ざっきばやしはなあるき  

雑記林花或木 Since 2005-01-01 
美術とか映画とかなんとなくぶろぐ 

ベルギー 奇想の系譜

2017-07-17 16:40:47 | 美術[は]
「ベルギー 奇想の系譜」展@Bunkamura ザ・ミュージアム

 奇想の系譜といえば辻惟雄氏の本のタイトルと同じだと思ったら、トークイベントもあるらしい。ベルギー周辺に焦点を当てて、奇想天外な作品を残したアーティストを集めた展覧会。お馴染みのボスやブリューゲルだけでなく、フェリシアン・ロップス、フェルアンン・クノップフ、ジェームズ・アンソールなど30名の妙な作品およそ130点が並ぶ。

 展示の始まりはヤン・ファーブルの《フランダースの戦士》という立体作品。遠目で見ればなんとなくかっこいいんだけれど、近寄ってよく見ればコガネムシ的な甲虫が一面に敷き詰められている。ギョっとしながら単眼鏡でさらに拡大すればギョギョッとなる。でもこれが全部ゴキブリだったらヤダなと思うことで少しは気休めになる。虫種差別反対とか言うな!

 今回の目玉商品はヒエロニムス・ボス工房の《トゥヌグダルスの幻視》。ボスやブリューゲルの世界はリアルな現実とはかけ離れた、高熱で寝込んだ子供が見る悪夢に似た訳の判らない世界だ。ヤバい奴らがいろいろ出て来る。一見するとボスかと思わせる作品がいくつかあって、盗用なのか模倣なのか流用なのか流行なのか敬意なのかよくわからない。ヤン・マンデインの《聖クリストフォロス》もキャプションがなかったらボスの絵かと思ってしまう出来の良さ。





 こんな妙な作家たちの中にマグリットも含まれていることに、逆に新鮮な驚きがあったりする。ベルギーの作家マグリットの描くあまりにも見慣れた異世界は、考えるまでもなく奇想に違いない。毒々しさがほとんど無く正確に縁どられた異世界のマグリット感はお子様にもお勧めの違和感に満ち溢れたファンタジックワールドである。マグリットの作品は今回10点展示されている。
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バベルの塔

2017-04-23 22:44:49 | 美術[は]
「ボイマンス美術館所蔵 ブリューゲル バベルの塔」展@東京都美術館

 バベルの塔が来日するのは24年ぶり。ブリューゲルのバベルの塔はウィーンの美術史美術館所蔵とロッテルダムのボイマンス美術館所蔵の2点あり、今回来日したロッテルダムの方はウィーンの絵のおよそ4分の1サイズで小バベルと呼ばれている。小ぶりながらも密度は濃く、1400人もの人物がちょこちょこと描かれていて、大バベルの時よりも建設も進んでいるようで、この絵では塔の高さは推定510mとなるらしい。スカイツリーより低いのだが、これから建設がぐんぐん進んで尖塔のようになればブルジュ・ハリファより高くなるだろう。ただ問題はブリューゲルがもう死んじゃったことで、建設工事は中断したままだ。とはいえサグラダファミリアだってガウディが死んじゃった後も建設が続けられているのだから大丈夫だといえば大丈夫だが大丈夫じゃないといえば大丈夫じゃないのだがまぁどうでもいいことでもある。




 ブリューゲルよりも早く妙な絵を描いていたヒエロニムス・ボス先輩の作品は油彩25点と素描10点しか確認されてないようだが、今回はそれほどヤバくない作品2点だけが来ている。その代わりと言っては何だが、「ボスのように描く」というコーナーにはボスを模倣した作者不詳の作品が並んでいる。




 ボスの再来と言われたブリューゲルの版画には結構ヤバイ奴が大勢いる。もちろんこの辺りがいちばんマニア心をくすぐるハイライトで、作風も繊細なので見る人の足取りも途端にゆっくりになる。単眼鏡は必須である。みんなヤバワールドを食い入るように見入っていて、ヤバい奴を探している。でもヤバい奴がいない作品もあるので、ヤバい奴がいないと途端に寂しくなるから困ったものだ。現実に居たら気が狂ってブリューゲロを吐くに違いないヤバい奴を血まなこで探し回る観客もきっとヤバい奴に違いないのだ。

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パロディ、二重の声

2017-03-26 13:08:33 | 美術[は]
「パロディ、二重の声 ― 日本の一九七〇年代前後左右」@東京ステーションギャラリー

 ギリギリアウトかセーフか、70年代のパロディ集合。赤瀬川源平、横尾忠則、木村恒久、マッド・アマノなどなど、大御所や懐かしい名前が並ぶノスタルジックな展覧会。ねじ式のパロディでバカ式、アホ式、マヌケ式ってこどもんちょか! 千円札をネタに使って逮捕されたり、他人の写真をネタに使って裁判になったりと、やっぱりパロディは綱渡りだな。現在でも替え歌で訴訟起こされたり、盗作じゃなくてオマージュですなんて叫んでみたり。では、パロディってのは1から造れない人の狡猾な手口なのかと思われそうだが、世に出たものをこねくり回すのも才能のひとつだろうと思う。笑いのない世はつまらない。漫才だってパロディみたいなものだ。ただやり方を間違うとネタ元に怒られることになる。

 「元ネタがばれると困るのが盗作で、ばれなきゃ困るのがパロディなんだ」という、とり・みきさんの名言が会場に書いてあった。うまいこと言うねまったく。あんまり有名でない作品をパロっても誰にも意図が届かない。知らないアニメキャラの真似をすごくうまく崩してやられても巨豚とするだけである。

 パロディ雑誌ビックリハウス創刊号から130号まで大陳列。これは懐かしい。投稿したこともあった。佳作止まりだったけど。一時期ものすごくハマっていて愛読書だった。ビックラゲーションという小ネタ投稿コーナーもあったけど、そのうちに別の雑誌などでオッタマゲーションみたいな類似コーナーが乱立し始めると途端に色褪せてしまった。そして、あんなに面白かったはずの雑誌がいつのまにかそれほど感動しなくなっている自分に気づく。企画がマンネリ化したのかつまらなくなったのか自分の嗜好が変わったのか、ホントのところはわからない。どんなものでも流行り廃りはあるのだなぁとこの時感じた気がする。



 レオ・ヤマガタ氏の「歴史上100人の巨匠が描くモナ・リザ」も面白い。いろんな有名画家がモナ・リザを描いたら?という設定で、あぁなるほどやっぱりそうかという雰囲気のモナ・リザ?が勢揃い。サイトを見たらにゃんとヤマガタ氏83歳だそうで、そのモナ・リザを今も制作中ってんだから元気すぎてビックリシマウス。

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平安の秘仏 滋賀櫟野寺の大観音

2016-09-21 20:03:33 | 美術[は]
「平安の秘仏 滋賀櫟野寺の大観音とみほとけたち」@東京国立博物館

 本館1階にて甲賀市甲賀町櫟野(いちの)にある櫟野寺(らくやじ)の仏像20体を展示する小規模な展覧会だけれど、先日同じ展示室で開催された「ほほえみの御仏」は半跏思惟像2体だけだったので、それに比べればなんと10倍である。目玉商品の秘仏十一面観音菩薩坐像は総高5m以上の大物で会場のド真ん中で金きらきんに輝いている。かなりの迫力、荘厳な佇まい。その後方にはこれまた大きめな薬師如来坐像が金きらきんに輝いている。側方にはあまり大きくはないけれど地蔵菩薩坐像が金きらきんに輝いている。この人の頭部はつるりんつるりんと真ん丸に磨かれていて、ひときわ金きらきんに輝いている。もうそこだけ宝石のようだ。金色の卵のようだ。まさかこれが全部チョコレートだなんて!!←んなこたぁない


 7月には「観音の里の祈りとくらし展Ⅱ - びわ湖・長浜のホトケたち -」展で琵琶湖北部の仏像を見たが、今回は琵琶湖南部の仏像が来た。滋賀日和な夏である。甲賀市って甲賀流忍者の里だけれど、MIHO MUSEUMもある。樂野寺では2018年の秋に、33年に一度の御開帳があるらしい。だから今回、日本最大坐仏観音を見逃しても大丈夫、2年後に甲賀市に行けばよいのだ!!よいのだ!!よいのだ!!
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ほほえみの御仏 二つの半跏思惟像

2016-06-25 23:21:28 | 美術[は]
「日韓国交正常化50周年記念 ほほえみの御仏 二つの半跏思惟像」@東京国立博物館

 日韓国交正常化50周年らしいが、はたして50周年目はどうなんだろう? などと思いながら行ってみると、入り口では金属探知機まで使って持ち物検査、なんだこの仰々しさは? そして入場したらなんと、この展覧会は奈良・中宮寺門跡蔵「国宝 半跏思惟像」と、韓国国立中央博物館蔵「韓国国宝78号 半跏思惟像」の2体のみ展示するという大胆な企画だった。その他の関連仏像とか仏画とか書類とか掛け軸とかかけそばとかつけ麺とか、そんなものはひとつもなく、ホントに2体だけという前代未聞な展示に新鮮な驚き。先日まで韓国でも開催していて、TVのニュースでもやっていたけれど、2体だけだったとはびっくりぽんや。

 中宮寺は一度だけ行ったことがあって、この黒光りする木造の菩薩半跏像はいっぺんに私の好きな仏像のひとつに加わったのだった。その大好きな仏像がノコノコと東京にやってきたからには見ずにはおけない。中宮寺では見ることのできない後ろ側もぐるりと回って見られる。真横から見るとちょっとまるまっちぃおばさん風だが、正面から見るとやさしそうなスマイルに安心感。シュっとした輪郭とスラリとした腰回りはメタボの影さえもない。だんご頭も手も肩もどこもかしこも全体的に○なイメージ。足の裏までぷっくりと丸まっていて歩き辛そうではある。

 像高126cmの中宮寺像と比べて83cmと小ぶりな韓国78号も、温和なスマイルを湛えている。こちらは宝冠をかぶった銅像。足の裏は隆々とした筋肉だか豆だかわからないけれど盛り上がりがある。この人も歩き辛そう。まぁ座っているだけだから夜中に歩く心配はしなくてもいいかな。

 ふたりとも弥勒菩薩だとすれば、釈迦入滅後56億7千万年もの間、修行しているだけの仏様なのだが、56億7千万年も後には救済すべき人類は滅びてしまうのだ。

 展示は2体だけだが、紹介映像を見たり、法隆寺宝物館のちっこい半跏像をいろいろ見たり、ドメニコ・ティントレットの伊東マンショの肖像を見たりしていると、2時間くらいすぐに過ぎてしまう。
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ポンピドゥー・センター傑作展

2016-06-11 23:52:28 | 美術[は]
「ポンピドゥー・センター傑作展 ― ピカソ、マティス、デュシャンからクリストまで ― 」@東京都美術館

 ワイルドなかっこよさがある美術館ポンピドゥー・センター、以前パリに行ったときに入りそびれたままだったので、所蔵品だけでも見ておこうと思う。1977年開館、レンゾ・ピアノとリチャード・ロジャースという2人の建築家が手がけた建物は、外壁を取っ払っちゃって内臓丸見えタイプ。その外側をウネウネと上って行くエスカレーターが個性的。そんな風情だから当時は賛否両論あったらしいが、エッフェル塔と一緒で、今は街のシンボルになっちゃっている。

 今回は展示方法が面白い。1906年のラウル・デュフィから始まって1977年まで、1年ごとに1作品を選定して展示、西暦を辿りながらアートの変遷を感じられるという趣向。ダブっているアーティストはひとりもいない。ピカソ、マティス、シャガールなど、よく知っているアーティストから初耳アーティストまでいろいろ、絵画、彫刻、写真、映像その他カテゴリーもいろいろ。

 フルリ=ジョゼフ・クレパン : 緻密な描写をするアール・ブリュット作家。配管工だったが63歳の時に、なんと、手が勝手にデッサンを描きはじめ、戦争を終わらせるために300の絵を描けと「神」のお告げがあったというあやしげなことを言う人。でも1945年までに300作品を描き終えたらしい。戦争が終わったのはクレパン爺さんのおかげか?


 抽象画がもてはやされていた時代に具象にこだわり続けたベルナール・ビュフェ。影もなくのっぺりとした画面に、きっちり描かれた黒い線が特徴的な作品。温かみのある色合いとだるまストーブが居心地の良さを感じさせる。《誰が袖図》の洋版《誰が椅子図》と言いたくなるような、なんでもないのに何か意味ありげに見える室内。


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フェルメールとレンブラント 17世紀オランダ黄金時代の巨匠たち展

2016-01-27 20:28:02 | 美術[は]
「フェルメールとレンブラント 17世紀オランダ黄金時代の巨匠たち展」@森アーツセンターギャラリー

 ニューヨークのメトロポリタン美術館、ロンドン・ナショナル・ギャラリー、アムステルダム国立美術館などからオランダの絵画が60点、その中で「光のフェルメール」と「闇のレンブラント」というタイトルで日本初公開のフェルメールの《水差しを持つ女》とレンブラントの《ベローナ》を展示。「水差しを持つ女」は私が今までに見た18作目のフェルメール作品。大きさは45.7cm×40.6cmだから、「真珠の首飾りの少女」とほぼ同じくらい。ニューヨークのメトロポリタン美術館からやってきた。「牛乳を注ぐ女」と比べるとスリム体形なこの人は、左手で水差しを持って、右手で窓枠を持って、このあとどうする気なのだろう? 単にふたつの事を同時にしているだけかもしれないし、もしかしたら水差しの水を窓から"ジョヴォジョヴォ~"と捨てようとしているところかもしれない。光差す見慣れた部屋のカラフルな窓際のシーンはとても安心できる。何人の人々がここで仕事をしただろう、というより、何人の人々がフェルメールに頼まれてここでポーズをとっただろう。この窓際はさながらフェルメールスタジオである。




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藤田美術館の至宝

2015-08-13 21:28:08 | 美術[は]
「国宝 曜変天目茶碗と日本の美 藤田美術館の至宝」@サントリー美術館

 曜変天目茶碗は日本に3碗しかなく、他の2碗は東京の静嘉堂文庫美術館と京都の大徳寺龍光院にある。その中でも外側にも斑文があるのはこの藤田美術館所蔵品だけだそうだ。果てしなき宇宙を思わせるような、ダークサイドな暗黒星雲のような、不思議な紋様なのだが、未だにどうやったらこうなるのかわからないらしい。福建省で造られたこの茶碗、きっとたまたまできちゃったのだろう。

 茶碗だけでなく仏像もある。特に好きなのが快慶の作による地蔵菩薩立像。当時の色合いがそのまま残っているキレイな像で、腕の下に続くたもとの細長い切れ込みがずっと奥深くまで続いていて、袈裟の薄さが際立ち、風でゆらゆら揺れるのではないかと思うほど緻密に表現されている。袈裟の模様も裏地はまた違う模様になっている。



 これを見ていると地蔵菩薩って単なる坊さんの姿なのだなぁとつくづく思う。腕や足が何本もくっついていたりせず、頭に小さいおっさんの顔がいくつもくっついていたりもせず、顔もひとつで牙もなく、やたらデブでもなく、髪の毛もきちんと丸刈り、必要以上に華美な宝冠をかぶったりもせず、象にも乗らず牛にも乗らず鳥にも乗らず、雨にも負けず風にも負けず雪にも夏の暑さにも負けず、ただ静かに佇んでいる。だから普段、地蔵菩薩はあんまり面白くないのだが、これだけ見栄えがすると地蔵菩薩も悪くないなぁと思うのであった。
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聖プラクセディス

2015-04-04 19:48:03 | 美術[は]
 国立西洋美術館常設展示室でフェルメールの《聖プラクセディス》を展示している。真贋が問われる作品ということで、「ヨハネス・フェルメールに帰属」とキャプションが付いているが、フェルメール画集に37作品のひとつとして載っている作品なので、我々一般人としては、それが見られるだけでうれしい。それに毎月の第2、第4土曜日は常設展示が無料なので、まさかのフェルメールをタダで見られるというミラクルが発生。昨年クリスティーズで10億円超で落札された作品、この美術館に寄託した人に感謝しなければなるまい。

 大きさは101.6cmx82cmなのでだいたい40号くらいで、フェルメール作品としては大きい部類に入る。フェリーチェ・フィケレッリという画家の作品を模写したものらしい。フィケレッリとの大きな違いは両手に十字架を握っていること。これにより宗教画としてのイメージがより強くなっている。フィケレッリの元絵より輪郭がはっきりしてわかりやすくなっている。そのため、聖女プラクセディスの後ろで首がちょん切れて横たわる男の姿がよく見える。よく見れば凄惨な現場である。

 真贋がはっきりしないのは気持ち悪いので、よりフェルメール作品らしくするにはどうすればいいのかを考えた結果、左に窓のあるいつものあの部屋で事件が起こったことにすればいいのではとの結論に至った。そこでできあがったのが《新・聖プラクセディス》である。ステンドグラスの窓や壁に掛けられた風景画のある部屋に、首の取れた遺体、いったいなにが起こったというのか。いや、遺体など最初から無かったに違いない。見える者には見える、見えない者には見えない。それはそこに有るようで無いのだ。最初から何も無いのだ。なんのこっちゃ?




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富士の山ビエンナーレ

2014-11-09 19:15:42 | 美術[は]
「するがのくにの芸術祭 富士の山ビエンナーレ」

 街中アートロジェクトが静岡県にも登場。今年が1回目で、富士市、富士宮市、静岡市にまたがるエリアで2年ごとに開催される予定の現代アートプロジェクト。開催地は、富士駅近辺の「富士本町エリア」、富士川駅近辺の「富士川エリア」、新蒲原駅近辺の「蒲原エリア」、由比駅近辺の「由比エリア」、入山瀬駅近辺の「鷹岡エリア」で、富士川を挟んだ両側の5か所になっている。「富士の山ビエンナーレ」より「富士の川ビエンナーレ」のほうがしっくり来そうな場所である。「するがのくにの芸術祭」という長いサブタイトルも付いているけれど、どっちで呼んだらいいのか迷いそうだ。観覧は無料で11月30日まで開催中。

 およそ25か所の既存の建物内でアート展示がされている。評判が良ければ次回は増えるかも。いちばん充実しているエリアは蒲原エリアで、11か所で20人以上のアーティストの作品を見ることができる。蒲原と由比は海が近い旧東海道宿場町なので、アート展示のほかにも、旅籠の並んでいた町並みや歴史的建物や駿河湾の景色などを見ながら、海の幸でランチなどするのもいいかもしれない。由比の東海道広重美術館で横浜眞葛焼展も開催中(11月16日まで)

 越後妻有や中之条のような人里離れた広域プロジェクトではなく、東海道本線と身延線の駅周辺か、歩いて回れる距離なので、電車で行くこともできるし、1日で全部回ることも可能だと思う。

 オススメの物件は、蒲原エリアにある旧五十嵐歯科医院。インフォメーションセンターでもあり、12アーティストの作品が大正時代の洋館内や中庭に展開している。国登録有形文化財に指定されている窓だらけの建物の中には、古い治療用椅子が置いてあった。中庭の先には真っ白いなまこ壁の蔵があり、そのまた先にある建物は熱海の芸者さんがはるばる歯の治療にやってきた際の宿泊施設だったそうだ。そのくらい腕のいい歯医者さんだったのだろう。


 旧蒲原劇場はけっこうくたびれた建物だが、2階の映写室にはむか~しむかしの映写機が置いたままになっていて古き良き時代を感じさせる。


 由比の大法寺書院は60年くらい前の建物だが、高台にあるので、町並み越しに駿河湾が見渡せる。この景色のよい書院の2階には臼井良平さんの作品が展示されている。ガラスを加工した本物そっくりなペットボトルを使用した作品で、説明されなければペットボトルが転がっているとしか思えない。

 富士川エリアの小休本陣 常磐邸には岩崎永人さんの「川木シリーズ」が展示されている。富士川に流れ着いた流木を集めて作られた実物大の人体像が不思議な雰囲気を醸し出している。木片なので顔もへったくれもなく、まるで内臓標本に見えたりもするのだが、その堂々とした佇まいや繊細な動作を現した人体は、逆に人間の鼓動が聞こえてきそうな生き生きとした表情を見せる。作品としてはこれがいちばんよかった。


 使わなくなった建物だけでなく、今も住んでいる家屋の土間に作品を展示したりもしている。古き良き建物だけでなく、蒲原のよし川という高そうな、うなぎ料理屋の2階にも作品が展示されている。1階は営業中で、こんな店に立ち寄ったら、思わずうな重を注文してしまいそうだ。それはもちろん店の狙いでもあるのだろう。
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亀戸をブラアキラ

2014-11-03 22:07:58 | 美術[は]
 アートテラーとに~さん主催の「亀戸をブラアキラ」に参加した。現代の街を歩き、浮世絵に描かれた当時に思いを馳せるという企画。講師は謎の学芸員アキラさん。アキラさんは先日、日曜美術館に出演していた。

「没後150年記念 歌川国貞」@浮世絵太田記念美術館

 ブラに先立って立ち寄ったのは表参道の太田記念美術館、ここでやっている歌川国貞展を見学し、この後のツアーも国貞に関連する場所を訪れるというわけで、国貞の作品を見ておこうという作戦。ところがこの国貞、なぜか知名度が低い。ってことは大した絵師ではなかったのかと思ってしまう。しかしながら聞くところによると、歌川豊国の弟子として役者絵を中心に数万点を残し、江戸時代には大人気だったらしい。国貞は後に三代歌川豊国を襲名した。豊国の方が名が知られているので、その影響で国貞という名前が雲隠れしてしまったのかもしれない。

 その後は「洋麺屋 五右衛門」でランチ。看板に描かれている役者絵が国貞の作だという理由で、とに~さんが選んだ店である。



 さていよいよブラアキラ本編の始まり。亀戸駅から最初に向かったのは「三代豊国 五渡亭園」高架下に二年前に造られた「五渡亭」を名乗ったこともある国貞を記念した庭園。三代豊国が生まれ育った地域が、街ぐるみで盛り上げようとしているようだ。
 
 その後は、亀戸天神、龍眼寺、柳島妙見山法性寺、梅屋敷跡、香取神社、吾嬬神社、亀命山光明寺(二世歌川豊国の墓)と、浮世絵を辿って渋い名所を歩きまわる楽しいツアー。詳細はサクっと省略!!



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美少女の美術史

2014-09-28 21:14:34 | 美術[は]
「美少女の美術史」@静岡県立美術館

 青森県立美術館、静岡県立美術館、島根県立石見美術館へと巡回予定。江戸時代から現代に至るまでの、「美少女」にテーマを搾った展覧会。浮世絵から明治、昭和を経て、現代のフィギュアや初音ミクまでさまざまな美少女像が描かれた作品が展示されている。おっさんはほとんど出てこない。喜多川歌麿、鈴木春信、竹久夢二、蕗谷虹児、高畠華宵、手塚治虫、水森亜土、村上隆、四谷シモンなど、いろいろなジャンルの作家が並んでいる。「美少女」と言うと、最近発生した産物のように思ってしまうが、ただ描き方が違っていただけで、昔から生息していたようだ。中には美少女というか、おばさんっぽい作品もあったりするが、そこは気の持ちようで、当時は美の基準がちょっと異なっていただけだろうと、想像の翼を広げて見て回ればいいかも。
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法隆寺 祈りとかたち

2014-05-20 19:33:52 | 美術[は]
「法隆寺 祈りとかたち」@東京藝術大学大学美術館

 東京では20年ぶりになるという法隆寺の名宝を集めた展覧会、金堂の吉祥天立像&毘沙門天立像は120cmくらいで、保存状態が良いので欠損もなく指先までしなやか、衣服には赤っぽい色が残っている。かわいい聖徳太子の二歳像は、つんつる頭に上半身裸で、赤い袴を付けている。見た途端、アブドラ・ザ・ブッチャーを思いだした。1949年に焼失した金堂の消失前の壁画模写もある。

 展覧会の外にも見逃せない展示がある。美術館入口の正面にある陳列館で「別品の祈り」という無料展示も開催中。こちらでも金堂の壁画模写が全面原寸大で、ハイテク超高精細で展示されている。陳列館2階の四面が壁画だらけ。ザラザラ感がすごくリアルで面白い。
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歌麿 《深川の雪》

2014-05-05 18:06:10 | 美術[は]
「再発見 歌麿 《深川の雪》」@岡田美術館


 喜多川歌麿の巨大な肉筆浮世絵を展示。昭和23年に銀座松坂屋で展示されて以来、66年ぶりの展示となるという不思議な歴史を持った浮世絵だそうで、こんなにでかいものがどこにあるのかわからないというのも珍しい。岡本太郎の《明日の神話》も30年以上行方不明だったのだからしかたないか。地球は広いんだなぁ。

 きれいに修復された大きな画面(198.8cm×341.1cm)には27人が各々好き勝手に何かしている様子が描かれている。廊下や階層が入り組んでいて、構造が迷路みたいでなんだか判りづらいが、その分、ワンダーランドな雰囲気が漂っている。左上に深川独特の「通い夜具」という布団を背負った女性がいることで、これが深川を描いた絵であることがわかるのだそうだ。謎かけみたいだ。タイトルも無いし歌麿の署名も無い。

 これは「雪月花三部作」と呼ばれているもので、他の二部はアメリカの美術館にある。三部作なのにどれもサイズが違うし、描き方も違う。ホントに三部作なのか。《品川の月》は一点透視で帆掛け舟の浮かぶ見晴らしの良い海の向こうに、ほんのりと月が顔を出していて良い雰囲気。《吉原の花》は桜や提灯でにぎやかな遊郭に50人近い人物が描かれてまことににぎやか。《品川の月》と《吉原の花》は参考写真が展示されている。

 岡田美術館に来たのは2度目だが、今回は春画の小部屋までできていた。特別展示の期間だけなのかどうかは知らないが、北斎などのエロ春画が10枚ほど並んでいる。渓斎英泉の《十二ヶ月風俗画帳》がお気に入り、といってもページをめくることはできないぜ。
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バルテュス展

2014-04-22 21:23:30 | 美術[は]
「バルテュス展」@東京都美術館

 バルテュスの名前は知っていたが、作品はほとんど知らなかった。本名は、バルタザール・クロソフスキー・ド・ローラという長ったらしい名前で、1908年という昔にパリに生まれて、2001年という、ついこの間まで生存していた割とイケメンな画家である。さまざまな絵を描いている中でやっぱり印象的なのは、やや異質感のある少女の絵。へんなポーズとヤバめな雰囲気は「この絵は好きか?」と聞かれたら「ちょっと家に帰って考えてみる」と答えて、「すごく嫌いか?」と聞かれると「そうとも言いきれない」と答えそうな物件。
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