その1
電車を待つ駅のホームで。空港の待合室で。喫茶店で。街角で。旅先で。
男と女は様々な場所で出会い、恋に落ちる。でも、そういう偶然の出会いは美男美女にしか訪れないものと思っていた。ところが、美人ではないわたしにも声をかけてくれる男性が現れたのだ。
そこは都内の大型書店の一角。洋書コーナーでわたしはどれを買おうか迷っていた。そしてある一冊を手にして、裏表紙に記されたあらすじに目を通していたところ、
「こんにちは。その作家お好きなのですか?」と、話しかけてきた男性が。
振り向くと、わたしと同年代と思われる男の人が立っている。白馬の王子って感じではないけれど、妙に爽やかな笑顔が印象的で、思わずわたしもにっこり。
「そうですね。この人はわたしの好きな作家の一人です。でも他にも読んでみたい本があって、どちらにしようか迷っているんです。」
そう言って、もう一冊の本を指差す。すると彼は、
「じゃあこうしましょう。僕がこの本を買うから、あなたは手に持った本を買ってください。そして、お互い読み終えたら本を交換し合いませんか。そうすれば、一冊の値段で二冊読めることになるので、ちょっと得した気分になりそうですね。」
え!?これって、まるでドラマの場面じゃないの。彼は俳優志望?演技なら上手すぎる。
戸惑っているわたしに、
「ごめんなさい。見ず知らずの男にいきなりこんな提案されても困りますよね。僕自身、驚いています。知らない女の人に声をかけたのはこれが初めてなので。その作家の本を買おうと思っていたら、先にあなたがいて、それでつい。」
と、申し訳なさそうに彼が言う。そういうことなら大丈夫。変に誤解してしまったわたしのほうがいけないのよ。そこで、
「いいえ、わたしのほうこそ考えすぎでした。わたしも見知らぬ男性に声をかけられたの初めてだから、なんでわたしが?って思っちゃったんです。あなたの提案、とても素敵ですね!」
そうして、奥手な彼とわたしの交際が始まった。彼と一緒に読み始めた洋書も気が付けば50冊を超えていた。ゆっくりと、でも確実に、好意が恋へと変わっていく手ごたえが嬉しい。
その2
書店で好きな作家の新刊を手にしたわたしのすぐ横に、誰かが立った。わたしと同じ本を手に取ったその人が気になって横を見ると、
3年前、一夜限りの関係を持った人ではないか!
まさか、こんなところで再会するとは!?
彼も、わたしの顔を見て驚いている。
3年前。旅先で出会った彼と一瞬で恋に落ち、その夜は彼の泊まっていたホテルで愛を交わした。一睡もせずただひたすらに2人で快楽に身をゆだね、こんなに体の相性が良い人は他にいないとお互い感じるほど、究極の一体感を何度でも味わった。
それでも夜が明けると、2人は連絡先を交換することなく、それぞれ次の目的地へと向かう。お互い確かに強く惹かれ合った。それでも、旅先での出会いは束の間の恋と感じたのも事実。このまま美しい思い出として永遠にとっておきたい、という気持ちが勝った。
お互い、顔を合わせた瞬間、3年前に引き戻される。旅の思い出は消えることなく、鮮明によみがえってきた。2人が共有した激しく熱い時間。
わたし達はごく自然に、そうするのが当たり前のように手を取り合う。そして、2人が同時に買おうと思っていた一冊の本を購入すると、一緒に歩き始める。この3年間の空白を埋めるように時間が経つのも忘れて話しこみ、別れ際に約束を交わす。2人が最初に出会ったあの街を、今度は一緒に旅しようと。
二度と後悔したくないから、お互いの手を決して放さずにいよう。ずっと結びついていられるように。
一冊の本から生まれた2つの恋。あなたは、その1派?その2派?それとも・・・
後記:久しぶりにオンライン注文した洋書を読み始めたところ、ふと若い頃の思い出が蘇ってきて、洋書にまつわる物語を書いてみようと思いたったものです。事実30%創作70%ということで、どの部分が事実かはご想像にお任せします 笑。
本をきっかけに二人が出会うその1は、
爽やかで素敵ですね。
わたしの住んでいる所は田舎なので、
洋書を手に入れるのは Amazon が頼りです。
出会いも何もあったものではありません(笑)
お久し振りのショートストーリーヽ(^。^)丿
私は断然その1派です(^^ゞ
本好きの私ですが、美人でも無ければ
「話しかけるなオーラ」を出しているらしい
私なので?そんな素敵な場面には
一度も遭遇したことはありません。笑
好きな作家が一緒、っていうのは
ホント嬉しい事なんですよね~。
そういう人とパートナーになったことは
残念ながら一度もありません(ToT)
こりゃ来世に掛けるしかない・・・な。笑笑
こんばんは〜
私もきっと1️⃣だと思うけど、2️⃣にも憧れます。
数年前のOne Night Loveの相手と偶然の再会は、これは運命だと思っちゃうし、新しいドラマのスタートを予感しちゃいます。
スリリングな恋は燃えそうだしね。
そんなstorytellerさんはどちらでしょうか? ← 興味津々‼ 👀
おはようございます。
わたしも今ではもっぱらamazonで購入しています。
楽ですもんね~。
若い頃は職場の近くに洋書コーナーのある大型書店があったので、
しょっちゅう寄っていました。
ammoniteさんはスペイン語も学ばれているようで、
すごいなーといつも思います。
スペイン語の響きが好きなので、ラテンポップスもよく聞きます。
コメントありがとうございました♪
おはようございます。
そうですか、断然その1派、なんですね~。
ポンままさんも読書好き?嬉しい、わたしもです。
そうそう、読書傾向の似ている人と感想を話し合ったり
おすすめの本を紹介し合ったりするうちに、
親密な関係になる、って素敵ですよね~。
と、想像しているだけ。現実は厳しい。
元夫は読書が嫌いだったので 苦笑。
コメントありがとうございました♪
おはようございます。
お、fairyさんは変幻自在。あるときはその1、またあるときはその2。
良いではありませんか。人間は多面的な生き物ですから。
スリリングな恋は燃えるけれど、必ず燃え尽きるので、
長続きするかなあ~。(水を差してごめんなさい)
わたしはこの物語の語り手なので、中立な立場を貫きますよ 笑。
コメントありがとうございました♪
( *´д`*)是非〜💕
>究極の一体感ってどんな感覚だったんですか?
主人公の「わたし」に聞いてみました。
答えは、
「青と黄色が完全に混じり合い、美しい緑に変わる」
感覚だそうです。これで答えになってる?
コメントありがとうございました♪
次は真面目なつっこみを致しましょう〜
どろん!! |ω-) |-) |) ※パッ
わたし達のやりとりはいつでも真面目そのものですよね~!?!?
次回のつっこみも楽しみにしています。