2008年の経済が挑戦を受けている。サブプライムローン(信用力の低い個人向け住宅融資)問題で米経済がどれだけ減速するか。けん引役として期待される新興国にどの程度の影響が及ぶか。そして日本は土俵際で踏ん張れるか。経済運営に求められるのはそんな危機感だ。
重層的なリスク拡散
今日の世界経済と金融市場の姿を1年前に指摘した人がいたら、大笑いされただろう。それほどグローバル経済を取り巻く環境は一変した。例えば1月23日に始まる世界経済フォーラムの年次総会(ダボス会議)。世界経済の死角はないかが昨年のテーマだった。今年はリスク評価が10年ぶりの高水準。なかでも金融の連鎖破綻リスクや資産価格の下落は、下手すると1兆ドル超の損失を招く最大の懸念事項とされる。
米国のサブプライムは問題の震源地である。どのくらい損失が膨らんだのか。バーナンキ米連邦準備理事会(FRB)議長は17日、「現時点では1000億ドル(約10兆7000億円)の焦げ付きだが、数倍に膨らむ可能性がある」と議会証言した。
米大手金融機関のシティグループやメリルリンチは昨年10―12月期にそれぞれ1兆円を超えるサブプライム絡みの評価損を計上した。住宅融資が焦げ付けば担保不動産は差し押さえられ、競売にかけられる。すでに下げだした住宅価格が、その過程で一段と下落する公算が大きい。
住宅ばかりでなく、商業用不動産の雲行きも怪しい。関係者が気をもむのは、全米で700近いショッピングモールを保有する豪不動産投資信託運用会社の資金繰りだ。2月半ばには39億豪ドル(約3700億円)の借金返済の期日が迫る。万一のことがあると、物件の処理がかさみ商業用不動産の市況を悪化させる。
証券化商品などを信用保証してきた、モノラインと呼ばれる金融保証会社も揺らいでいる。業界大手のアムバック・フィナンシャル・グループは18日、格付け会社フィッチ・レーティングスに格付けを下げられた。最上格の格付けを持つ金融保証会社による証券の保証額は2兆ドル以上。保証会社が格下げされれば、証券の信用力も落ち、証券を保有している投資家も相当な損失を被る。
米国がダメでも、ブラジル、ロシア、インド、中国のBRICsなど新興国は好調である。こんなデカップリング(非連動)論をよそに、新興国の株価はこのところ大幅に下げている。米景気減速で新興国から米国への輸出が鈍化しないかという心配がひとつ。事実、アジアから米国への船荷は頭打ちとなっている。
もうひとつ気になるのは、米投資家が海外の株式や債券を売り始めた点だ。昨年11月時点で米国の対外証券投資は売り越しに転じた。株式が売り越しになっているのは日本ばかりでなく、韓国なども同様。米国発の信用収縮が起きかねない。
ブッシュ政権は18日、個人、企業向け緊急減税をはじめ総額1500億ドルの緊急経済対策を発表した。バーナンキFRB議長も17日の議会証言で財政出動に異例の支持を表明し、「金融政策も必要に応じて大幅な追加措置をとる」と強調した。
一連の措置を歓迎したいが、雇用、消費、企業収益など全般に減速局面に入る米景気を反転させられるかは微妙だ。金融機関の破綻が深刻な経済危機を招いた1997年の日本のような事態の回避に、米政府とFRBは全力をあげてもらいたい。
日本にとっても人ごとではない。福田康夫政権から真剣な危機意識が伝わってこないのは遺憾だ。
成長戦略の中身こそ
18日の施政方針演説では首相は成長加速への3本柱を提唱した。革新的技術創造戦略、グローバル戦略、成長を実感できる全員参加の経済戦略と言われても、抽象的すぎて何のことやらそれこそ実感できない。
17日に経済財政諮問会議が打ち出した中期見通し、「日本経済の進路と戦略」も同様の問題を抱えている。諮問会議によると、改革を進めれば11年度の名目国内総生産(GDP)は574兆円となる。07年度の実績見込みは516兆円。4年後にGDPが58兆円も増える勘定である。本当だろうか。
産業別GDP(付加価値)でみると、基幹産業である電機が17兆円、自動車など輸送機械は14兆円だから、毎年、電機や自動車に匹敵する産業を生み出す必要があるのだ。あるいは北海道と東北地方に匹敵する経済を4年間で新たに創出しなければならない。どのようにしてこの課題を達成するのか、政府と諮問会議はもっと具体的に語るべきだ。
そうでなくとも、日本の経済政策への信認は低下している。株価に一喜一憂しないというのも良いが、政策が株安の要因とすれば罪は重い。ダボス会議は絶好のチャンスである。福田首相はこれらの疑問に自分の言葉で答えてほしい
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