ざっきばやしはなあるき  

雑記林花或木 Since 2005-01-01 
美術とか映画とかなんとなくぶろぐ 

ポリグロット

2024-11-26 20:39:06 | 
 多言語を習得し話す人をマルチリンガルと呼んだり、ポリグロットと呼んだりする。私は英語だけで四苦三十六・八苦七十二しているというのに、多言語習得とはなんたることだ!そんなけしからん本をいくつか読んでみた。勉強法、習得法は様々だが、読み書きだけしていても話せるようにはならないという事は誰もが書いている。並々ならぬ情熱、繰り返し学ぶ忍耐力、学びのセンス、勉強だと思わずに楽しむ余裕などもないと、多国語話者になるのはそんな簡単な事ではないのだろう。だからと言って「ムリムリィ~」って初めから諦めたらそりゃ無理だ。




・「7カ国語をモノにした人の勉強法」
  橋本陽介 (祥伝社黄金文庫) 2018年

 専門は中国文学だが、英語、フランス語、スペイン語、ドイツ語、ロシア語、中国語、韓国語を習得した人。話せる外国語を習得する学習方法を細かく書いてある。中国語専門の橋本さんがスペイン語を学ぼうと思ったきっかけは、ガルシア=マルケス「百年の孤独」を原書で読もうと思ったからで、数年がかりで成し遂げたとのこと。
https://www.youtube.com/@橋本陽介-n9t




・「純ジャパの僕が10カ国語を話せた 世界一シンプルな外国語勉強法」
  秋山燿平 (ダイヤモンド社) 2018年

 バラエティ番組にも出たマルチリンガルな人。東京大学薬学部卒。とりあえず200単語と30表現だけ覚えて使いまくろう、と書いてある。とりあえずね、それで10カ国の日常会話が通じるのなら問題ない。そんな感じの勉強法が簡潔に書かれている本。
https://www.youtube.com/@YoheiAkiyama




・「ゼロから12ヵ国語マスターした私の最強の外国語習得法」
  Kazu Languages (SB新書) 2024年

 KazuさんはYouTubeで、いろんな国の人たちとのオンライントークで突然その人の母国語を使った時の相手の驚きや喜びの様子を映した動画を上げている。多国語がポンポン出てくる手際の良さが楽しい。Kazuさんはまだすごく若いので、これからもっと話せる言語は増えて行くだろう。
https://www.youtube.com/@KazuLanguages




・「20ヵ国語ペラペラ 私の外国語学習法」
  種田輝豊 (ちくま文庫) 2022年

 1969年に発行された本の文庫化。戦後、ローマ字を覚えて日本語をローマ字で書けばアメリカ人に伝わると信じていたような少年時代、語学に目覚めて行く自伝が面白い。テープレコーダーを持って映画館に行き、洋画を録音して発音を覚えた、なんてことも書いてある。「※今は著作権侵害です」と編集部の注意書きがあって笑っちゃう。そういう時代だったんだねぇ。




・「50ヵ国語習得法 誰でもできる、いまからでも間に合う」
  新名美次 (ブルーバックス) 2015年

 人種のるつぼニューヨークで眼科医をしている著者、いろんな国の患者が来るので50ヵ国語も話せればどれほど役立ったことか。1994年に「40ヵ国語習得法」を出版していたようなので、その後21年で10ヵ国語くらい増えたことになる。話せる50ヵ国語について表記も含めて細かく書かれている。




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劉慈欣「老神介護」角川文庫

2024-09-27 20:30:25 | 
 「三体」の作者・劉慈欣の短編集。これは7月頃読んだ「流浪地球」と同時に発売したもの。全部で11編が多すぎるから2分冊になったようだ。この本で好きな作品は「地球大砲」だけれど、「流浪地球」も含めた11編の中では「中国太陽」が好き。

 「老神介護」:歳老いてしまった神々を介護しなければならない立場になる人類の話。やおよろずの神どころの数ではない神々が大挙してやってきた。食べ物を恵んでもらおうとする老神が哀れ。

 「扶養人類」:老神介護の続編、神々が語ったヤバい事実に基づいて物語が大きく膨らんで行く。

 「白亜紀往事」:むかしむかし、大きな恐竜と小さな蟻さんがうまい具合に補完し合って共存してた頃の話。うまい具合にいったままならよかったのに、いつの間にかホツレ目が出て全面戦争に突入する話。体格から言ったら恐竜の勝ちなんだけど・・・

 「彼女の眼を連れて」:直接見に行けない人に代わって目だけ預かって旅をする話。

 「地球大砲」:病気になった父親が、医学の発展を期待して人口冬眠、目覚めると息子がなにかまずいことをしたらしく、父親が拘束されてしまう。タイトルからして、そこらへんの街角の物語では済まなそうな予感がするでしょ。



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安部公房「砂の女」新潮文庫

2024-09-10 19:59:37 | 
 古書店のクーポンを使って30円で手に入れた文庫「砂の女」を「箱男」の流れで読んでみた。60年以上前の作品。砂の女というタイトルを見て、心が砂を噛むようなジャリジャリした女の話かと思ったら、ジャリジャリしているのは心じゃなくて体のほうだった。

 主人公が迷い込んだ謎の場所で出会ったのは、毎日砂搔きをしないと埋もれてしまう家に住む女。設定からして常軌を逸している。映画「SAW」とか「Cube」とかを見ている気分になる。この閉塞感がやるせない。

 この作品は安部公房を世界的有名作家に押し上げた重要な作品らしい。結末がどうなったのかは第1章を読めば察しが付く。でも読み進めるうちに、結末がどうなるのかを知りたくて止まらなくなる蟻地獄みたいな小説。映画「砂の女」も見てみたいんだけどなぁ~



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安部公房「箱男」新潮文庫

2024-08-30 20:05:29 | 
 先日映画を見た「箱男」の原作を読んでみた。覗くという行為を日常的に繰り返す男、しかし逆に、他人から覗かれる立場には慣れていない。自分が覗かれるという反対の立場に置かれた場合の精神的混乱が描かれる。とはいえトータルに何だかわかり辛い。軍医殿が出てくるころにはますますよくわからなくなってきた。すべてが曖昧な夢のような妄想のような妙な小説だ。

 女教師のトイレを覗こうとした少年Dのエピソードは独立していてわかりやすい。これは箱男と直接関係はなく、覗き覗かれることをテーマとしたらできあがったようなエピソードだ。こんな複雑な原作を読むと、映画がどれだけ理解し易く作られているかを実感できる。

 登場人物の「中の人」が「これは僕が書いた物語だから、君たちは登場人物にすぎない」とか「あんたたちはぼくの空想の産物だ」とか、「中の人」が著者の立場になるシーンがある。先日読んだ「百年の孤独」も、すべては登場人物メルキアデスの記述だというような表現がされている。堂々巡りみたいな夢落ちみたいな、何かこうカチッとした線が引けない感覚、私はこういう手法はどちらかというと好みではない。ただそれだけで興ざめというわけでもないが。

 虚構と現実の錯綜はいいけれど、その両方をもっと上位の「書いている人・読んでいる人」の目線で語られると、物語のリアルさが薄まる。物語の中の人は置かれた場所で咲きなさいって思う。ちょっと違うかもしれないが、いがみ合って鬼のような眼つきの敵と味方が突然華麗に踊りまくるミュージカルのような。敵が踊り出したら隙だらけだから撃つなら今だぞ!←そんなミュージカルは無い






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ガルシア=マルケス「百年の孤独」

2024-08-22 19:45:07 | 
ガブリエル・ガルシア=マルケス「百年の孤独」新潮文庫

 コロンビアの作家ガルシア=マルケスの50年以上前に出版された長編の文庫化、ようやく読み終えた。あとがき・解説を含めて660ページ、長かった、百年の読書。「改行しろよぉ~」とか思いながら読んだブエンディア家の100年の物語。

 読みづらい最大の問題は、百年に渡る一族の名前がややこしいことだ。日本人と違って外国人は親や祖先と同じ名前に「・ジュニア」などを追加したりする命名方法が一般的にある。まさにそれがいやがらせかというほど繰り返される。あの男もアルカディオ、この男もアルカディオ、その男もアルカディオ、あの女もレメディオス、この女もレメディオス、その女もレメディオス。アウレリャノなんか家系図に22人も出てくる。まぎわらしいったらありゃしない。

 家の中の出来事からマコンド村の珍事、国の政治を揺るがす大問題まで、さまざまな事件が巻き起こる。そのあたりは割と真面目腐って書いているのに、油断していると突然、魔法のような奇跡のような珍妙な出来事がボソっと語られる。あれ?そっち系?と戸惑う暇もなく、その珍妙の解説もしないまま改行もしないまま普通の文章が続いて行く。そんなありさまなので読みづらい割に次に何が起こるのか気になってしまう。

 さらに、一族繁栄の物語だから、というわけかどうかは別にして、性行為のシーンがいっぱいいっぱい出てくるのだ。ほんとにいっぱいいっぱい。それだけで50ページくらい行くのではないか、いや数えてないけど。そういうわけで、ラテンの血が騒ぐ物語である。官能小説が好きな人にお薦め、とはいえあとの600ページは読みづらいので、それ目的ではお薦めしないほうがいいかも。



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乙一「サマーゴースト」

2024-07-22 20:43:47 | 
乙一「サマーゴースト」集英社文庫

 線香花火を灯すと現れる幽霊の物語。あれ?つい最近それっぽいの読んだ気がするのだが・・・と思ったら「一ノ瀬ユウナが浮いている」の姉妹作って書いてある。そういうことか。死にたい高校生3人が主人公なので、死にたい情報満載。ゴーストに会いに行くきっかけも、自殺したらどんな感じかを聞きたいという実用的な動機があったから。

 原案・監督:loundrawで、3年前にアニメ映画化されていたなんてことも知らなかった。線香花火で幽霊が出てくる所は一緒だけれど、「一ノ瀬ユウナが浮いている」とは全然ストーリー展開が違うし、「一ノ瀬ユウナが浮いている」より90ページくらい短いので、新鮮な気分であっという間に読み終えてしまった。

 ♪裏飯屋~~~




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劉慈欣「流浪地球」

2024-07-13 20:55:02 | 
劉慈欣「流浪地球」角川文庫

 「三体」の作者・劉慈欣の短編集。この人の小説は大風呂敷を広げたがるから壮大な物語になる。「三体」を読んでしまうと、それ以上広がりようがないことになるが、それでもじゅうぶんに壮大で、ちょっとページをめくれば何万年とかシレっと過ぎていたりする。この中でいちばん好きな作品は「中国太陽」かな。夢があっていい。

 「流浪地球」:太陽の影響で地球が爆発する未来、それに備えて太陽系脱出を企てる地球人。

 「ミクロ紀元」:帰ってみれば怖いカニ、十億分の一に縮んだ人類に出迎えられて。

 「呑食者」:地球を食い尽くす巨大宇宙船がやってくることが判明して慌てふためく地球人。

 「呪い5.0」:ネットに潜む呪いのウイルスとやらが虎視眈々とチャンスを伺う。

 「中国太陽」:人口の太陽を清掃する主人公の波乱万丈のぶっ飛んだ物語。

 「山」:突然海が盛り上がって山になったので登りたくなった男がそこでみたものは。
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乙一「一ノ瀬ユウナが浮いている」

2024-07-09 20:52:15 | 
乙一「一ノ瀬ユウナが浮いている」集英社文庫

 「死んだ彼女は線香花火を灯すと現れる」なんてオビに書いてある、乙一の最新文庫化作品。軽度の乙一ファンなので文庫化されてから読んだり。文庫化されるまで待っていられるくらいだから、市販のお薬で治るレベルだ。

 「死んだ彼女は」とあるように、主人公・遠藤大地の彼女と言っていいかもしれない一ノ瀬ユウナは、本を開くとさっそく死んでしまう。「えっ、もう死ぬのかよ!」と声を出してしまう。普通なら彼女が死んでしまったら、回想シーンや想い出シーンでしか登場できない。

  そんなわけで青春の1ページが悲しみに埋め尽くされてしまった遠藤大地とその仲間の物語が続いて行くのだが、50数ページ過ぎて油断していた頃から乙一イリュージョンがはじまってしまう。そうなるともう一気に読むしかない。このあたりの、日常を掻き回すイリュージョン、ゾワっとする現象、ホロリとさせられるシーンなどのミックスされた乙一青春小説が好き。



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「レ・ミゼラブル 百六景」

2024-02-07 18:08:29 | 
「レ・ミゼラブル 百六景」鹿島茂(文春文庫)

 ヴィクトル・ユゴーの「レ・ミゼラブル」は数年前にスマホの青空文庫で読んだ。けっこう長くてしんどかった。昔から「ああ無情」という無情な邦題の本があることは知っていて、読んだような気になっていたが実は読んでいなかった。パンを盗んだばかりに悲惨な人生を送る羽目になるジャン・バルジャンの物語である。だからジャン・バルジャンの名前も知っていた。もしかしたら教科書に載っていたかもしれない。でも内容を知らないから「がんばるじゃん!」とか言ってふざけるのが関の山だった。

 この文庫は小説そのものではなく、ストーリーの重要なシーンの挿絵二百数十枚に対して、物語の内容や当時の社会情勢、作者周辺の話題など、さまざまな説明を加える形で書かれている。480ページくらいある本の左側が全部挿絵になっていて、絵本のような気分で情景を見ながら読める。でもストーリーは飛び飛びに、挿絵に関連する箇所だけ語られているので、「レ・ミゼラブル」本編を読んでからこの本を見たほうがいいと思う。なるほどそうだったのかと裏事情に納得したり、忘れていたストーリー展開を思い出したりするとこができると思う。
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「猫を処方いたします。」

2024-02-05 19:13:08 | 
を処方いたします。」石田祥(PHP文芸文庫)

 体調が悪くて知り合いに教えられた病院に行ってみると、ちょっと不思議な先生から、薬の代わりにを処方されてしまう物語、第一話~第五話。「を10日分出しておきます」なんて言われてを手渡されて治る病気となれば、まぁだいたいメンタル的な悩み事だろうなぁと想像できるが、まさにその通り。人にはいろいろ悩みがある。にもいろいろ悩みがある。そんな人やにお薦めの作品。「を服用して」とか出てくるが、粉にして飲め、みたいなコワい話ではないから安心して服用してください。カバー絵のもかわいいから無理して服用しても大丈夫です。お大事に!
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会田誠「げいさい」

2023-12-22 21:14:33 | 
会田誠「げいさい」文春文庫

 アーティスト会田誠による小説のような自伝のような。そこには東京芸大入学を目指す本間二郎くんの1日が描かれている。とある1日、それは二郎くんが予備校時代に、多摩美術大学の学園祭「げいさい」を見に行った日である。予備校の仲間や大学の関係者との生真面目なやり取りやしょーもないやり取り、酒が進むにつれていろんな事が起こる。

 そんな飲兵衛のたわごとだらけでは読むのも疲れてしまうが、そこに至るまでのさまざまなエピソードは回想シーンとして挟み込まれていて、たった1日の物語はぐんぐん広がって行く。その中には、芸大受験合格のためにどう描くべきかという作法への葛藤や、画材の取り扱いのノウハウなど、アーティストならではのネタもたっぷり盛り込まれている。美大に入りたい人は必見かもしれないかもしれないかも。

 この本に出てくる美大に伝わる宴会芸「よかちん」・・・懐かしい。私は別に美大生ではないが、この宴会芸は知っている。でも私がいたサークルではちゃんと服を着たまま踊っていたが。コンプラやセクハラが厳しくなった今でもこんなのやっているのかなぁ?
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筒井康隆「カーテンコール」

2023-12-11 20:54:21 | 
 筒井さんの最新刊、コロナ禍の間に書かれた25作品をまとめた短編集。「これが最後の作品集」なんてオビに書いてあるが、いままでにも「最後の長編」とか「断筆宣言」とかいろいろあったからあてにはならない。同世代のSF作家の皆様方は既に遠方に旅行中であるが、暇さえあれば時をかける筒井さんはいつまでも元気だ。筒井さんはIQが180もあるので180歳まで生きるとすると、私が先に死ぬ計算だ。



カバーをめくったら、居た
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京極夏彦「鵼の碑」

2023-12-10 17:32:29 | 
鵼の碑(ぬえのいしぶみ)

 京極夏彦の17年ぶりの百鬼夜行シリーズ新刊。あの分厚い本が帰ってきた。むかし、通勤電車で右手で吊革につかまりながら左手に持って読んでいたら攣った。だからというわけでもないが今回は電子書籍にした。画面には今読んでいる位置が%で表示されている。1000ページくらいあると10ページで1%になるが、大きめな文字で読むとさらにページが分解されるので、何度も改ページしてなかなか1%進まない。

 お馴染みのメンバーが次々のろのろと登場してくる。最初から全員出てくるわけではない。次の人が登場するまで長い長いページが続く。日が暮れる。中禅寺秋彦が憑物落としをするまでに、榎木津礼二郎は幻視して意味不明な事を口走り、関口巽はおどおどしてふさぎ込み、木場修太郎は四角い顔で威圧してあちこち嗅ぎまわる。他にもいろんな人物や妖怪が現れる。いや妖怪は気のせいかもしれないしそうでないかもしれない。17年も待たせてしまった読者への歳末ファン感謝祭みたいな作品になっている。
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プロジェクト・ヘイル・メアリー

2023-10-09 15:29:50 | 
 アンディ・ウィアー作のSF宇宙小説を読んだ。アストロファージと名付けられた微細な生物が太陽エネルギーをエサにしているらしいという観測結果が出た。このままでは太陽が冷え切って地球人も生きて行けなくなる。それを解決するために主人公の科学者グレースたちが宇宙船ヘイル・メアリー号に乗って長い旅に出るという物語。

 カバーイラストと本編初っ端に宇宙船の図が載っているので、これが飛ぶ物語だなと誰にでもすぐにわかるのだが、主人公グレースはどういうわけか記憶喪失で、自分がどこにいるのかわからない状態。読者はわかっているのにねぇ。逆にこのカバーイラストで宇宙船が出てこなかったら詐欺である。

 そんなこんなで自分の星を救うために頑張るグレースとロッキーの、手に汗握る本格熱血さいえんすふぃくしょん。コメディチックな表現も満載で飽きずに読める長編。なんか映画化の話も進んでいるようなので、ぜひ見に行って、グレースとロッキーの姿をこの目で見たいと思う。

 この小説の舞台は地球から遠く離れた広大な宇宙なのだけれど、無限大宇宙の輪廻転生みたいな小説「三体」を読んだ後なので、広さ、大きさの感覚がちょっとだけ、ちょっとだけ麻痺してしまうという弊害が無いといえばウソになる。そういう意味では「三体」はまったく困った話だ。
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三体シリーズ読了

2023-06-02 19:17:29 | 
 遅まきながら中国の作家、劉慈欣の長編SF小説を読み終えた。もちろん日本語版(翻訳:大森望)である。本が分厚いのと、中国のSFという精神的ハードルが高かったので、存在を知ってから「どうしようか」と考えた。でも各方面での評判も良いという噂やその逆の批評などもあり、気になったので自分で確かめるしかないと思い読んでみた。

 登場人物のほとんどが当然のごとく中国人ということで、人名の中国語読みと日本語読みがごちゃごちゃして最初は取っ付きにくかった。わんみゃお、るおじーなど中国読みで馴染めた人物や、ようぶんけつ、ちょうぎなど日本語読みしちゃった人物などあかちゃかごちゃごちゃ入り混じったまま読んだ。

 読み進むと、バーチャルゲームの三体世界に入っていくシーンが出てきて「あれれ?そっち系の話か?」とドン引きしはじめてしまったが、金払ってるんだからこの1冊だけは読み終えないともったいない!と思い、がむばつて読んだ。

 がむばつてしまった結果、1冊読み終わるともう、すぐに次巻を手に入れて続きを読みたくなった。そんなことを繰り返しているうちに関連書籍を含めて7冊を読み終えていた。巻が進むにしたがってどんどん大風呂敷が広がって行く。どこまで広がるんだと半分呆れながら楽しく読んだ。

 ゾッとしたシーンは、ハッブル望遠鏡で刷毛を観測した時と、オーストラリア騒動。自分も地球に生きているからこそゾッとするわけで、逆に広大な宇宙を舞台に縦横無尽に話が広がりすぎるともう何が起こっても遠い出来事になってしまう。

 「三体0(ゼロ) 球状閃電」は三体とはほとんど関係ない話だが、三体に登場する丁儀(ディンイー)が活躍する物語っていうだけで、三体0という名称が付いてしまった。これはこれで面白かったけれど、読まなくても大勢に影響はない。

 「三体X 観想之宙」は三体ファンの宝樹(バオシュー)という人が勝手に書いた物語。それを劉慈欣が公認して出版されたもの。筒城灯士郎の「ビアンカ・オーバーステップ」みたいなもんかな。

 だから三体Xの内容は、すべてが劉慈欣の考えていたシナリオどおりではないのだろうが、三体を読んできた読者にとって、痒い所に手が届くような物語になっている。三体Ⅲの登場人物である雲天明(ユン・ティエンミン)のその後のことや、劉慈欣が三体シリーズで描かなかった三体人の姿などが、劉慈欣が広げた大風呂敷を軽々と突き破って大穴を開けたまま大胆に赤裸々に勝手気ままに描かれていて面白い。浮かれすぎてちょっとファンタジーが始まっちゃっているけれど、それも含めて楽しく壮大な話に仕上がっている。これを読めばもう元祖三体Ⅳは無くてもいいんじゃないかな。あったらあったでまたややこしいけど。


・三体 (著者:劉慈欣)


・三体Ⅱ 黒暗森林 上(著者:劉慈欣)


・三体Ⅱ 黒暗森林 下(著者:劉慈欣)


・三体Ⅲ 死神永生 上(著者:劉慈欣)


・三体Ⅲ 死神永生 下(著者:劉慈欣)


・三体0 球状閃電(著者:劉慈欣)


・三体X 観想之宙(著者:宝樹)



 近頃の私が本を読むタイミングは、職場の休憩時間が多い。でも分厚い単行本を職場に持っていくのは難儀だ。というわけでAmazonのKindle版電子書籍をスマホKindleアプリで読んだ。読み終わるまで5か月かかって7冊で12,870円。

 電子書籍なら老眼気味でも、文字の大きさを変えられるので読みやすいし、薄暗い場所でも負けない。電子版はやや割引されているというのはありがたいが、読み終えても古本として売却できないし、中古の電子版もないところが玉に瑕。角が折れてて黄ばんだ安い中古の電子書籍って無いかねぇ?

 「これ面白かったよ」「ホント、貸して」「うんいいよ」みたいなこともスマホではできない。専用リーダー端末なら家族で回し読みくらいはできるけど、専用端末を持ち歩くのも面倒なので私は持っていない。

 電子書籍はAmazonのKindleアプリと、ヨドバシカメラのDolyアプリを使っている。ヨドバシのポイントが余っている時はDoly版を買ったりする。定額サービスは使ってない。

 電子書籍はもし各社のサービスが終了したらパァになってしまうようだ。サービスが終了したらアプリだってそのうち無くなるだろうし、専用端末だって壊れたら買い替えできなくなる。そうなると以前買った本を読み返すこともできない。そんなリスクもある電子書籍だが、たしかに便利ではある。ダウンロード音楽.mp3のように、どこで購入してもさまざまな環境で読み続けられるような規格の統一が一刻も早く実現してほしいと思う。





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