休日は、子どもにとって楽園です。バイクのいたずら相手は、小5のお兄ちゃんになりました。お互いに一人っ子だから、本当の兄弟のように接してもらえていました。私の人格形成に大きな影響を与えてくれました。彼も、ベンリイちゃんのいたずらに没頭していて、いっしょに練習しようと誘ってくれました。
お兄ちゃんと話すと、ベンリイちゃんのチャーミングポイントは、ヘッドライトの形、キーを差し込む位置、エンジンやセルモーターの音だと言いました。私と同じで、気が合いました。お休みの日は、ベンリイちゃんはお父さんの送り迎えがないから、夕方、お母さんが買い物に行くまで遊ぶことが出来ました。
アパート裏手は砂山を崩したちょっとした広場になっていました。やはり、子ども同士の遊びだから、目の届く範囲でと許されたのがここでした。ヨーロッパへ旅したことがありますが、男の子も女の子も、バギーという小さな四輪のクルマやミニバイクで、大人の目の届く範囲で遊んでいるのです。日本もモータリゼーションが推奨されていた昭和40年代までは、事故も少なく、バイクの運転技法は、家族や知人を通して伝えられて行きました。そんな長閑な時代に、遊びながらベンリイちゃんの運転のコツを覚えました。
さて、この空き地は、アパート前の取り付け道のどん詰まりから、砂地の小道を降りて行きます。お兄ちゃんのお家から出て、途中まではコンクリート、その先が悪路になるので、砂地のため、転倒しても怪我が少ないです。この空き地で遊べるのも、住宅造成が始まるまでの半年ほどでした。
砂山を上がったり下りたり、エンジンの唸りの変化を堪能出来ました。
アパート前の取付け道路から、きちんとエンジンを始動させて向かいました。角形のライトが大好きだから、昼間でもヘッドライトを点灯させていたずらしました。
「お兄ちゃん、鍵を左に回すとモーターの音をさせて遊べるんだよね。」
「よく覚えたね。」
カチッキュルキュルキュルキュルキュルキュル....
2人で指を重ねながら操作しました。
「お兄ちゃん、右の親指と人差し指尖らせて押すとずっとずっとモーターが回るんだよね。」
「キュルキュル、いい音だよね。」
「ここって、ピストンをガソリンが燃えやすいように揃える場所なんだよね。」
「そう、エンジンを暖める場所だよ。面白いけど、モーターが焼けると怖いから、お休みさせようか。」
「うん。」
カチッヒューンガクッ
エンジン始動の儀式のひとつが終わりました。
つづく