緑の風

散文詩を書くのが好きなので、そこに物語性を入れて
おおげさに言えば叙事詩みたいなものを書く試み

廃墟のような古い屋敷(poem)

2022-10-27 20:29:55 | 

 

廃墟のような古い屋敷(poem)

 

 

奇妙で美しい街角に廃墟のような古い屋敷

そこに垣根に咲く花は秋になると、緑にまじってコスモスの花が横に並んで咲いている

そこに、背の高いほっそりした丸顔の若い若い女が

夕暮れの沈む頃になるまで、黄色い服を着て三十分ほど立っている

誰かを待っているのだろうか

それとも、夕日を見るためだろうか

通りは細い通りで、前には歯医者と床屋が小さな公園のような家を挟んで建っている。

 

ある日のこと、その古い屋敷の二階の窓から、

ヴァイオリンの響きが四方八方に聞こえるのだった

音色は悲しみに満ちていて

詩人なら、胸をうたれる音色だった

遠くから、森の緑の風が強く吹いて

ざわざわと音をたてたかと思うと、

今度は雨がざーと降るかと思うと、

稲光がさーと射して

古い屋敷の横の大木に落ちた。

それでも、花は宝石のような露をたくさん輝かせて、逞しく雨にたえていた。

 

ある日のこと、曇って、雨の降りそうで、稲光が遠くに響くその日

テレビでは、ウクライナ戦争の報道が響き

台所では、猫が魚を見つけて喜び、

黄色い服の女はコーヒーを飲んでいた。

テーブルの上には日記帳があり、

「道元はすべての人に仏性があると言う。話し合いが大切。対立は静めないと、雷が落ちて、人はいなくなってしまうわ」

テーブルの上には、彼女に似た若い男の写真が飾られていた。

写真は一年前に、車の事故で亡くなった弟だった。

なぜか弟の写真には黄色いオンシジュームの一輪挿しの花が映っていた。

オンシジュームには弟の誕生日の思い出があり、彼女は黄色い服を好むのだった。

それで、黄色い服を着た女は、写真の横に写真と同じ花をいけたのだった。

 

この百年をとっても、

こうした沢山の弟と姉の悲劇がこの地上に繰り返されてきた。

思い出すのは、晶子の「ああ、弟よ。君を泣く」の歌ではないか。

この繰り返す悲劇をなくす知恵がヒトにはないのか

オンシジューム、オンシジュームと女は口で唱えていた。

すると、寺の鐘が鳴り始めた。

世界は何かの新しい時代の夜明けのように、明るくほのぼのとし始めた。

真昼の秋の太陽が町を守るように、守るように燦然と輝き、幻の弟は公園の緑の上に座禅しているようだった。

女は相変わらず、オンシジューム、オンシジュームと、

黄色い花に呼び掛けていた。

 

 

(参考 )

与謝野晶子の詩

ああ おとうとよ、 君を泣く
君死にたまふことなかれ
末に生まれし君なれば
親のなさけはまさりしも
親は刃をにぎらせて
人を殺して死ねよとて
二十四までをそだてしや

堺の街のあきびとの
旧家をほこるあるじにて
親の名を継ぐ君なれば
君死にたまふことなかれ
旅順の城はほろぶとも
ほろびずとても何事ぞ
君は知らじな、あきびとの
家のおきてに無かりけり

 


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