補助議案と優先順位
補助議案は、審議中の主義案の表現を変更したり、委員会に送ったり(付託したり)、審議を先送りしたりするための議案です。補助議案は複数の種類がありますので、審議の混乱を防ぐためにその間の優先順位付がつけられています。優先順位は以下の表のように定められています。数字が小さいほど順位は上です。
優先順位 |
補助議案の種類 |
1 |
審議終了※(評決を求める議案) |
2 |
審議短縮又は延長(審議時間の拡大縮小) |
3 |
特定の時期まで審議の延期(例えば、次回の会合まで) |
4 |
委員会などの小グループへの付託または照会 |
5 |
議案の修正 |
6 |
(現在審議中の)主義案 |
※審議終了英語ではprevious question(先行/先決問題)と言うようです。これは議会用語のようです。「今議論している問題より先に決めるべき問題」というような意味なのでしょう。「Robert's Rules in Plain English」では、次のように説明しています。「Previous question is the motion used to cut off debate and bring the group to an immediate vote on the pending motion(the motion on the floor that was stated last).」。つまり、審議終了を求める議案提出ということでしょう。
例えば、主義案審議中に、主義案の修正を要求する補助議案が提出され、その補助議案を審議中に、(主義案、あるいは修正の補助議案の)審議の終了を要求する補助議案が提出されたときには、まず、審議終了の補助議案を審議し、その結果により、修正補助議案を審議するか、主義案の審議に戻ります。
以下で、優先順位の低い補助議案から説明します。
(ア)議案の修正
議案の修正は、補助議案の中で最もよく使われる補助議案であり、重要な補助議案です。
議案修正の補助議案の目的は、「その時点で議論されている議案の可否を問う前に、議案の文言をより明確にし、より完全にし、より受け入れられやすくなるように変更すること」です。議案の修正は本来、この目的で行われます(友好的な修正と呼びます)が、中には、元の議案に全く異なる意味を付す修正議案が提出されることもあります。このような修正議案を敵対的修正議案と呼びます。
議案の修正の方法には以下の3種類があります。
- 語や句を追加する
- 語や句を削除する
- 以下の方法で文言を取り換える
①語を削除し、新しい語を挿入する
②議案全体や段落を取り換える
修正案は、それまで議論していた議案に関連していなければなりません。修正を名目に新しい議案を提案することは、禁じられています。
修正案の修正も可能です。このとき、最初の修正案を1次修正案、修正案の修正案を2次修正案と呼びます。ただし、修正案の修正案の修正案(つまり、3次修正案)は禁じられています(混乱を防ぐため)。
修正案が、審議中の主義案と関連しているのであれば、審議中の主義案を修正案によって全く新しい議案に取り換えることも可能です。この場合、「審議中の主義案と『関連している』こと」が重要です。
2次修正案が提出されたときの表決の順序は次のようになります。
- 2次修正案の審議・表決
- 1次修正案の審議・表決
- 主義案の審議・表決
ただし、取り換え議案が提出された場合の審議と表決は次のように進めます。
- 審議中の主義案の審議、修正の有無を確認する
- 提出された取り換え議案の審議・修正
- 取り換え議案の表決
議案修正のための議事規則を以下に示します。
- 修正案を提出するためには発言権を取得しなければならないし、他の構成員の発言を遮ってはならない
- 修正案は支持(セカンド)されなければならない
- 修正案が討議可能な議案として提出されれば、討議可能である
- 1次修正案は修正可能である(2次修正案は修正できな)
- 修正案の採択は過半数の表決で表決する(修正を行う議案が3分の2の表決であっても)
次のような議案修正は許されません。
- 審議中の議案と関連しないもの
- 否決された議案と同じもの
- 時間稼ぎが目的であったり、無意味であったりするもの
- 議案のつじつまが合わなくするようにするもの
(イ)委員会付託・照会
議案の詳細が不明瞭であったり、環境条件が不明確であったりするような場場合、大人数の会議での議論は有効でありません。このような場合は、会議での審議をいったん中止して、少人数の委員会に議論をゆだね、報告を求めることが効果的です。これを委員会付託(委託)と言います。
委員会に議事を付託する場合、次の点を明確にして付託する必要があります。
- 付託する委員会の種別(常設委員会かそのためだけの特別委員会か)
- 特別委員会に付託する場合は次のことの明示
- その委員会の規模(人数)
- 委員の選出方法
- 委員会の裁量権の有無
- 委員会の提出する報告書の提出時期
委員会付託に関する議事規則と次に示します。
- 主義案のすべての審議状況で、委員会付託を適用することができる。議案修正を審議中であれば、修正議案と共に委員会に付託する
- 支持(セカンド)が必要である
- 討議可能であるが、討議は委員会付託が妥当かどうかに限られる。その他の事項(主義案の内容など)については討議できない
- 付託する委員会の種類、委員会の規模、委員会への指示事項などは修正可能である
- 付託の表決は過半数の表決を用いる
(ウ)特定の時期まで審議の延期
議案の延期の議案は、現在開催中の会議の後の時間に延期するか、次(次の次など)の会議まで延期することを求めるものです。現在開催中の会議の後の時間に延期するのは、審議中の議案の後で関連する議案が予定されている場合や、誰かが審議中の議案に関連する議案を提案することがわかっていて、それらの議案の結果が審議中の議案に影響する場合などに用いられます。次(次の次など)の会議に延期する場合は、次の定例会議を超えて延期することはできないことに注意が必要です。定例会合の間に臨時会合が何回か予定されている場合、それらの臨時会議の何れかに延期することができます。
延期の議案は次のような場合に利用されます。
- 招待講演者や来賓が到着した
- 処理中の議案の情報が後で入手できることが分かった
- 議案賛同者が表決の場にいないと判断される
- 休憩や閉会の時刻である:働き方改革!?
次に、延期に関する議事規則を示します。
- すべての主義案に適用可能である
- 支持(セカンド)が必要である
- 他の構成員の発言を遮って提案できない
- 討議可能である。ただし、討議は延期が妥当かどうかに限られ、その他の事項(主義案の内容など)については討議できない
- 延期すべき時間は修正可能である。ただし、次の定例会議を超えて延期することはできない
- 過半数の表決が必要である
(エ)審議の短縮
何らかの必要性から、審議の時間を短縮する議案である。短縮の方法は次のものがあります。
- 発言の回数や時間を制限する(発言は一人2回までとし、発言時間は5分とする、等)
- 審議終了時間を設定したり(午後5時に審議を終了する、等)、審議の時間的長さを制限したり(審議時間は1時間を超えない、等)する
時間短縮議案が採択された場合、時間を計測する役割の人が必要です。議長がこれを務めることもできますが、議事進行がおろそかになりがちです。このため、議長がタイムキーパを指名するとよいと思いますが、構成員から選ぶとその構成員の権利を奪うことになりかねませんので、できれば、構成員でない事務局の中から選任する方がよいと思います。
審議短縮に関する議事規則を以下に示します。
i) 全ての議案に適用できる
ii) 支持(セカンド)が必要である
iii) 他の構成員の発言を遮って提案できない
iv) 修正可能である。ただし、それは、発言の長さやいつ表決を行う時期に限られる
v) 3分の2の表決が必要である(構成員の発言をする権利を奪うことになる可能性があるため)
vi)表決は小規模の会議では挙手で、大規模の会議では起立によって行う
(オ)審議終了
議論が尽くされた、議論が堂々巡りをしているなどから、現在審議中の議案の審議を終了し、表決に移ることを提案する議案です。
この議案は、議論が尽くされていない場合には議事規則違反になります。また、この議案が提案されたときには、議長はその効果と補助議案を含めた審議中のすべての議案に適用されるかどうかを明確にする必要があります。
審議終了に関する議事規則を次に示します。
i) 審議中のすべての議案に適用できる
ii) 他の構成員の発言を遮って提案できない
iii) 討議不可能である
iv) 3分の2の表決が必要である(構成員の発言をする権利を奪うことになる可能性があるため)
v) 表決は小規模の会議では挙手で、大規模の会議では起立によって行う
(カ)期限を付けない延期と一時保留
ロバート会議規則では、修正の下の優先順位の「期限を付けない延期」の補助議案と審議終了より優先順位が上の「一時保留」の補助議案があります。「民主主義の文法」では、この二つの補助議案は使用されることが少ないとして纏めて取り上げています。なお、「民主主義の文法」では、前者は「審議無期限延期」、後者を「審議棚上げ」という用語を用いていますが、この2つはわかりにくいように思いましたので、「期限を付けない延期」と「一時保留」という用語を用いました。
「期限を付けない延期」の補助議案は、主議案が厄介なものであるとき、これを表決に回さないために提案されます。「一時保留」の補助議案は、議案の審議より優先順位が高い事象が発生した場合(お客さんが来てしまった等)に、審議を期限を決めずに一時保留するための補助議案です。一時保留された議案は、過半数が同意すればいつでも再度審議に戻すことができます。
この2つの議案の議事規則は、他の構成員の発言を遮って提案できず、支持(セカンド)が必要で、修正不可能で、過半数の表決で表決される、です。「期限を付けない延期」は討議可能であり、主議案についての討議にはいっていくことも可能です。「一時保留」は討議不可能です。