マルハニチロホールディングスの子会社「アクリフーズ」群馬工場で製造した冷凍コロッケなどから農薬「マラチオン」が検出された問題で、同工場製の食品を食べて嘔吐や下痢などの体調不良を訴えた消費者は45都道府県909人に上った。パッケージに穴が開くなど不審な点がないことから内部犯行説も強まっている。仮に関係者が故意に農薬をまいたとしたら、どんな人物が犯行に及んだのか。専門家が注視するのは「恨み」だ。
家庭の食卓に広く浸透する冷凍食品。そこから農薬が検出されるというショッキングな問題は局地的ではなく、いまや全国に広がっている。
この問題で思い出されるのは2008年に起きた冷凍ギョーザ事件だ。中国の食品会社が製造した冷凍ギョーザを食べた千葉、兵庫両県の3家族計10人が中毒症状を起こし、うち子供一人が一時、重体となった。犯人は現地工場の中国人従業員で逮捕後、待遇の不満を理由に製造過程で農薬をまいたと認めている。
アクリ社の問題では、群馬県警の調べで意図的にまいた可能性が強まっている。仮に内部関係者の犯行だとしたら、どんな人物が関わったのか。
ヒガノクリニック(東京)の院長で精神科医の日向野春総氏は「2つのパターンが想定できる」と解説する。
「まず、人が驚いたり、キャッと悲鳴を上げたりすることに快感を覚えるタイプで、医学的には演技性人格障害というが、そのような気質を持っている人物。目的は『こんなこともできるんだぞ』と注目を集めることなので、よく言う恨みを晴らすなどの動機は持たない」
独りよがりの変質した性格の持ち主を挙げる。
もう一つは「会社への恨みを肥大化させた人物」とし、こう続ける。
「何かのきっかけに会社に強い憎悪を抱き、それを募らせ、行動化したと考えられる。性格は細かくまじめで寡黙。雑談や飲み会に積極的に参加するようなタイプではない。だから、捕まってみたら周囲が『こんな人が』と驚く場合が多い」
日向野氏は、アクリ社の問題の規模の大きさを考えると「ある程度の量(の農薬)を工場内に持ち込み、被害を大きくさせている。前者だとここまではしないはずで、今回は、後者のタイプではないか」とみる。
この「恨み型」には奇妙な特徴もあるという。
「過去のケースに照らすと、やせ形で未婚か離婚していて、子供はいない。男が多く、立場的には平社員ではなく管理職。上からも下からも挟まれてストレスをためている。恨みを晴らす達成感だけを求め、犯行後の罰までは考えない。社会を騒がすほど大きな問題になり、いま挙動不審になっているのではないか」(日向野氏)。事態はどう展開するか。