呼びかけ人「確かに、これら名前の挙がった軍人のうち、荒木、梅津、土肥原、小磯らは東條とともにA級犯罪容疑で起訴された28人の中に入っている。しかし、起訴されていない固有名詞も多い。この記事作成の動機が何であったか、GHQの文書が出てくればはっきりするのだが・・・。この掲載記事の範囲で判断するしかないが、占領政策を推し進めるうえで必要な部分を時間の流れを追って書いておくという姿勢が読み取れる。当然のこととしてアメリカの正当性を論じなければならないし、自然と“多目的”になったのではないかな。GHQによる新聞用紙統制下、検閲下というなかで連載期日を12月6日からと指定しての掲載だ。米軍による歴史観だと決めつけられても仕方ないが、これを記述するのに際し、多くの日本人が先の大戦をどう受け止め、推し進めた人物たちをどう思っているかを推し量りたかったのではないかな。占領政策を進めるうえで世論というものを強く意識しているのがうかがえる。」
山好き「歴史記述である以上、自然な“流れ”というものがなければならない。日本軍の中国大陸侵攻は詳しいが、そこから太平洋戦への挑み方が一足飛びの感がある。天皇に関しての記述が少ないのも気になる。原爆に関しても少なすぎる」
呼びかけ人「同時並行してドイツを中心としたヨーロッパでの戦況にも多くのスペースを割いている。第2次世界大戦のなかでの日本の位置を描こうと努力している。日本軍の動きに合わせてアメリカ側の国務省の動きを詳細に描いている。ヨーロッパ、中国の戦い方を同時並行的に扱い第二次大戦全体を俯瞰するようになっている」
文明史好き「それにしても。70年前のGHQの慌ただしい動きはすごいね。財閥解体、農地改革や婦人参政権は有名だが、年表だけで辿ってみたんだけど、金融、鉄鋼・造船、繊維、漁業・捕鯨などの産業、それに医療、教育、文化と非常に多岐にわたっている。日本製ペニシリンの市販を森永製菓と万有製薬に限り認可するとか、日本の警察官が進駐軍将校に敬礼を行うよう覚書を出すとか、映画検閲に関する覚書、奄美大島を含む琉球列島・小笠原群島などに対し日本の行政権を停止する覚書・・・、その動きの中の一つがこの『太平洋戦争史』の歴史記述なわけだが、同じ教育部門が扱ったのに、日本語の“ローマ字化”がある。日本語は漢字が多すぎて難解、識字率が上がりにくいために民主化を遅らせていると若い将校がローマ字表記を提案する。しかし、それはどうかなという意見もあって、じゃ「読み書き」の世論調査をやってみようとなった。15歳から64歳までの老若男女17000人を対象にした全国調査をやってみると、なんとなんと98%近い識字率だった。世界的にも例を見ない高さで、この計画は即中止となった。言語というのは民族を特徴付けるもので、民族の心にまで入り込んで、変革を求めようとは、強引すぎるよね。
呼びかけ人「原爆については、連載10日目“無条件降伏”の見出しのところで、こんな風に触れている。 “TNT二万トンの破壊力を有するこの一弾は広島の兵器廠都市の60%を一掃してしまった。偵察写真によれば6・9平方㍄の同市のうち4・1平方㍄が完全に粉砕され、同地区の五つの主要工業目標は吹き飛び、・・・投下後四時間にわたって塵埃と煙が市内を包み・・・直ちに損害の程度を見極めようとすることは不可能であった”と。 たしかにそっけない。そのあとに“ソ連軍進軍を再開”の記事を挟んで“第二回の原子爆弾”の見出しで長崎を書いている。たった百字程度だ。“・・・戦略航空部隊は今度は長崎に投下した。広島の爆弾よりも遥かに大きな破壊力と火災を起こさしめた。爆発の煙は5万㌳も空中に立ち昇り175㍄以上の遠方から望見された”と。 爆撃機のパイロットの報告をそのまま綴っている感じだ」
文明史好き「広島8・6からちょうど一か月後の、九月初めに、あのバーテェット記者が広島に入り『全世界に私は警告する』と人類が初めて経験した、その酷い症状、その惨状を発信、原爆がいかに非人道的であるかを告げている。マッカーサーは烈火のごとく怒り、直ちに日本国外へ追放している。それを考えると、あの時点(「太平洋戦争史」の連載)でGHQはあまり書きたくなかっただろうな」
呼びかけ人「天皇に関してだが、前文の真珠湾攻撃のくだりで“警告なしに攻撃したことは陛下ご自身の御意志ではなかったのだ”と触れている。そして連載の最後の、ポツダム宣言が発せられところで、“ついに日本をして無条件降伏及び連合軍の占領を基礎条件としてこれを受諾せしめた。日本国民にとってこれは公正にして強硬な条項を提出した。即ち軍指導者の排除(但し天皇はその限りに非ず)、武装解除、戦争犯罪者への峻厳なる処罰、日本領土中の諸地域の占領、軍需生産の破壊、・・・日本国民の根本的な自由及び民主主義的傾向への再覚醒などを要求した”と但し書きで記述するが、GHQの天皇に対する考えがはっきり出ている」
(つづく)
※コメント投稿者のブログIDはブログ作成者のみに通知されます