暗い畦道を歩いていた。
父の知人の家に父とふたりで訪ねて行って、帰りにまたふたりで夜の道を歩いていた。
父の知人の家に父とふたりで訪ねて行って、帰りにまたふたりで夜の道を歩いていた。
不意に立ち止まった父が空を指さした。
「北極星だ」
小学校に上がったばかりの私は、父の指の向こうに光る小さな点を見上げた。
辺りは田んぼばかりでやたら見晴らしがよくて、でも夜が濃くて明かりが遠くにポツンとあるだけで、私は心細いような、広々と伸びやかなような、伸び縮みする夢の中を歩いているような心持ちだった。
記憶はそれしかないのだけれど、生暖かい風と蛙の声とずっと向こうに見えた電車の明かりが、ときどき胸の奥から私を呼ぶ。
ほんの小さな夏の夜の切れ端が、未だに私の細胞を縫うように泳いでいる。
春を待つテトラポットの先に立ち、波の音にあの夜を見る。
寒々と空を見上げると、父の指の向こうに光った星がさもありなんと浮かび上がる。
「北極星だ」
私の方は見ずにただ空を指さしそう言った。
小学校に上がったばかりの私は、父の指の向こうに光る小さな点を見上げた。
辺りは田んぼばかりでやたら見晴らしがよくて、でも夜が濃くて明かりが遠くにポツンとあるだけで、私は心細いような、広々と伸びやかなような、伸び縮みする夢の中を歩いているような心持ちだった。
記憶はそれしかないのだけれど、生暖かい風と蛙の声とずっと向こうに見えた電車の明かりが、ときどき胸の奥から私を呼ぶ。
ほんの小さな夏の夜の切れ端が、未だに私の細胞を縫うように泳いでいる。
春を待つテトラポットの先に立ち、波の音にあの夜を見る。
寒々と空を見上げると、父の指の向こうに光った星がさもありなんと浮かび上がる。
「北極星だ」
私の方は見ずにただ空を指さしそう言った。
天体に明るくない人だったから、本当にそれが北極星だったのかどうかはわからない。
だけど、そうやって指さす先に光があることが、あの夜、あの時、私たちには必要だったのだろう。
だけど、そうやって指さす先に光があることが、あの夜、あの時、私たちには必要だったのだろう。
潮風の隙間、わずかに香る。
暗い畔道も、冷たい波飛沫も、テトラポットに砕けて消える。
どこかで梅が咲いている。