3楽章の後半で聴こえた気高さや、第5楽章での高みへ上って行く様子からは、名演奏の片鱗を窺うことはできた。
~サントリーホール チェンバーミュージック・ガーデン~
サントリーホール(小)ブルーローズ
【曲目】
1.ベートーヴェン/弦楽四重奏曲 第6番 変ロ長調 Op.18-6


2. /弦楽四重奏曲 第10番 変ホ長調 Op.74「ハープ」


3. /弦楽四重奏曲 第15番 イ短調 Op.132
サントリーの小ホールは、大きさも響きも室内楽には理想的なスペースだが、フロアがフラットなので少し後ろの席だとステージを見るのが辛い。けれど今夜は一番前なので視界も最高。今夜聴くヘンシェルカルテットは名前を聞くのも初めてだが、サントリーホールの企画だし、ベートーヴェンの弦楽四重奏曲全曲演奏という一大プロジェクトを任されたカルテットなら期待大。実際、このカルテットは20年以上も世界で活躍していることを知った。
5000円という良心的な料金も魅力だが、これは当たりだった。とりわけ前期と中期の作品を並べた前半の演奏が素晴らしかった。4人のメンバーは迷うことなく確信に満ち、一点に集中して果敢に挑みかかり、見事なアンサンブルを築き上げた。並々ならぬテンションの高さに圧倒されつつ、どんどん演奏に引き込まれて行った。なかでも圧巻だったのが、「ハープ」の第1楽章。展開部で聴かせた焦臭ささえ漂ってくるような火のついた熱気には呼吸も止められる気分。最初にやった作品18の6のカルテットの第1楽章の挑みかかる集中力も、同じ意味で素晴らしかった。
果敢でありテンションが高い一方で、ヘンシェルカルテットの演奏は、ただ歯を食いしばってがむしゃらに進むだけではなく、心行くまで旋律を歌わせ、プレイヤー同士が目と目を合わせながら音楽で会話をしつつ躍動するところもいい。やはり「ハープ」の第1楽章のいわゆるハープ(ピッチカート)のやりとりが、何とも軽妙でワクワクした。第2楽章では倍音が鳴っているのが聴こえるほど美しいハーモニーを聴かせていたし、終楽章の終盤の変奏での充実した濃い表現力も忘れがたい。
ヘンシェルカルテットはアンサンブルとしての素晴らしさだけでなく、各人が魅力的なソリストでもある。なかでも耳を引いたのはセカンドヴァイオリンのダニエル・ベル。歌に詩情が凝縮され、さりげなく存在感をアピールしていた。
前半の演奏が素晴らしく休憩時間にCDを2枚も買ってしまい、後半の作品132への期待は大きかったが、こちらは前半のような勢いには欠けていた。もっとも、このベートーヴェン最晩年のカルテットを、前半と同じような乗りで演奏してもいい演奏になるとは限らず、ヘンシェルカルテットもその辺りをわきまえてアプローチを変えたのだろう。前半と比べるとデリケートな部分がより前面に出て、内面的なものを出そうとしているように見えた。
この曲は名曲ではあるが、一筋縄では行かないんだな、ということを再認識した。全てにおいてバランスの取り方が難しそう。空中分解ギリギリのところで奇跡のような均衡が取れたときだけ名演が生まれるように思う。ヘンシェルカルテットも師事したというラサールカルテットで、もう30年も前に聴いた名演を超える演奏にこの先出会えるだろうか。
それでも、神への感謝が歌われた第3楽章の後半で聴こえた気高さや、第5楽章での高みへ上って行く様子からは、名演奏の片鱗を窺うことはできた。