お話

日々思いついた「お話」を思いついたまま書く

妖魔始末人 朧 妖介  7

2008年03月08日 | 朧 妖介(全87話完結)
 妖介が出て行った後、ベッドの上には徹也のためのロングTシャツと幸久のための下着が無造作に乗っていた。葉子はそれらをじっと見つめた。
 徹也の時も幸久の時も真剣だった。Tシャツも下着も好みじゃなかったけど、嫌われたくなかったから、我慢していた。愛し合うときにも恥ずかしい格好をさせられた。それも嫌われたくなかったから・・・ わたしには何の取柄もないから。嫌われたら何も繋ぎとめるものがないから。嫌われたらそれで終わってしまうから。
 ・・・そして、実際に嫌われて、終わってしまった。――お前って、面白くねぇ奴だよな――二人とも別れのセリフは同じだった。事実だから否定できなかった。一人この部屋に残されても、涙が出なかった。Tシャツも下着も、もう二度と着る事もないのに、いつものように洗濯してクロークにしまった。思い出も一緒に・・・
 待って!
 葉子は妖介が出て行ったドアを見た。
 あの人、わたしの全てを知っているなんて言っていたわね。じゃあ、わたしの別れ話だって知ってるはずよ。それなのにその事には全然触れなかった。なんて勝手な言い分なの!
 葉子はベッドから降りた。布団が足元に落ちた。葉子は気にもしなかった。
 あの人はわたしに腹を立てた。今度はわたしがあの人に腹を立ててやる!
 葉子は服を着て、ドアを開けた。
 妖介が窓際に立っていて、つまらなさそうな顔で外を眺めていた。まだ乾いていないだろうに、黒のシャツをボタンを留めずに肩に羽織り、何かの模様のような形の金色の重そうなバックルの付いたベルトを締めた黒のジーンズを穿いていた。
 妖介は開いたドアの方に顔を向けた。つまらなさそうな顔が、眉間に深い皺を刻み、軽蔑の表情に変わった。
「お前、何やってんだ?」
 妖介が語気鋭く言った。
 葉子は妖介が取り出した黒の下着を着け、その上にロングTシャツを着ていた。薄い素材のTシャツは黒の下着を隠す事なく浮かび上がらせている。
「別に・・・ あなたが出してくれた下着と服を着たまでよ」
 葉子は妖介を睨みつけながら言った。
「あなたは、わたしの別れ話も知っているのに、こんな仕打ちをした。どうせ、心の中では『馬鹿女、淫乱女』と思っているんでしょ? だからこれを着たのよ。あなたは満足でしょ? さあ、徹也みたいにTシャツを捲り上げてからだ中を嘗め回す? それとも幸久のように黒い布の処を指で弄り回す?」
 葉子は言いながら視界を涙で潤ませた。妖介は相変わらず軽蔑した顔のままだった。
「勘違いするな。オレはお前のからだには何の興味もない。興味があるのは、お前が奴らを見る事が出来る点だけだ」
「わたしの気持ちなんて関係ないって事なの?」
「そうだ。お前がどう思おうがオレの知った事ではない。分かったら何か作れ。腹が減っているんだ」
 妖介は言うと、もう話す気がないと言わんばかりに、また窓の外をつまらなさそうな顔で眺め始めた。
 葉子は大きな溜息をつき、キッチンへ向かった。

       つづく




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