「部長刑事」「銭形平次」など名脇役で知られる俳優、入川保則(71)が、がんの全身転移で余命半年の宣告を公表した。延命治療を拒否し、すでに葬儀の手配も自ら済ませたという。他人事ではなく、自分の最期の時をどう迎えたいか、いまから考えておきたい。
【8割が病院で死亡】
末期がんで医師から余命宣告されたら、最期の時は人工呼吸器につながれて苦しむのはご免。できれば家族や知人に囲まれて穏やかに旅立ちたいと多くの人が思うはず。 しかし、開業10年で1500人以上の患者を在宅や施設で看取ってきた「立川在宅ケアクリニック」の井尾和雄院長は「がんの終末期でも、急変して病院に救急搬送されれば延命処置が行われる。そうなったら『延命治療は嫌だ、尊厳死を望む』といっても叶えられることはない」と現状を話す。
実際、日本人の死亡場所構成比の約80%が病院での死亡。ことに「がん患者の病院死は米国の3倍弱、オランダの4倍強という差がある」(井尾院長)という。
【救急搬送の回避には】
がんで亡くなるときは“最期は病院”と思い込みがちだが、選択肢はそれだけではない。余生の療養でも、2008年の厚労省の調べでは終末期の約63%の人が自宅での緩和ケアを希望しているが、そのうち90%以上の人が「自宅での療養は不可能、わからない」と回答している。
井尾院長は、急変時に救急搬送されることなく最期を迎えられる療養の受け方として、「緩和ケア病棟の外来通院」と「在宅緩和ケア」の利用をすすめる。
ただし、緩和ケア病棟の通院の場合、急変時の救急対応はほとんど難しい。「そろそろ入院を」と勧められたら聞き入れた方がいいという。
在宅緩和ケアは、定期的な訪問診療を受けながら、急変時には24時間365日在宅で対応してくれる医療システム。もちろん最期の時は自宅で迎えられる。現在、全国1万2000以上の診療所が登録(在宅療養支援診療所)。保険も利いて経済的には一番かからない療養で、余生を最も自由に過ごせる選択肢だ。
【早い余命宣告を望む】
そうはいっても、緩和ケア病棟は全国でもまだベッド数が4000床ほどで空きが少ない。在宅緩和ケアは家族らの介護負担も必要になる。
井尾院長は「自宅で生活しながら最期は病院という選択肢しかない場合、できるだけ近所の医師に往診をお願いし、訪問看護に助けてもらい、入院しても無駄な延命医療の拒否を家族同意で文書に残し、病院への理解を求めたうえで入院したい」とアドバイスする。
また、余命告知も早めに望むのが肝心。医師の告知があると生命保険のリビングウィル(一部前払い)ができ、残った時間を充実させる費用に充てられる。元気なら自ら葬儀の手配も可能だ。
“自分の最期の時は自分で選ぶ”。がんが増える50-60歳代から事前に考えておくべきか。
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