下記の記事はプレジデントオンラインからの借用(コピー)です
「教科書を読める子」はクラスにたったの2、3人!?
学校の授業のベースになる教科書。各学年の子供の知識や理解力に合わせてつくられているから「読めるのは当たり前」と思っていないだろうか。
「残念ながら、日本の子供の大半が教科書を読めていません。小学生でいえば、全教科の内容を正確に読めているのはクラスの2、3人でしょう」
こう指摘するのは、『AI vs. 教科書が読めない子どもたち』の著者で、国立情報学研究所教授の新井紀子さんだ。新井さんの言葉に従えば、クラスの9割は教科書を読めていないことになる。一体、どういうことなのだろう。
「『読む』という言葉から多くの人がイメージするのは、ひらがな・カタカナ・基本的な漢字を“文字として読める”ことでしょう。いわゆる識字です。でも、それだけでは読めたことにはなりません。文章を読んで正確に意味や内容を理解することができて初めて読めたといえる。日本の子供たちはこの読解力が弱いのです。ところが子供たちに『教科書を読めていますか?』と聞くと85%が読めていると答えます。読めない子は“読める体験”をしていないので、“文字が読める”こと=読めると思っているんですね」
算数の計算問題は解けるのに、文章題になるとわからなくなる
読解と聞くと、真っ先に思い浮かぶのは国語だ。教科書にある文学作品や評論などの読解が授業の主軸になるが、新井さんが指摘する読解力はその類いではない。
『プレジデントFamily 2021年冬号』(プレジデント社)
「私は『汎用はんよう的読解力』と呼んでいますが、算数、理科、社会などすべての教科で求められる力です。国語の心情読解の場合、作者の思いを読み取るといった、いわゆる行間を読む力を養い、解釈に幅があります。でも、算数、理科、社会でいろいろな解釈があったら困りますよね? 文章に書いてある事実を正確に読み取る。それが汎用的読解力です」
教科書を読めていない子供が多い理由は、この汎用的読解力が身についていないためだと新井さんは考える。算数の計算問題は解けるのに、文章題になるとわからなくなる子供がよくいるが、それも同様だ。解けないのではなく、問題文が理解できないのだ。
算数の「割る数」と「割られる数」がわからない
では、読めない原因は何か。新井さんが筆頭に挙げたのは“語彙ごい”だ。
「文中の言葉の95%以上を理解していないとすらすら読めないという研究結果があるように、語彙の不足は読解のネックになります。特に、算数や理科で使う言葉は日常で使う意味とは違う場合もあり、それを理解していないとたった1行の文章でもわからなくなってしまいます」
小学4年生以降に出てくる抽象的な言葉もつまずきの原因になる。
「6年生の社会科の教科書には『内閣のもとには、さまざまな府・省・庁ちょうなどが置かれ、仕事を分担ぶんたんして進めます』(教育出版『小学社会6』より)という行政のしくみを説明した一文が出てきますが、『もとには』『置く』という言葉が子供には難しい。『足もと』『物を置く』といった普段使う意味とは違う言い回しだからです。算数なら『割る数』と『割られる数』のような言葉遣いも混乱しやすいですし、数や量の比に出てくる『○○を1とみたときに』の『みた』の意味がわかっていないこともよくあります」
さらに、主語・述語や修飾語・被修飾語といった文法がわかっていないということもあるそうだ。
もう一つ、子供たちが読めない理由には“読み方”もある。本を読むのは好きでも汎用的読解力の低い子供は相当数いて、それは読み方の違いによる。
「物語を読むときは大まかにストーリーを理解していく“通読”が主流。言葉の定義を細かく気にしなくても読み通すことができます。ところが、算数や理科の文章でその読み方をすると、途端に読みにくくなってしまう。『より小さい』と『以下』の違いのような言葉の定義をそのつど、区別していく“精読”が必要になるからなんですね」
一流企業に勤める人でも3人に2人は間違える「読解問題」
読めない文章が並んだ教科書に子供が興味を持てないのは、いわば当然。読めないことが勉強嫌いや特定の教科への苦手意識にもつながるというから見過ごせない。
読解力を身につけるには、ウイークポイントを見つけるのが先決だ。これを探れるツールが、新井さんが開発した「リーディングスキルテスト(RST)」である。選択式のテストは、係り受け解析や同義文判定など、読解に必要なスキルを6分野(図表1)にわたり測ることができる。小学生から大人まで、すでに20万人以上が受検している。大人でも正答率が4割を切る問題も数多くあるという。
「つまり、大人も読めていないということ。特に子供も大人も弱いのが数学や理科の定義を正確に読む“具体例同定(理数)”です。偶数の定義を読んで、偶数を選択肢から選ぶ問題の平均正答率は40%未満です。唯一、50%を上回っているのは小学6年生で、一流企業に勤める人でも3人に2人は間違える。数学が苦手という人のほとんどが数学の文章を読むことにつまずいていることがわかります」
汎用的読解力が低い子はノートの書き方を見ていればすぐにわかると新井さんは言う。
「自分の解答が解答例とちょっとでも違うと、消しゴムで消して解答例を書き写す子です。自分の解答と解答例のどこが違うかをわかっていないのでしょう」
高校入学段階で「自分は私大文系しか行けない」では困る
読解力の有無は人生を左右する大問題だと新井さんは言う。
「特に危惧しているのは高校に入学する段階で『自分の進路は私立大文系以外に選択肢がない』となってしまう生徒の多さです。その背景にあるのが読解力です。数学や理科のように学年が上がるごとに新しい知識や概念が増えていく教科では、読解力がないことで勉強の遅れが生じやすい。その結果、理数は苦手だからと消去法で文系しか選べないことになってしまうんです」
読めないがために将来の選択肢を狭めてしまうのはもったいない話だが、それだけでなく社会に出て立ち行かなくなる可能性もある。
「今の子が活躍する2030年代には、事務職の50%がAI(人工知能)に代替されることが予想されます。つまり、文系の人が就く事務系の仕事は減り、賃金が安くなることが考えられます。一方、あらゆる分野がテクノロジーと関わることから、多くの仕事に理系のリテラシーが求められるようになるでしょう。その時代に職を失わないためには、文系でも理系の基礎知識を併せ持っていなければならない。プログラミングも関数も何もわかりませんという状態では、15世紀の人がタイムマシンで21世紀にやって来て働くような状況になってしまうのです」
もちろん、実務面でも汎用的読解力がないとメールの意味を読み違えて発注ミスをするといったことが起こりうる。リモートワークが普及するなか、メールをはじめ文章によるコミュニケーションは今後ますます増えることが予想されているため、読解力は不可欠だ。
NHKの朝ドラと大河ドラマを親子で見るといい
では、読解力を磨くために家庭ではどんなことをすればいいのか。
新井さんがまずすすめるのは、親が子供の教科書を読んでみることだ。
「親御さんは教科書ぐらいと思っているかもしれませんが、実はとても高度なことが書かれています。算数や理科でいえば、歴史上に名を残す天才たちが400年もの間に発見・発明したことが詰まっているわけですから。一語一句、読み解かなければならないことが実感できると思います」
教科書を読めば自分が子供のときにどこでつまずいたかを振り返ることもできる。子供も同じところでつまずきやすいので、その部分の読解を親子でやり直すのもいいだろう。
「テストが戻ってきたときには、点数にばかり注目せず、答え合わせを学ぶ機会だとプラスに受け止めましょう。×がついた問題を自力で解き直せるようならばうっかりミス。そうでない問題は、内容が定着していないか、問題を読む力や考えをまとめる力が不足しているはずです。答えを読んでなぜ自分は間違えたのかを考えたうえで、解き直させましょう。答えの丸写し、丸暗記では、学ぶ力はつきません。でも、自力で答え合わせをする習慣がつけば安心です」
日常生活の工夫や心がけでも、読解力を磨くことはできる。特に語彙量は家庭環境によるところが大きく、小学校入学時点で3〜4倍の差がつくこともあるそうだ。
「一番におすすめしたいのは、時代劇と朝の連続テレビ小説と大河ドラマを親子で見ることです。大事なのは親が本気でハマること。すると子供も興味を持ちます。こういうドラマは日常では聞かない言葉や言い回しが溢れ、自然と語彙が増える。幕府、内戦、寺子屋といった単語も実感しながら覚えられますし、歴史観も身につきます」
そのほか、新井さんから挙がった日常生活の工夫や心がけが、次ページの一覧だ。どれも今日からできそうだ。
新井教授推奨「家でできる子供の読解力をアップする方法」
1)NHKの大河ドラマ、連続テレビ小説などを楽しむ
時代設定が現代ではないので語彙や知識が増える。
2)ラジオでニュースを聴く
テレビのように視覚情報が入らない分、言葉や数字に敏感になる。「耳が鋭くなるので授業の聴き方も変わってくるでしょう」
3)おねだりはプレゼンの場に
親子の会話で説明させるのもいい。新井さんは子供が何か買ってほしいと言ってきたら、納得できる理由を言うまで買い与えなかったそうだ。「『なぜ買わないといけないの?』『みんな持っているという“みんな”とは誰?』のようにプレゼンさせていました」
4)日常会話は単語で済ませない
新井さんは子供が「コップ!」と言ってきたら、「牛乳を飲みたいからコップを取ってください」と文章で言うまで渡さないほど徹底していたそうだ。
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