27日に東京・国立劇場の舞台セリから3メートル下に転落した歌舞伎俳優市川染五郎(39)の父松本幸四郎(70)が29日、事故後初めて染五郎を見舞った後、都内の病院から自宅に戻り、取材陣に対応した。
既に公表していた右側頭部と右半身の打撲に加え、右手も骨折していることを明かした。また、病床の染五郎の様子についても語り、事故当時の生々しい状況についても説明した。
幸四郎は事故が起きる数分前、舞台の花道にあり、「スッポン」と呼ばれる小型のセリの約6メートル下にある奈落にいた。「大きな音がしたので駆け付けた」。約6~7メートル離れた奈落に染五郎が倒れていた。舞台から3メートル下に転落していた。「あたりが血の海でした」。
染五郎の親友で共演者の尾上菊之丞が「動いちゃダメだ」と言いながら染五郎の体を必死に支えていた。染五郎を見ると「倒れてもまだ踊っていました」。
幸四郎は、事態の重大さに驚いた。「額や鼻、口からも出血していましたし、それを見たときは、僕も覚悟を決めました」と、打撲や骨折程度の重傷ではなく、最悪の事態も頭をよぎったという。
「舞台を見に来ていたお医者さんが2人いまして、救急車に乗って病院まで付き添ってくれました」。幸四郎は救急車に同乗せず、搬送される染五郎を見送ることしかできなかった。「的確な処置をしてくれました。本当に感謝しています」。
さらに「舞台とは危険と隣り合わせ。役者の思い込みで起こってしまったことで、舞台装置など裏方さんには非はない。申し訳ないです」とスタッフを気遣った。
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事故後初めて染五郎を見舞った幸四郎は、病院から帰宅すると、自宅前に詰めかけていた取材陣の前で車を降り、染五郎のけがの状況について説明した。
幸四郎によると、前日28日、ファクスで報告した「右側頭部および右半身の打撲」に加え、右手を骨折していることを明らかにした。
また、「脳に関しても、何度か脳波を検査をしていますが、全く異常はないです」と話し、打撲による脳への影響も現在のところ見られないという。「全治とか、まだはっきりしたことは分かりませんが、2~3日中にお医者さんの方からお話があると思います」と話し、今も詳しい検査結果を待つ段階に変わりはないという。
病室を訪れた時、「お父さんだよ」と声を掛けると「すみません。すみません」と謝罪を繰り返したという。また、公演が延期になったことに責任を感じ、納得がいかないのか、ベッドから立とうとしたり、動こうとしていたという。
染五郎の容体について淡々とした表情で説明していたが、「皆さんの応援が奇跡を起こしてくれました。感謝しております。ご迷惑お掛けしたことをおわびします」とファンに向けて謝罪すると目を潤ませた。涙を浮かべながら、「親として、励ましの声はありがたかった」と、言葉を詰まらせながら、感謝の気持ちを口にした。「染五郎は今後もっと素晴らしい舞台をお見せします。また、父として幸四郎として良い舞台をお見せしたいと思っています」と自分に言い聞かせるように話した。