「山辺、喜ぶがよい大津から伊勢より天皇へ言伝があった。斎王は快復に向かっていると。ただ油断は禁物としてもうしばらく大津は滞在するそうじゃ。」と皇后さまは仰言った。
「よろしゅうございました。」と申し上げると「寂しいか。」と皇后はお尋ねになられた。
「確かに寂しゅうはございますが、大津さまが安堵なされているのならそれも嬉しゅうことでありますに。」
皇后さまは私と異母姉。こうして訳語田の舎にお訪ねくださった。どうしてこの方は堂々とされておられるのだろう…夫、天武天皇が妃をいくら娶ろうとも泰然としておられる。
「山辺にも息災で留守を頼むと、あるぞ。伊勢からも大津はそなたを案じておる。そなたは幸せものじゃな。」皇后は涼やかな眼差しで私を見つめられた。
「ありがとう存じます。」叩頭した。
「そなたは采女の石川の娘大名児を存じておるか。」と皇后が突如仰言った。
どこまで話して良いか計りかねてしまった。
「噂はかねがね…」
「草壁の独り相撲じゃ。ただ想いびとはいるそうじゃ。」
皇后さまは草壁皇子がここに参られたのをもうご存知なのかしらと不思議に思った。
「山辺、大津は夫天武と違いそなたしか妃がおらぬ。皇統を守るよう…そなたには不本意かもしれぬが他に妃を娶っても毅然とな…その覚悟は必要ぞ。」私を見つめ仰言った。
皇后さまにはあの草壁皇子がおられるのに。父、天智天皇であれば政敵は容赦なく…なのに。私たちに気遣ってくださる。
それにしても皇后さまは寂しさの中にも凛と立っておいでなのだ。
夫と朝政を進めていくことで無二の存在であり続けるから私は泰然としておいでだと感じたのかもしれない。
私は大津さまを想うだけで満足であるし、大津さまも、我が妃よと仰言ってくださった。
それで充分だったわ。
「よろしゅうございました。」と申し上げると「寂しいか。」と皇后はお尋ねになられた。
「確かに寂しゅうはございますが、大津さまが安堵なされているのならそれも嬉しゅうことでありますに。」
皇后さまは私と異母姉。こうして訳語田の舎にお訪ねくださった。どうしてこの方は堂々とされておられるのだろう…夫、天武天皇が妃をいくら娶ろうとも泰然としておられる。
「山辺にも息災で留守を頼むと、あるぞ。伊勢からも大津はそなたを案じておる。そなたは幸せものじゃな。」皇后は涼やかな眼差しで私を見つめられた。
「ありがとう存じます。」叩頭した。
「そなたは采女の石川の娘大名児を存じておるか。」と皇后が突如仰言った。
どこまで話して良いか計りかねてしまった。
「噂はかねがね…」
「草壁の独り相撲じゃ。ただ想いびとはいるそうじゃ。」
皇后さまは草壁皇子がここに参られたのをもうご存知なのかしらと不思議に思った。
「山辺、大津は夫天武と違いそなたしか妃がおらぬ。皇統を守るよう…そなたには不本意かもしれぬが他に妃を娶っても毅然とな…その覚悟は必要ぞ。」私を見つめ仰言った。
皇后さまにはあの草壁皇子がおられるのに。父、天智天皇であれば政敵は容赦なく…なのに。私たちに気遣ってくださる。
それにしても皇后さまは寂しさの中にも凛と立っておいでなのだ。
夫と朝政を進めていくことで無二の存在であり続けるから私は泰然としておいでだと感じたのかもしれない。
私は大津さまを想うだけで満足であるし、大津さまも、我が妃よと仰言ってくださった。
それで充分だったわ。