下記はダイヤモンドオンラインからの借用(コピー)です
携帯料金の値下げが実現、次はNHK改革
菅義偉首相の公約通り、携帯料金の値下げが実現しつつある。かつて政府系公社だったNTTドコモがサブブランドの「ahamo」を立ち上げ、月間20ギガで2980円のプランを打ちだし、ソフトバンク、auのサブブランドなどもこれに追随せざるをえなくなってきている。いずれ、メインブランドもこの流れに従うことになるだろう。
携帯料金の値下げによって、3000円から4000円の家計負担が減ることになる。携帯料金の家計に占める割合は高く、これは低所得層ほど、恩恵が大きい。コロナ禍で財政出動しているので減税できないなか、この携帯料金値下げは実質的に減税と同じ効果がある。
いよいよ次は、NHKの受信料だ。
総務省の2020年の通信白書によれば、2019年の「家計の放送サービスに対する支出」は年間平均で2万5756円だった。そのうちNHKの年間受信料は1万4081円。コンテンツがよりどりみどりで、しかも見たいときに、見たいだけみられるAmazon Primeビデオは月額500円、Netflixも月額880円(プランによって異なる)なのに、ほとんど見ないNHKにこんな大金を払っているのはどう考えてもおかしい。
「放送サービス支出」は年額1万円程度に抑えるべきである。それと同時に、テレビ放送全体がNetflixのように、見たいコンテンツを見たいときに、見たいだけ見て、見た分だけ払うというシステムに移行すべきである。そのために避けて通れないのがNHK改革だ。ではどう変えればいいのか。
見たいコンテンツを守り育てるために、放送局・制作者はどうすべきか
私が提案したいのは、下記の3つだ。
(1)受信料をNHKだけでなく、民間放送(民放)、制作プロダクションにも分けること
(2)コンテンツを放送からネット配信にシフトさせること
(3)受信料を見た分だけ払う従量制にすること
世界、とくにイギリスはこの方向へすでに舵を切っている。
まず受信料だが、Netflix、Amazon Primeビデオ、ディズニー・プラス、WOWOW、スカパー、さまざまなCSチャンネルなども併用して見ることを考えると、月額500円程度(年間6000円以下)にしてもよいと考える。これによって、1世帯当たり約8000円程度、負担が減る。
しかし、料金が下がっても、見たいコンテンツがなくなっては困るのだから、この受信料は、NHKだろうと、民放、制作プロダクションだろうと、見たいコンテンツを作っている制作者に渡らなければならない。さもないと見たいコンテンツは増えない。
テレビのコンテンツの質の低下は著しい。近年、広告費の長期的減少によって、民放は、手間と時間とマンパワーを必要とするアニメとドラマを減らし、情報番組(ワイドショーや旅番組やグルメ番組)とバラエティーを増やしている。収入が減っているわけでもないのにNHKもバラエティー情報番組を急増中だ。通信白書によると、2018年の日本の番組制作全体に占める情報番組の割合は74.2%で、バラエティーは60.2%(この2ジャンルは区別がつきにくいため複数回答になっている)。そして、ドラマが15.7%、アニメに至ってはわずか2.7%になっている。
これに対し、コンテンツの輸出でみると、アニメが全体の81.1%、ドラマが6.6%、バラエティーが6.6%、その他(ここに情報番組が入る)5.0%となっている。つまり、外貨を稼ぎ、観光客と留学生を日本に呼び込むアニメやドラマを作らず、日本人の大部分も見向きもしない情報番組とバラエティーばかり作っているのだ。これは滅びの道で、やがて日本はアメリカやイギリスだけでなく、韓国の文化帝国主義の植民地になってしまうだろう。
NHKや民放などのコンテンツをオンデマンドの共通プラットフォームに集約
ではどうすればいいのか。民放、NHK、制作プロダクションがNetflixのような一つの共通プラットフォームを作り、コンテンツをオンデマンドで置いてはどうだろう。視聴者はそこに月額500円ほどの受信料を払い、それをプラットフォームに参加している各社が見られた量にしたがって分配するのだ。とくにすぐれたコンテンツと啓発的ドキュメンタリーをつくる制作者には、受信料から「制作奨励金」を出すのもいい。こうすれば、見たい番組を作っている制作者にお金が渡り、制作者はいっそう見られるコンテンツ作りに励むだろう。アニメとドラマの制作量も増えて、コンテンツの輸出も増え、国際競争力も回復するはずだ。
現在の日本のメディア状況を考えると、この方向に進んでいくことは、望ましいというより、避けられない。
テレビ離れが喧伝されるようになって久しいが、通信白書によれば、2019年のテレビのリアルタイムの1日の平均視聴時間は、10代の69分に対して60代は260分だった。つまり、若者は老人の4分の1ほどしかテレビを見ていないのだ。若者はこのままの視聴習慣で年齢を重ねていくので、彼らが20代、30代になってもこの数字は減りこそすれ、増えることはない。
また、テレビ離れは、10代だけでなく、ほぼ全世代的な現象だ。実際、20代、40代、50代とも過去5年間で平均視聴時間が減少している。微増しているのは60代だけだ。
この減少していく視聴時間をNHK総合、NHK教育、NHKBS1、NHKBS2、日本テレビ、BS日テレ、TBS、BS-TBS、テレビ朝日、BS朝日、テレビ東京、BSテレ東、WOWOW、スカパー、Netflix、Amazon Primeビデオ、ディズニー・プラスと分けあっている。いったい平均的日本人は、一日に何分NHKを見ているのだろうか。現在10代の若者は、将来何分NHKを見ることになるのだろうか。
テレビ視聴時間の減少の原因は容易に想像がつく。インターネットの利用時間の増加だ。テレビを69分しか見ない10代の若者はインターネットに168分、つまり2.4倍の時間を費やしている。過去5年間におけるインターネット利用時間は、全世代で増加している。面白いことに60代でさえ、この5年で利用時間を35.7分から69.4分とほぼ倍増させている。インターネット利用時間が増え、テレビ視聴時間が減っていくという傾向は、さらに加速していくだろう。しかも、これは世界的な傾向でもある。
総務省の調査報告書「諸外国の動向についてー動画配信サービスを中心に」によれば、イギリスのBBCはすでに対策を講じている。2007年にBBC iPlayerというプラットフォームを開設し、インターネット経由でBBCのテレビ番組とラジオ番組が、放送後30日間利用できるようにした。イギリスでも日本と同じテレビ離れ(16~24歳で平均視聴時間が50分。他の年齢層も減少)が進行しているのだが、BBCが始めた配信サービスはビデオ・オン・デマンドサービス全体のトップで32%を占めている。つまり、テレビ離れをネット配信で食い止めているのだ。同調査報告書は、ドイツでもネット配信サービスが利用率を伸ばしていることを明らかにしており、これは先進国共通の傾向とみられる。
受信料の従量制が世界のスタンダードに
さて、ネット配信が主で、放送が従となれば、受信量が把握できるのだから、受信料もなぜ見た分だけ払う従量制にしないのかということになる。実際イギリス政府は、BBCに従量制を取るよう圧力をかけている。それが国民の意思だからだ。近い将来これが実現すれば、英連邦の国々、カナダ、オーストラリア、ニュージーランドなどがこれに追随することが考えられる。従量制が世界スタンダードとなっていくだろう。
もちろん月額500円程度ならば、厳密な従量制をとる必要はないだろう。ただ、見たいコンテンツを作った制作者に、見られた分だけ利益が入る仕組みが担保されていればよい。
また、放送からネット配信にシフトするといっても、テレビをリアルタイムで見るという視聴習慣を持つ人々がいるし、通信回線の補助・バックアップとして必要だから、放送を完全にやめる必要はない。民放は、これまで通り広告放送を続ければいいだろう。NHKが新たに広告放送を始めるのもいい。公共放送が広告を流すのは、世界では珍しいことではない。
だが、ネット配信がメインになれば、長期的には余分なチャンネルが淘汰され、無駄な放送時間も削減される。そうなれば、現在放送のために使われている電力とマンパワーと関連コストが節約でき、エコである上にコンテンツ制作に回せる資金が増える。余った電波はオークションにかけて売り、利益は国庫に入れればよい。
これは今の制度の根本的改変になるが、もともと現在の制度は、根本的改変を何度も経て現在のものになっている。
現在の受信料制度は、終戦後に占領軍が残した遺物である。彼らはNHKにラジオ受信料を徴取することを認めたが、テレビ放送は民放だけに許し、広告によって経営を賄うものとした。これによってNHKによる独占を打ち破り、テレビの時代には民放が主流になるようにしたかったのだ。ところが占領軍が引き揚げると、NHKはその政治力にものをいわせ、当時の佐藤栄作電気通信大臣からテレビ放送免許を得ただけでなく、テレビ受信料も独占してしまった。そのかわり、以後NHKは、佐藤とその実兄岸信介(のちに総理大臣)に最大限に利用されることになった。
衛星放送とは、正確にいえば衛星通信なのだが、NHKはこれが可能になったときも政治力を背景に放送の境界線を越えてこの分野に踏み込んだばかりか、しばらくの間独占してしまった。このとき、2チャンネルが民間に渡っていれば、今の放送産業はもっとバランスのとれたものになっていたはずだ。
また、放送法について、どうのこうのいう人がいるだろうが、この法律は、国民の利益のために状況の変化に合わせて、これまでも改正されてきたし、これからも変えられるべきものだ。およそ1万2000人の職員に1000万円を超える給料を払っている現状を維持するためにあるのではない。そもそも同時配信を始めたときから、NHKは自ら放送法の枠から通信に踏み出している。
さらに、災害放送はどうするのかというだろうが、いうまでもなくこれは民放もやっている。それに、災害時に電力がダウンしたときにライフラインになるのは、私も東日本大震災で経験したが、放送ではなく、インターネットやメールだ。放送は人の災難を、高みの見物をするためにあると思っている。
国は、規制の枠組みにとらわれず、既得権益にしがみつく者に耳を貸さず、テレビ視聴者のために、日本のコンテンツ制作産業のために、将来を見据えて抜本的な改革を行う必要がある。これは、携帯電話値下げに続く実質的な減税策であり、間接的ながら現政権のカーボンニュートラル政策の実現にもつながるだろう。
世界はすでにその方向に向かっている。日本は思い切って先頭に出たらどうか。
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