新月のサソリ

空想・幻想・詩・たまにリアル。
孤独に沈みたい。光に癒やされたい。
ふと浮かぶ思い。そんな色々。

ある夜のこと

2024-09-16 05:50:00 | Short Short

眩しい。
光が目に突き刺さる。まだ夜中のはずだ。
寝ぼけ眼でその眩しさの訳をつきとめようとするが、目が開かない。ちゃんと開けられないほどの眩しさなのだ。
それは一方向からこちらに向かって来ている光なのか、それとももう自分はその光の中に取り込まれてしまっているのか、それさえも確かめられない。
何という鋭さだろう。

そして今度は閉じようとする瞼の隙間に射しこみ、あらゆる隙間を逃さず隅々までその光で私の体を射抜いている。細胞と細胞の間にある僅かな隙間にまでそれらは入り込み、ひと通り細胞の形を滑らかになぞったあとに突き抜けて行く。

痛くもないし悪意も感じない。かと言って心地よくもなければ愛情や慈悲のようなものも感じない。ただそれは光として存在し、光としての可能性を試しているかのようだ。

しかし私には明日仕事がある。こんな眩しさで今起こされては困る。
ぐるんと寝返りを打ち、光に背を向けてみる。無論、光がこちらに向かって来ているという前提のもとでだが。
そうすると今度は背中から光は侵入し、前面に抜けて行く。後頭部から瞼に向かって光が溢れてくる。
どうしようが眩しいことに変わりはないらしい。

「まったく」
ため息をひとつ。そして微笑む自分。
受け入れるしかないというのは、それが自分にとって厄介なことであっても、何故か笑ってしまうことがある。

夜が明ければまたいつもの日常がやって来て、この光は朝が増すごとにそれらと同化し、日暮れには太陽と一緒にきっと「向こう」へ行くのだろう。
楽観的な推測をしたら少し眠気がやってきた。何でもいいから眠っておこう。

際限のない光の海にたよりない筏で漕ぎ出す。ゆらゆらゆらゆら。何をとっかかりにして漕げば良いのかも分からないが、とにかくゆらゆらゆらゆら。
どんどん深くなる光の中で揺らめきながら闇の隙間に落ちてゆく。もうどこにも辿りつかないのかも知れない。

ゆらゆらゆらゆら。ゆらゆらゆらゆら。
光の中に暗闇を求める不確かな夜。