高齢者の 5 つの優先課題: 5M フレームワーク
Am Fam Physician 2024; 109: 498-500
高齢化社会は、世界中の医療システムにとって重大な課題でありチャンスでもある。アメリカでは 65 歳以上の人口が 2060 年までに約 9500 万人に達すると予測されている。現在の医療モデルは縦割りで運営されることが多く、継続性と統合性に欠けている。これは特に、複数の疾患を抱える高齢者人口の増加にとって問題である。
老年医学の 5M フレームワークは、心/精神 (mind/metation)、移動可能性 (mobilty)、薬 (medication)、多重複雑性 (multicomplexity)、患者自身が大切にしていること (matters most) の 5 つの重点分野を含む (表 1)。
表 1. 5M フレームワーク
https://www.aafp.org/pubs/afp/issues/2024/0600/editorial-holistic-approach-geriatric-care/jcr:content/root/aafp-article-primary-content-container/aafp_article_main_par/aafp_tables_content.enlarge.html
このフレームワークは高齢者ケアに包括的なアプローチを提供し、患者中心の戦略と学際的な連携を強調する。このフレームワークは高齢者の転帰を改善し、質の低いサービスを減らし、費用対効果の高いサービスの利用を増やすことが示されている。
症例提示
80 歳のアーティストで、高血圧症、2 型糖尿病、脂質異常症、大うつ病、軽度認知障害、尿失禁を患っている。彼女は自立して生活しているが、最近娘を訪ねた際に転倒した。この出来事は将来の転倒への恐怖を高め、大切な日々の散歩や精神的健康に影響を与えている。最近の夫の死も彼女のメンタルヘルスの問題を複雑にしている。このケースは、高齢者ケアに対する統合的アプローチが重要であることを示しており、身体的、感情的、社会的な健康の側面に取り組む必要がある。
心 (mind):認知的・感情的幸福
夫の喪失と転倒により、患者のうつ病と認知機能の低下が悪化した可能性がある。認知症、せん妄、うつ病はしばしば相互に関連しているため、これらの状態の評価と管理は彼女のケアの重要な側面である。うつ病の高齢者は認知障害を発症する可能性が 2 倍高くなります。感覚の低下、社会的孤立、喪失など、加齢に関連するさまざまな要因がうつ症状に寄与する可能性がある。評価で問題を認めた場合、カウンセリングの紹介や薬物療法・非薬物療法による治療を勧められる可能性がある。
患者の薬を変更し、移動可能性の問題に対処することで、うつ病の治療と認知障害発症のリスク低減に役立つ。身体活動や個別の介入(例:社会的関与)を非薬物療法として使用することは、この戦略の不可欠な部分である。
移動可能性 (mobility):転倒
患者の転倒は、高齢者の間で転倒がいかに一般的であるかを反映している。転倒はさらなる転倒や股関節骨折のリスクを増加させ、大きな経済的負担を引き起こす。あらゆる医療現場で移動可能性を評価することが重要である。患者は怪我をしなかったものの、転倒の心理的な影響により再び転倒する恐怖が生じ、それが移動性を低下させ、精神状態を悪化させる可能性がある。このケースから、高齢者の転倒リスクを評価し、これらの恐怖を軽減するための戦略 (例:理学療法) を取り入れることが必要であることが分かる。移動可能性と身体活動はうつ病の予防にもつながっており、精神状態と移動可能性とは相互に関連することを示している。
薬 (medication):多剤併用の管理
高齢者の多剤併用の蔓延についての懸念は増大している。多剤併用は有害薬物反応、薬物間相互作用、服薬不遵守、機能低下、老年症候群、高コストにつながる。
この患者にとって、転倒リスク、認知機能の問題、尿失禁に寄与する可能性のある薬を特定するために、包括的な薬剤レビューが不可欠である。高齢患者のケアにおいて服薬内容の確認は重要である。
多重複雑性 (multi complexity):複数の慢性疾患
このケースは高齢者ケアにおける多重複雑性を例示している。複数の治療ガイドラインを使用すると、多剤併用、薬物間相互作用、高い治療負担、患者の優先事項や価値観とケアを一致させられない危険性が高まる。
患者には複数の慢性疾患があり、疾患管理と個人の医療価値観のバランスをとる細やかなアプローチが必要である。このアプローチは、ケアの修正可能な側面に焦点を当てる。健康の社会的決定要因に対処し、患者教育を彼女自身のヘルスリテラシーに適応させることに重点を置くべきである。
患者自身が大切にしていること (matters most): 人間中心のケア
患者が最も大切にしていることを理解し、ケアをそれに合わせることは、高齢者に優しいケアモデルの中心である。これは特に、断片的なケアを受け、目標や好みに合わない不必要な医療を受けている複数の慢性疾患を持つ高齢者にとって不可欠である。目標に焦点を当てた協調的アプローチは、健康転帰の改善につながる。効果的なコミュニケーションと、個人の好みに沿った事前のケア計画 (advance care planning: ACP) および共同意思決定の促進は、人間中心のアプローチを確かなものとし、生活の質を大幅に向上させることができる。この患者の場合、それは彼女の自立への願望とアートへの情熱を尊重しながら、メンタルヘルスのニーズに対処することを含む。症状の管理、疾患の経過、ケアの目標に対処する戦略は、認知機能が低下した高齢者のケアにプラスの影響を与える可能性がある。
結論
この患者のケースは、高齢者に包括的なケアを提供する際に固有の複雑さを示している。老年医学の 5M フレームワークは、これらの複雑さを認識し、対処するための包括的なレンズを提供する。心、移動可能性、薬、多重複雑性、そして患者自身が大切にしていることに焦点を当てることで、医師は高齢者の生活の質を向上させ、老年医学的ケアにより統合的で効果的なアプローチを確保することができる。
元記事
https://www.aafp.org/pubs/afp/issues/2024/0600/editorial-holistic-approach-geriatric-care.html