内分泌代謝内科 備忘録

不眠症

不眠症の管理
N Engl J Med 2024; 391: 247-258

症例提示
50 歳の女性が、週に数日、入眠困難と睡眠持続が 6 ヵ月間続き、仕事の能率に影響を及ぼしているとの訴えで受診した。彼女は、過去 1 年間、軽度から中等度の不安と抑うつの症状があったと報告している。彼女は甲状腺機能低下症であり、レボチロキシン (levothyroxine) 療法を受けている。市販の睡眠導入剤(バレリアン [valerian]、メラトニン [melatonin])を試したが効果は乏しく、催眠作用のある睡眠導入剤(ロラゼパム [lorazepam]、エスゾピクロン [eszopiclone])を試したこともある。彼女は薬物依存を心配しているが、睡眠問題が悪化しているとも考えている。あなたはこの患者の不眠症にどのように対処するだろうか?

2. 臨床的問題
不眠症 (insomnia disorder) は、入眠や睡眠維持の困難あるいは睡眠の質に対する不満があり、相当な苦痛がある、あるいは日中の活動に支障を来していることを特徴とする。不眠症は、不眠が週に 3 日以上あり、3 ヵ月以上持続し、睡眠の機会が不十分な結果ではない睡眠障害である。他の医学的疾患(疼痛など)や精神疾患(うつ病 [depression] など)、他の睡眠障害(レストレスレッグス症候群 [restless legs syndrome] や睡眠時無呼吸症候群 [sleep apnea] など)と併発することが多い。

3. 不眠症治療のポイント

·不眠症は一般的な疾患であり、他の医学的、精神医学的、その他の睡眠障害がある場合によく起こる。
·不眠症は、相当な苦痛、日常生活や労働の支障、および大うつ病、高血圧のリスク上昇など健康上の有害なアウトカムと関連している。
·現在のガイドラインでは、不眠症の第一選択治療として不眠症の認知行動療法(CBT-I)を推奨している。CBT-I には、睡眠習慣 (sleep habit) を修正し、睡眠覚醒スケジュール (sleep-wake schedule) を調整し、睡眠からの覚醒 (arousal from sleep) を減らし、睡眠と不眠に関する有益でない信念を再構成するための実践的な戦略が含まれている。

·不眠症に適応のある薬物(例、ベンゾジアゼピン受容体作動薬 [benzodiazepine receptor agonist]、デュアルオレキシン受容体拮抗薬 [dual orexin receptor agonist]、ドキセピン [doxepine])で、米国食品医薬品局 (Food and Drug Administration: FDA) によって承認されているものは、代替または補助的治療として推奨される。不眠症に対する市販薬、抗精神病薬、代替薬を支持する十分な証拠はない。

·不眠症に対して推奨される治療法は、不眠症状、入眠潜時 (sleep-onset latency)、入眠後の覚醒時間に臨床的に意味のある減少をもたらす。CBT-I 単独または薬物療法は、不眠症状を長期にわたって迅速かつ持続的に軽減する。

成人の約 10%が不眠症の基準を満たし、さらに 15-20%が不眠症状を時々訴える。不眠症は、女性や精神的・医学的問題を抱えている人に多くみられ、その罹患率は中年期以降、更年期や閉経期に増加する。不眠症の病態生理学的メカニズムはまだ十分に解明されていないが、心理的・生理的過覚醒が中心的な特徴であると認識されている。

不眠症は状況的なものとエピソード的なものがあるが、50%以上の患者で慢性的な経過をたどる。最初のエピソードは、ストレスの多い生活状況、健康問題、非定型的な仕事のスケジュール、複数のタイムゾーンをまたぐ旅行(時差ぼけ)などから生じるのが一般的である。ほとんどの患者は、原因となる出来事に適応した後、通常の睡眠に戻るが、リスクの高い人では慢性不眠症に移行することがある。心理的、行動的、医学的要因が慢性的な睡眠障害を長引かせることが多い。例えば、朝寝坊や昼寝は、当初は睡眠障害に対処するのに役立つが、同じ習慣が時間の経過とともに睡眠障害を悪化させ、治療目標となることがある。更年期女性では、血管運動神経症状 (vasomotor symptoms) が、睡眠障害を誘発する因子であると同時に、睡眠障害を持続させる因子でもある。慢性不眠症は、大うつ病、高血圧、アルツハイマー病、就労困難のリスク増加と関連している。

不眠症は、症状、経過、併発症状、その他の要因についての慎重な病歴聴取に基づいて診断·評価される(表 1)。

表 1. 評価で重要な要素
https://www.nejm.org/doi/full/10.1056/NEJMcp2305655#t1

24 時間の睡眠覚醒行動の履歴から、介入すべき行動や環境の目標がさらに見つかるかもしれない(図 1)。

図 1. 不眠の評価に用いる 24 時間の睡眠覚醒行動履歴
https://www.nejm.org/doi/full/10.1056/NEJMcp2305655#f1

患者報告式の評価ツールと睡眠日誌は、不眠症状の性質と重症度に関する貴重な情報を提供し、他の睡眠障害のスクリーニングや治療経過のモニタリングに役立つ(表 2)。

表 2. 不眠の評価に役立つツール

3. 治療戦略とエビデンス
不眠症に対する現在の治療法には、処方薬および市販薬、心理療法および行動療法(不眠症に対する認知行動療法 [cognitive behavioral therapy for insomnia: CBT-I] とも呼ばれる)、補完療法および代替療法がある。一般的な治療法としては、市販薬の使用や、不眠症が専門医に指摘された場合には処方薬による治療が行われる。CBT-I を受ける患者は少ないが、これは十分な訓練を受けたセラピストが少ないためでもある。

3-1. CBTI-I
CBT-I には、不眠症の一因となっている行動習慣や心理的要因(例えば、睡眠に関する過剰な心配や役に立たない信念)を変えることを目的としている。CBT-I の中心的な構成要素には、行動および睡眠スケジュール戦略(睡眠制限 [sleep restriction] および刺激制御 [stimulus control] の指示)、リラクゼーション法、不眠症に関する役に立たない信念や過度の心配を変えることを目的とした心理的および認知的介入(またはその両方)、睡眠衛生教育が含まれる(表 3)。 Acceptance and Commitment Therapy や Mindfulness-Based Therapy などの心理学的介入も不眠症に適応されているが、その有効性を支持するデータは少なく、効果が得られるまでに時間がかかる(表 3)。

表 3. 不眠症患者に対する認知行動療法
https://www.nejm.org/doi/full/10.1056/NEJMcp2305655#t3

CBT-I は規範的であり、睡眠に焦点を当て、問題解決を志向する。通常、メンタルヘルスセラピスト(例えば、心理士)が 4-8 回の診察の中で指導する。CBT-I の実施方法には、簡略形式やグループ形式、他の医療提供者(例えば、ナースプラクティショナー)の関与、遠隔医療やデジタルプラットフォームの使用など、いくつかのバリエーションがある。

CBT-I は現在、いくつかの専門機関の診療ガイドラインで推奨されている第一選択の治療法である(GRADE [Grading of Recommendations Assessment, Development, and Evaluation] 法に基づいて「強い推奨」とされている)。臨床試験やメタアナリシスから、CBT-I が患者報告アウトカム (通常、標準化された効果量測定法 [Cohen's d または Hedges' g] を用いて測定される) を実質的に改善させることが示されている。効果量は、群間の差の大きさを示す尺度であり、効果量が 0.2 の場合は効果が小さい、0.5 の場合は中程度、0.8 の場合は大きいと判定される。メタアナリシスにおいて、CBT-I は、不眠症状の重症度(効果の大きさ: 0.98; 95%信頼区間 [confidence interval: CI], 0.82-1.15)、入眠潜時(効果の大きさ: 0.57; 95%CI, 0.50-0.65)、入眠後の覚醒時間(効果の大きさ: 0.63; 95%CI, 0.53-0.73)の改善を示した。睡眠の継続性の改善は、睡眠効率(ベッドで過ごした時間に対する睡眠時間の比率;効果量: 0.71; 95%CI, 0.61-82)の対応する増加とも関連していた。総睡眠時間は、治療終了時には緩やかに増加していたが(効果の大きさ: 0.16; 95%CI, 0.08-0.24)、治療終了後数週間または数ヵ月後にさらなる効果がみられることが多かった。

効果の大きさは、全体的な不眠症状の重症度で最も強い。有効性は、年齢、不眠症の重症度、併存疾患の有無、催眠薬の使用によって影響されないようである。日中の症状(疲労や気分など)や QOL については、改善が小さいことが指摘されているが、これは、不眠症のために特別に開発されたものではない一般的な測定法を用いたことに一因があると考えられている。患者の約 60-70%が臨床的反応を示し、不眠症重症度指数(Insomnia Severity Index: ISI;スコアの範囲は 0-28 で、スコアが高いほど不眠症が重症であることを示す)で 7 ポイント以上の低下によって定義される臨床的反応は、患者の 60-70%で認めた。ISI フォームのサンプルは、NEJM.org で本論文の全文とともに入手可能な補足付録に示されている。不眠症患者の約 50%が 6-8 週間の治療で寛解(ISI スコアの合計が 8 未満)し、40-45%は 12 ヵ月間寛解を維持した。日中の眠気は、ベッドにいる時間を制限する治療初期の段階では潜在的な有害事象であるが、その影響は睡眠時間が長くなるにつれて消失する傾向がある。

デジタル CBT-I (eCBT-I) は過去 10 年間で人気を博しており、CBT-I への需要とアクセスの間の重要なギャップを縮める可能性がある。SHUTi と Sleepio のアプリケーションについては、その有効性を支持する相当なエビデンスが公表されている。

SHUTi
https://mindtools.io/programs/shuti/

sleepio
https://www.bighealth.com/sleepio

ウェブベースの CBT-I を試験した 1,460 人の参加者を含む 11 件のランダム化臨床試験についてのメタアナリシスでは、eCBT-I がいくつかの睡眠アウトカム(すなわち、不眠症の重症度、睡眠効率、主観的睡眠の質、入眠後の覚醒、入眠潜時、総睡眠時間、夜間覚醒回数)に対してプラスの効果を示し、その効果量は 0.21-1.09 であった。これらの効果は、対面式 CBT-I の試験で観察されたものと同様であり、追跡調査後 4-48 週間維持された。その他のデジタル CBT-I 製品(例、 CBT-i コーチ、Go! To Sleep、Sleep Reset)は、同様の治療原理を用いているが、公表されている有効性データはないか、限られている。

うつ病や慢性疼痛などの併発疾患を治療することで、不眠症状は緩和されるかもしれないが、完全に解消されることはふつうない。逆に、不眠症の治療は、併発疾患にともなう睡眠は改善するが、併発している疾患そのものに対して一貫した効果を与えることは少ない。例えば、不眠症の治療はうつ病の症状を緩和し、うつ病の発症や再発を減少させるが、慢性疼痛に対する効果はわずかである。

ステップケアアプローチ (stepped-care approach) は、従来の心理療法や行動療法におけるリソースの限界に対処するのに役立つ可能性がある。このようなモデルの 1 つでは、第 1 段階で教育、モニタリング、自助アプローチを、第 2 段階でデジタルまたはグループベースの心理・行動療法を、第 3 段階で個別の心理・行動療法を、そして各段階で短期的な補助として薬物療法を推奨している。

4. 薬物療法
米国における催眠薬の処方パターンは、過去20年間で大きく変化した。ベンゾジアゼピン受容体作動薬 (benzodiazepine receptor agonist) の処方は着実に減少し、トラゾドン (trazodone) の処方は、不眠症治療に対する適応がないにもかかわらず、着実に増加している。さらに、オレキシン受容体拮抗薬 (orexin receptor agonist) が 2014 年に導入され、広く使用されている。催眠薬は、女性、高齢者、非ヒスパニック系白人の患者に処方される割合が高いが、これは不眠症の疫学的特徴を反映している。催眠薬は長期的に使用されることが多いにもかかわらず、長期的な有効性と副作用に関するデータはほとんどない。

4-1. ベンゾジアゼピン受容体作動薬
ベンゾジアゼピン受容体作動性睡眠薬には、ベンゾジアゼピン系と非ベンゾジアゼピン系(Z-ドラッグとしても知られる)がある。これらのサブクラスは化学構造が異なるが、どちらも γ-アミノ酪酸 A 型(GABA A)受容体上の共通の結合部位のアロステリックモジュレーターであり、これが類似した作用と副作用の理由である。いくつかのベンゾジアゼピン受容体作動薬(例えば、ゾルピデム [zolpidem])は GABA A 受容体に対する相対的特異性を有する。そして、この受容体は、抗不安作用、筋弛緩作用、抗けいれん作用よりも睡眠促進に関与する。しかし、実際には、ベンゾジアゼピン受容体作動薬間の薬力学的な相違は、薬物動態学的特性、特に半減期の相違よりも顕著ではない。

臨床試験およびメタアナリシスにより、ベンゾジアゼピン受容体作動薬は、入眠潜時および入眠後の覚醒を減少させ、総睡眠時間をわずかに増加させるという有効性が示されている(表 4)。

ベンゾジアゼピン受容体作動薬の患者報告に基づく副作用には、前向性健忘(5%未満)、翌日の鎮静(5-10%)、夢遊病、食事、運転などの睡眠中の複雑な行動(3-5%)があり、ゾルピデム、ザレプロン (zalepron)、エスゾピクロン (eszopicron) に対する警告の原因となっている副作用である。これらの副作用は、高用量、他の鎮静薬との併用、(健忘と鎮静の場合)持続時間の長い薬剤で起こりやすい。

ベンゾジアゼピン受容体作動薬の誤用(すなわち、処方箋なしに、または処方された量より大量に、あるいは長期間にわたって使用すること)は比較的よくみられるが、ベンゾジアゼピン受容体作動薬が関与する薬物中毒はまれである。

疫学的データでは、ベンゾジアゼピン受容体作動薬の長期使用により、股関節骨折や認知症のリスクが用量依存的、期間依存的に増加することが示されているが、適応症による交絡がこれらの観察されたリスクに寄与している可能性がある。

4-2. 鎮静性複素環式薬物
三環系薬(例、アミトリプチリン [amitriptyline]、ノルトリプチリン [nortriptyline]、ドキセピン [doxepine])および複素環系薬(例、ミルタザピン [mirtazapine]、トラゾドン [trazodone])を含む鎮静作用のある抗うつ薬は、不眠症の治療によく処方される。これらのうち、不眠症に対して FDA の承認を受けているのはドキセピン(1 日 3-6 mg、夜間服用)のみである。不眠症で使用される用量はうつ病よりも少なく、不眠症ではうつ病よりも作用発現が早いことから、これらの適応症では作用機序が異なることが示唆される。

広く使用されているにもかかわらず、不眠症の治療における鎮静性抗うつ薬の有効性は、ドキセピンの場合を除き、対照試験によって十分に支持されていない。トラゾドンの睡眠薬としての効果を検討した試験についてのメタアナリシスでは、入眠潜時、入眠後の覚醒、および総睡眠時間に対する一貫性のない効果が示されている。

現在のエビデンスでは、鎮静性抗うつ薬は全体として睡眠の質、睡眠効率、総睡眠時間を増加させるが、睡眠潜時はほとんど影響しないことが示唆されている。副作用には、鎮静、口渇、心伝導遅延、低血圧、高血圧などがある。クエチアピン (quetiapine) やオランザピン (olanzapine) など、統合失調症や双極性障害の治療薬として承認されている鎮静作用のある複素環系薬剤が不眠症の治療に用いられることもある。しかし、これらの薬剤は副作用として心血管、代謝、神経学的リスクがあり、精神疾患を併発している患者以外には使用できない。

4-3. オレキシン受容体拮抗薬
視床下部外側のオレキシン (orexin)(ヒポクレチン [hypocretin])含有ニューロンは、脳幹と視床下部の覚醒促進核を刺激し、視索前野 (preoptic area) 腹外側および正中の睡眠促進核を抑制する。逆に、オレキシン作動性神経伝達を阻害すると覚醒が抑制され、睡眠が促進される。

3 つのデュアルオレキシン受容体拮抗薬(スボレキサント [suvorexant]、レンボレキサント [lemborexant]、ダリドレキサント [daridrexdnt])が不眠症の治療薬として FDA に承認されている。臨床試験では、睡眠導入症状および睡眠維持症状に対する有効性が支持されている。

副作用には、鎮静、疲労、異常な夢想などがあるが、ベンゾジアゼピン受容体作動薬に比べ、認知機能障害は少ない。内因性オレキシンの欠乏はカタプレキシーを伴うナルコレプシーを引き起こすため、オレキシン拮抗薬はこの疾患の患者には禁忌である。

4-4. メラトニンとメラトニン受容体作動薬
メラトニン (melatonin) は松果体ホルモン (pineal hormone) の一種で、夜間の暗闇の中で内因性に分泌される。外因性メラトニンは、特定の投与量と製剤によってさまざまな期間、生理的血中濃度を上回る。不眠症の治療に適切なメラトニンの用量は分かっていない。成人を対象とした対照試験では、入眠に対する効果はわずかで、睡眠中の覚醒 や総睡眠時間に対する効果はほとんどないことが示されている 。メラトニンは、小児の睡眠問題の治療に使用されることが多くなっているが、神経発達障害のある小児を除いて、その有効性と安全性は十 分に確立されていない 。

メラトニンの MT1 および MT2 受容体に結合する薬剤は、睡眠時不眠症(ラメルテオン [ramelteon])および概日リズム睡眠覚醒障害(タシメルテオン [tasimelteon])の治療薬として承認されている。メラトニンと同様、これらの薬剤は入眠後の覚醒や総睡眠時間にはほとんど影響を与えない。傾眠と疲労が最も一般的な副作用である。

4-5. その他の薬物療法
市販薬(ジフェンヒドラミン [diphenhydramine] およびドキシラミン [doxylamine])や処方薬(ヒドロキシジン [hydroxidine])で入手できる抗ヒスタミン薬は、不眠症の治療に最もよく使用される薬のひとつである。その有効性を支持するデータは乏しいが 、ベンゾジアゼピン受容体作動薬と比較して入手しやすく、安全であると認識されていることが、おそらくその人気の一因であろう。鎮静作用のある抗ヒスタミン薬は、過度の鎮静、抗コリン性の副作用、認知症リスクの上昇を引き起こす可能性がある。ガバペンチン (gabapentin) やプレガバリン (pregabalin) などのガバペンチノイド (gabapentinoid) は、慢性疼痛の治療によく用いられ、むずむず脚症候群の治療の第一選択薬でもある。疲労、傾眠、めまい、運動失調が最も一般的な副作用である。

5. 補完代替療法
カンナビス (cannabis)、カンナビジオール(cannabidiol: CBD)、デルタ-9-テトラヒドロカンナビノール(delta-9-tetrahydrocannnabinol: THC)製剤も睡眠障害の治療に広く使用されているが、有効性についての知見はさまざまである。不眠症に対するカンナビノイドの有効性を支持するエビデンスの質は低い。その根拠としては、大規模で良好に対照された臨床試験がないこと、および慢性的な投与によって催眠効果に対する耐性が生じることが明らかであることである。大麻由来の製剤のばらつきも関係している。例えば、CBD は低用量では刺激的であり、高用量では鎮静的である。

6. 睡眠薬の選択
薬物療法を選択する場合、ほとんどの臨床場面では、短時間作用型のベンゾジアゼピン受容体作動薬、オレキシン拮抗薬、低用量の複素環式薬物が妥当な第一選択となる。

ベンゾジアゼピン受容体作動薬は、主に入眠困難の不眠症患者、若年成人、および短期間の使用が考えられる場合(例えば、急性または周期的なストレス因子による不眠の場合)の治療において好ましい。

低用量の複素環式薬物またはオレキシン拮抗薬は、主に睡眠維持または早期覚醒に関連する症状を有する患者、高齢者、および物質障害または睡眠時無呼吸症候群の患者の治療に好まれる。

物質使用障害
https://www.msdmanuals.com/ja-jp/professional/08-%E7%B2%BE%E7%A5%9E%E7%96%BE%E6%82%A3/%E7%89%A9%E8%B3%AA%E9%96%A2%E9%80%A3%E7%97%87%E7%BE%A4/%E7%89%A9%E8%B3%AA%E4%BD%BF%E7%94%A8%E7%97%87

65 歳以上の患者に比較的不適切とされる薬剤の Beers Criteria リストには、ベンゾジアゼピン受容体作動薬と複素環式薬が含まれるが、ドキセピン、トラゾドン、オレキシン拮抗薬は含まれない。最初の薬物治療では、2-4 週間毎晩使用し、その後効果と副作用を再評価することが多い。長期使用が適切であれば、間欠投与(週 2-4 回)が推奨される。患者には就寝の 15-30 分前に薬を服用するよう指導すべきである。薬物の長期使用により、特にベンゾジアゼピン受容体作動薬の使用では、一部の患者で薬物依存が発現する。系統的な漸減スケジュール(例えば、週 25%ずつ)は、長期使用後の睡眠薬の使用の漸減中止に役立つ。

7. 併用療法または単独療法
CBT-I と催眠薬 (主に Z-drugs) は、短期間 (4-8 週間) では同等の睡眠継続性の改善をもたらすが、薬物療法は CBT-I よりも総睡眠時間を増加させることが示されている。併用療法は CBT-I 単独療法よりも早く睡眠の改善をもたらすが、この利点は治療開始 4-5 週目には減少する。患者によっては、睡眠薬の服用という簡便な選択肢がある場合、認知行動療法の遵守率が低くなることがある。

8. 今後明らかにされるべき領域
薬物の長期的有効性および不眠症治療薬に対する耐性の発現に関するエビデンスは不足している。間欠的な薬物療法の有効性や適切な投与スケジュールもまだ不明である。ネットワークメタ解析では、異なる薬物クラスの相対的な有効性と副作用が調べられているが、異なる薬物クラスを直接比較した大規模試験はほとんどない。テレヘルスとデジタル CBT プラットフォームは、一部の患者には良い選択肢である可能性があるが、最も恩恵を受ける患者を特定するためにはより多くの情報が必要である。不眠症の表現型を分類し、それらの表現型を持つ患者が、より個別化された治療アプローチに対して異なる反応を示すかどうかを検証するためには、さらなる研究が必要である。

9. 結論と提言
冒頭で提示した患者は、入眠までの時間や睡眠時間にかなりのばらつきがあり、長時間ベッドで過ごしている。彼女は、入眠と睡眠維持について心配性であると述べている。私たちは、CBT-I を開始し、睡眠効率を改善するために全体的な在床時間を減らすこと、睡眠のリズムを強化するために規則的な睡眠覚醒時間を維持すること、睡眠について過度に思い悩むことを減らすために認知エクササイズを行うことに重点を置く。ストレスの多いライフイベントで不眠症が再発した場合は、そのような機会にドキセピンを間欠的に使用するように処方する。

元論文
https://www.nejm.org/doi/full/10.1056/NEJMcp2305655
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