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飲める人ほど要注意、実は高い糖尿病リスク

2021-08-18 15:30:00 | 日記

下記の記事はビヨンドヘルスオンラインからの借用(コピー)です  記事はテキストに変換していますから画像は出ません

各地で緊急事態宣言が繰り返される中、飲食店での飲酒ができなくなり、家飲み需要が高まっている。酔っ払って帰路につく面倒や心配がない分、ついつい酒量が過ぎることも……。昔から“百薬の長”といわれるアルコールだが、飲みすぎると体にさまざまな害を及ぼす。近年のゲノム医療の発展により、遺伝子解析でアルコールにかかわる遺伝子型から、その人がなりやすい病気もわかるようになってきた。
つい最近も、アルコールに強い遺伝子型を持つ日本人男性は糖尿病にかかるリスクが高まることが突き止められた。アルコールに強い体質だからと飲み過ぎてしまわないように、気をつけなくてはならない。研究に取り組んだ順天堂大学大学院医学研究科代謝内分泌内科学 スポーツ医学・スポートロジーの田村好史先任准教授に、アルコールと糖尿病の発症リスクの関連性について、最新の情報を聞いた。
田村先任准教授(写真提供:田村氏)
「飲酒が血糖値を下げ、糖尿病になりにくい」は欧米人だけが該当?
 江戸時代の儒学者で医師でもあった貝原益軒は、その著書『養生訓』の中で“酒は百薬の長”であり適量の飲酒は健康維持につながることを説いている。科学が発展した現代においても世界中でアルコールと健康に関する研究が行われており、適量の飲酒が体によいことを示した疫学調査としてよく知られるのが英国のマーモット博士が1981年に発表した「飲酒と死亡率のJカーブ効果」だ。この調査では、毎日適量のお酒を飲んでいる人は、まったく飲まない人やときどき飲んでいる人に比べて心筋梗塞などの冠動脈疾患による死亡率が低い傾向にあることがわかった。
 「糖尿病についても、過去の研究において、ほどほどの飲酒は血糖値を下がりやすくするため、糖尿病になりにくいことが明らかにされています」と田村好史先任准教授は話す。「ただし、これは欧米人に当てはまるエビデンス。近年、日本人を含む東アジア人では、適量であっても飲酒は糖尿病を発症しやすくするということが指摘されているのです」
 田村氏によると、そもそも日本人(モンゴロイド)と欧米人(白人)ではアルコール代謝にかかわる代謝酵素の遺伝子型が異なり、お酒に対する強さや飲酒の影響を受けやすい病気も変わってくるそうだ。この人種差を知る前に、まずアルコールが代謝される仕組みを押さえておこう。
遺伝子型によって「飲酒の影響を受けやすい病気」が異なる
 私たちが普段飲んでいるアルコールは「エタノール」と呼ばれ、胃や腸から吸収されて肝臓に届くと、「1B型アルコール脱水素酵素」(ADH1B)などの働きで「アセトアルデヒド」に分解され、さらに「2型アルデヒド脱水素酵素」(ALDH2)などの働きで「酢酸」に分解。最終的には「二酸化炭素」と「水」に分解されて体外に排出される(図1)。
図1●アルコール代謝の仕組み(資料提供:田村氏)
 お酒を飲んで気分がよくなるのは血液中のエタノール濃度が上がってくるからで、エタノールが分解されにくい体質(遺伝子型)の人ほど気持ちよく酔える一方、分解されやすい体質の場合は酔いが回らない。一方、有害物質であるアセトアルデヒドが分解されやすい体質だと二日酔いになりにくく、分解されにくい体質だと顔がすぐに赤くなったり、気持ちが悪くなったり、頭痛を引き起こしたりする。
 「白人の90%以上は、エタノールが分解されにくく、アセトアルデヒドが分解されやすい体質で、気持ちよく酔えて、二日酔いになりにくい人がほとんど、と言い換えられます。遺伝子型でいえばADH1Bが低活性型で、ALDH2が活性型です。これに対しモンゴロイドである日本人はADH1Bが低活性型の人は全体の5%ほどしかおらず、高活性型が60%程度を占めています。また、ALDH2では活性型の人と低活性型あるいは非活性型の人が約半数ずついます」と田村氏(図2)。ざっくりいうと、日本人は酔いにくく、二日酔いになりやすいタイプが多い。そして、白人のほうがモンゴロイドよりもお酒に強い遺伝子型を持っているというわけだ。
 「気持ちよく酔えて二日酔いにもなりにくい白人は、体質的にアルコールに依存しやすく、実際にアルコール依存症になるリスクが高いことがわかっている」と田村氏。一方、モンゴロイドでは、アルコールにより、後述する糖尿病に加え、食道がんや咽頭がんの罹患リスクが高まる。田村氏によると、飲酒ですぐに顔が赤くなるタイプは、飲めば飲むほどこの2つのがんのリスクが上昇するため、注意が必要だという。
図2●アルコールに関する遺伝子型による病気のなりやすさ(田村氏提供の資料を基にBeyond Healthが作成。表中データの出典はAlcohol Res Health.:30(1),22-27,2007)
「エタノールパッチテスト」で自分の遺伝子型を予測する
 遺伝子型によって飲酒の影響を受けやすい病気が違うのなら、ぜひ、自分の遺伝子型を知りたいと思うだろう。「遺伝子検査で確認しなくてもエタノールパッチテストで自分のALDH2の遺伝子型をある程度予測できます」と田村氏。方法はいたって簡便で、70%のエタノール消毒液を2~3滴浸み込ませた絆創膏を腕のやわらかい部分に貼り、7分後と10分後に剥がして、それぞれ皮膚の状態を観察するだけだ(図3)。
図3●エタノールパッチテストの方法と結果の見方(田村氏提供の資料を基にBeyond Healthが作成)
 「皮膚が赤くならない場合は、ALDH2が活性型だと考えられるため、食道がんや咽頭がんの罹患リスクは低い。しかし、安心してはいけません。実は、このお酒に強い遺伝子型を持ったモンゴロイドでは、糖尿病にかかるリスクが高まることがわかってきたからです」と田村氏は警告する。
お酒に強い男性が糖尿病になりやすいメカニズムが明らかに
 世界的に権威のある科学雑誌『Nature』に発表された論文(2020年)によると、東アジア人43万3540人のGWAS(ゲノムワイド関連解析)を行ったところ、ALDH2遺伝子多型が男性の2型糖尿病の疾患感受性遺伝子として新たに同定されたというのだ。「つまり、アルコールに強い遺伝子型(ALDH2活性型)を持つモンゴロイドの男性は、糖尿病になりやすいことが明らかになった。しかし、そのメカニズムは不明でした」(田村氏)。
 そこで、このメカニズムを明らかにするために、田村氏らの研究グループは日本人男性94人を対象にアルコールに強い遺伝子型(ALDH2活性型)と、それ以外の遺伝子型(ALDH2低活性型・非活性型)の2つのグループに分け、インスリン感受性や代謝における各パラメーターとの関連性を調べて比較した。その結果、アルコールに強い遺伝子型を持つグループでは、肝臓のインスリン抵抗性があり、グルコースクリアランス(糖が体内を循環して代謝されるスピード)も低く、空腹時血糖値が高いことが示された(図4)。
 「一般にはあまり知られていないことですが、肝臓は糖の貯蔵タンクでもあるため、肝臓でのインスリンの効きが悪くなると、貯蔵されている糖が全身にばらまかれて血糖値が上がるのです。特に空腹時血糖値を上昇させます」(田村氏)。
 さらに、飲酒量との関係について調べてみると、飲酒量が多い人ほど糖尿病のリスク因子が高まることもわかった(図5)。アルコールに強い遺伝子型を持つグループを飲酒量が1日30g未満(ビールに換算すると600ml)と30g以上に分けて比較してみると、30g未満の人は30g以上の人に比べて空腹時血糖値が低く、肝臓のインスリン抵抗性も比較的良好だったからだ。
図4●アルコールに関する遺伝子型とインスリン感受性・代謝などの関連性(資料提供:田村氏)
図5●アルコールに強い遺伝子型の人で糖尿病発症リスクが高くなるメカニズム(仮説)
 また、田村氏らの別の研究では、平均空腹時血糖値105.5㎎/dlで、1日平均32.1g、週5~6回の飲酒習慣のある男性のグループに1週間禁酒をしてもらったところ、肝臓のインスリン抵抗性が改善し、空腹時血糖値も98.2 ㎎/dlまで低下したという。この研究は、今現在、飲酒量が多く血糖値が高い人でも、禁酒すれば短期間で血糖値を改善し、糖尿病の発症リスクを低下させ得る可能性を示している。
 「糖尿病の発症予防の観点からいっても、アルコールに強いからといって安心してたくさん飲んでいいわけではなく、飲める人は飲酒量に気をつけることが重要なのです」と田村氏はアドバイスする。
糖尿病の発症リスク上げない飲酒の目安はビール1缶程度
 では、飲める人が糖尿病の発症リスクを上げないための飲酒の適量は、どの程度だろう。
 「アルコールに強い遺伝子型を持ち、なおかつ飲酒量が1日30g未満のグループの平均飲酒量は1日11gでした。ビールに換算すると250ml強です。適量を決めるのはとても難しいですが、飲酒は糖尿病に限らず、さまざまな病気との関連性が明らかになっているので、厚生労働省・健康日本21が推奨する『節度ある適度な飲酒量1日平均純アルコールで約20g』に倣い、飲める人でも1日平均でビール350~500ml程度に調整していくのがよいでしょう」(田村氏)
 ちなみに、女性の場合はどうなのだろうか。「女性はアルコールに強い遺伝子型を持っていても、それほど飲酒しない人が多い。そのためか『Nature』で発表された論文では、女性でALDH2がお酒に強いタイプでも糖尿病の発症リスクは高まらないことが明らかとなっています。ただし、女性も多量に飲酒すれば男性と同じ傾向になるでしょう」と田村氏は考える。飲める女性のみなさんもご用心を。
 なおALDH2遺伝子は食行動に影響することも知られており、酒をあまり飲めない低活性型・非活性型の人は甘いもの好きで、その傾向は男性に強いこともわかっている。「酒を飲めない人は、甘いもの好き」とはよく耳にするが、これは遺伝子の仕業だったのだ。
 この研究のように、遺伝子の解析によってなりやすい病気が明らかになるとともに、生活習慣の中で対応できる予防法もわかるようになってきている。
 「こうした情報は今後、治療だけでなく予防医学にも応用されていくでしょう。そう遠くない未来、個々人が自分の罹患リスクを知ったうえで、子どもの頃から食事・運動・休養などのライフスタイルを構築していく時代がやってくる」と遺伝子解析に基づいたオーダーメイド予防医学の到来を田村氏は予測する。
田村 好史(たむら・よしふみ)氏
順天堂大学大学院医学研究科代謝内分泌内科学 スポーツ医学・スポートロジー先任准教授。同大学国際教養学部グローバルヘルスサービス領域教授。1997年、順天堂大学医学部卒業。カナダ・トロント大学生理学教室留学、順天堂大学医学部内科学代謝内分泌学講座准教授などを経て、2017年から同大学国際教養学部グローバルヘルスサービス領域教授、2020年から同大学大学院代謝内分泌内科学 スポーツ医学・スポートロジー先任准教授。専門は糖尿病、インスリン抵抗性、異所性脂肪、肥満、糖尿病の運動療法など。2016~2018年、スポーツ庁参与も務める
(研究室HP; https://research-center.juntendo.ac.jp/sportology/ )
(タイトル部のImage:Getty Images)
取材・文/渡辺 千鶴、構成/黒住 紗織=日経BP 総合研究所



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