冬至が近づき、午後5時にはもう暗い。
日もとっぷり暮れた時刻に
慌ててスーパーに走ることもしばしば。
スーパーまでの暗い坂道を駆け下りていく途中、
下からゆっくり坂道を上ってくる人影が見えた。
すれ違いざまにちらりと見ると、
重そうな荷物を両腕に持った年配の女性で、
その姿が母と重なった。
結構な上り坂をあの荷物を持って
上っていくのは辛そうだ、と感じ、
何か手助けをしようか、
という思いがよぎった。
と同時に、もう80年近く前に今は亡き伯母が
同じように坂道で荷物を持った年配の女性とすれ違い
「荷物を運びましょうか?」と声をかけたら、
いたく感動されて、
その女性の知り合いの男性と結婚しないか、
と縁談を持ちかけられて、
伯母は良縁に恵まれた、
という話を思い出した。
その坂道でその女性に声をかけて荷物を
運んでいなければ、伯母は伯父と結婚することも
なかったのだと思うと、
その坂道で運命が変わったのだ、
縁とは異なものだとつくづく感じる。
私が今この坂道を上っていく年配の女性に
声を掛けて荷物を運んでも運命は変わらないだろうが、
「そうだ、私がスーパーでさっと買い物をして
戻ってきて、この坂を上って帰る時に
まだこの女性がいたら、声を掛けよう」と決めて、
スーパーに走り、5分で買い物を済ませて出てきたが、
坂道にその女性の姿はもうなかった。
坂道を上りきったところの三差路で左右を見ても、
どこにもいなかった。
私はまるで幻でも見たような気になって、
少し後悔の混ざった複雑な気持ちで
坂道の上で佇んでいた。
やっぱりあのすれ違った時に声を掛ければよかった。
私の運命はもちろん、この坂道では変わるはずもなかった。
(12月20日 紫乃 記)
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