下記の記事はプレジデントオンラインからの借用(コピー)です 記事はテキストに変換していますから画像は出ません
税金とは国の「儲け」に対し、かけるもの。そんなシンプルな考えから、基幹3税(所得税、法人税、消費税)のGDPに対する割合に注目したのが、弁護士の明石順平さんだ。念頭にあるのは、絶望的な年金問題。「低負担・中福祉」ゆえに日本は幸福感に乏しく、それは賃金下降を野離しにした結果だと訴える――。
※本稿は、明石順平『キリギリスの年金 統計が示す私たちの現実』(朝日新書)の一部を再編集したものです。
基礎年金給付金の半分は、国庫からの穴埋め
年金財政は、「年金特別会計」で管理されています。老齢年金に関しては、国民年金と厚生年金という2つの勘定に、それぞれの保険料収入や、積立金からの運用収入等が入ります。これに加え、一般会計からも国民・厚生の2つの勘定にお金が入ってきます。
2018年度で言うと、国民年金勘定に1兆8238億5500万円、厚生年金勘定に9兆7990億5500万円、合計で11兆6229億1000万円が入っています。そして、この2つの会計から、基礎年金勘定へお金が入り、基礎年金給付がされています。
平成30年度の基礎年金給付費は22兆9047億2000万円です。これは、先ほど見た一般会計から国民・厚生の各会計への組入額合計(11兆6229億1000万円)の約2倍です。保険料等の収入だけでは足りないので、かつて3分の1だった国庫負担を、こうして2分の1に引き上げて穴埋めをしているのです。
一般会計を18年度予算の歳入から見ると、租税及び印紙収入が約59兆円で全体の約60%を占め、その他収入が約5兆円で5%です。残りの約34兆円は全て公債金つまり借金です。借金のうち、特例公債が約28兆円で28%、建設公債が約6兆円で6%になっています。歳入の3分の1以上が借金という計算になります。
社会保障費と借金返済以外、ほとんどお金が回ってない
歳出は最大のものが社会保障費で約33兆円、33.7%を占めています。先ほど見た公債金とほぼ同じ額です。この社会保障費の内訳は医療費と年金がそれぞれ35.8%、合わせると70%以上を占めています。年金は、医療費と並んで社会保障費の中で最も大きな割合を占めているのです。ここに介護を加えると約80%になります。特別会計を含めた年金・医療・介護・福祉その他の社会保障給付費全体の額は、18年度予算だと121.3兆円です。すなわち、社会保障給付費全体の約3割を、一般会計からの支出で穴埋めしているということです。
一般会計歳出における主要経費の推移をみてみます。2018年度とそこから30年も前の1988年度を比べると、社会保障費は10.4兆円から33兆円へ実に3倍以上に膨れ上がり、国債費、すなわち借金返済のお金も、11.5兆円から23.3兆円へ倍以上になっています。大きく増えたのは社会保障費と国債費だけです。交付税等は約5兆円増えていますが、20年前である98年度は15.9兆円ですから、それと比較すればむしろ減っています。社会保障費と借金返済以外にほとんどお金が回っていないのです。
「負担はしたくない。でもお金は欲しい」
借金と言うと、「将来世代への先送り」と言われ、あたかも今を生きる我々は負担をしないかのように錯覚してしまうかもしれませんが、間違いです。国の財政において、借金返済に当たる部分は極めて大きくなっています。これが大きく財政の足を引っ張り、今を生きる私たちのためのお金が十分に回っていない状況が生まれています。それが保育園の不足や大学の補助金削減等に現れています。つまり、「未来のための投資」にお金が回っていないのです。我々は、先人達が先送りした「負担」をもう受けています。この負担の先送りは、年金だけでなく、他の分野でもそうです。「負担はしたくない。でもお金は欲しい」という有権者の要望を叶えるには、未来の国民からお金を奪って財源確保するしかないのです。
ここから国税収入を見ていきます。割合の高い基幹3税(所得税、法人税、消費税)について、諸外国と税収対GDP比を比べてみると、日本の税制の大きな欠点が浮かび上がります。なお、GDPとは、要するに国内で生まれた「儲け」を全て合計したものです。税はこの「儲け」から取りますから、税収の多寡を他国と比べるには、儲けの何%を税金として取っているのか、つまり税収対GDP比で見るのが妥当、ということになります。では、OECD(Organisation for Economic Co-operation and Development:経済協力開発機構)に加盟している国々(日本を含め37カ国)と比較してみましょう。データの揃っている2015年で比較します(なお、この時点での加盟国は36カ国)。
GDP比で見た日本の消費税は極めて低い
まず、法人税収対GDP比を見てみると、日本は3.8%で、全体の6位です。「日本は法人税が高い」と言われますが、これを見るとそれが事実であることが分かります(図表1)。
次に、所得税収等対GDP比を見てみると、24位であり、かなり下位の方です(図表2)。なお、デンマークが突出していますが、これは、同国が社会保障を全額税金で負担している影響と思われます。社会保険料を取らない分、所得税が高くなるのでしょう。
最後に消費税を見てみましょう。なお、消費税は海外では付加価値税と呼ばれていますが、日本と仕組みは同じです。これを見ると、日本は31位の4.2%であり、極めて低いことが分かります(図表3)。1位のハンガリーは9.6%ですから、日本はその2分の1も消費税を取っていないことになります。
最後に、基幹3税収対GDP比を見てみましょう(図表4)。日本はなんと36カ国中29位です。受け入れがたいかもしれませんが、事実です。どうしてこんなに低いのかと言えば、先ほど見たとおり、所得税と消費税が低すぎるからです。
高水準の社会保障を受けている自覚はあるか
では、支出の方はどうでしょうか。OECDのデータに戻り、社会支出対GDP比を見てみましょう。なお、社会支出というのはおおむね社会保障費のことを指しています(図表5)。
これを見ると日本は意外と上の方にいます。15位です。収入の方を見ると、日本は法人税収対GDP比以外は、全てOECD平均を下回っており、順位も下位ですが、支出の方を見ると、OECD平均より上であり、順位も上なのです。つまり、支出と負担のレベルが全然合っていません。「低負担・中福祉」と言えるでしょう。そして、その支出と負担のギャップを借金で埋め合わせしているのです。
これは、借金をして未来へ負担を押し付けることにより、本来であれば享受できない水準の社会保障を受けていることになります。しかし、国民にその自覚はあるでしょうか。無いでしょう。それどころか、負担の割に不十分な社会保障しか受けられていないという感覚ではないでしょうか。借金が無ければ、その不十分な社会保障の水準すら保てないのですが。「負担はしたくない。でもお金は欲しい」という非常に「わがまま」な要望に政治が応え続けてきた結果がこれです。しかし、多くの国民はこの現実を知りません。
消費税25%のデンマークは、海外での手術も無料
負担の大きい上位国、例えばデンマークは、負担が大きい代わりに、医療費も教育費も介護費も完全に無料です。特に医療費は億単位の治療費がかかっても国が負担します。海外で億単位の手術をする場合も費用を出してくれるそうです。しかし、それは国民一人一人がとても大きな負担をしているからです。みんなでたくさんお金を出し合うから、誰かのリスクが顕在化して困った時に、国がお金を出して支えることができるのです。お金をたくさん出し合うことで、個人のリスクを軽減していると言えます。
世界幸福度ランキング(2017年〜19年)を見ると、日本は62位です。世界3位のGDPを誇る国が、幸福度では62位。1位はフィンランドです。2位にデンマーク、3位にスイス、4位にアイスランド、5位にノルウェー。スイスを除いて上位5位を占めているのは高負担・高福祉の北欧諸国です。日本よりはるかに多くの税金を取っています。日本では嫌われている消費税の税率も高く、いずれの国もGDP比で言えば消費税を日本の倍くらい取っています。特にデンマークは、軽減税率も無く、一律に25%の消費税を課しています。でも、たくさん税金を取る分、たくさん政府がお金を使えます。だから社会保障が充実します。
<編集部注>2020年1月現在の各国の付加価値税率(標準税率)は以下の通り。ハンガリー27%、デンマーク・ノルウェー25%、フィンランド・アイスランド24%、スイス7.7%。
名目賃金の伸び、ポルトガル166、日本94
社会保障で人々が得たいものはなんでしょうか。「安心」でしょう。病気や事故等のリスクが顕在化した時でも、国が助けてくれるという安心があれば、幸福度も増すでしょう。みんなでたくさんお金を出し合って支え合うから、「安心」を手にすることができるのです。
他方で日本はこれらの国よりはるかに負担は低いです。それは未来に負担を押し付けているからです。でも、この幸福度ランキングを見る限り、たくさん借金しても結局国民が満足できる社会保障を提供できていないのではないかと思います。
高負担国家と日本で一番違う点は賃金です。付加価値税対GDP比上位10カ国と、日本の名目賃金・実質賃金について、1996年を100とする指数で比較してみましょう。まずは名目賃金から(図表6)。
2018年を見てみると、一番伸びているエストニアは671.3です。日本を除けば一番伸びていないポルトガルですら166.7です。ところが、日本は94.2。唯一96年より下がっており、異常です。先進国で唯一日本だけがデフレになっているなどという話を聞きますが、それはこうして賃金が下がっているからでしょう。賃金が下がっているから、安い物しか売れなくなり、勝手に物価が下がるのです。
金融危機後「賃金低下」を徹底的に放置して
次に実質賃金を見てみましょう(図表7)。一番伸びているのはエストニアで275.9。日本を除くと一番伸びていないのはポルトガルで104.6。日本は101.3で最下位。なお、日本は18年に賃金の計算方法を変えて思いっきり賃金をかさ上げしましたが〔詳細は拙著『国家の統計破壊』(集英社インターナショナル)参照〕、それでもこの状況です。
諸外国では、負担も増えると同時に、その前提となる負担能力も同時に上がっていると言えるでしょう。だから特に名目賃金において、日本よりはるかに賃金上昇率が高いのです。税金も社会保険料も、賃金はその源泉の一つですから、高齢化に伴い社会保障費が増えるのは仕方がないにしても、賃金を増やして負担能力も上げなければいけません。
明石順平『キリギリスの年金 統計が示す私たちの現実』(朝日新書)
しかし、日本は、バブル崩壊の後遺症で1997年11月から発生した金融危機以後、非正規雇用の増大や、残業代を払わなくてよい法の抜け穴の設置、サービス残業等を野放しにし、賃金が下がっていくことを徹底的に放置しました。つまり、負担能力を上げることをしなかったのです。この状態で増税や社会保険料負担の増大をしようとすれば反発されるのは当然でしょう。
賃金の低迷は当然経済にも影響します。日本のGDPの約6割を占めるのは国内消費であり、消費の源泉が賃金だからです。賃金下降を野放しにしたことがこの国の低迷の一因だと私は考えます。
ところが、その原因を見誤り、「とにかく物価を上げれば何とかなる」という発想の下に実施された経済政策があります。それがアベノミクスです。
明石 順平(あかし・じゅんぺい)
弁護士
1984年、和歌山県生まれ、栃木県育ち。弁護士。東京都立大学法学部、法政大学法科大学院を卒業。
※コメント投稿者のブログIDはブログ作成者のみに通知されます