大津は、16歳になった冬の朝大安殿に呼ばれた。
父、天武天皇に呼ばれたのだが…中途半端な我に天皇は何を期待しているのであろう。自分はいずれ長子として皇太子になるのであろう。しかし真にこの国のために将来天皇として約束された我は何がしたいのであろう。わからないのに、覚悟も勇気もない。
自分に相応しいのは花、鳥を愛で風を知り空に瞬く星、静かな月を眺め、詩を詠い、姉上のような心までを包み込んでくれる女人の愛情を感じながら生きていけたら何も望むことはない。そのようなことを言えば姉上は悲しむか…「世捨て人になるために天皇家に生まれたの。」と励ましにも似た憎まれ口をたたかれるかもしれない。
現人神となった父に前で「すめらみことのご尊顔を拝し、大津心より嬉しく申し上げます。」と挨拶をすると「そのような挨拶は父と子としての場では不要である。」と父相好を崩し大津に近寄った。
「そちはますます朕の若い頃に似てくるな。」
「いいえ父上と我は違いまする。」近江朝を倒し現人神とまでなった父と我では全然違うのです、と伝えたかっただけだ。
「そのような他人じみたことを申すでない。大津これよりは宮に来て朕と皇后の相談にのってくれはないであろうか。そちは朕の若い頃に似て人望がある。色々噂も聞く。朕がここまでこれたのは周りに助けてもらったからだ。そなたもそういうところを受け継いだのであろう。我らにはやるべき事が満載だ。どうだ、相談には乗ってもらえないか。」と前のめりで大津に尋ねた。
「我のような未熟者がただ光栄にございます。」
「頼む。」
「皇后さまもお許し頂けているのでしょうか。」
「もちろんじゃ。何故そのようなことを。」
「草壁皇子も一緒の方がよろしいのではと。」
「あぁ、それなら気にするな。問題はない。」
「…承知しました。」大津は絞り出すような声で答えた。皇后は草壁皇子を後継者にしたいと一番に願っているのではないか、我の立場は出過ぎたことにならないのではないかと一抹の不安がよぎった。
「大津、伊勢の斎宮を訪ねてはくれまいか。」と父、天皇は言った。
「え、伊勢の姉上に何かありましたでしょうか。」
「昨年の大雨で神宮の修繕が必要じゃそうな。年を越したというになかなか大伯が申し出なく困った神官から要請があった。見てくるように。」
修繕が必要な建物のそばにいる姉上がとても心細くなったと同時に「承知しました。」と答えたと同時に意気高揚している自分に大津は気づいた。
ただ宮を去る時に色々と気遣いしてくれる采女を美しいとは思ったが、それ以上気を止めることはなかった。
采女は「美しい皇子さま。」と憧れにも似た視線を大津に送っていた。
父、天武天皇に呼ばれたのだが…中途半端な我に天皇は何を期待しているのであろう。自分はいずれ長子として皇太子になるのであろう。しかし真にこの国のために将来天皇として約束された我は何がしたいのであろう。わからないのに、覚悟も勇気もない。
自分に相応しいのは花、鳥を愛で風を知り空に瞬く星、静かな月を眺め、詩を詠い、姉上のような心までを包み込んでくれる女人の愛情を感じながら生きていけたら何も望むことはない。そのようなことを言えば姉上は悲しむか…「世捨て人になるために天皇家に生まれたの。」と励ましにも似た憎まれ口をたたかれるかもしれない。
現人神となった父に前で「すめらみことのご尊顔を拝し、大津心より嬉しく申し上げます。」と挨拶をすると「そのような挨拶は父と子としての場では不要である。」と父相好を崩し大津に近寄った。
「そちはますます朕の若い頃に似てくるな。」
「いいえ父上と我は違いまする。」近江朝を倒し現人神とまでなった父と我では全然違うのです、と伝えたかっただけだ。
「そのような他人じみたことを申すでない。大津これよりは宮に来て朕と皇后の相談にのってくれはないであろうか。そちは朕の若い頃に似て人望がある。色々噂も聞く。朕がここまでこれたのは周りに助けてもらったからだ。そなたもそういうところを受け継いだのであろう。我らにはやるべき事が満載だ。どうだ、相談には乗ってもらえないか。」と前のめりで大津に尋ねた。
「我のような未熟者がただ光栄にございます。」
「頼む。」
「皇后さまもお許し頂けているのでしょうか。」
「もちろんじゃ。何故そのようなことを。」
「草壁皇子も一緒の方がよろしいのではと。」
「あぁ、それなら気にするな。問題はない。」
「…承知しました。」大津は絞り出すような声で答えた。皇后は草壁皇子を後継者にしたいと一番に願っているのではないか、我の立場は出過ぎたことにならないのではないかと一抹の不安がよぎった。
「大津、伊勢の斎宮を訪ねてはくれまいか。」と父、天皇は言った。
「え、伊勢の姉上に何かありましたでしょうか。」
「昨年の大雨で神宮の修繕が必要じゃそうな。年を越したというになかなか大伯が申し出なく困った神官から要請があった。見てくるように。」
修繕が必要な建物のそばにいる姉上がとても心細くなったと同時に「承知しました。」と答えたと同時に意気高揚している自分に大津は気づいた。
ただ宮を去る時に色々と気遣いしてくれる采女を美しいとは思ったが、それ以上気を止めることはなかった。
采女は「美しい皇子さま。」と憧れにも似た視線を大津に送っていた。