世界の異常気象(4) 水戦争・雲戦争
「ローマの休日」「ベンハー」等の作品で知られる巨匠・ウイリアム・ワイラー監督の「大いなる西部」、グレゴリーペック、チャールストンヘストン、ジーンズシモンズ、キャサリンベーカー等の豪華スターを集めたこの作品、未だにテレビで再放映される西部劇の名作だが、この作品のテーマこそ「水の紛争」であった。1890年頃西部開拓華やかな時代、ワイオミング州ジョンソン郡で起こった畜産会社と牧場主・農民との土地と水の争奪に、殺し屋ガンマンや騎兵隊迄巻き込んだ壮烈なジョンソン郡戦争、パウダーリバー戦争が発生し,のちのちインデイアンも登場させて西部劇に豊富な材料を提供することになった。アメリカの中西部・南西部8州にまたがる大平原は、全体的に降水量が少なく、河川や湖沼などの地表水が少なかった為、水を巡る紛争が絶えなかったが、この地域の地下に存在する日本国土のほぼ1.2倍に相当する浅層地下水層(帯水層)の活用が行われるようになり、 揚水・灌漑技術の進歩もあってこの地域は在来の畜産に加え、小麦をはじめ大豆やとうもろこしの一大産地として、(Breadbasket of America=アメリカのパン籠)と呼ばれる程の全米有数の穀倉・畜産地帯となった。しかし近年大規模灌漑により水位低下が著しく、灌漑規模の縮小、段々畑や休耕畑の導入等の措置が取られ始めている。グランドキャニオンで名高いコロラド川流域の地下水層は既に深刻な状況に陥って居り、頼みはコロラド川の流水とその水を貯水する全米1,2位のミード湖、パウエル湖であるが何れもその貯水率が30%強まで下がり危機的状況となった為、8月16日アメリカ連邦政府はコロラド川の水不足を宣言した。コロラド川から飲料水や灌漑用水の供給を受けているアリゾナ州、ネバダ州、カリフォルニア州、メキシコに来年の減水を義務付けた。カリフォルニア州は2年連続で旱魃に見舞われ、今年は観測史上3番目、昨年は9番目の乾燥で山火事が住宅街迄押し寄せるニュースが連日報じられた。長期的な乾燥化に見舞われたコロラド川流域は、アメリカ西部の水の未来を占う「炭鉱のカナリア」(危険予知)と言われている。現地では水使用量の多い「米を栽培すべきでない」という声も上がり始めている。カリフォルニア州のサクラメント・バレーには、約50万エーカーの水田があり、農家は収穫した米の約半分を日本や韓国などに輸出している。日本では77万トンの米を輸入するが、そのうちの38万トンが米国からのものである。今後、世界的に水不足、食料不足が懸念されており、食料ナショナリズムが広がっていくだろう。日本も減反政策等の農業政策の早急な見直しが求められる。
前回ブログで触れた仮想水、日本の2005年輸入量は804億t、世界最大の仮想水輸入国であるが、その輸入先はアメリカ-60%、オーストラリアー14、カナダー8、ブラジル-4、中国-3%となっている。日本の実際の水使用量は800億t、日本が水不足に左程深刻でない理由は此処に存在するのである。
水を巡る国家化の争いは人口が増加し干ばつの影響を受けやすいサハラ砂漠以南のアフリカ、中東、南アジアが特に多い。
イスラム過激派テロに悩まされる東アフリカのソマリアでは降雨不足が4年継続し、今年の雨季も降雨量が平均に届かない恐れが警告されて居り、ロシアのウクライナ侵攻で世界的な穀物・油価格の高騰により、人口の約半分に当たる710万人が深刻な食料不足状態に陥り、栄養失調と飢餓で生命が危険にさらされ治安悪化に拍車をかけている。
砂漠地帯では水不足が住民の生命・財産に大きな影響を与えるため、各国の政権にとって常に内政上の課題であり、時に大きな外交問題にも発展する。
イラクでは2014年から台頭した過激派組織「イスラム国」(IS)との戦闘が昨年ほぼ終結し、荒廃した国土の復興にようやく乗り出したが、今年5月の国会の総選挙後、各勢力の連立交渉が難航し新政権は4カ月以上も発足せず、停電や断水が頻発し公共サービスは停滞、南部では汚染された水道水を飲んだ住民が多数入院しているという。旱魃で耕地が減少し離村者が相次いでいるとも報道されている。
エジプトではナイル川の水問題が外交問題に発展している。ナイル上流のエチオピアが2010年建設を始めた巨大ダムがその発端である。ダムが完成すれば下流への水量が減少する。2017年ウガンダで開催されたナイル川流域国による国際会議に於いて、エジプト大統領が「エジプトは人口も増え水不足が始まっている。流域国は水資源確保の為に協調すべきだ」と訴えたが、エチオピアは下流への影響は無いと一蹴し協議は難航している。エジプトが訴える背景にあるのは危機的状況にある国内の人口問題である。2020年2月11日昼食時小さな村で記念すべき女子が誕生した。人口が1億人を突破した瞬間である。エジプトで人々が暮らせる緑地帯はアイルランドの半分、砂漠を縫うように流れるナイル沿岸から、河口部のナイルデルタ地帯のみである。僅か4%の居住地に95%の人間が暮らしている現状から、エジプト政府は人口激増がテロと同様に国家の安全保障上の脅威であるとして、人口激増に対する「非常事態」を発表したが、地方では「大家族こそ神の恵み」の言葉が浸透して居て人口増の勢いは止まらない。一人当たり年間水消費量は2013年には663立方メートルまで減少し、国連が「絶対的な水不足」のラインとする500立方メートルも近付いている。中東はまさに、水資源を巡る争いの「最前線」になっている。
1967年の第3次中東戦争は、ヨルダン川の水を巡るシリアとイスラエルとの間での対立が大きな要因であったことはよく知られている。イスラエルはその後も長年に亙りゴラン高原と西岸・ガザの軍事占領を継続し、一方的にパレスチナの水資源を国際法に反して支配し続けている。占領地の地下にある滞水層から、その利用可能水量の8割以上を奪い、イスラエル領内および入植地で消費する一方、パレスチナ人は、ヨルダン川の水の利用を禁止され、また、井戸を掘るのにもイスラエルの許可が必要とされる。その結果、被占領地のパレスチナ人は、一人当たりの年間水消費量で比べると、イスラエル人のわずか5分の1の水しか得られず、恒常的な水不足に悩まされている。93年のオスロ合意も、この状況を打開するために何ら効力を持つことはなかった。近年、ガザの地下にある滞水層は過剰取水によって水位が低下し、塩水化が進んでいるが、浅い井戸からの取水しか認められていないガザ住民は、塩分濃度の高い水しか得ることができない。ガザで水道水をなめてみると、明らかに塩気があるのが分かると言われている。しかし、その一方、入植地では、水泳プールが整備され、あるいは灌漑用水としてふんだんに水が消費されているのである。
この様に旱魃による水不足が深刻な中東諸国で人口増雨に注目が集まり、雲を巡る争いが起こっている。
雨が降る仕組みは、低温の雲の中で氷の結晶が発生し、周囲の水蒸気を吸収しつつ雪のかけらとなって、雲の中を落下する間に成長し地上に近ずくにつれ溶けて雨となるというものだが、今や世界では自国上空で雲の中に結晶を作り雨を降らせようというcloud seeding(気象種まき)の開発に躍起となって居る。この手法はヨウ化銀の粒子を雲に打ち込み、雲の中で雨のもととなる雪の結晶を生成されるのを促進するというもので、世界気象機関(WMO)による2017年の調査では、50カ国以上が挑戦していると報じている。
中国はこの分野で先行しており2012年06月時点で、人工増雨による雨量は年間約500億立方メートルに達するが、快晴の日に人工的に雨を降らすのは不可能、又旱魃の季節に人工増雨に適した天候条件がそろうことは実は少ない。中国大陸では毎年6.1兆立方メートルの雨が降り、人工増雨で増える雨量は10%-15%程度と述べている。又生態環境への影響は軽微であるとしている。更に今年は極端な旱魃・熱波に襲われ効果は殆ど無かったとも伝えている。
一方中東での旱魃は中国より深刻で僅かな水でも確保しようと気象種蒔きに真剣で、イスラエルとUAE(アラブ首長国連邦)が開発の先端を走っている。UAEは(雲が無ければ雨は降らせられない)として空軍が24時間出動態勢を取り、雨雲も見つけると緊急発進し、雲が厚く「降雨の見込みが大きい」と判断した時には、空軍機を追加発進させ降水量を増やす試みを行う、さながら戦時体制の行動をとっている。
イスラエルはここ数年冬季12月、1月に集中豪雨が増え洪水被害の心配も出て居り、ガリラヤ湖の水位が戻った上、海水の淡水化技術や排水再利用技術の進歩で真水確保の問題は縮小したとして、60年に及ぶ人口降雨作業を中断した。オマーン、サウジ等UAE周辺国も人口降雨と海水淡水化が国家の大きなテーマとなっている。雲は移動するので、ある国が人口降雨技術を使うと近隣国は雨のチャンスが無くなる。雲獲得競争が軍拡競争の様相を見せ始めているとの報道がなされている。
イランの水不足も深刻だ。飲料水不足に政府・自治体に対する抗議デモも殺気立って居り。聖職者が暴徒に殴られると言う過去には無かったことも起こり始めており、「水よこせデモ」で昨年就任したライシ大統領に「ライシ死ね」の罵声迄飛び出すほどエスカレートしている。イラン政府は「イスラエルが雲を奪っているから雨が降らないのだ」と目を外に向けさせようとしているが、全くの逆効果で国民に政府の無策を印象づけてしまった。イランも国土の3分のⅠで人口降雨を試みているが、ほとんど効果が無く、逆に高コストへの非難が高まる一方で八方塞がりの状況である。国連の最新統計では一人当たり水資源賦存量はイスラエルが世界172位で84立方メートルしかないのにイランは111位で18倍程あり、イランが遥かに恵まれているのに利用できる水量では大差をつけられて居り行政の不味さを浮き彫りにした形になっている。
イランは治水事業に過剰に力を注ぎ日本以上に作り過ぎたダムが水の合理的配分を妨げているとの指摘もある。温暖化の影響で生命の源である水の取り扱いが益々難しくなりつつある。
世界の異常気象(5) 凍土の氷解 へ
「ローマの休日」「ベンハー」等の作品で知られる巨匠・ウイリアム・ワイラー監督の「大いなる西部」、グレゴリーペック、チャールストンヘストン、ジーンズシモンズ、キャサリンベーカー等の豪華スターを集めたこの作品、未だにテレビで再放映される西部劇の名作だが、この作品のテーマこそ「水の紛争」であった。1890年頃西部開拓華やかな時代、ワイオミング州ジョンソン郡で起こった畜産会社と牧場主・農民との土地と水の争奪に、殺し屋ガンマンや騎兵隊迄巻き込んだ壮烈なジョンソン郡戦争、パウダーリバー戦争が発生し,のちのちインデイアンも登場させて西部劇に豊富な材料を提供することになった。アメリカの中西部・南西部8州にまたがる大平原は、全体的に降水量が少なく、河川や湖沼などの地表水が少なかった為、水を巡る紛争が絶えなかったが、この地域の地下に存在する日本国土のほぼ1.2倍に相当する浅層地下水層(帯水層)の活用が行われるようになり、 揚水・灌漑技術の進歩もあってこの地域は在来の畜産に加え、小麦をはじめ大豆やとうもろこしの一大産地として、(Breadbasket of America=アメリカのパン籠)と呼ばれる程の全米有数の穀倉・畜産地帯となった。しかし近年大規模灌漑により水位低下が著しく、灌漑規模の縮小、段々畑や休耕畑の導入等の措置が取られ始めている。グランドキャニオンで名高いコロラド川流域の地下水層は既に深刻な状況に陥って居り、頼みはコロラド川の流水とその水を貯水する全米1,2位のミード湖、パウエル湖であるが何れもその貯水率が30%強まで下がり危機的状況となった為、8月16日アメリカ連邦政府はコロラド川の水不足を宣言した。コロラド川から飲料水や灌漑用水の供給を受けているアリゾナ州、ネバダ州、カリフォルニア州、メキシコに来年の減水を義務付けた。カリフォルニア州は2年連続で旱魃に見舞われ、今年は観測史上3番目、昨年は9番目の乾燥で山火事が住宅街迄押し寄せるニュースが連日報じられた。長期的な乾燥化に見舞われたコロラド川流域は、アメリカ西部の水の未来を占う「炭鉱のカナリア」(危険予知)と言われている。現地では水使用量の多い「米を栽培すべきでない」という声も上がり始めている。カリフォルニア州のサクラメント・バレーには、約50万エーカーの水田があり、農家は収穫した米の約半分を日本や韓国などに輸出している。日本では77万トンの米を輸入するが、そのうちの38万トンが米国からのものである。今後、世界的に水不足、食料不足が懸念されており、食料ナショナリズムが広がっていくだろう。日本も減反政策等の農業政策の早急な見直しが求められる。
前回ブログで触れた仮想水、日本の2005年輸入量は804億t、世界最大の仮想水輸入国であるが、その輸入先はアメリカ-60%、オーストラリアー14、カナダー8、ブラジル-4、中国-3%となっている。日本の実際の水使用量は800億t、日本が水不足に左程深刻でない理由は此処に存在するのである。
水を巡る国家化の争いは人口が増加し干ばつの影響を受けやすいサハラ砂漠以南のアフリカ、中東、南アジアが特に多い。
イスラム過激派テロに悩まされる東アフリカのソマリアでは降雨不足が4年継続し、今年の雨季も降雨量が平均に届かない恐れが警告されて居り、ロシアのウクライナ侵攻で世界的な穀物・油価格の高騰により、人口の約半分に当たる710万人が深刻な食料不足状態に陥り、栄養失調と飢餓で生命が危険にさらされ治安悪化に拍車をかけている。
砂漠地帯では水不足が住民の生命・財産に大きな影響を与えるため、各国の政権にとって常に内政上の課題であり、時に大きな外交問題にも発展する。
イラクでは2014年から台頭した過激派組織「イスラム国」(IS)との戦闘が昨年ほぼ終結し、荒廃した国土の復興にようやく乗り出したが、今年5月の国会の総選挙後、各勢力の連立交渉が難航し新政権は4カ月以上も発足せず、停電や断水が頻発し公共サービスは停滞、南部では汚染された水道水を飲んだ住民が多数入院しているという。旱魃で耕地が減少し離村者が相次いでいるとも報道されている。
エジプトではナイル川の水問題が外交問題に発展している。ナイル上流のエチオピアが2010年建設を始めた巨大ダムがその発端である。ダムが完成すれば下流への水量が減少する。2017年ウガンダで開催されたナイル川流域国による国際会議に於いて、エジプト大統領が「エジプトは人口も増え水不足が始まっている。流域国は水資源確保の為に協調すべきだ」と訴えたが、エチオピアは下流への影響は無いと一蹴し協議は難航している。エジプトが訴える背景にあるのは危機的状況にある国内の人口問題である。2020年2月11日昼食時小さな村で記念すべき女子が誕生した。人口が1億人を突破した瞬間である。エジプトで人々が暮らせる緑地帯はアイルランドの半分、砂漠を縫うように流れるナイル沿岸から、河口部のナイルデルタ地帯のみである。僅か4%の居住地に95%の人間が暮らしている現状から、エジプト政府は人口激増がテロと同様に国家の安全保障上の脅威であるとして、人口激増に対する「非常事態」を発表したが、地方では「大家族こそ神の恵み」の言葉が浸透して居て人口増の勢いは止まらない。一人当たり年間水消費量は2013年には663立方メートルまで減少し、国連が「絶対的な水不足」のラインとする500立方メートルも近付いている。中東はまさに、水資源を巡る争いの「最前線」になっている。
1967年の第3次中東戦争は、ヨルダン川の水を巡るシリアとイスラエルとの間での対立が大きな要因であったことはよく知られている。イスラエルはその後も長年に亙りゴラン高原と西岸・ガザの軍事占領を継続し、一方的にパレスチナの水資源を国際法に反して支配し続けている。占領地の地下にある滞水層から、その利用可能水量の8割以上を奪い、イスラエル領内および入植地で消費する一方、パレスチナ人は、ヨルダン川の水の利用を禁止され、また、井戸を掘るのにもイスラエルの許可が必要とされる。その結果、被占領地のパレスチナ人は、一人当たりの年間水消費量で比べると、イスラエル人のわずか5分の1の水しか得られず、恒常的な水不足に悩まされている。93年のオスロ合意も、この状況を打開するために何ら効力を持つことはなかった。近年、ガザの地下にある滞水層は過剰取水によって水位が低下し、塩水化が進んでいるが、浅い井戸からの取水しか認められていないガザ住民は、塩分濃度の高い水しか得ることができない。ガザで水道水をなめてみると、明らかに塩気があるのが分かると言われている。しかし、その一方、入植地では、水泳プールが整備され、あるいは灌漑用水としてふんだんに水が消費されているのである。
この様に旱魃による水不足が深刻な中東諸国で人口増雨に注目が集まり、雲を巡る争いが起こっている。
雨が降る仕組みは、低温の雲の中で氷の結晶が発生し、周囲の水蒸気を吸収しつつ雪のかけらとなって、雲の中を落下する間に成長し地上に近ずくにつれ溶けて雨となるというものだが、今や世界では自国上空で雲の中に結晶を作り雨を降らせようというcloud seeding(気象種まき)の開発に躍起となって居る。この手法はヨウ化銀の粒子を雲に打ち込み、雲の中で雨のもととなる雪の結晶を生成されるのを促進するというもので、世界気象機関(WMO)による2017年の調査では、50カ国以上が挑戦していると報じている。
中国はこの分野で先行しており2012年06月時点で、人工増雨による雨量は年間約500億立方メートルに達するが、快晴の日に人工的に雨を降らすのは不可能、又旱魃の季節に人工増雨に適した天候条件がそろうことは実は少ない。中国大陸では毎年6.1兆立方メートルの雨が降り、人工増雨で増える雨量は10%-15%程度と述べている。又生態環境への影響は軽微であるとしている。更に今年は極端な旱魃・熱波に襲われ効果は殆ど無かったとも伝えている。
一方中東での旱魃は中国より深刻で僅かな水でも確保しようと気象種蒔きに真剣で、イスラエルとUAE(アラブ首長国連邦)が開発の先端を走っている。UAEは(雲が無ければ雨は降らせられない)として空軍が24時間出動態勢を取り、雨雲も見つけると緊急発進し、雲が厚く「降雨の見込みが大きい」と判断した時には、空軍機を追加発進させ降水量を増やす試みを行う、さながら戦時体制の行動をとっている。
イスラエルはここ数年冬季12月、1月に集中豪雨が増え洪水被害の心配も出て居り、ガリラヤ湖の水位が戻った上、海水の淡水化技術や排水再利用技術の進歩で真水確保の問題は縮小したとして、60年に及ぶ人口降雨作業を中断した。オマーン、サウジ等UAE周辺国も人口降雨と海水淡水化が国家の大きなテーマとなっている。雲は移動するので、ある国が人口降雨技術を使うと近隣国は雨のチャンスが無くなる。雲獲得競争が軍拡競争の様相を見せ始めているとの報道がなされている。
イランの水不足も深刻だ。飲料水不足に政府・自治体に対する抗議デモも殺気立って居り。聖職者が暴徒に殴られると言う過去には無かったことも起こり始めており、「水よこせデモ」で昨年就任したライシ大統領に「ライシ死ね」の罵声迄飛び出すほどエスカレートしている。イラン政府は「イスラエルが雲を奪っているから雨が降らないのだ」と目を外に向けさせようとしているが、全くの逆効果で国民に政府の無策を印象づけてしまった。イランも国土の3分のⅠで人口降雨を試みているが、ほとんど効果が無く、逆に高コストへの非難が高まる一方で八方塞がりの状況である。国連の最新統計では一人当たり水資源賦存量はイスラエルが世界172位で84立方メートルしかないのにイランは111位で18倍程あり、イランが遥かに恵まれているのに利用できる水量では大差をつけられて居り行政の不味さを浮き彫りにした形になっている。
イランは治水事業に過剰に力を注ぎ日本以上に作り過ぎたダムが水の合理的配分を妨げているとの指摘もある。温暖化の影響で生命の源である水の取り扱いが益々難しくなりつつある。
世界の異常気象(5) 凍土の氷解 へ