その頃、百合江は、公園を突っ切りながら仲良く並んで歩いている、にまにましっぱなしのさとみと、さわやかさがブレザーの制服を着ているような建一との前に姿を現した。
「わあ~っ! 百合江さん!」さとみは百合江に向かって駆け出し、手前で頭を下げる。「こんにちは~っ! すごいですね、着物姿! とっても似合っています!」
「あら、ありがとう。それはそうと、いつにも増して元気ねぇ」百合江は笑顔で言うと、建一に目をやった。「いっしょのボクちゃんは、さとみちゃんの彼氏ちゃん?」
「え? まあ…… はい……」さとみは真っ赤になって下を向く。「須藤君…… 須藤建一君です」
「そう……」百合江は建一を見ながら言う。百合江に圧倒された建一は「どうも……」とやっとの思いで答える。「建一君ね…… さわやかで優しそうね」
「今日、初めていっしょに帰るんです!」
「そう、良かったわねぇ」百合江は建一からさとみに視線を戻す。「……ところで、さっき、麗子ちゃんとアイちゃんに会わなかった?」
「え? 百合江さん、どうして知っているんですか?」
「ふふふ…… さとみちゃんのことなら、何でも知っているのよぉ」
「でも、須藤君のこと、知らなかったじゃないですか!」
「あら、そう言われれば、そうね」百合江は笑う。……本当は、その須藤君が原因なんだけどね。百合江は思った。「……それで、二人に会って何か感じた?」
「そうですねぇ……」さとみは急に声をひそめた。「二人とも…… ちょっと…… いえ、かなりいつもと違ってました。よくわかんないですけど、須藤君を…… その…… 誘惑しようとしたんです……」
「まあ、ひどい話ね」……実はわたしの差し金なんだけどね。百合江は心の中で、ぺろりと舌を出した。「それで、さとみちゃんは、どうしたの?」
「びっくりして止めたんです。最後はわかってくれました。これからも、友達だし舎弟です」
「良かったわね。……あのね、さとみちゃん……」百合江は真面目な顔になる。にまにま顔だったさとみもつられて真顔になる。「みつさんや豆蔵さんや竜二さんなんだけどもね……」
「……そう言えば、ここ何日か全然見ませんねぇ……」さとみは首をかしげる。「みんな、どこかへ行っちゃったのかなぁ……」
「……」百合江は、ふっと息をついた。肩の力が抜けた。「そうなのよ。みんな行っちゃったのよ。それでね、さとみちゃんに幸せになってねって、言伝を頼まれたのよ」
「えええっ!」さとみは驚く。目に涙が溜まった。「どうして! どうして、わたしに直接言ってくれなかったんですか! ……どうして百合江さんに……」
「みんな、急いでいたのよ」百合江は言うと、ぽんぽんと、さとみの頭を優しく叩いた。「それに、行っちゃうなんて、さとみちゃんに言ったら、『どこへ行くの?』とか『行っちゃヤダ』とか言って、わあわあ泣いちゃうに決まっているでしょ?」
「……聞いただけでも……泣いちゃいますよう!」さとみはわあわあ泣き出した。「みんな、ひどい! 何も言わないで!」
「……さとみちゃん……」建一が後ろからさとみの肩に手を置いた。「ぼくは事情は知らないけど、泣くんなら、ぼくの胸で……」
さとみは言われるままに建一の方を向き、その胸に顔をうずめて、泣いた。建一は、さとみの震える背中を、優しく叩く。
百合江は、そんな二人を見ながら煙草に火をつけた。……「霊感少女 さとみ」もここまでね。百合江は思い、ふっと煙を吹いた。
つづく
「わあ~っ! 百合江さん!」さとみは百合江に向かって駆け出し、手前で頭を下げる。「こんにちは~っ! すごいですね、着物姿! とっても似合っています!」
「あら、ありがとう。それはそうと、いつにも増して元気ねぇ」百合江は笑顔で言うと、建一に目をやった。「いっしょのボクちゃんは、さとみちゃんの彼氏ちゃん?」
「え? まあ…… はい……」さとみは真っ赤になって下を向く。「須藤君…… 須藤建一君です」
「そう……」百合江は建一を見ながら言う。百合江に圧倒された建一は「どうも……」とやっとの思いで答える。「建一君ね…… さわやかで優しそうね」
「今日、初めていっしょに帰るんです!」
「そう、良かったわねぇ」百合江は建一からさとみに視線を戻す。「……ところで、さっき、麗子ちゃんとアイちゃんに会わなかった?」
「え? 百合江さん、どうして知っているんですか?」
「ふふふ…… さとみちゃんのことなら、何でも知っているのよぉ」
「でも、須藤君のこと、知らなかったじゃないですか!」
「あら、そう言われれば、そうね」百合江は笑う。……本当は、その須藤君が原因なんだけどね。百合江は思った。「……それで、二人に会って何か感じた?」
「そうですねぇ……」さとみは急に声をひそめた。「二人とも…… ちょっと…… いえ、かなりいつもと違ってました。よくわかんないですけど、須藤君を…… その…… 誘惑しようとしたんです……」
「まあ、ひどい話ね」……実はわたしの差し金なんだけどね。百合江は心の中で、ぺろりと舌を出した。「それで、さとみちゃんは、どうしたの?」
「びっくりして止めたんです。最後はわかってくれました。これからも、友達だし舎弟です」
「良かったわね。……あのね、さとみちゃん……」百合江は真面目な顔になる。にまにま顔だったさとみもつられて真顔になる。「みつさんや豆蔵さんや竜二さんなんだけどもね……」
「……そう言えば、ここ何日か全然見ませんねぇ……」さとみは首をかしげる。「みんな、どこかへ行っちゃったのかなぁ……」
「……」百合江は、ふっと息をついた。肩の力が抜けた。「そうなのよ。みんな行っちゃったのよ。それでね、さとみちゃんに幸せになってねって、言伝を頼まれたのよ」
「えええっ!」さとみは驚く。目に涙が溜まった。「どうして! どうして、わたしに直接言ってくれなかったんですか! ……どうして百合江さんに……」
「みんな、急いでいたのよ」百合江は言うと、ぽんぽんと、さとみの頭を優しく叩いた。「それに、行っちゃうなんて、さとみちゃんに言ったら、『どこへ行くの?』とか『行っちゃヤダ』とか言って、わあわあ泣いちゃうに決まっているでしょ?」
「……聞いただけでも……泣いちゃいますよう!」さとみはわあわあ泣き出した。「みんな、ひどい! 何も言わないで!」
「……さとみちゃん……」建一が後ろからさとみの肩に手を置いた。「ぼくは事情は知らないけど、泣くんなら、ぼくの胸で……」
さとみは言われるままに建一の方を向き、その胸に顔をうずめて、泣いた。建一は、さとみの震える背中を、優しく叩く。
百合江は、そんな二人を見ながら煙草に火をつけた。……「霊感少女 さとみ」もここまでね。百合江は思い、ふっと煙を吹いた。
つづく
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