表決
実際の会議では様々な表決が想定されますが、議案に対して賛成か反対かの2択を問う表決が最もよく用いられる表決だと思います。ここでは、2択の場合(賛成か反対か)と3択(選択肢の中から1つの選択肢を選ぶ)の場合について述べます。
表決は、個々の構成員が自分の意思を表明する手段です。表決の結果によって会合(会議)が属する組織(団体)の行動が決まります。
表決は、
i) 表決の種類
ii) 表決の票数の数え方
によって分類することができます。
(ア)表決の種類
表決の種類には次の3つがあります。
i) 過半数の表決(2択)
ii) 3分の2の表決(2択)
iii) 相対多数の表決(3択以上)
以下でそれぞれについて説明します。
a) 過半数の表決
投じられた票(棄権票は含みません)の過半数(半数+1)を獲得した方がその表決の結果となる表決です。可否同数とは、2択の投票で何れの選択肢も過半数を獲得できなかったことを意味します。この場合、議案に可とする選択肢は選択されなかったと判断します。可否同数を受けて、議長が票を投じることもできます(議長は構成員ですから、投票の権利はあります)が、議長は中立であるべきだとの立場から、議長は投票しない方がよいと考えます。
例えば、会議参加者数40人、賛成20人、反対18人、棄権2人の場合、投じられた票は38票でその過半数は20票(19+1)ですので、この表決の結果は議案に賛成ということになります。
b) 3分の2の表決
投じられた票(棄権票は含みません)の3分の2以上を獲得した方がその表決の結果となる表決です
例えば、会議参加者数40人、賛成26人、反対11人、棄権3人の場合、投じられた票は37票でその3分の2は25票(37÷3×2=24.7→25)ですので、26>25になり、この表決の結果は議案に賛成ということになります。
3分の2の表決の簡便な結果判断は、少ない票を2倍することによって可能です。上の英の場合、11×2=22で25>22となり、賛成が3分の2以上を占めることが分かります。
c) 相対多数の表決
3つ以上の選択肢がある場合、投じられた票のうち最も多くの票を獲得した選択肢をその表決の結果とするものです。
例えば、3つの案があり、会議参加者が40名、第1の選択肢に20票、第2の選択肢に10票、第3の選択肢に8票、棄権票が2票の場合、第1の選択肢がこの表決の結果となります。
(イ)表決の票数の数え方
表決の票数の数え方には次のものがあります。
i) 声による表決
ii) 起立又は挙手による表決
iii) 投票用紙による表決
iv) 全会一致の表決
a)声による表決
この表決は、可否数を正確に把握することなく、表決の結果を判断します。また、表決の種類が「過半数の表決」でよい場合にもしいられます。
議長は、「この議案に賛成の方は『賛成』と言ってください。」といって、賛成の声の多さを判断します。次に、「この議案に反対の方は『反対』と言ってください。」と言って、反対の声の多さを確認します。賛成が圧倒的に多くても必ず反対の票を投ずる人の声を聴かなければなりません。
この表決では、賛否の正確な数を数えませんので、賛成、反対のいずれかが他を圧していると判断されるときに用います。
b) 起立又は挙手による表決
賛否の数を正確に知る必要があるときに用います。したがって、この表決は、3分の2の表決で必ず用いられます(3分の2かどうかは声による表決ではわからない)が、過半数の表決で用いることもあります。
この表決では、会議に参加している構成員に、表決にあたって挙手又は起立による意思表示を求めます。また、通常は構成員の中から、挙手又は起立の数を数える計数員を指名して、性格に賛否を数えます。
なお、会議規模が比較的小規模の場合は挙手による表決を、大規模の場合は起立による表決を用います。これは、大規模の会議では、会場が広く挙手では見落としが出る可能性があるためです。
c)投票用紙による表決
この表決は、構成員の賛否美の意思表示を明らかにしたくない(すなわち投票を匿名化する)場合に用います。一般に、投票用紙と記入済み投票用紙を入れる投票箱が用いられます。当然ですが、この表決では賛否、棄権の数が明確にわかります。また、投ぜられた票を計数する計数員を会議構成員の中から指名して、投票の計数を行います。
投票用紙には、投票者の意思、即ち、賛成、反対、棄権(棄権の場合は何も書かずに投票することもあります)、あるいは3択以上の選択肢がある場合は、選択肢の1つを記入します。いずれの場合も、投票用紙に既に選択肢が書かれていて、構成員はその選択肢の中の1つを計数者わかるように明確に記入して投票する場合もあります。
この表決は、賛否が拮抗していて、表決後の禍根が残らないようにしたい時などは有効かもしれません。
e) 全会一致の表決
この表決は、正確に賛否の数を数えない、形式ばらない表決方法です。
この表決では、議長は、例えば、「この議案に反対の方はいらっしゃいますか」と聞き、しばらく間をおいて会議場の様子を見て、反対の声が上がらなければ、「反対がないようなので、本議案は承認されました。」と宣言して、表決を完了します。
この表決は、会議場に明確な反対がないと判断される場合に用いられ、会議時間を有効に利用するよい表決法です。
決議
決議は会議が属する組織(団体)が、政策や原理、意見を公表したいと思ったときに利用する、書面によって提出される主義案です。
決議の主義案は2つの部分から構成されます。
i) 前文
ii) 決議(句)
前文は、その決議の理由や背景を述べます。決議(句)は、決議本文です。一般に、「(前文)ので、(決議句)ということを決議する」、という形式をとります。「民主主義の文法」では、どんなに長い決議文でも読点は1つとしていますが、日本語ではなじみにくいかもしれません。
決議の審議は、他の主義案と同じように行われ、修正も可能です。
決議の表決は、決議句に対して行い、それが採択された後で、前文をつけるスタイルで行います。これは、審議によって決議句に修正が入った場合、前文の修正も行わなければならないという煩雑さを避けるためです。
復活議案:議題を再度会議に持ち込む議案
復活議案※は、以前に表決によって決定した事項を再考するために用いられる議案です。
議事規則では、一度決定した議案は同一の会議で再度取り上げることはできないとしているため、復活議案は通常の議案とは異なる範疇の議案です。
※復活議案の英語は「Robert’s Rules in Plain English」ではRestorative motionです。Restorativeは回復、復活の意味があります。「Robert’s Rules of Order Newly Revised」では、Renewed motionという用語が多用されています。Renewedには、復活させたという意味があります。日本人にはこちらの方がなじみがいいように思います。
よく用いられる復活議案に次の2つがあります。
i) 廃止
ii) 再審議
(ア)廃止
廃止議案は、以前に採択された決議を取り消したり、廃棄したりするために用いられます。廃止は、議案全体、決議、規約などを削除する効果を持ちます。
以下に、廃止に関する「特別」議事規則を示します。
i) 以前の表決の結果、すでに何らかのアクションがとられているとき、廃止は議事規則違反である。例えば、会議が属している組織(団体)以外の人や団体と契約処理が始まっているときなどは廃止は議事規則違反である。
ii) 支持(セカンド)が必要である
iii) 廃止が提案された会議に先行する会議で、廃止の議案が予告されていた場合は過半数の表決で、予告されていない場合は3分の2の表決で表決を行う
(イ)再審議
再審議議案は、以前に採択された議案を再度審議することを可能にする議案です。再審議の目的は、性急な決定や検討不足の決定を防ぐことにあります。
再審議は、すでに表決された結果に不満を持つ構成員の乱用を防ぐために特別の議事規則があります。以下に再審議の「特別」議事規則を示します。
i) 以前に採択された審議された議案に賛成した構成員だけが提案できる
ii) 再審議の議案が採択された場合、再審議を求められた議案は、再審議の議案が採択された会議と同じ会議で審議されなければならない(時間制約)
iii) 支持(セカンド)を必要とする
iv) 討議可能である
v) 過半数の表決で表決する
vi) 時間制約があるため、再審議の議案及び支持(セカンド)は、他の議案を審議中でも提出できる。ただし、再審議を求められた議案の審議は、審議中の議案が終了するまで審議できない。
vii) 再審議の議案が提案され、支持(セカンド)されると再審議を求められた議案に生じたすべての決定が停止される。これが再審議議案の最も重要な効果である。
付随議案
付随議案は、審議中の問題には直接関係しませんが、審議の手続きに関連している議案です。付随議案は主義案に付随的であり、会議の進行中に偶然にもたらされるものです。付随議案が提案された場合、審議中の審議を継続する前に処理されなければなりません。
付随議案は、提案されている付随議案の間では優先順位がありません。付随議案はすべての主議案に対して提案可能です。付随議案間の優先順位は、それが提案されたときに決定されます。付随議案は、一般に討議不可能であり、修正されることはまずありません。
以下に付随議案の例を示します。
(ア)議事進行に関する疑義
この議案は、議長の議事進行が規則に従っていないと思われるときに提示されます。この議案によって、会議に参加している構成員は、議事進行が規則にかなっていないという警告を受け、議長は、規則を遵守するように求められます。
(イ)異議
異議は、議長の裁定が正しくない、あるいは正当でないと表明するための議案です。この議案は、提案者の他に1名以上の賛同者がいなければならず、したがって、議案は支持(セカンド)が必要です。
異議が議案として成立した場合、議長は自身が施した裁定の適否について表決を求めなければなりません。この表決は、裁定に賛同するか否かを問うものであるとよいでしょう。このように問えば、表決の結果で会議場にいる構成員の過半数が議長の側にいるかどうか直ちにわかります。
以下に意義に関する議事規則を示します。
i) 支持(セカンド)が必要である
ii) 討議可能である。ただし、議長以外の構成員の発言は1回に制限される。議長は、2回発言できる。1回目は、裁定を弁護するため他の構成員に優先して発言でき、2回は討議を終了するために発言する。
iii) 表決は過半数の表決で行う
(ウ)情報要請
この議案は、扱っている(審議している)議案に対してさらなる情報が必要であると考えられる場合に提案されます。
(エ)議事手続きに関する要請
この議案は、議事ルールを問い合わせるために提案されるものです。この議案の提案は、議長に発言を求める必要もありませんし、他の構成員の発言を遮っても構いません。
例えば、次のような質問があります。
「この時点で委員会に紹介するという議案は、規則にかなっていますか?」
「審議中の問題はなんですか?」
(オ)再表決
再表決の議案は、表決の計数法に疑義がある場合に用いられます。再表決の議事が提出された場合、議長は、会議に出席している構成員にはっきりわかる方法で表決をやり直さなければなりません。例えば、声による表決を行った後で再表決の議案が提出された場合は、挙手(小規模会議)、起立(大規模会議)の表決を使って、計測者を構成員の中から指名して、きちんと賛否を計数する必要があります。
再表決の議案の提出は、議長に発言を求める必要も、起立して議案(再表決)を述べる必要もありません。この議案を提出する構成員は着席のまま「再表決」と発言するだけで議案が提出されたと認められます。
(カ)議題分割
議題分割の議案は、審議中の議案や決議が複数の部分で構成されていて、それぞれ分けて審議、表決する方が望ましいと考えられる場合に用いられる議案です。
議題分割の議事規則を以下に示します。
i) 分割する審議中の議題の各部は相互に独立していなければならない
ii) 支持(セカンド)が必要である
iii) 過半数の表決が必要である
(キ)議題審議反対
議題審議反対の議案は、その議題を会議で審議したり表決したりすること自体が会議が属する組織(団体)や個人の尊厳・権利などに危害が及ぼすと考えられる場合に用いられます。
議題審議反対議案の議事規則を以下に示します。
i) 支持(セカンド)を必要としない
ii) 討議も修正も許されない
iii) 3分の2の表決が必要である
iv) 議案の審議が開始される前に提案しなければならない。したがって、審議が始まった後で議案審議反対の議案は提出できない
(ク)議案撤回許可
議案撤回許可の議案は、審議しようとする主議案を提案した構成員が、提案に不備があることに気が付いた時に用いられる議案です。この議案は主議案を提案した構成員のみが提案でき、議案を審議する前に提案します。
通常、この議案は全会一致の表決を用いて表決されます。
特別扱い議案
表題の「特別扱い」の英語はprivilegeで、特権というような意味です。つまり、特別扱い議案とは他の議案とは別に特別の配慮をして処理する議案であることを意味します。このため、ここでは特別扱いという語を用います。「民主主義の文法」では、privilegeに優先という語を充てていますが、補助議案で優先順位を使っていますので、ここではこの語を用いません。
なお、補助議案の「優先順位」の英語はrankです。「民主主義の文法」では、この語に序列を充てています。しかし、rankは補助議案のどれを優先して審議するかを示すものですので、この資料では優先順位という語を充てています。
特別扱い議案は、構成員や団体の権利、構成員の福利に関する議案です。このため、最優先に処理されなければならない議案であり、討議することはできません。
特別扱い議案にも優先順位があります。それを以下に示します。優先順位の番号が小さいほど高い優先順位が与えられています。
優先順位 議案の種類
1 閉会
2 休憩
3 特別扱い事項の申し立て
以下で優先順位の低い順に説明します。
(ア)特別扱い事項の申し立て
特別扱い事項の申し立ては、組織または構成員個人の権利に関するものです。この議案は緊急性があるため、審議を中断して申し立てることができます。ただし、止むを得ない場合を除いて、他の構成員の発言を遮って発言することはできません。この申し立ては、組織またはその構成員の安寧や威厳・安全・評判などを脅かす恐れがあると思われる場合に限られます。
特別扱い事項の申し立てには次の2種類があります。
i) 一般的な特別扱い事項の申し立て
ii) 個人的な特別扱い事項の申し立て
抽象的であるため、例示します。
<<一般的な特別扱い事項の申し立ての例>>
・発言者の言うことがよく聞こえません
・会議室の後方にいる構成には今配布された資料が配布されていません
<<個人的な特別扱い事項の申し立ての例>>
・発言者は私の意見について間違ったことを述べています
以下に特別扱い事項の申し立てに関する議事規則を示します。
i) 特別扱い事項が現在の審議を中断するほど重要であるかどうかは議長が判断する。構成員は特別扱い事項であることを主張したり、議論を展開したりすることはできない。そのような行為は議事規則違反である。
ii) 特別扱い事項の申し立てが提出された時点で処理中の議案がなければ、特別扱い事項について討議や修正が可能である。
iii) 発言を中断された構成員は、特別扱い事項が処理された後で発言を継続することができる。
(イ)休憩
読んで字のごとくであり、会議の小休止をとる提案の議案です。休憩(小休止)によって中断した審議は休憩の後で再開されます。
休憩の特別扱い議案の提案では、休憩の長さ、あるいは会議の再開時間に言及しなければなりません。
この議案は、しばしば、昼食をとることや、表決によって投じられた票数を勘定する目的で提案されます。
休憩の議事規則を以下に示します。
i) 支持(セカンド)が必要である
ii) 討議不可能である
iii) 休憩時間の長さや休憩の開始、再開時間等は修正可能である
iv) 過半数の表決が必要である
(ウ)閉会
開催中の会議を終了することを提案する議案です。規則や表決などによって次の会合が決められている場合は、議案が審議中であっても閉会の議案を提出できます。
閉会に関する議事規則を以下に示します。
i) 支持(セカンド)が必要である
ii) 他の構成員の発言を遮って提案できない
iii) 討議不可能である
iv) 修正不可能である
v) 過半数の表決が必要である