ストレスをためやすいわたしは、定期的に自然の豊かな地を旅して、心の浄化をはかっている。
ある日、電車で片道2時間弱の山間の街へ出かけた。一度も訪れたことのなかったその街を、
地図を片手に歩いていたら、ある喫茶店が目に留まった。
自然と調和した造りの、とても雰囲気のいいお店だ。
店内も清潔で、ほっとできる空間があった。
メニューを見るとわたしの好きなハーブティーがあったので . . . 本文を読む
彼は走る。
彼女も彼を追って走る。
熱帯雨林の中を、なにかに憑かれたかのように。
その先にあるのは落とし穴。
どのくらい深いのかは分からない。
彼女の目の前で彼が落とし穴に吸い込まれていく。
彼女も躊躇することなく落とし穴へと。
すとん。
体が急降下する衝撃を感じ、そこで彼女は目が覚める。
今日も見た、あの夢を。ここ数か月、同じ夢を何度も見ている。
いや、正確に言えば、同じようだけど . . . 本文を読む
この地に越して来てから、ある趣味の活動に参加するようになった。週1回、1日2時間程度の集いで、参加者のほとんどが女性だ。
おしゃべり好きな人が多く、活動の後はほぼ毎回数人が誘い合ってランチに出かける。わたしは午後から仕事があることを理由に不参加を決めていたが、会の中心的な人物から、「新会員であるあなたの歓迎会も兼ねているから、是非参加して」と言われ、断り切れず参加することにした。
女性の集まり . . . 本文を読む
所用で出かけた先で、喫茶店に入った。
ふと隣の席を見ると、男性が一人コーヒーを飲んでいる。
その横顔にかつての恋人の面影を重ねて、鼓動が高鳴った。
彼もコーヒーが大好きで、一日に何杯も飲んでいた。
「そんなに飲んだら胃が悪くなるわよ」というわたしの声に耳を貸さず。
彼の影響でコーヒーを飲むようになったわたしのほうが、胃の調子を悪くした。
わたしの心変わり . . . 本文を読む
10年前、わたしは母国に妻子のいる留学生と道ならぬ恋をしていた。
ある満月の夜、わたしは妖しく光る月を指差して言った。「見て、なんてきれいな満月でしょう。」
すると彼は、「月を指差すと耳が切り取られてしまうよ」と言って、わたしのひとさし指を彼の手でそっと包んで下ろした。彼の国ではそのような言い伝えがあるのだという。
わたしが勤務する大学の博士課程に籍を置く彼は、頭脳明晰、人柄も良く、スポ . . . 本文を読む
友人から電話があった。
「遠い世界へと旅立ったあの人の散骨をするの。一緒に来てくれると嬉しい。」
彼女とは、大学卒業後最初の職場で出会って以来の付き合いだ。
彼女が人生のパートナーと出会ったときも、わたしは彼女と一緒にいた。
誰が見ても魅力的な男性だったその人に、彼女は夢中になった。
わたしと会うたびに、彼女はその人の素晴らしさを語って聞かせてくれた。
. . . 本文を読む
彼と出会ったのは7年前の夏。わたしも彼も南信州を一人で旅していた。
南信州の夏を彩るリアトリスの花畑を背景に、わたし達は並んで写真に納まった。別れ際、お互いの連絡先を交換しあった。当時、わたしは東京に、彼は兵庫に住んでいた。
旅先での思い出を共有できる大切な仲間という意識が恋に変わったのは、旅が終わってそれぞれ日常に戻った数日後、彼からリアトリスの花籠とメッセージが届いたときだった。
「リア . . . 本文を読む
声。
あの人の声には魔力がある。
初めて耳にしたとき、全身が痺れるような感覚を覚えた。
あの人の声が、わたしの身体中を駆け巡る。
そして、わたしの中心にあるものをそっと揺り動かす。
気が付けば、わたしはあの人の声に魅了されていた。
あの人の言葉に深く傷ついて、
もう会いたくない、別れてしまいたい、と思っても、
わたしの心はあの人の声を渇望する。
も . . . 本文を読む
彼女は最近、急に睡魔に襲われるようになった。
仕事中でも、昼休みでも、通勤電車の中でも、すとんと眠りに落ちてしまう。はっと目が覚めたときは午後の就業時間が始まっていたり、電車を乗り過ごしてしまった、ということも何度かあった。
夜は熟睡できていると思うし、疲労がたまっている感じもしないのだが、昼間の時間帯でも眠気を堪えられなくなる。
そんなとき必ず見る夢に、あの男の人が登場する。見知らぬ他人な . . . 本文を読む
友人に「あなたって恋愛体質ね」と言われた。そうなんだろうか。わたしはただ男の人にときめいて、一緒に濃密な時間を過ごしたいだけ。
若い頃から彼女はたくさん恋をした。傷つけたり傷つけられたり、危ない橋を渡ったり、沼に落ちそうになったり、つきまとわれる恐怖を味わったり。
それでも懲りずに恋をし続け、結婚後も夫に気づかれないように道ならぬ恋を楽しんだ。そして、離婚。
子ども達もそれぞれに自立し、一人 . . . 本文を読む