【ニューヨーク=財満大介】米大手銀行、シティグループは15日、2007年10―12月期決算で、信用力の低い個人向け住宅融資(サブプライムローン)に絡み、235億ドル(約2兆5000億円)の損失を計上したと発表した。米大手証券メリルリンチも損失計上が必至で、欧米大手金融機関20社の関連損失は合計で1000億ドルを超えたもよう。資本不足に陥るのを防ぐため、メリルはみずほコーポレート銀行などから、シティはシンガポールや中東から合計で200億ドルを超える出資を受け入れる。
追加損失計上が続いているのは、金融市場でサブプライムローン関連の証券化商品の価格下落に歯止めがかからないため。シティの10―12月期の損失の大半は有価証券の評価損で、計181億ドル。さらに消費者ローンの貸倒引当金の増加などで54億ドルを計上した。シティは7―9月期にも64億ドルの関連損失を計上しており、合計の損失は約300億ドルに達した。
年明け早々、JFEホールディングスとIHIが造船事業を統合する交渉を始めたことが明らかになった。今年もM&A(合併・買収)が企業経営の大きなテーマになることは間違いない。米国景気の後退懸念や資源・エネルギー価格の高騰、株価の低迷など企業を取り囲む経営環境は不透明だ。しかし経営者は変化に振り回されるのではなく、変化を好機に変えるM&Aで企業の成長につなげてほしい。
世界シェアは3%弱
日本企業もM&Aを経営の選択肢として活用するようになったものの、世界市場では目立たない。金融情報会社のトムソンファイナンシャルによると、世界のM&A金額は昨年、約4兆4800億ドルとなり、過去最高を更新した。このうち日本企業がかかわった案件は3%弱にすぎない。株式の時価総額や国内総生産で日本は世界の約1割を占めており、経済規模に比べれば少ない。
昨年夏、米国の信用力の低い個人向け住宅融資(サブプライムローン)の問題が表面化した。以来、欧米の金融機関はリスクの高い買収資金の貸し出しに慎重になっており、投資ファンドの資金調達力が低下した。このため世界的なM&Aブームはピークを過ぎたとの見方もある。
だが財務体質が強く、業績も良い日本企業にとっては、むしろチャンスとの見方もできよう。合併・買収したい企業を巡ってファンドと競合する機会が減るなど、以前より安いコストでM&Aが成立する可能性が高まるからだ。帝人の長島徹社長も「逆張りの発想をすれば好機」と話す。キヤノンの内田恒二社長や三菱商事の小島順彦社長も、社内の年頭あいさつでM&Aに積極的に取り組む考えを伝えている。
もちろんコストだけが成功の条件ではない。まず交渉前の段階で、中長期の事業戦略と課題を明確にしておくことが不可欠だ。どの事業を強化するかという基本方針を固めず、バブル時のように本業から離れた多角化をすると失敗しやすい。
M&Aで業容を拡大してきた企業を見ると、日本電産の「モーター」や、住生活グループの「住宅関連事業の総合化」といったように、強化すべき事業の軸を明確にしていることが多い。キリンホールディングスは昨年、医薬事業強化のために協和発酵の子会社化を決めたほか、豪乳業大手を買収した。これも「食と健康」という同社の重点領域に沿った決断といえる。
買い手に回るだけがM&Aではない。「選択と集中」のために不採算事業を売却したり、他社の資本や技術、経営ノウハウを導入したりするために売り手になることも前向きにとらえるべきだ。特に外国資本は導入拡大の余地が大きいだろう。
M&A仲介のレコフによると、外国企業による日本企業のM&A件数は昨年、308件と過去最高を記録した。ただ、外国企業が自社株を対価に日本企業を買収できる「三角合併」は昨年5月に解禁されたのに、年内の成立は1件に終わった。米シティグループによる日興コーディアルグループの買収だけである。
敵対的買収に備えて株式を持ち合う企業が増えてきた。だが投資家に成長戦略を示さず、内向きな印象を与えると国内外の資金を呼び込めなくなる。世界のお金の流れは大きく変化し、投資ファンドのほか、中国などの新興国や中東産油国が資金の出し手として台頭してきた。閉鎖的なイメージを変えて世界のマネーをひきつけるため、例えば日本を代表する航空会社を自任する日本航空が、外資から資本調達するといったことも一考に値するのではないか。
成立後の経営が肝心
改めて指摘するまでもなく、M&Aでは成立後の経営の成果が肝心である。同業者間のM&Aでは昨日までのライバル企業が合流するため、企業風土の違いから摩擦が生じ、期待した効果が出ないことも多い。
日本電産の場合、永守重信社長が自ら買収先に乗り込んで陣頭指揮し、コスト削減や意識改革を進める手法が定着している。日立製作所から買収した日本サーボも前期まで2期連続で営業赤字だったが、買収後の半年で営業黒字に転換した。
M&A成立後の経営に決まった方程式はない。建材大手トステムの創業者で、住生活グループ元会長の潮田健次郎氏は「買収で取り込んだ事業が軌道に乗るかどうかは、事業を誰に経営させるかによるところが大きい」と話す。その人選もトップの重要な仕事である。
合併で両社のトップが会長、社長のポストを分けあう場合、2人がどれだけ密に意思疎通をするかで、新会社の融合が大きく左右される。両トップの経営方針が食い違ったままでは社内の分裂を招く。M&A成立後の経営方針を浸透させ、相乗効果を生む道筋をつけるのは経営トップの責任である。
日経社説
渡辺喜美金融担当相は16日、新潟県三条市内で記者会見し、米国の信用力の低い個人向け住宅融資(サブプライムローン)関連の邦銀の損失に関し、「一般的な傾向として減っていることはあり得ない。増えていると思う」と述べた。その上で「現時点で日本の金融システムに大きなダメージを与える状況ではないが、油断は大敵だ」と指摘した。
金融庁は昨年12月、全国の金融機関が保有するサブプライム関連の証券化商品の残高が同9月末時点で1兆4070億円に上り、損失額は約2760億円に達したと公表していた。金融相はこの損失額がさらに膨らむ可能性があるとの見通しを示した。
金融相は来年度に創設を目指す地域力再生機構についても言及。「企業再生という点だけではなく、地域という面の再生をもくろんだ新しい取り組みで、地域の活性化に大いに役立ててほしい」と述べ、地域金融機関へ積極的な活用を促した。 (14:31)金融相、サブプライムで「邦銀の損失増えている」
渡辺喜美金融担当相は16日、新潟県三条市内で記者会見し、米国の信用力の低い個人向け住宅融資(サブプライムローン)関連の邦銀の損失に関し、「一般的な傾向として減っていることはあり得ない。増えていると思う」と述べた。その上で「現時点で日本の金融システムに大きなダメージを与える状況ではないが、油断は大敵だ」と指摘した。
金融庁は昨年12月、全国の金融機関が保有するサブプライム関連の証券化商品の残高が同9月末時点で1兆4070億円に上り、損失額は約2760億円に達したと公表していた。金融相はこの損失額がさらに膨らむ可能性があるとの見通しを示した。
金融相は来年度に創設を目指す地域力再生機構についても言及。「企業再生という点だけではなく、地域という面の再生をもくろんだ新しい取り組みで、地域の活性化に大いに役立ててほしい」と述べ、地域金融機関へ積極的な活用を促した。
NIKKEI (14:31)
社説1 日経平均株価1万4000円割れの警告(1/16)
日本株安がとまらない。昨年から不安定な足取りを続けていた日経平均株価は15日、1万4000円をも割り込んだ。2年2カ月ぶりの安値である。米欧やアジア諸国などに比べても振るわない日本株は、暗雲が垂れこめる景気やおぼつかない政策運営に対する市場からの警鐘であるようにもみえる。
下げ止まらない株価には複合的な理由がある。何よりも景気の不透明感。長期平均を100とした経済協力開発機構(OECD)の景気先行指数でみて、2007年11月の日本は95.0と前年比6.3ポイント落ち込んだ。ユーロ圏は98.1、米国は100.1だ。先行指数には株価が含まれており数字を誇張するきらいはあるが、全般的に日本の景気は米欧に比べても振るわない。
しかも日本の成長のけん引役は外需、株式市場の主役は外国人投資家と、「外頼み」の色彩が強い。そのため、米景気と市場が揺らぐと、市場の不安心理が増幅されやすい。とりわけ15日は米国でシティグループの07年決算の発表を控え、信用力の低い個人向け住宅融資(サブプライムローン)に関する損失への疑心暗鬼が募っていた。
額賀福志郎財務相は米銀決算に警戒感を示した。米欧勢より少ないとされた日本の金融機関の損失についても、福井俊彦日銀総裁は15日の日銀支店長会議で「当初の想定に比べ拡大している」と認めた。みずほコーポレート銀行などは米メリルリンチに出資することになったが世界的に損失の全体像がつかめないなか、一連の資本増強策で市場が安心感を取り戻しつつあるとは言い難い。
衆参ねじれ国会で日本の政局が混迷していることも、市場心理を慎重にさせている。新年度予算が速やかに成立するかばかりでなく、3月の07年度末を超えると失効する「日切れ法案」が今年度内に成立するか、国会同意人事である日銀新総裁が円滑に任命されるか。経済運営の根幹にかかわる事柄が不透明なままだと、景気失速、政治混迷、株価下落の悪循環が起きる恐れもある。
07年度の日本の実質成長率は政府の実績見込みで1.3%と、1年前の政府見通しを大幅に下回った。内閣府の試算によれば、11年度の名目成長率は3.3%と昨年8月の試算を0.4ポイント下回り、黒字化をうたっていた11年度の基礎的財政収支は赤字を抜け出せないという。国と地方が抱える長期債務は国内総生産(GDP)の約1.5倍。本当に大丈夫なのか。市場が問うているのは、まっとうな政策運営だろう。