下記の記事はダイアモンドオンラインからの借用(コピー)です
若い女性が、経済的に余裕のある男性と食事などで一緒に時間を過ごして金銭を得る活動を、最近は“パパ活”というらしい。ただ、パパ活をする女性に焦点が当てられることはあっても、パパ側の気持ちが語られることはあまりない。パパ活沼にハマる男性の心理とはどのようなものか。パパ活沼から抜け出した男性に話を聞いた。(フリーライター 武藤弘樹)
“パパ活”が匂わせる悲哀
パパのゴールはどこにあるのか
“パパ活”という言葉は数年前から聞かれるようになり、2017年にはこのタイトルのドラマまで放送された。ドラマの方は未視聴だが、各所で伝え聞くパパ活においては明暗それぞれあるようだ。中には生活費や学費のため、やむなくパパ活を始める女性もいるという。利用する男性にとっても同様に有益なものなのであろう。
筆者は「一緒に食事するだけで数万円を渡すなどして小娘を調子に乗せたくない」と思ってしまう吝嗇家(りんしょくか)なのでパパ活には否定的だが(理由は他にもたくさんあるが)、需要と供給が成立したからこそ生まれた闇のビジネスであり、闇のビジネスのくせに“パパ活”などと妙に柔らかい響きのネーミングになっているからまた不気味だ。
パパ活のゴールはどこにあるのか。「若い女性とライトに食事するだけ」をゴールと割り切れるなら、男性自身に悲哀はほぼないかもしれない。
しかし、「軽く食事をする」行為だけをゴールと定められる男性が、はたしてどれだけいるであろうか。食事のその先の、心や体のつながりを求めてしまうのが人のさがではないのか。金銭を媒介にビジネスライクでスタートした関係であるから、心が満たされる可能性は順当にいって低く(男性が一方的な自己満足に浸ることはできる)、金銭を対価として渡し、体を求めれば違法である(※売春防止法 第2、3条)。
前置きが長くなったが、本稿はこのような主観を抱く筆者に一筋の光を感じさせてくれた“おじさんの成長の記録”である。
あるパパが“パパ活”に出合い、ハマり、そしてその沼を抜け出したドキュメントだ。
変質していく結婚願望
己の欲求により忠実に
Aさん(43歳男性)は結婚願望を持て余していたが、これまで縁なく独身のままであった。
彼はマッチングアプリに登録して、結婚を前提にお付き合いできる女性を探すことにした。自分より年下の、38歳以下の女性を希望して数人会ったが、先方の結婚願望の強さに尻込みさせられることになった。その結果、「最初はもう少し肩の力を抜いたお付き合いから始めたい」と、ターゲットを比較的結婚を焦っていなさそうな年齢の20代女性を中心に改めた。
するとマッチングは成立しなくなったが、Aさんはむしろ自分が新たに取ったスタンスに満足していた。そもそも若い女性の方が好きなのである。結婚相手を探すのだから条件を妥協せず、最初から20代の女性を希望すればよかったのだと思い直していた。このときAさんの尊敬する人物は加藤茶であった。彼のように、夢のような年の差婚をぜひともものにしたい。
ようやく一人の女性と会えることになり、Aさんは意気揚々と待ち合わせに向かった。
すると、相手の女性は、注文したコーヒーが出てくる前に自分がパパ活の相手を探していることを伝えてきた。ついでに料金体系も「お茶や食事が2万円、映画館などは拘束時間にもよるが1万円から」だと聞かされた。
「その気はない」とAさんは答え、さっそうと席を立ったが、帰宅してから悶々とした。だまされたと思うのも悔しいが、もっと悔しいのは若い女性と血の通った会話が交わせなかったことであった。Aさんは、若い女性とたくさんお話しするつもりで、わざわざ美容院に寄ってまでして出向いたのである。
「しかし…」とAさんは考えた。キャバクラで飲むことを考えれば、パパ活の相手に援助するのも金銭的に大差ないのではないか。パパ活の方が時間内で相手をより独占できる分、自分のニーズにかなっているのではないか。ならばパパ活もアリではないか。そして、フィーリングが本当に合う相手に出会えたら、きっかけがパパ活であろうとも結婚に至れるのではないか…。
Aさんは本腰を入れて、パパ活相手を探すことにした。その日会った女性より好みのタイプの女性がいるかもしれない。パパ活目線で見渡すと、パパ活志望の女性は結構いるようだった。Aさんは複数のマッチングサイトに登録して、将来の花嫁候補を探し始めた。
運命の出会い
搾り取られていくパパ
年収が約500万円のAさんは、自分が結婚したい男性として条件的に優位性を持っていないことをきちんと自己分析していた。ならば狙うは「フィーリングが合う出会い」、その一点のみだ。その道の先に加藤茶になれる未来があるはずである。
Aさんはなるべく多くの花嫁候補とパパ活を展開した。一度だけ食事に行ってみて、フィーリングを確かめるのである。当然先方も営業だからその場ではこちらを悪い気にはさせず、むしろAさんはそうしたデートを楽しんだが、自分のフィーリングには厳密に向き合って審査していった。Aさんなりの婚活がスタートして2カ月、ある女性と会ってみてビビッと来た。早い話が恋に落ちたのである。
「『お互いフィーリングがすごく合う』と思って興奮したが、今思えばそれも相手の手のひらの上だった」と後日Aさんは語る。自称“病院事務”をしているという20代半ばの相手女性はやり手であった。
月に2回のペースでデートを重ねて半年。手をつなぐところまではこぎ着けた。きちんとした交際関係を結ぼうと何度か試みたが、のらりくらりとかわされた。そのかわし方が絶妙だったそうである。
「こちらに気を持たせるのがうまかった。『Aさんはすごく信頼できる人だけど、パパ活で知り合ったから…。私がAさんから信頼されている自信がない。ちゃんと信頼関係がないと付き合うことはできない。その関係を焦らず築いていきたい』という風に。
年長の僕は余裕を持って、君が信頼関係を確信できるまで見守るよ…という気になる。本当は余裕なんてないのにカッコつけたかった」(Aさん)
Aさんは相手女性にどっぷりのめり込んでいった。「資格の予備校に通うお金が必要」と聞いて現金10万円を渡したこともあった。
パパ活からの生還
自分を見つめなおした今
Aさんを彼岸の彼方から呼び戻したのは旧友であった。飲み仲間の中学の同級生と集まって飲んだ際、Aさんは自分の恋愛事情をいくらか自慢げに披露した。ある程度予想していたことではあったが、予想をはるかに超えて一座から「やめた方がいい!」の制止がかかった。「200%だまされている」というのである。
ある友人は予備校10万円のくだりを聞いて怒り狂い、「電話させろ」と暴れた。Aさんは全体的に面白くなかったが、「付き合うか見極めるためにデートするなら、もう金銭の授受はなくてもいいでしょ」という指摘には一理あると思った。
そこで次回のデートでは意を決して、関係性を次のステップに進めるための提案を相手女性に持ちかけたのであった。「もうお金はナシにしてお互いの関係を見つめてみないか」と。この言い回しがいかにもおじさんらしくて個人的には応援したくなる。
相手女性は「お金がないと予備校が苦しい」とか「別の仕事を始めなければならないだろうからAさんと会う時間もなくなる」などと述べたが、実はこれらの返答もAさんの友人らが「おそらくこう言ってくるぞ」と予想したものとほぼ同じだったため、Aさんは一層冷静になって情に流されることなく、「考えてみてほしい」と恋する相手に告げてその場をあとにした。
以降、先方から連絡がなくなり、1週間後にAさんから連絡すると「少なくともまだあと半年はパパ活の関係でいたい」と来たので、Aさんが「君は十分魅力的なんだから自分を切り売りするパパ活なんかやめて――」と伝えた。それが年長者の説教くささもあって逆鱗に触れたらしく、「偉そうに言うな」「何が付き合うだ、気持ち悪い」と結構な罵詈雑言が返ってきたという。
Aさんはその後しばらく粘着して連絡をし、恋する相手をおもんぱかってパパ活を辞めて正道に戻るよう説いたが、相手からすれば大きなお世話で、最終的にLINEをブロックされて恋は終わった。
久しぶりの失恋にAさんは大ダメージを負ったが、徐々に冷静さを取り戻していく中でいかに自分が浮かれていたかを思い知っていった。そしてどうやら人としてやや成長したようである。
「パパ活は少なくとも婚活相手を探す場ではないということがわかった。若い女性と結婚したいという気持ちは今でも変わらない。しかし自分に都合よく相手を見るのはもうやめにしたい。気づきのきっかけをくれた友人たちには感謝していて、今後もアドバイザーとして意見をあおぎたい」(Aさん)
暴走していたAさんであったが、こうした素直さがあったからこそパパ活沼を脱出できたのであろう。
パパ活を礼賛する気は微塵(みじん)もないが、痛ましい体験も捉え方次第で前向きに消化できることがある。パパ活における失恋が結果的に、将来Aさんに良いご縁を招いてくれることを願ってやまない。Aさんは四十肩に翼を生やして、今未来へと飛び立ったのである。
武藤弘樹:フリーライター
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