こつん、と石を蹴る。少し先まで転がって止まるその石を、また こつん、と蹴る。
日差しの強い畦道を、少年は一人 どこへ行くでもなく歩いている。ついさっきまで、大好きな姉に手を引かれ綿菓子を片手に極上の幸せを味わっていたのに、今は一人つまらなく侘しい気持ちでとぼとぼと歩いている。
少し前から具合が悪くなって里帰りをしていた姉が、田舎暮らしで見違えるほど元気になり、また元の都会へと帰ってしまったのだ。
「・・・、ちぇっ」
日差しが眩しいのと気持ちがしょげているのとで、自然うつむき石を追いながら、こつんこつんと小さな八つ当たりを繰り返す。いつの間にか畔は終わり、林を抜け藪の中をなぜか石だけは蹴り続け、やがて突然空が落ちて来たような気配にハッとし、やっと自分の前にある世界を確かめた。
空は落ちていた。
というより少年の方が空に入ったのだ。その証拠に下界が遥か下に見えている。遠いけれど不思議とはっきりその世界を確かめることが出来た。
見ると畔道を行く姉と自分の姿が見える。さっき駅まで姉を送った時の二人を空から観ている。
・・・なんか、へんやぞ・・・。
少年は集中して記憶を辿った。この状態に困惑したのではない。この状態に覚えがあることに困惑しているのだ。
初めてではない。
そうだ、何度もここに来ている。なのにいつもそれを思い出せず、また下界へと降り、姉と畦道を駅へと向かう。そして ふてくされてここに辿りつく。
ずっと長いことそれを繰り返していたことに少年はようやく気づいた。
「はぁー、どうりでなんか長いこと母ちゃんや父ちゃんに会うとらん気がしとったんや」
もう一度大きく はぁ、とため息をしてから、くるっと振り返ると少年はどこを見るでもなく大声を張り上げた。
「もうええわ! 姉ちゃんのことは気が済んだけぇ、もう帰るわ!」
そしてまたくるっと向き直し、迷わずひらりと飛び出し地上へと降った。
少年の背中を見つめるまなざしが、満足気にゆっくりと瞬きを一度して、その大きな手の中の少年に気づかれぬよう、そっと彼を地上へと降ろす。
幼い執着を解いた少年は顔を上げ、少し大人びた笑みをまだ明るい夕焼けに返しながら、家路を軽い足取りで走っていった。
「・・・、ちぇっ」
日差しが眩しいのと気持ちがしょげているのとで、自然うつむき石を追いながら、こつんこつんと小さな八つ当たりを繰り返す。いつの間にか畔は終わり、林を抜け藪の中をなぜか石だけは蹴り続け、やがて突然空が落ちて来たような気配にハッとし、やっと自分の前にある世界を確かめた。
空は落ちていた。
というより少年の方が空に入ったのだ。その証拠に下界が遥か下に見えている。遠いけれど不思議とはっきりその世界を確かめることが出来た。
見ると畔道を行く姉と自分の姿が見える。さっき駅まで姉を送った時の二人を空から観ている。
・・・なんか、へんやぞ・・・。
少年は集中して記憶を辿った。この状態に困惑したのではない。この状態に覚えがあることに困惑しているのだ。
初めてではない。
そうだ、何度もここに来ている。なのにいつもそれを思い出せず、また下界へと降り、姉と畦道を駅へと向かう。そして ふてくされてここに辿りつく。
ずっと長いことそれを繰り返していたことに少年はようやく気づいた。
「はぁー、どうりでなんか長いこと母ちゃんや父ちゃんに会うとらん気がしとったんや」
もう一度大きく はぁ、とため息をしてから、くるっと振り返ると少年はどこを見るでもなく大声を張り上げた。
「もうええわ! 姉ちゃんのことは気が済んだけぇ、もう帰るわ!」
そしてまたくるっと向き直し、迷わずひらりと飛び出し地上へと降った。
少年の背中を見つめるまなざしが、満足気にゆっくりと瞬きを一度して、その大きな手の中の少年に気づかれぬよう、そっと彼を地上へと降ろす。
幼い執着を解いた少年は顔を上げ、少し大人びた笑みをまだ明るい夕焼けに返しながら、家路を軽い足取りで走っていった。