先月ビルボードのグローバル・チャート Billboard Global 200 が開設1周年を迎えました。
ビルボードの方でもレポートが出ていましたが、去年9月にできてから自分もずっと記録してきたので、より直感的なレビューをしたいと思いました。
そもそもグローバル・チャートとは何かというと、
世界中の音楽消費データ(ストリーミング、ダウンロードなど)を集めて、その結果を週ごとに発表するというものです。
グローバル・チャートなので、地域に注目してチャートの特徴を考えたいと思います。
1.アメリカの音楽の比重が大きい
まず、何と言ってもアメリカの影響がすごく大きい。これはアメリカ出身のアーティストの曲が上位に多いということと、全米チャートにグローバル・チャートが類似しているという2つの事柄に分けられます。1つ目に関してですが、グローバル・チャートで上位をとるということは、その音楽が消費される「面積」の大きさに深く関係すると思うんです。つまり、アメリカの音楽はアメリカを含めて消費される地域が最も広いから、グローバル・チャートでも上位を占めることができるということですね。2つ目については、アメリカの音楽市場がとても大きいことが理由だと思います。音楽市場が大きいとは、音楽の売り買いが多いということで、「売り」は最近では Spotify や Apple Music, Google Play などのストリーミングが発達していますし、「買い」はそれらを定期購入する消費者が多いということでしょう。その国の人口の多さが必ずしも音楽市場の大きさと相関関係を持つとは限らず、手軽にネット上の音楽にアクセスできる人口や、そもそも音楽に興味がある人口の多さが重要だと思います。
2.ラテン音楽が強い
地域に注目するといいつつも、音楽の種類の話です。グローバル・チャートではどんなジャンルの音楽が主に売れているのかといえば、アメリカで流行っている音楽が上位に来やすいのでそれに左右されるのですが、最も安定的に売れているといえるのがラテン音楽でしょう。これは明らかに全米チャートから乖離した特徴で、全米チャートで下位にランクインしているラテン曲が、グローバル・チャートではTop10入りしたりします。これも、ラテン音楽が消費される面積が大きいことが理由だと思われます。ラテン音楽は元々は南米の地域的な音楽だったイメージですが、まずシャキーラなどの英語も使うラテン・スターが出てきて北米にも少し広まり、次に2017年にルイス・フォンシの "Despacito ( Remix ) feat. ダディー・ヤンキー & ジャスティン・ビーバー" と、J・バルヴィンの "Mi Gente ( Remix ) feat. ウィリー・ウィリアムズ & ビヨンセ" が世界的にヒットして認知が世界中に広まり、さらにバッド・バニーというジャンルレスなラテン・スターが登場したことでラテン音楽は世界的な音楽になりました。売れているアーティストの出身は主にプエルトリコやコロンビアです。
3.初登場のインパクトが強い
これは正直理由がよく分からないのですが、とにかく初登場のインパクトが強めだと思っています。世界的に認知のあるアーティストが曲を出したとき、その初登場のランクがほとんどの地域別チャートよりも高いのではないかと思ってしまうことがよくあるのです。例えばアメリカ出身のビリー・アイリッシュが今年リリースした "Your Power" は今年初のリリースということもあって本国アメリカでは初登場10位を記録しましたが、グローバル・チャートではそれを上回る6位でした。アーティスト単体にも曲が消費される面積が大きいと上位、という考えを適用できるのでしょうか。…いや、できますよね。とある地域で爆発的な人気を持っていなくても、世界的にほどほどの人気があるならば簡単にチャートの上位に登場できる、そんな感じで理解できそうです。あと、上位に初登場した後の急落があまりないのも特徴なんですよね。落ちるは落ちるが、その下落幅が比較的小さい。その意味で動きの緩やかなチャートだといえるでしょう。
ここから、地域ごとにグローバル・チャートでの特徴をまとめてみます。
アジア
主に韓国と日本ですね。韓国は言わずもがなかもしれませんが、BTSがグローバル・チャートでも大活躍しています。K-Popのヒットはこのチャートで安定しにくく、アーティスト単位で安定しているのは BTS と BLACKPINK に限定されてしまいますが、それでも多くのK-Popアイドルが新曲で100位内に1週はランクインします。個人的に気になったのは、K-Popの主に東アジアで(のみ)人気なアイドルでもチャート・インするのかということと、アイドル以外がランクインしたことはないということです。アイドル出身以外で韓国のソロ・アーティストがチャート・インしたのは見たことがありません。一方日本はその真逆で、J-Popアイドルの曲はほとんどランクインせず、アイドル以外の日本人のヒット曲が安定的に下位でヒットするという傾向があります。そもそも日本の音楽は主に日本限定で売れている印象が強かったので、グローバル・チャートが開設された1週目のチャートで日本の曲がランクインしていたことに驚きました。下位ではありますが日本で注目されているチャート上位の曲がランクインし、ほどほどのヒットになったりします。ただ、全体的にアジア勢は弱く、先述した通り安定的なのは BTS と BLACKPINK くらい(2021年10月現在、ここ半年ぐらいJ-Popヒットはランクインしていない)なので、音楽としてK-PopやJ-Popがこのチャートで強いとは言えません。
アフリカ
ほとんどチャートでは見ません。しかし、ここのところナイジェリアのアーティスト、ウィズキッドやCkayが単発ではありますがヒットを飛ばしていて、それがアフリカの一部の音楽が広まるきっかけになる可能性もあります。
南アメリカ
先ほど述べたようにラテン音楽のグローバル・チャートにおける影響力は強いです。南アメリカの中でも特にすごいのがプエルトリコで、バッド・バニーのほかマイク・タワーズ、ラウ・アレジャンドロなど新進気鋭のラテン・アーティストが大ヒットしました。その次がコロンビアで、象徴的なヒットをこの1年間に生んだのはマルーマとカロル・Gですが、コロンビアの代表的なアーティスト、J・バルヴィンもこのチャートでは頻繁にヒット曲を出しています。そのほか大きなヒットでいえば、南北アメリカを結ぶ国パナマからSechというアーティストがブレイクしました。
北アメリカ
アメリカについてはいいとして、カナダのアーティストも限定はされますがいいチャート・アクションを起こしています。今は主にザ・ウィークエンド、ドレイク、ジャスティン・ビーバーの3人ですね。カナダは地域的なヒットが少ない印象で、カナダのチャートは全米チャートとそこそこ似ています。それには地理的な要因もあるのでしょうが、洋楽で英語圏という一つの大きなブロックができていて、そこに参加しているという感じなのではないかと思っています(そのブロックの中で強いのがアメリカ)。なお、オーストラリアも同じような感じだと思うので省略します。
ヨーロッパ
かなりいろんな言語の国が混じっている地域なので、一概にどうとは言いにくいです。ただ、一つ明確に言えるのはヨーロッパ全体ではEDMが流行していて、グローバル・チャートにおけるEDMのヒットはヨーロッパが主導しているということです。ヒットしたEDM曲のアーティストの出身を調べるとドイツ、オランダ、イギリス、イタリア、スペインなどさまざまで、英語圏ではなくても多くのDJやEDM系グループが世に出ていることが分かります。イギリスに関して言えば、先ほどの英語圏ブロックからは少し外れていて地域的なヒットが多い国なので、全英チャートとグローバル・チャートを比べると適合率は低いです。さらっと流しましたが、イギリスの音楽はEDMを除いて比較的外に広がりにくいということですね。でも逆にイギリスで上位のEDM曲は、必ずといっていいほどグローバル・チャートでも中規模~大規模でヒットします。
最後に、地域以外の項目でまとめると…、
性別・・・男性の方が多い。世界的なラテン・アーティストの多くが男性なのと、アメリカで売れている音楽は男性アーティストによるものが多いから。デュオ/グループの割合も低い。
ジャンル・・・設立初期は上位にラップ曲が多かったが、だんだん多様化していって2021年前期はマイノリティだったR&Bが上位に台頭。2021年10月現在はそれが落ち着いたが、安定的なのはポップとラテン音楽だといえる。カントリーやロックはかなり控えめ。
グローバル化によって、一人の人間が知る音楽の種類が増えた。
しかしその一方で、音楽にも「格差」が生まれた。
多国から音楽が入ってきて、それが流行した影響でその地域の音楽の人気がなくなり、ひっそりと絶滅する…なんて事も。
広がる音楽が、広がらない音楽を浸食する。
うーん…グローバル化って、難しい。