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「エンジンかけてみるね。」
カチッキュトットッルキュトットッル....
「親指と人差し指で真ん中ギューッと押さえてるよ。方向標示器使う時は、親指動かすからこう。人差し指の爪で押さえているの。ライトどう?」
指先とヘッドライトがお兄ちゃんに見えるよう、車体を左に傾けました。
「暗くなったり明るくなったりしているよ。」
カチッ
「ボタン緩めたよ。脇を挟んでいるよ。」
指先をパッと素早く広げました。
ヒュー
「モーターが惰力になったね。」
「ここでアクセル開けてみるね。どうなるかなぁ。
トットットットッーンカチッガクッ
「モーター止まった。」
トットットットッ
「エンジン止まらない、良かった。発電している。もうちょっと開けるね。」
ドッドッドッドッ
「止まらない。もうちょっと開けるね。」
ドロッドロッウオーー
「いい音してきた。唸ってる。」
「ボタン、また押してるよ。もう、キュルキュルいわない。」
「エンジン暖まったね。」
これで、 モトクロス乗り、出発です。
つづく
この空き地は、新潟交通の社宅の前身となるべく廃車住宅街になったのです。新潟地震で、バス路線が寸断されると市内から郊外へ営業所を分散させることとなり、造成が始まりました。母が働き始める際に初乗車して行ったバスも、順次運ばれた乗務員社宅に一泊して出て行く、東浜谷町始発の希少となっていたボンネットバスでした。
そんなわけで、トレーラーやレッカー車に近づき、運転手さんにエンジン始動や停止の方法を見せてくれと、お兄ちゃんと見せてもらいに行きました。トレーラーとレッカーはどちらもFUSOのボンネットタイプで、車高の高い4WDで、雪道に強い仕様でした。どちらがどちらか忘れましたが、予熱ボタンが始動ボタンと並んでついている、呉羽製のバスと同じ仕組みになっていました。デコンプレバーは、作動させるとバネで戻る仕組みでした。車高が高い車体は勇ましく見えたものです。
つづく
ピストンの位置合わせは、モーターとキックで遊びながら終えました。この機能があるおかげで、気温が低くても、チョークを使用する機会が少なくて済んだのかもしれません。
コチッコチッコチッ
ヘッドライトとニュートラルランプが点灯しました。
ピッピッ
あまり鳴らさなかった警笛ですが、左親指てボタンを押して、確かめました。
カシャッカシャッ
左親指でハイビームとの切り替えも確かめました。これで電装系の故障がないことがわかりました。お兄ちゃんは、楽しむなら、きちんと点検して、と話していました。お父さんは、お母さんとお兄ちゃんに細かく部品の名前や役目を教えていたのです。
この日のモーターとエンジンの調子はいかがかと、調整が始まります。
つづく
父も母も、お兄ちゃんとバイクを通してふれあい仲良くなっていることを黙認していました。長閑な昭和30年、40年代でした。課業日は帰宅したら宿題をきちんとしなくてはいくないから、冬場はほとんど遊べませんでした。だから、休日は天国なのです。
休日のベンリイちゃんは、コールドスタートだから、エンジンを目覚めさせる楽しみがありました。
スッチャリチャリ ポン
アパート前で、鈴つきのメインキーを差し込み、メインスタンドかサイドスタンドを外します。鈴つきのキーは、お母さんとお兄ちゃん用で、お父さんは、もうひとつのキーを持っていたようです。お兄ちゃんと手を取って、車体を押しながら、砂山広場に行きました。
サドルに股がり、左足をしっかり着地させました。
カチッチャリ
キーを左に回して、右手のひらでアクセルグリップを握り、親指と人差し指でボタンを挟み凹まして、モーターを鳴らします。
カチッキュ ル キュ ル カチッヒュッカチッガクッ
ボタンを緩め再度押します。
カチッキュ ル キュ ルカチッヒュッカチッガクッ
歯車やカムが硬いのがわかります。何度か押し離ししているうち、軟らかになりました。
カチッキュルキュルキュルキュルキュルキュル
間欠音が連続音になって行きました。
キュルカチッヒューンカチッガクッ
ボタンを緩め、キックペダルを引き出してボタンを挟みながら何度か踏みました。
ガリッドロッドロッバーンガリッドロッドロッバーンガリッドロッドロッバーン....
すっかり部品が暖まり、和らぎを見せていました。
つづく