お話

日々思いついた「お話」を思いついたまま書く

我慢の人

2022年05月21日 | Weblog
 我慢の人。こう言うとどんな人が思い浮かぶだろうか。艱難辛苦な人、臥薪嘗胆な人などだろうか。まあ、確かにそう言える。
 以前、電車に乗っていた時、時間帯もあったのだろうが、やや混雑していた。わたしは吊革につかまって、前の座席の中年の男性を見ていた。早く下りろと念を送っていたわけではなく、その男性の様子に興味を持ったからだ。
 いくら混んでいる電車とは言え、まだ汗ばむ季節ではない。それなのに、この男性、額に大粒の汗を浮かべているのだ。それだけでは無い、ぷるぷると小刻みに触るえている。
 ここでわたしは思った。我慢しているのだ、と。いったい何を? それは便だろう。小さい方なのか、大きい方なのかは分からないけれど、じっと我慢をしているのだ。
 次の駅で降りて、トイレに駆け込むのだろう。わたしはそう見ていた。無事に辿り着いてほしいと願っていた。もう少しで次の駅だ。
 しかし、我慢を課す神は今日は意地悪だったようだ。電車が減速し、停まってしまったのだ。アナウンスによれば「人身事故」が発生したとの事だ。復旧までしばし時間が掛かると言う。彼は顔を上げた。その顔には絶望があった。
 確かに、我慢の神は意地悪だ。
 わたしだって、彼程では無いが我慢をしていたからだ。いや、わたしと彼以外にも、そう言う人は男女問わずいるのではないだろうか。
 電車が動かないと知った車内には、少なからずため息と嘆きの声とが上がったからだ。
 同士諸君! ここは一丸となって我慢をしようではないか!

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