新月のサソリ

空想・幻想・詩・たまにリアル。
孤独に沈みたい。光に癒やされたい。
ふと浮かぶ思い。そんな色々。

2024-09-12 01:02:34 | Short Short

遠くから見ると小さな鏡のようだった。
奥深い森、ひと気のない湖。
失ったものは全部ここにある。虚構なのか現実なのかはどうでもよかった。

夕陽を隠す雲の端に星がひとつ煌めいて、獣の気配も、鳥の囀りさえもなく、ただ静かに湖面を雲が流れて行く。

つん、と指先で突いたみたいに、サファイアの雫が湖面を打った。
静かの極みにその音が響き渡り、波紋が澄み切った静黙を走る。
その波紋が僕の内側で大きく鳴って、やがて元の静寂に消えた。

僕は確かに受け取った。
「僕の在処」を。


関連話



コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする