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「3組に1組は離婚する」
よくマスコミでいわれている話です。しかし、この説に対して「この言い方は間違いである」と論ずる人もいます。
離婚の指標は、複数あります。もっとも標準的で世界的な比較の際に使用されるのが、人口千対離婚率で普通離婚率ともいわれます。もうひとつは、特殊離婚率といわれるもので、年間当たりの離婚数を婚姻数で割ったものです。長期的な推移をみれば、前者は近年減少傾向にありますが、後者は大体35%付近でここ20年近く変わりません。「3組に1組は離婚する」というのはこの後者の特殊離婚率によります。
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減少傾向にある普通離婚率と同じレベルを保つ特殊離婚率、いったいどちらが本物なのでしょうか?
特殊離婚率否定派はこう言います。「特殊離婚率というものは、年間当たりの離婚数を婚姻数で割って算出したものであり、実態に即していない。同じ年に結婚と離婚を行う夫婦は稀であり、意味のない数字である」「そもそも年間の離婚数自体も年々減少しているのだから、特殊離婚率のように近年割合が一定なのはおかしい」。
どちらも正確でないという意見も
確かに、普通離婚率のほうは離婚絶対数の減少に連動して下がっています。離婚数が減っているのなら、離婚率も下がって当然という理屈は、一見納得性が高いですが、離婚数と同様婚姻数も減っています。婚姻がなければそもそも離婚は発生しません。離婚率を考える際には婚姻の減少も考慮すべきです。
一方、「特殊離婚率も普通離婚率も正確ではない、離婚率は有配偶離婚率でみるべきだ」と唱える人もいます。有配偶離婚率とは、分母を総人口とする普通離婚率と違い、有配偶人口だけに限定して、離婚率を算出するものです。
確かにこれなら、あくまで有配偶者の中でどれだけ離婚したのかが把握できるので、少なくとも普通離婚率よりはよさそうに思えます。しかし、有配偶離婚率にしたところで、計算の原理は全人口を分母にした普通離婚率と変わりません。
両方とも高齢有配偶者を含むからです。婚姻と離婚の数字を見るときに、この高齢有配偶者を含めてしまうと見誤ります。なぜなら、婚姻も離婚も高齢者とは無縁なものだからです。
2000年から2019年までの20年間の婚姻と離婚の年齢構成比を見てみると、54歳までで婚姻は98%、離婚も90%を占めています。昨今、晩婚化や熟年離婚が増えているとはいえ、高齢者の婚姻は2%、離婚も1割にも達しません。
婚姻も離婚もほぼ54歳までで完結するのです。対する有配偶人口構成比(2015年国勢調査より)は54歳までは過半数にも満たない47%しかありません。つまり、ほぼ離婚しない55歳以上の有配偶者が53%を占めます。高齢夫婦というのは、長年連れ去った情か、諦めか、はたまた面倒くさいのか、離婚をすることは少ないわけです。
普通離婚率にしろ、有配偶離婚率にしろ、婚姻や離婚に無関係な55歳以上の年齢を丸ごと分母に加えてしまうと、実情とはかけ離れたものになると言えるのです。
では、改めて、離婚の9割を占める15~54歳までの年齢に絞って有配偶離婚率(夫)を算出してみましょう。各年の国勢調査配偶関係別人口(配偶関係不詳を除く)にて計算しました。結果からいうと、2015年実績で人口千対10組が離婚しています。全年齢対象の夫の有配偶離婚率は5組ですから、その違いが明確なものとわかります。
高齢有配偶者を離婚率の分母に入れるのは適正でない
もうひとつ大きな違いは、普通離婚率や全年齢の有配偶離婚率は絶対値は違う(後者は男女合計分母のため)にしろ、同じ軌跡をたどっていますが、15~54歳有配偶離婚率は、むしろ特殊離婚率と同じような推移をしています。これを見ても明らかなように、新たな婚姻も離婚もしない高齢有配偶者を離婚率の分母に加えることは適正とは言えないわけです。
とはいえ、54歳までの有配偶離婚率人口千対10組とは1%のことです。54歳までの年齢制限をしても、年間当たり1%しか離婚しないのであれば、それはとても「3組に1組離婚」とはいえないのでないかと思うかもしれません。
しかし、この1%という数字の見方は、54歳まで対象年齢において、有配偶者は毎年1%ずつ離婚していることを示します。言い換えると、25歳で結婚し、54歳までの30年間に換算すれば、累計30%は離婚しているということになるのです。これこそが「3組に1組は離婚する」という指標の正当性を表すものです。
勘違いされている方もいますが、「3組に1組は離婚する」という特殊離婚率は、毎年30%が離婚するという意味でとらえるより、結婚に対する離婚の比率を見るためのものです。長期間の累計値で説明したほうがわかりやすいかもしれません。
1990年から2019年までの30年間の全年代を対象とした婚姻数累計は、2150万組、離婚数累計は693万組です。30年間の累計特殊離婚率は約32%となります。
もちろん、この離婚数の中には、1990年以前に結婚した夫婦も含まれていますが、30年間の累計においては誤差の範囲です。つまり、この30年間で結婚した夫婦のうちの32%は離婚をしていることになります。まさしく「3組に1組は離婚」しているのです。
特殊離婚率の数字は、「結婚が何組作られ、何組壊されているのか」を知る重要な指標です。私はそれを「結婚破壊率」と命名しています。そして、案外盲点なのが、この「結婚破壊率」が高くなればなるほど、少子化が進むという事実です。戦後からの長期推移で出生率との相関係数を見れば、▲0.808という極めて強い負の相関がみられます。
日本は、婚外子が少ない国です。逆に言えば、婚姻が成立・継続しない限り、子どもは生まれてこないことになります。1990年代以降、急激に結婚破壊率が上昇していますが、思い出していただきたいのは、生涯未婚率といわれた50歳時未婚率の急上昇も1990年代からです。結婚が破壊されるのと時を同じくして、実は結婚も作られなくなっていたわけです。
自由恋愛で婚姻できている数は変わらない
「結婚が作られず、壊されていく」
これこそが今、日本が直面している大きな課題であり、少子化の問題も根本的にはここに突き当たります。少子化対策として子育て支援ばかりが注目されますが、実は結婚して子を産んだ母親は昔も今も2人以上産んでいます(参照出生数90万人割れは「少母化」が最たる原因だ)。
むしろ少子化の最大の原因は、この「結婚が作られず、壊されていく」ことにあります。
とはいえ、婚姻を増やそうとか離婚を減らそうとか画策してもあまり効果はありません。お見合いや職場結婚というある種の社会的結婚お膳立てシステムの崩壊とともに婚姻数が減ったことは間違いのない事実です。その裏で、自由恋愛によって婚姻できている数というのはほぼ変わりません。
つまり、お膳立てがあろうとなかろうと結婚する男女はするのであり、そうした自由恋愛で結婚ができる能力のある男女こそが、結果として離婚もしているからです。結婚も離婚もいわば彼らの自家発電です。
大きな思い違いをしている方が多いのですが、日本はそもそも離婚大国だったわけです。それは長期的な離婚率をみれば一目瞭然です。
史料によれば、夫婦共稼ぎが当たり前だった江戸時代はもっと離婚率が高かったと言われます(参照「夫婦は一生添うべし」が当然ではない理由)。
現代と大きく異なる点は、明治時代は離婚も多い代わりに結婚も多かった「多婚多離」だったことです。離婚も多いがそれ以上に結婚も多かった。それが少子化の現代との差につながっています。
日本が離婚の少ない時代に入ったきっかけはグラフにも顕著なように突然でした。1898年明治民法施行後です。これにより、簡単に言えば、庶民への家父長制度の導入と妻の財産権の剥奪が行われました。
明治民法以降の妻たちは離婚できなくなった
そうした縛りができたことで、明治民法以降の妻たちは離婚したくても規範的にも経済的にできなくなったのです。結果的にこの「多婚少離」時代は戦後になっても1970年代まで約100年間継続しましたが、決して昔から日本人がそうだったわけではありません。
現在は、生涯未婚率上昇の陰で目立たず進行した多離婚化が顕在化し、明確に「少婚多離」時代となりました。残念ながら、この状態はしばらく続くと考えます。
これは奇妙なことに「多産少死」から「少産多死」へと移行する人口増減のメカニズムとも符合します(参照日本だけでない「世界的な人口減少」は不可避だ)。未婚化や少子化問題は、往々にして経済環境や個人の価値観の問題と結び付けられますが、もしかしたらもっと大きな「見えざる流れ」の中に我々はいるのかもしれません。
荒川 和久 : 独身研究家、コラムニスト
「3組に1組は離婚する」
よくマスコミでいわれている話です。しかし、この説に対して「この言い方は間違いである」と論ずる人もいます。
離婚の指標は、複数あります。もっとも標準的で世界的な比較の際に使用されるのが、人口千対離婚率で普通離婚率ともいわれます。もうひとつは、特殊離婚率といわれるもので、年間当たりの離婚数を婚姻数で割ったものです。長期的な推移をみれば、前者は近年減少傾向にありますが、後者は大体35%付近でここ20年近く変わりません。「3組に1組は離婚する」というのはこの後者の特殊離婚率によります。
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減少傾向にある普通離婚率と同じレベルを保つ特殊離婚率、いったいどちらが本物なのでしょうか?
特殊離婚率否定派はこう言います。「特殊離婚率というものは、年間当たりの離婚数を婚姻数で割って算出したものであり、実態に即していない。同じ年に結婚と離婚を行う夫婦は稀であり、意味のない数字である」「そもそも年間の離婚数自体も年々減少しているのだから、特殊離婚率のように近年割合が一定なのはおかしい」。
どちらも正確でないという意見も
確かに、普通離婚率のほうは離婚絶対数の減少に連動して下がっています。離婚数が減っているのなら、離婚率も下がって当然という理屈は、一見納得性が高いですが、離婚数と同様婚姻数も減っています。婚姻がなければそもそも離婚は発生しません。離婚率を考える際には婚姻の減少も考慮すべきです。
一方、「特殊離婚率も普通離婚率も正確ではない、離婚率は有配偶離婚率でみるべきだ」と唱える人もいます。有配偶離婚率とは、分母を総人口とする普通離婚率と違い、有配偶人口だけに限定して、離婚率を算出するものです。
確かにこれなら、あくまで有配偶者の中でどれだけ離婚したのかが把握できるので、少なくとも普通離婚率よりはよさそうに思えます。しかし、有配偶離婚率にしたところで、計算の原理は全人口を分母にした普通離婚率と変わりません。
両方とも高齢有配偶者を含むからです。婚姻と離婚の数字を見るときに、この高齢有配偶者を含めてしまうと見誤ります。なぜなら、婚姻も離婚も高齢者とは無縁なものだからです。
2000年から2019年までの20年間の婚姻と離婚の年齢構成比を見てみると、54歳までで婚姻は98%、離婚も90%を占めています。昨今、晩婚化や熟年離婚が増えているとはいえ、高齢者の婚姻は2%、離婚も1割にも達しません。
婚姻も離婚もほぼ54歳までで完結するのです。対する有配偶人口構成比(2015年国勢調査より)は54歳までは過半数にも満たない47%しかありません。つまり、ほぼ離婚しない55歳以上の有配偶者が53%を占めます。高齢夫婦というのは、長年連れ去った情か、諦めか、はたまた面倒くさいのか、離婚をすることは少ないわけです。
普通離婚率にしろ、有配偶離婚率にしろ、婚姻や離婚に無関係な55歳以上の年齢を丸ごと分母に加えてしまうと、実情とはかけ離れたものになると言えるのです。
では、改めて、離婚の9割を占める15~54歳までの年齢に絞って有配偶離婚率(夫)を算出してみましょう。各年の国勢調査配偶関係別人口(配偶関係不詳を除く)にて計算しました。結果からいうと、2015年実績で人口千対10組が離婚しています。全年齢対象の夫の有配偶離婚率は5組ですから、その違いが明確なものとわかります。
高齢有配偶者を離婚率の分母に入れるのは適正でない
もうひとつ大きな違いは、普通離婚率や全年齢の有配偶離婚率は絶対値は違う(後者は男女合計分母のため)にしろ、同じ軌跡をたどっていますが、15~54歳有配偶離婚率は、むしろ特殊離婚率と同じような推移をしています。これを見ても明らかなように、新たな婚姻も離婚もしない高齢有配偶者を離婚率の分母に加えることは適正とは言えないわけです。
とはいえ、54歳までの有配偶離婚率人口千対10組とは1%のことです。54歳までの年齢制限をしても、年間当たり1%しか離婚しないのであれば、それはとても「3組に1組離婚」とはいえないのでないかと思うかもしれません。
しかし、この1%という数字の見方は、54歳まで対象年齢において、有配偶者は毎年1%ずつ離婚していることを示します。言い換えると、25歳で結婚し、54歳までの30年間に換算すれば、累計30%は離婚しているということになるのです。これこそが「3組に1組は離婚する」という指標の正当性を表すものです。
勘違いされている方もいますが、「3組に1組は離婚する」という特殊離婚率は、毎年30%が離婚するという意味でとらえるより、結婚に対する離婚の比率を見るためのものです。長期間の累計値で説明したほうがわかりやすいかもしれません。
1990年から2019年までの30年間の全年代を対象とした婚姻数累計は、2150万組、離婚数累計は693万組です。30年間の累計特殊離婚率は約32%となります。
もちろん、この離婚数の中には、1990年以前に結婚した夫婦も含まれていますが、30年間の累計においては誤差の範囲です。つまり、この30年間で結婚した夫婦のうちの32%は離婚をしていることになります。まさしく「3組に1組は離婚」しているのです。
特殊離婚率の数字は、「結婚が何組作られ、何組壊されているのか」を知る重要な指標です。私はそれを「結婚破壊率」と命名しています。そして、案外盲点なのが、この「結婚破壊率」が高くなればなるほど、少子化が進むという事実です。戦後からの長期推移で出生率との相関係数を見れば、▲0.808という極めて強い負の相関がみられます。
日本は、婚外子が少ない国です。逆に言えば、婚姻が成立・継続しない限り、子どもは生まれてこないことになります。1990年代以降、急激に結婚破壊率が上昇していますが、思い出していただきたいのは、生涯未婚率といわれた50歳時未婚率の急上昇も1990年代からです。結婚が破壊されるのと時を同じくして、実は結婚も作られなくなっていたわけです。
自由恋愛で婚姻できている数は変わらない
「結婚が作られず、壊されていく」
これこそが今、日本が直面している大きな課題であり、少子化の問題も根本的にはここに突き当たります。少子化対策として子育て支援ばかりが注目されますが、実は結婚して子を産んだ母親は昔も今も2人以上産んでいます(参照出生数90万人割れは「少母化」が最たる原因だ)。
むしろ少子化の最大の原因は、この「結婚が作られず、壊されていく」ことにあります。
とはいえ、婚姻を増やそうとか離婚を減らそうとか画策してもあまり効果はありません。お見合いや職場結婚というある種の社会的結婚お膳立てシステムの崩壊とともに婚姻数が減ったことは間違いのない事実です。その裏で、自由恋愛によって婚姻できている数というのはほぼ変わりません。
つまり、お膳立てがあろうとなかろうと結婚する男女はするのであり、そうした自由恋愛で結婚ができる能力のある男女こそが、結果として離婚もしているからです。結婚も離婚もいわば彼らの自家発電です。
大きな思い違いをしている方が多いのですが、日本はそもそも離婚大国だったわけです。それは長期的な離婚率をみれば一目瞭然です。
史料によれば、夫婦共稼ぎが当たり前だった江戸時代はもっと離婚率が高かったと言われます(参照「夫婦は一生添うべし」が当然ではない理由)。
現代と大きく異なる点は、明治時代は離婚も多い代わりに結婚も多かった「多婚多離」だったことです。離婚も多いがそれ以上に結婚も多かった。それが少子化の現代との差につながっています。
日本が離婚の少ない時代に入ったきっかけはグラフにも顕著なように突然でした。1898年明治民法施行後です。これにより、簡単に言えば、庶民への家父長制度の導入と妻の財産権の剥奪が行われました。
明治民法以降の妻たちは離婚できなくなった
そうした縛りができたことで、明治民法以降の妻たちは離婚したくても規範的にも経済的にできなくなったのです。結果的にこの「多婚少離」時代は戦後になっても1970年代まで約100年間継続しましたが、決して昔から日本人がそうだったわけではありません。
現在は、生涯未婚率上昇の陰で目立たず進行した多離婚化が顕在化し、明確に「少婚多離」時代となりました。残念ながら、この状態はしばらく続くと考えます。
これは奇妙なことに「多産少死」から「少産多死」へと移行する人口増減のメカニズムとも符合します(参照日本だけでない「世界的な人口減少」は不可避だ)。未婚化や少子化問題は、往々にして経済環境や個人の価値観の問題と結び付けられますが、もしかしたらもっと大きな「見えざる流れ」の中に我々はいるのかもしれません。
荒川 和久 : 独身研究家、コラムニスト
追記:所得階層別の離婚率が出ていなので想像ですが、シングルマザーの育児の事が問題にされている事から低所得層の離婚率が高いのではないでしょうか。そうすれば女性側は勿論男性側にも経済的な負担が大きくのしかかってきます。人口減少の中で彼らをいかに守るべきか考えざるを得ません。私たちも今以上に経済的な負担を強いられるのではないでしょうか。所得税増税とか消費税増税(ちなみにドイツは今15%)がありえます。中国の離婚防止法もうなずける様な気がします。
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