1 はじめに
東日本大震災の地震と津波で莫大ながれきが発生し、被災地を復興するにはがれき処理が非常に重要だということが言われました。その量は通常年の一般廃棄物発生量の30年分とも100年分とも報じられ、被災地のがれき処理能力ではとても足りないということで、日本国中でがれき処理をするいわゆる広域処理が必要だと主張されたのです。
下の写真は環境省が、昨年から総額39億円をかけて進めてきた震災ガレキの広域処理推進キャンペーンの一貫として、今年の春に一部全国紙に掲載した全面見開き広告です。被災地に積み上げられたガレキの山を背景に、被災地の復興のために、「みんなでガレキを分かち合いましょう」のキャッチコピーが印象的でした。
このガレキの山のイメージはテレビでも繰返し放送され、被災地を助けるためにはある程度のガレキ受け入れはやむなしとする世論を形成しました。
しかし、がれきを広域処理するには莫大な運送費がかかります。また、多かれ少なかれ被災地の放射性物質を全国に拡散することになるのですから、相当な理由が必要です。
ところが、今回のガレキ広域処理につけられた1兆円以上の予算は、大手ゼネコンの懐を暖めるばかりで、被災地の支援に必ずしも回っていません。巨額の広告費にものをいわせた世論誘導と情報操作によって、広域処理は環境省版ゼネコン利権を生むだけだったのです。
そんな広域処理を提言した環境省の「災害廃棄物安全評価検討会」は、非公開の秘密会議方式で決定しました。
そして、マスメディアも39億円にのぼる広域処理推進キャンペーン予算に群がり、ガレキの広域処理にまつわる問題点はマスメデイア上ではほとんど取り上げられませんでした。
そもそも必要性がなくなったプロジェクトに3年間で総額1兆円超もの予算が投じられ、それがゼネコンやマスコミにとっても新たな利権となったために、もう誰にも止めらない状態に陥ってしまっていると言うわけです。これも、民主党政権で始まった復興予算利権が、安倍政権で拡大したままという例です。
究極の火事場泥棒=白アリ官公庁が寄ってたかって被災地以外に使ってしまう復興予算=血税
2 全国で広域処理に対する反対運動が起きた
被災地のがれきには同時に福島原発事故で飛散した放射性物質が付着しており、これを拡散することは危険だと、がれき処理を受け入れようとする自治体とがれき処理を危険視する住民との間であつれきが起きています。東京、大阪、富山、静岡、あげくのはてに北九州市まで広域処理に手を挙げたため、各地で逮捕者が出るほどの大問題になりました。
新潟では、反対派の知事と受け入れ市が対立し、新潟県柏崎市と三条市で始まった震災がれきの本格焼却について、泉田裕彦新潟県知事は2013年2月14日の記者会見で、「亡くなる方が出れば傷害致死と言いたいが(放射能の危険性を)分かっていて(埋却を)やったら殺人に近い」と述べ、両市の対応を改めて厳しく批判したのです。
この受け入れ自治体の中でも、橋下大阪市長は特に震災がれきの広域処理受け入れに熱心で、2012年2月24日のツイートで、
「世界では自らの命を落としてでも難題に立ち向かわなければならない事態が多数ある。しかし、日本では、震災直後にあれだけ「頑張ろう日本」「頑張ろう東北」「絆」と叫ばれていたのに、がれき処理になったら一斉に拒絶。全ては憲法9条が原因だと思っています。」
と笑撃の論理の飛躍発言をして、話題になりました。
さらに、橋下市長は2012年11月19日に総選挙の演説で、岩手県からの広域瓦礫処理に反対するグル―プに
「がれきは大変申し訳ないが受け入れる。これはやる」「苦しむ岩手県民を見捨てることはできない。いつからこんな勝手な国民が増えたのか」
と挑発しました。
そんな中、2012年12月には、市の説明会で橋下市長を追い詰めたことで有名な関西の広域処理反対運動のリーダー的な存在である阪南大学准教授の下地真樹氏ら3人が逮捕されました。結局、この問題で計10人が逮捕され、6人が起訴されたのです(ダイヤモンドオンライン 下地氏ら3人の逮捕は「表現の自由を侵害」 足を踏んだことが威力業務妨害と起訴(6))。
橋下市長の「全ては憲法9条が原因だと思っています」のトンデモ論理 国民をなめてる維新八策に騙されるな
3 「余ってしまった」がれき
さて、環境省は2013年1月25日に公表した震災がれき処理計画の見直し版で、広域処理の必要量を69万トンに下方修正しました。これは当初の推計の401万トンと比べると、実に6分の1にまで落ち込んだのです。
こんなことになった一番の理由は、がれきの多くが津波で海に流されて被災地に残らなかったことにあります。また、被災地内に仮焼却炉が多数建設されるなどしたため、もはや広域処理の必要性が失われたのです。環境省が新聞広告などが主張している「ガレキが復興の妨げになっている」という理由付けは、もはや現実を反映していないわけです。
2012年9月に西日本で初めて震災がれきを受け入れた北九州市は、宮城県石巻市分を2014年3月までに最大6万2,500トン処理する予定でしたが、宮城県は2013年3月末で搬出を打ち切るそうです。
環境省発表のがれき広域処理協力状況は、2013年2月22日現在、実施済み、実施中、実施決定済みの自治体が1都1府13県65件、受け入れ見込み量約62万t(岩手県分約29万t、宮城県分約33t)、受け入れ済量約25万tとなっています。
他方で、東北3県37市町村の災害廃棄物発生推計量を、震災直後の2011年6月時点と2013年2月時点で比較すると、東北3県合計では2183万tから1628万 t(-555万t)、岩手県では446万tから366万t(-80万t)、宮城県では1509万tから1102万t(-407万t)、福島県では228万tから160万t(-68万t)と、3県平均25%も減少しているのです。
広域処理をしない福島県を除いて、岩手と宮城だけで500万トン近くも処理すべきがれきが減ったのですから、わずか60万トン余りの広域処理をどうしてもしなければならないという必然性はないのです。これは各自治体にお願いしておいて、いまさら要らないとも言えないから、表向き必要と言っているにすぎないのだそうです。なんと、岩手・宮城のがれき処理施設は余ってしまっており、高い運搬費がかかる広域処理は本音を言えば全面的に休止し、県内処理に切り替えたいのです。
これでは、なんのために広域処理受け入れ自治体の住民が、逮捕者まで出して自分の自治体と対立しなければいけないのか、わけがわかりません。
大阪府・市と岩手県は、2014年3月末までに可燃物のごみ3万6,000トンの受け入れで合意していますが、もはや、大阪で処理する必要性も合理性もなく、大阪府の住民ら260人は2013年1月23日、府・市に処理の差し止めを求める訴訟を大阪地裁に起こしています。他の地域でも続々と住民監査請求・住民訴訟が起こっています。被災地でも同じです。
被災地の復興にとってどうしても必要不可欠であれば、広域処理を受け入れる意味もありますが、多かれ少なかれ放射性物質が付着したガレキを日本各地に移動することは汚染をいたずらに拡散し、最終処理をより困難にするといえるのですから、不要な広域処理をする合理性はないのです。
まして、広域処理ではがれきの運送費が処理費以上にかかるのですから、百害あって一利なしです。
2500万トンの瓦礫が太平洋を越えアメリカに漂着する 瓦礫を拒否する脱原発派の人間性が今問われている
5月の原発ゼロに焦って再稼働に固執する野田首相が言えば言うほど、がれき処理に安心して協力できない件
(2012年10月の環境省の予定)
4 がれき処理は本当に安全なのか
ところで、大阪市などが受け入れるがれきの放射線量は1キロ100ベクレル以下とされ、そのまま食べてもいいはずの値になっています。その測定さえ信じられれば、燃やして危ないというレベルではなさそうに見えます(放射線に関しては国と自治体の言うことがまるで信じられなくなっていることが問題なのですが)。
ただし、放射性物質は燃やしても残りますから、燃え残りのカスに占める放射性物質の割合は当然増えます。
そもそも、環境省はがれき処理後の放射線量を「基準値以下」だと強調していますが、その環境省の安全基準にも疑問があります。環境省のガイドラインでは、1キログラム当たり8,000ベクレル以下であれば普通ゴミとして処分してよいことになっているのですが、そもそもこの基準は最初から高すぎる上に、処理後に起こり得る生物濃縮なども環境省は考慮に入れていないのです。
広域処理が不要だとわかった今、こういうリスクをあえて侵すべきではないでしょう。
内部被曝の恐怖29 放射性セシウム下水汚泥9都県1万トン 1キロ8000ベクレル以下は埋め立てに使用
ちなみに受け入れを拒否した徳島県は、その理由をこう説明しています。
放射性物質については、封じ込め、拡散させないことが原則であり、その観点から、東日本大震災前は、IAEAの国際的な基準に基づき、放射性セシウム濃度が1kgあたり100ベクレルを超える場合は、特別な管理下に置かれ、低レベル放射性廃棄物処分場に封じ込めてきました。(クリアランス制度)
ところが、国においては、東日本大震災後、当初、福島県内限定の基準として出された8,000ベクレル(従来の基準の80倍)を、その十分な説明も根拠の明示もないまま、広域処理の基準にも転用いたしました。
(したがって、現在、原子力発電所の事業所内から出た廃棄物は、100ベクレルを超えれば、低レベル放射性廃棄物処分場で厳格に管理されているのに、事業所の外では、8000ベクレルまで、東京都をはじめとする東日本では埋立処分されております。)
がれき処理問題 徳島県の目安箱に寄せられた提言と回答 模範回答出ました
(2012年3月18日、JR川崎駅前で東日本大震災のがれき広域処理について「被災地に力を貸してほしい」と訴え、広域処理に反対する市民に取り囲まれた細野豪志環境相)
5 結論
がれき受け入れを拒否した徳島市の方が、受け入れを決めた他の自治体より冷静だと言えます。
他方、東日本大震災で発生したがれきを受け入れない堺市が、環境省から復興予算約86億円をごみ処理施設の新設費などとして受け取ることになっている事が明らかになりました。2012年の段階でがれきの処理に困った環境省が、受け入れを検討しただけの自治体にも復興予算の交付を決めたためなのですが、6市町3組合に配られるというそんな復興予算180億円あまりの血税は全くの無駄遣いです。
がれき処理受け入れを決めた自治体は金に目がくらんだとしか言いようがありません。こんなバカげた税金の無駄遣いは即刻止めるべきです。がれき処理に投じるはずだった莫大な予算は、利権にではなく、被災者に直接投入すべきなのです。
広域処理を受け入れた自治体も環境省も素直に誤りを認めて、これからのがれきの処理は現地に任せるべきです。
がれき処理問題の解決策はある!福島第2原発、女川ほか東日本太平洋沿岸の原発敷地を使おう!
金の亡者と言うか、利権を作り出す政治家と官僚と企業の執念ってすごいなあ。
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「勝手な国民増えた」橋下氏の街頭演説で騒然
日本維新の会代表代行の橋下徹大阪市長が19日、大阪・難波の高島屋前で街頭演説を行っ た。大阪市の岩手県からの震災がれき受け入れに反対するグループが沿道の一角を占めて抗議の声を上げたのに対して、橋下氏が「いつからこんな勝手な国民が 増えたのか」と挑発。橋下氏に賛同する歓声、反対する怒声が飛び交い、騒然となった。
橋下氏や維新幹事長の松井一郎大阪府知事らが演説を行ったが、少なくとも10人は超える反対派が抗議の文字を書いた大きな紙を広げ、「焼却反対」などと叫び声を上げ続けた。
橋下氏は約15分に及ぶ自身の演説の終盤、反対派が占める沿道の一角に体を向け、「がれきは大変申し訳ないが受け入れる。これはやる」と言及。反対派が抗議の声を強めたが、橋下氏は言葉を続けた。
「苦しむ岩手県民を見捨てることはできない。いつからこんな勝手な国民が増えたのか。専門家の意見をきいて、(がれき受け入れの)安全はしっかりチェックする」
沿道では「いいぞ」「その通りや」などの歓声と拍手が広がり、橋下氏は「反対を叫ばれている皆さん。大変申し訳ないが、これが善良なる大阪市民の声だ」とたたみかけた。
沿道付近は、警備担当の警察官とみられるスーツ姿の男性らが反対派に向かい合うように立つなど、緊迫した雰囲気に。反対派の女性は「なんでみんな拍手するの」と悔しそうに話していた。
知事、怒り爆発「殺人に近い」…震災がれき焼却
新潟県柏崎市と三条市で始まった震災がれきの本格焼却について、泉田裕彦知事は14日の記者会見で、「亡くなる方が出れば傷害致死と言いたいが(放射能の危険性を)分かっていて(埋却を)やったら殺人に近い」と述べ、両市の対応を改めて厳しく批判した。
12日にも両市の対応を「犯罪行為」とやゆした知事。この日の記者会見では、「未来に対して責任を持てるのか」と怒りを爆発させた。
三条市の国定勇人市長が知事の姿勢を「独裁」と批判している点については、「意見を言うなというのか。言論封殺をしろというのか。住民の声を聞か ずにどんどん(埋却を)進めることを独裁と言うのではないか」と反論。さらに「国定氏は将来は(新潟に)住まないと考えているのですかね」などと名指しで 非難した。
がれき激減で、広域処理の大半が3月末で打ち切り
2013年2月11日 [東京新聞:こちら特報部]
宮城、岩手両県の震災がれきを被災地以外で処理する「広域処理」の大半が、来月末で打ち切られる。必要量が当初の推計の6分の1にまで激減したためだ。受け入れ先では放射能汚染への不安にとどまらず、税金の無駄遣いが指摘され、北九州市などでは訴訟にも発展した。大阪では警察の介入が問題視された。東北の地元にも反対意見が強く、旗振り役の環境省は早期撤退に追い込まれた形だ。(佐藤圭)
◆宮城県議会は超党派で異議
「多額の費用をかけて遠方まで運ぶ必要などなかった。受け入れ先の住民が放射能汚染を心配するのも無理はない。もともと国のトップダウンで決まった政策だ。宮城県も本音では早くと止めたかったのではないか」
自民党の相沢光哉宮城県議(74)は、広域処理に固執してきた環境省や県の姿勢をこう批判した。県議会では最長老の相沢氏を筆頭に、広域処理に異を唱える議員が党派を超えて少なくなかった。
環境省は先月25日に公表した震災がれき処理計画の見直し版で、広域処理の必要量を69万トンに下方修正した。昨年11月末時点の136万トンから半減。当初の推計の401万トンと比べると、実に6分の1にまで落ち込んだ。
広域処理のうち、主な対象である宮城県の可燃物と岩手県の木くずは3月末、残る岩手県の可燃物なども12月末にそれぞれ終了する。当初予定の来年3月末から約1年の前倒しとなった。
東日本大震災直後、環境省は「がれきの量は宮城県では通常の19年分、岩手県は11年分。被災地の処理能力には限界がある」と主張した。
ところが、がれき総量と広域処理の必要量は、昨年5月以降の見直しのたびに「相当量のがれきが津波で海に流出していた」 「想定以上の土砂があった」などの理由で圧縮されてきた。
それでも環境省は「広域処理は必要」と譲らなかった。今回の下方修正については「仮設焼却炉の本格稼働で、現地の処理能力が向上した」と強弁するが、それは当初から織り込み済み。がれきの量が減り続けた結果、前倒しする以外に手がなくなったのが真相だ。
「震災から半年後、県の執行部は広域処理について初めて議会側に説明した。だが、量や経費、受け入れ先を聞いても答えることができなかった。最初からアバウトな話だった」(相沢氏)
◆結局は税金の無駄使い
一方、広域処理に協力した自治体は、はしごを外された格好だ。
昨年9月、西日本で初めて震災がれきを受け入れた北九州市。宮城県石巻市分を来年3月までに最大6万2,500トン処理する予定だったが、宮城県は3月末で搬出を打ち切る。
反対派の斎藤利幸弁護士(60)は「広域処理が必要なかったことを自ら認めたようなものだ。北九州市の反対運動が広域処理の拡大を防いだ」と強調する。
北九州市のがれき処理をめぐっては、市議会が全会一致で受け入れを求める決議案を可決した昨年3月以降、賛否両派が激しく対立してきた。
北橋健治市長は「がれき処理なくして被災地の復興はない」と説いたものの、反対派は猛反発。市の説明会は反対の声に包まれた。
当時、既にがれきの量の減少が表面化していた。業を煮やした斎藤氏ら反対派142人は昨年7月、広域処理は違法だとして北九州市と宮城県を相手取り、福岡地裁小倉支部に損害賠償を求める訴訟を起こした。
訴状によると、宮城県が同県石巻市などのがれき処理委託契約をゼネコンの鹿島東北支店などの共同企業体(JV)と締結したにもかかわらず、同じがれきを北九州市に委託することは「二重契約に当たる」と主張。
試験焼却時の運搬費が1トン当たり17万5,000円と高額だったことを引き合いに「税金の無駄遣いだ」と指摘した。
原告団(現在297人)は、宮城県への訴えを取り下げる方針だが、北九州市とは徹底抗戦する。斎藤氏は「広域処理の違法性を明らかにする。市が過ちを認めるまで闘う」と言い切る。
各地で広域処理が収束する傍ら、大阪市は今月1日から本格処理を開始した。大阪府知事時代から受け入れに動いてきた橋下徹市長の肝いりだ。府・市と岩手県は、来年3月末までに可燃物のごみ3万6,000トンの受け入れで合意している。
これに対し、ここでも激しい反対運動が展開されてきた。大阪府の住民ら260人は先月23日、府・市に処理の差し止めを求める訴訟を大阪地裁に起こした。
大阪の反対運動では、市民が逮捕される事態も相次いだ。大阪府警は昨年12月、JR大阪駅前で広域処理反対を訴えていた阪南大学の下地真樹准教授(40)ら3人を威力業務妨害容疑などで逮捕。一人は威力業務妨害罪で起訴された。関係者によると、昨年9月以降、がれき反対や脱原発運動に絡み、下地氏を含む計10人が逮捕され、6人が起訴されたという。
下地氏は警察介入の不当性を訴える集会で「広域処理は経済的に不合理で、焼却により放射性セシウムが漏れる懸念がある。権力は逮捕という圧倒的な暴力を行使したが、放射能拡散に反対する私たちを黙らせることはできない」語った。
「がれき処理・除染はこれでよいのか」などの著書がある明治学院大学の熊本一規教授(63)=環境経済学=は「広域処理には、ゼネコンが利権に群がった」と断じる。
◆東電の負担で集中・隔離を
「原子力ムラの住人たちは福島原発事故の責任を取らないばかりか、ゼネコンと原発関連業者 が事故の後始末でもうける仕組みをつくった。放射能に汚染されたがれきは東京電力の負担で、福島原発周辺に集中・隔離されるべきだ。しかし、実際には広域 処理と除染、避難者の帰還がワンセットで推進されている」
地元にがれき処理を託せば、雇用創出にもつながる──かつて宮城の建設業者からそう聞いた。だが環境省はゼネコンに丸投げし、ゼネコン都合の広域処理計画 が難航するや、省自らが宣伝に乗りだした。「絆の美名さえ掲げておけば、国民なんぞ…」という魂胆が透けた。多数派はまんまとだまされた。(牧)
えっ!?がれき処理「検討」だけで復興予算約86億円 返還要請は検討なし 堺市
- 産経新聞
- 2013年03月11日20時52分
東日本大震災で発生したがれきを受け入れない堺市が、復興予算約86億円をごみ処理施設の新設費などとして受け取ることが9日、分かった。
がれきの処理に困った環境省が、受け入れを検討しただけの自治体にも復興予算の交付を決めたためだ。小さな自治体の年間予算にも匹敵する巨額の資金だけに、「本当にもらっていいのか」と疑問の声も上がっている。
堺市によると、堺区の臨海部に建設総額約182億円のごみ処理施設を整備中で、今年4月に供用開始を予定している。
市は昨年1月、この施設の建設事業費と老朽化している東区のごみ処理施設の改修事業費のうち、約86億円分を平成24年度の国の交付金対象事業と位置付けた。国の交付率に基づき約40億円を要望し、残る約46億円分を地元で負担する予定だった。
しかし国は同4月、「堺市はがれき処理を検討している」として、市が求めていた通常枠の交付金ではなく、新たに設けた復旧・復興枠などでの措置を市に打診。約40億円に加え、地元負担の約46億円分も復興予算で交付する枠組みを示した。
市は受け入れを決定していなかったが、国が「検討レベルでも交付条件に当てはまり、結果的に受け入れることができなかった場合でも返還を求めない」としたため、交付を申請。同6月にがれきの全体量が判明し市が受け入れなくても対応できることになったが、手続きは進行。同10月に交付が決まった。
開会中の定例市議会で市議からは「一部を被災地への義援金とするべきでは」「道義的におかしい」と異論が浮上したが、竹山修身市長は「財源の確保は首長の責務。ありがたくいただきたい」と答弁した。
がれき処理を検討しただけで同様に復興予算を受け取った自治体は堺市のほか、約36億円が交付された埼玉県川口市など6市町3組合ある。堺市の約86億円は突出して高い。
環境省の担当者は「(復興予算は)広域処理を促進させるための起爆剤として計上した予算。がれき処理の検討を促すだけでも十分効果があり、問題はない」としており、返還要請は検討していないという。
東日本大震災の発生から2年がたった。
筆者は震災直後から6度にわたって東北地方のがれき処理の状況や復興の状況を現地調査し、復興がなかなか進まない現状を見てきた。国や自治体がこれまで明らかにしていた震災がれきの処理状況もはかばかしくない。
まだ現場の混乱が続いていると思いきや、今年2月22日に環境省が発表した震災がれきの処理進捗率は、岩手県38.8%、宮城県51.1%、福島県 30.9%、東北3県合計46.3%で、数字の上では急進展している。宮城県はわずか2カ月程度で20ポイントも進んだことになる。
何か数字のマジックがあるのではないかと思い、2月末に再び東北を訪問した。
被災地を回ってみてまず驚いたのは、震災がれきの処理が目に見えて進展していたことだ。岩手県と宮城県の現地を見るかぎり、どの被災地でも震災がれきの撤去はほぼ完了していた。一次仮置き場に十数メートルの高さに積み上げられていた震災がれきもすっかり消えていた。
環境省発表の数字の上では、未処理の震災がれきがまだ半分残っているはずなのだが、一次仮置き場の震災がれきはどこに行っても見当たらず、二次仮置き場 (仮設処理施設)で見られる震災がれきの山も小さかった。震災がれきを満載して走るダンプトラックの数も減ったように感じた。現地では環境省発表の数字以 上に処理が進展しているという印象を受けた。
震災がれきは、どこに行ってしまったのか。それを考える前に、これまでのがれき処理の状況を振り返ってみよう。
進んでいなかったはずのがれき処理
震災発生直後、阪神淡路大震災を超える莫大な量の震災がれきの発生に、国も地方自治体も途方に暮れた。その量は東北地方の中核都市の通常年の一般廃棄物 発生量の30年分とも100年分とも報じられた。震災がれきの処理責任がある市町村の対応能力を超えていることは明らかだったため、国直轄処理、県委託処 理、広域処理協力など、さまざまな支援措置が講じられた。
しかし国直轄処理は民主党政権の方針が二転三転して迷走したあげく、鳴り物入りで「がれき処理特別措置法」が成立したものの、国に期待を表明していた宮 城県は既に時機を逸していて見送りとなり、福島県の2市町村で3基の焼却炉が建設されるにとどまっている。県委託処理は宮城県の12市町、岩手県の7市町 村が参加したものの、用地買収の遅れなどから本格的に立ち上がったのは震災後1年以上過ぎてからだった。広域処理協力は環境省の依頼に応えて東京都をはじ め多数の自治体が受け入れ表明し、当初は義勇軍の様相を呈したものの、放射能拡散懸念から住民に拒絶されて頓挫する例が相次ぎ、被災地での域内処理の体制 が整ったため、現在はほぼ手じまいとなっている。
筆者も震災直後の現地を訪れたとき、莫大な量の震災がれきや津波堆積物を目の当たりにしてあ然とし、広域協力による早期処理(2年間で処理終了)の必要性を訴えた。
震災1年後の昨年3月の時点では、処理が順調に進捗していたのは仙台市だけだった。宮城県が計画した29基の仮設焼却炉はようやく一部が試験運転を始め た程度で、岩手県では頼みとした太平洋セメント大船渡工場の2基のキルン炉が2011年末に完全復旧したばかりだった。また、両県に対する広域処理協力も 限定的なものにとどまっていた。福島県にいたってはほとんど処理は手付かずで、放射能問題から広域処理も頼めなかった。この結果、3県合計の処理進捗率は 震災1年後の時点ではまだせいぜい10%だった。環境省は震災がれきの処理終了目標を震災発生から3年後の2014年3月とし、各自治体も同時期を処理終 了目標としていたが、目標達成を危ぶむ声が多く聞かれた。
その後、岩手県では完全稼動した太平洋セメント大船渡工場をセンターとして、二次仮置き場での破砕選別処理(セメント原料化)が本格化した。しかし昨年12月、火災によって処理が休止するというハプニングがあった。
宮城県でも昨年4月以降、仮設焼却炉や破砕選別処理施設が順次稼動を開始し、8月ごろには大半の施設が本格稼働した。しかし、二次廃棄物(処理残渣)を 出さない完全リサイクルのセメント工場と違って、宮城県の仮設処理施設は不燃がれきや焼却灰の最終処分先が確保できないという問題を抱えていた。こうした ボトルネックのため、宮城県は昨年12月の県議会で、12市町から受託した震災がれき処理進捗率が30%にとどまっていると報告していた。
それなのになぜ、震災がれきの処理は年明けから急進展したのか。
震災がれき処理急進展の真相
実は処理が進展したのではなく、震災がれき発生推計量が下方修正されたのである。
東北3県37市町村の災害廃棄物発生推計量を、震災直後の2011年6月時点と今年2月時点で比較すると、東北3県合計では2183万tから1628万 t(-555万t)、岩手県では446万tから366万t(-80万t)、宮城県では1509万tから1102万t(-407万t)、福島県では228万 tから160万t(-68万t)と、3県平均25%も減少している。
なぜ、このような大幅な下方修正となったのか。第一の理由は、当初の発生推計量は航空写真による被災面積に、これまでの災害の経験を踏まえた係数をかけ て割り出したものだったが、その後、撤去実績数値に徐々に置き換えられたのである。昨年中から何度か下方修正されてきたが、年明けの修正は特に大きかっ た。
第二の理由は、当初の発生推計量は被災建物の基礎まで除却することを想定していたが、全滅市街地では基礎を除却してしまうと宅地の境界が不明になること や、撤去工期を短縮する観点から、基礎を除却しない現場が増えたからである。戸建て住宅の場合、基礎は住宅全体の3割程度の重さにもなるので、基礎を撤去 するかしないかでは震災がれき量は大きく違ってくるのである。
震災がれき発生推計量はかなり下方修正されたが、現地の未処理がれきがもっと少なく見えたということは、これからさらに分母が下方修正される可能性を示 唆している。撤去に同意しない被災建物もかなりあること、処理施設ができる前から道路や仮設施設の造成などに有効利用されたコンクリートがれきなどの量が 処理量にカウントされていないことなども、震災がれき発生推計量や処理進捗率の誤差となっている。
震災がれき発生推計量が下方修正された結果、広域処理協力を中止する動きや、処理終了目標(2014年3月)を前倒しする動きが出ている。環境省発表の 広域処理協力状況は、2月22日現在、実施済み、実施中、実施決定済みの自治体が1都1府13県65件、受け入れ見込み量約62万t(岩手県分約29万 t、宮城県分約33t)、受け入れ済量約25万tとなっている。このほか協力表明済みが1都1県4件、試験処理実施済みが2県2件ある。環境省は広域処理 協力を震災がれき処理の切り札として推進していたが、結果的にはいまひとつ広がりを見せず、協力表明済みなどを含めても全国で71件にとどまっている。
岩手・宮城両県とも、広域処理協力量を含めて処理終了目標を達成する計画なので、広域処理協力はまだ必要だとしている。しかし、これはお願いしておいて いまさら要らないとも言えないから、表向き必要と言っているにすぎない。岩手、宮城両県で487万tも発生推計量が下方修正されたのに、数十万t程度の広 域処理協力がまだ必要だというのは意味がない。高い運搬費がかかる広域処理は、本音を言えば全面的に休止し、県内処理に切り替えたいのである。すでに両県 とも新規の協力要請は見合わせており、宮城県は4月から可燃物の広域処理を中止すると発表している。
がれき処理施設が余ってしまった
震災がれき発生量が当初推計されたほど多くなく、処理が予定より早く終わる見込みとなったのは良いことだと思うかもしれない。だが、過大な推計に基づいて過大な施設を建設し、過剰な人員を雇用したことは税金のムダ遣いである。
最大の震災がれきが発生した宮城県は、県下の12市町からの震災がれき処理受託量を1107万tと見積もって、県下を4ブロック8処理区に分け、処理を ゼネコンなどで構成されるジョイントベンチャーにプロポーザル(企画提案型入札)で発注し、仮設焼却炉29基(焼却能力1日4495t)、破砕・選別施設 12カ所を建設した。言葉は悪いが、いわゆる丸投げである。ところが、今年1月の見直しでは受託処理量が582万tに下方修正され、減少率は47%にも なってしまった。つまり、単純計算で仮設処理施設の能力は半分でよく、予算も半分で足りたことになるのである。
国はこれまでに1兆821億円の震災廃棄物処理事業費を計上している。震災がれき発生量が下方修正されても、予算は減額されない。すでに過大推計に基づ いて施設を建設してしまったからである。筆者も震災直後に、災害廃棄物処理事業費は最大1兆円と予測したことがあるので呵責を感じる。
現場では過大施設の別の問題が生じている。焼却炉は一定以上の廃棄物がないと定常運転ができず、休止する可能性があるのだ。実際、宮城県では焼却する廃 棄物が不足する処理区が出ており、他地区から廃棄物を融通したり、震災がれき以外も処理しようという案も出ている。また早く処理が終わってしまうと、雇用 の問題が出るので、予定通りの処理期間にするため処理をペースダウンせよという指示が出たとも聞く。声高には言えないことであるが、これが消えた震災がれ きの真相である。
その一方、道路や宅地の嵩上げ工事のため、震災がれきや津波堆積物から再生したグリ(砕石)や土砂は引く手あまたの人気商品となっている。再生資材の品 薄は、今後の復興のスケジュールにも影響を与える問題であり、国土交通省は全国の公共事業から発生する再生資材や残土を東北地方へと海上運搬する検討に 入っている。莫大な震災がれきを前にして茫然自失していた状況から一転して、廃棄物が足らない事態となっているのである。
それにしても仮設処理施設を着工する前に震災がれきの発生量を見直すチャンスはなかったのだろうか。需要の変化を検証せず、オーバースペックの無用な施 設を既定方針どおりに建設して税金をムダ遣いしたというのは、どこかで聞いた話である。一度計上した予算は減額せず、ムダとわかっても予算を使い切るのが 仕事だと勘違いしている職員は国にも自治体にも少なくない。予算をチェックすべき財務官僚も、一度付けた予算は減額しようとしない。それどころか、予算を 余らせることを厳しくとがめる。予算を減額補正したり、不用額や事故繰越を発生させたりすることは、予算査定が甘かったことになり、財務省の無謬(むびゅ う)主義に傷がつくからだ。この無謬主義という幻想を守るために、どれほどの予算がムダになったことだろう。
災害廃棄物処理事業と同じような過大見積もりによる復興予算の暴走は、今後の復興工事でも起こるに違いない。それを事前にチェックする機能は行政にはないのである。
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